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Diver's shell another 『primal Diver's』 第六話

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 第二地球歴史五十五年。八月二十五日。
 ネオアース衛星軌道上。戦艦ブラックホーク、船長室にて――


「全滅だと? あれがやったのか?」
「恐らく……。連中では手も足も出なかったようで」
「そうか……」


 Diver's shell another 『Primal Diver's』
 第六回:【戦闘】


 ミヤタはボトルの水を一口飲み、痰を切るように咳ばらいをする。
 眼鏡を取り、目頭を押さえて鼻でため息を吐いた。彼の癖だった。

「監視していたのは我々だけか?」
「はい。例の作戦の関係者だけ、知っています」
「よし……。絶対に情報を漏らすな。特に議会にはだ。事が知れたら面倒だ」
「しかし、アルバトロスを落とした海賊が壊滅となれば隠し通せる物では……」
「表向きは海賊同士の戦闘で、裏では我々が秘密作戦を行ったと言え。フランの事と例のガードロボの事は絶対に秘密だ」
「了解しました」
「議会の連中に知れたら要らぬちょっかいを出すに決まっている。今更首を突っ込まれても、邪魔なだけだ」

 参謀と思われる男性が無言で頷き、船長室を出て行く。ミヤタはまた水を一口飲み、そしてため息を吐く。
 机の引き出しから資料を取り出し、眺める。

『遺跡群とそのテクノロジー、及び第三種接近遭遇の可能性について ドーヴ1艦隊提督・クリストファー・ミゲーラ』

 それは、秘密裏に配布された極秘中の極秘情報をまとめた物だった。

「フラン……。うまくやれ……」

 ミヤタはまた水を飲んだ。



※ ※ ※



 同日。
 ネオアース海上。マーレの船。


 その日は忙しかった。数々の道具がひっぱり出され、そして次々使われていった。
 何処からか仕入れた魚雷ランチャーや見たことが無い程に巨大な、槍とも刀とも付かぬ武器。大量の酸素ボンベに携行糧食。そして、ブカブカのダイブスーツ。
 潜水の準備が始まっていたのだ。

 潜水する為に用いるロボット、潜水機。名前はオステウス。
 全高十メートルに及ぶその巨体に、様々な装備が取り付けられて行く。比較的さっぱりしたデザインだったが、装備のお陰で今は無きかつての超大国のランドウォーリアを思わせる風貌へと変わって行く。

両肩に設置されたランチャーは斜め上を向いた状態で固定されていた。腕の動きを妨害する事なく、かつ連射が効くようにデザインされている。
 破壊力より命中精度を重視した魚雷は背中に弾槽が設置され、次々とランチャーへと送り込まれる。
 長さ四十センチ程度の魚雷の弾頭は一種のヒート弾である。命中すればあらゆる物を焼き貫く。固形ロケットの補助で急加速するので、魚雷の弱点である発射直後の緩慢さは無い。
 小型故に飛距離は短いが、それはオステウスそのものが中~近距離の戦闘を重視している為だ。

 長い柄を持つ刀とも槍とも付かぬ武器。それは『長巻』と呼ばれる物らしい。
 長い柄は海中で振り回しても十分なトルクを生み出し、槍のように突く事も出来る。かつて居た織田信長という人物はこの武器を好んで部下に使わせたという。
 近接戦闘を行うオステウスには有用な武器だった。

 それだけでは無く、ウィンチやネットランチャー等、所謂海底での作業を行う為の装備も散見される。移動に使う使い捨てのロケットブースターまで装備していた。
 しかしながら、どう見てもその装備は戦闘に重点を置いていた。

「これ戦闘機だろ……」
「何でもやるのよこの子は」

 フランの率直な感想にマーレは事もなげに答えた。
 オステウスは海底からのサルベージはもちろんだが、海賊同士のいざこざや海軍との戦闘でも暗躍しているとの事。むしろその方が出番が多いらしい。
 となればこの装備も納得ではあるのだが――。

「遺跡に行くんだもの。ガードロボ対策はしっかりしないとね」
「戦闘しに行く訳じゃ無いのよ? ガードロボったってあの大きいのと戦うつもりは無いし……」
「遺跡にはそこら中にごろごろガードロボが居るんだよ? 油断したら海の藻屑になっちゃうんだから。装備はオーバースペックで丁度いいの」
「しかしねぇ……」
「何よ。私の設計がそんな気に入らないわけ?」
「いや、そういう訳じゃ……。……設計? 設計!? アンタが!?」
「そーだよ?」

 見た目と反した才能を持つマーレにフランは驚かされっぱなしの日々が続いていた。マリオンの説明では船の運行や他の海賊との交渉、武力衝突等はマーレの指示で動いている。
 潜水機の設計やそのロマン溢れるムダ知識の数々。しっかりと船長の器であったのだ。

 もっとも、怠惰な面もあるので、実務的な事の半数は側近のサシャという大男に押し付けている。
 もっぱら頭脳労働が彼女の仕事らしい。

「で、間もなく遺跡の上だけど、準備は……ばっちりみたいねフラン」

 フランは「え?」っとだけ言った。
 用意されたダイブスーツは見事にずんぐりむっくりな体型を生み出していた。その見た目とは裏腹に生命維持装置やバイタルデータ採取等、数々の性能を有してる為に正式には「スマートスーツ」という名前らしいが、その見た目はどう見ても不格好だった。

「私はいつでもいい」
「そ。じゃ、私も準備しよっと。あんまり着たくないけど……」

 ブカブカのスマートスーツは見事に動きにくい。
 単なる回遊なら不必要だが、深海で作業するならば必要となる。なので仕方なく着込むのだが、フランはもちろん着慣れているはずのマーレですらあまり気に入らないようで。

「もっとピッタリとフィットするタイプが必要ね」

 それが口癖だった。

「例の遺跡までどのくらいで着くの?」
「えっと……。まぁ間もなく」
「適当ね……。命懸けなのに」
「解ってるわよそんくらい。フランこそ、危険な事だっての、忘れてない?」

 言葉の通り。
 今まさに死と隣り合わせの潜水を行おうというのに、マーレ達は陽気な態度のまま。おかげでリラックスは出来るが、緊張感が削がれっぱなしなのだ。
 さすがに物々しい、むしろ猛々しい姿となったオステウスのお陰か、これから行く場所がどんな所かは想像できる。
 しかしながらである。

「よっしゃー。お姉さん燃えて来たぜ?」
「なんで軽いノリなの……?」

 この有様だ。

 オステウスのコックピットは意外と広いが、実際は数多くのモニターやキーボード、スティック等により狭くってしまっている。
 胸のハッチが開くと、座席が迫り出してくる。乗り込み易くしようというのだろうが、こうでもしなければごちゃごちゃしていてとてもじゃないがシートに納まる事が出来ないのだ。
 後席はいわゆるレーダー・ソナー手の席となる。
 地形探査、索敵、前席のパイロットのサポート、外部兵装の取り扱い、緊急時の操縦等を行う。

 前席はパイロットが座る。
 両脇に設置されたスティックはひじ掛けのような物が追加され、さらには肩の横の位置まで伸びる。スティックはそこから伸びていた。
 全体が僅かに動くだけだが、スティックに加えられた圧力を感知しオステウスの両腕の動きとなる。
 これによって狭いコックピットでも僅かな動作で、人間のような動きを再現する事が出来る。
 モニターは二種類設置されていた。
 メインモニターは前方と両脇、その下にはバックモニター。機器を設置するスペースを省く為にタッチパネルになっていた。
 さらに。直接頭に被るヘルメットマウントディスプレイもある。オステウスの視界と直結出来るので、慣れれば自分が直接海の中に居るような気分にさえなるという。
 両足の動きもほぼ同様の操作だ。
 シートに座ったまま、ペダル操作だけで歩行を可能としていた。

「……で、一応ざっくり説明したけどわかった?」
「前も聞いたけど」
「あの時はただの練習。今度は本番。ブリーフィングは繰り返し行うべしよ」
「で、具体的にはどうやって潜って行くの?」
「途中まではパイプを繋いだまま降りて行く。あとは自由落下で。帰りの燃料の事を考えるとギリギリまで節約するわ。
 まぁそんな深くないし大丈夫だとは思うけど……。なんでこんなに深度が浅いのかしらね?」

 目指す遺跡。その場所は深度約七百メートル程度。
 外洋にしては異様に浅い場所である。海底の山の頂にそれはあったのだ。それもまた、マーレの興味を掻き立てる一因。
 何の意味もなくそんな場所へ建造する訳がない。他は数千メートル単位の位置にある遺跡もあるのだ。

「はぁ……。ああいやだこのスーツ……。自慢のブツが隠れちゃう。ねぇフラン?」
「それは喧嘩売ってるのかしら」

 見事にずんぐりむっくりと化した二人は他の乗組員の助力を借りつつオステウスへと乗り込む。
 フラン達がシートへ座ると、スマートスーツのコネクタが接続され、そこからあらゆる情報がオステウスへと流れ、モニターに表示される。
 スティックを握り、システムをオンにする。オステウスの両腕が反応し、スティックの位置とポジショニングする。一体化。
 ハッチが閉まり、一瞬だけ真っ暗になる。すぐさまモニター他各種装備が反応し、室内灯が燈る。搭乗完了。

 クレーンで吊り下げられたオステウスは、船の後部にあるハッチから外へと出される。
 そのままゆっくりと海中へ侵入し、そこで一旦停止する。

「はいフラン。降下前点検」
「機内圧力良し……。システム異常なし。燃料、酸素量良し……」

 慣れた様子で点検を行う。畑こそ違えどフランはパイロットだ。こういう作業はやり慣れている。

「はいOK。サシャ。そっちは?」
《いいっすよ。こっちのソナーにも特に異変無し。あ、スクラップが見えます。ちょっと遠いけど。これはこっちで回収するっす》
「あらそう。例のうちゅー船?」
《……違うっすねコレ。同業のやつですよコレ》
「同業? じゃあ海賊? 誰がやったんだろ?」
《イヤな予感しかしないっすけど。まぁ気をつけて》
「りょーかい。じゃ、降下開始」

 クレーンのフックが放される。がだん、と音が響き、振動が伝わる。静かになったと同時に、ほんの僅かなマイナスGを感じる。
 降下が開始された。
 オステウスの巨大はゆっくりと、海底へ向け落ちていく。
 無論、そのまま落ちて行けばいいという訳でもない。
 安定翼を操作し、目的の位置へと向かっていく必要があるのだ。

「……潮が緩いわね。三度左。あとはそのまま」
「了解。進路設定。左へ三度」
「……。なんだかなぁ。お堅いなぁ喋り方」
「何がよ」
「ここは軍じゃねーんだぜ? もっとノリノリで行こうよ」
「んな事言ったって……」
「別におっかない上官が居る訳でもないし。かる~く行こうよ。かる~く」
「アンタが軽過ぎるのよ」
「アンタは堅すぎるのよ」

 深度二百五十メートル。船から伸びるケーブルが切り離される。
 今度はオステウス自身の動力のみで行かねばならない。サシャ達はスクラップ回収へと向かっただろう。
 バックパックに入れておいたゼリーを取り出して食べる。それは食糧というよりおやつだった。
 ライフルや信号弾に混じって、ひそかにマーレが忍び込ませたらしい。

「何してんだアンタは……」
「ゼリーうめぇ。食べる?」
「いや……。うん」

 海中は静かだった。
 魚の群れも見えない。潮も穏やか。のんびりゼリーを食べる余裕は十分にあった。
 ただし、それはまさしく嵐の前の静けさである。その事を、すぐに思い知らされる。

「……? ソナーに反応。なにこれ?」
「どうしたの?」

 マーレはソナーを見る。数体の影が、高速で接近してくる。
 自由落下を続けるオステウスに、それは猛然と迫ってきていたのだ。

「七体。速いわね。潜水挺でも潜水機でもない。ましてや魚でもね」
「なんなのよ」
「お出ましよ。歓迎会がはじまるわ」

 ソナーがさらに反応。赤いランプと同時に警戒音が鳴り響く。
 魚雷の発射を確認したようだ。

「デコイ発射。フランはそのまま落ちて行って」

 海中に放たれたそれは、騒音をたたき出すように造られた簡単な仕掛けの囮。だが、音波を探知するソナーには巨大な物体に見える。
 そして魚雷はそれに向かって飛んで行く。

「あれが……」
「海亀みたいなデザインね。亀のクセに速いなんてどうかしてるわ」

 オステウスは長巻を構える。アクティブソナーの起動はまだだ。
 海亀を模したロボットが五体、オステウスの脇を通過、そして、反転し再び向かってくる。

「さて、どんな物か試してあげようじゃないフラン?」
「あれがガードロボ……」

 海亀のガードロボは再び魚雷を発射する。しかし、デコイによってそれはあらぬ方向へと飛んで行く。
 魚雷が通用しないと確認したのか、今度は鋭利な刃のような物をヒレから飛び出させ、襲い来る。

「やるわよ。フラン」
「ええ」

 そして、オステウスの戦闘が始まった。


続く――


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