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Diver's shell another 『primal Diver's』 第八話

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 漆黒の闇があった。
 その中を小さな点がいくつも、きらきら輝く物から、ぼんやり鈍く光る物まで。無数に闇の中に浮かんでいた。
 そして、一際目立つ、とても巨大な青い星。
 暗い暗い、宇宙空間に漂う、ネオアース。
 人類が第二の故郷として選んだこの星は、その地面の九十%が海に覆われている。故に、青い。



 Diver's shell another 『Primal Diver's』
 第八回:【未知】



 スターシップ、ドーヴ3。

 ネオアースに人類が移住する為に建造された、とてつもなく巨大な宇宙船である。全長は数キロメートルに及び、内部では無数の人々が、新たな星を求め、その時を待っているのだ。
 宇宙船というのは、その巨体や機能に反して意外なほど脆い。ドーヴ3も同様、その構造は意外な程脆弱といえる。
 ただ宇宙を旅するならば問題は無いが、一度攻撃でもされれば、呆気なく崩壊するだろう。
 そして、それを護る為に建造された船。宇宙戦艦ブラックホークを中心とした、その艦隊。
 一体何から護るのか、答えは一つである。人類からだ。
 人類の敵は、常に人類であった。宇宙に進出し、他の星へ移住しようという時代においても、それは変わらなかったのだ。
 ブラックホークは、人類を人類から護る為に飛んでいるのだ。

「ふむ……」

 誰かが資料を読んでいた。がっしりした体格の、ドーヴ3艦隊提督。ミヤタである。彼は今、秘密裏に配布された資料に、じっくりと目を通している。
 既に何度も読んでいたが、その内容は、いつ見ても恐ろしい事が書かれている。今後の人類の行く末を左右しかねない、ネオアースに隠された秘密。
 彼が何を読んでいるのか、その一部を抜粋しよう。


※ ※ ※



 ドーブ1艦隊提督・クリストファー・ミゲーラ。
「遺跡群とそのテクノロジー。及び第三種接近遭遇の可能性について」より~


『まず始めに断っておきたい。
 この報告と考察はあくまで私と、一部の同士達により纏められた物であり、政府はもちろん、軍部の公式見解でもない。
 この文書も政府議会は存在すら知らないし、故にこれは公文書ではない事を明言しておかなければならない。
 理由としては、この文書の内容があまりにも過激であるからだ。
 入植が始まり、民間がようやく活発な動きを見せてきた。そこでこの文書の内容が知れれば、秘密は保持出来たとしても政府内での混乱が生じる可能性はある。
 そうなれば、入植に影響が出ないとは言い切れない。それだけは避けなければならない。
 なので、この文書は一部の同士達にのみ配布する。そして、志ある同士ならば必ず、行動を起こすと信じている』



※ ※ ※




『私達が遺跡の調査を始めたのは本格的な入植が始まる前からである。
 宇宙空間からの高解像度走査で、遺跡の存在が明らかになった当初からだ。
 それは人類以外の知的生命体の存在を証明すると同時に、我々が移住する星に先住民が居る可能性を示す。
 幸いにも彼らは既にこの星から去ってしまった後であったが、それが判明する前の段階ではかなりデリケートな問題となった。彼らが我々を受け入れてくれるならば問題はない。
 だが、そうでなかったら。
 そこから、この遺跡群の調査は開始された』



※ ※ ※



『恐るべきテクノロジーである。
 少なくとも、我々より数百年単位で進んだ科学技術を彼らは保有している。それだけでなく、彼らはそれに対して、非常に高度な概念を有している。
 遺跡の調査へと赴いた一団が遭遇したガードロボと呼ばれるロボットは、我々でも再現できるレベルにある。だが、問題はそれを無数に、無人で量産する遺跡そのもののテクノロジーである。
 もし人類がこれを作ろうとするならば、工場をいくつも建て、無数の従業員を雇わなければならない。これほど複雑で高度なロボットならば、量産効果などほとんど無い。製造コストだけでも途方も無くなるだろう。

 だが、遺跡は無人で、この複雑極まりないロボットを作り続けているのだ。
 それも一種類ではなく、無数のガードロボが、このネオアースの海をうろついているのだ!

 ガードロボはその名の通り、遺跡に近づく者を廃除するよう行動する。
 つまり、たまたま近くを通りかかっただけで攻撃される危険がある。由々しき問題だ。故に、遺跡の所在は可能な限り、明らかにせねばならない』



※ ※ ※



『我々の組織した調査団の内、いくつかの部隊が遺跡の奥へと侵入に成功した。
 途中に襲い来るガードロボは、戦力としては恐るるに足らず。戦闘艇と武装した兵士達であれば、難無く切り抜ける事が出来る。
 ここで推測されるに、ガードロボとは彼らにとって遺跡の防衛が目的ではないと思われる。もし本当に守るつもりならば、もっと強力な手段はいくらでもあるのだ。
 そして、彼らが本当に軍事目的でガードロボ等を造った場合、その戦闘力は驚異的になる恐れがある事も示唆している。なぜならば、彼らの科学技術は我々など足元にも及ばぬレベルに達しているからである』



※ ※ ※



『ある遺跡の内部を詳しく調査した結果、やはり我々の知るガードロボとは違う区分でのロボットの存在も確認された。
 それは対人インターフェイスのような物から、遺跡の建造、修復、ロボットの製造修理、果ては掃除に至るまで。非常にバリエーション豊かである。
 また、その機能から遺跡その物も一つのロボットと言えるかもしれない。
 調査団はその中で、やはり軍事目的のロボットをも発見した。機能は失われていたが、その見た目や構造は明らかに他とは明確に目的を異にしている。
 発見されたのは一体の人型の機体だけであったし、殆どスクラップに近い形であったため、その全容は明らかにはなっていない。
 恐らく、さらに種類があるはずである』



※ ※ ※



『恐ろしい物を発見したのはその直後である。
 それはまさに、未知の技術の結晶ともいうべき、超テクノロジーのジェネレータである。正確には、ジェネレータの動力源その物である。

 それは一見すると美しい宝石のような物体だった。
 しかし実態は、一種の核融合炉のような物である。その安定性はもはや常軌を逸していると言える。何を燃やしているかは現時点では不明であるが、実験では砕こうが燃やそうが、中性子を当ててもレーザーを当てても、一切臨界には達しなかった。
 それどころか、変形こそすれそのシステムには一切の変化が見られなかったのである!
 これは驚くべき事だ。
 残念な事に、我々ではこれを有効に活用する事は出来ない。まだその技術が無いからだ。調査の結果、一度火が付けばじっくりとエネルギーを放出する事が解った。だが、それは宝石同士をぶつけた場合のみ起こる。
 現時点では我々には手に余る』



※ ※ ※



『遺跡の奥へ到達した部隊の内、ある部隊が非常に興味深い、そして恐ろしい報告を上げてきた事を書かねばならない。
 彼らは例の宝石を採取した部隊の生き残りである。
 結論から言えば、彼らは数人を除き死亡した。死因は、遺跡の奥で未知のロボットとの戦闘による物である。
 それは通常のガードロボとはまったく違い、はっきりと戦闘を念頭に置いた物だと報告されている。詳しくは解らない。数少ない生き残りも、命からがら逃げてきたのだ。
 推測するに、そのロボットは例の宝石、もしくはその奥にある何かを護っていた。
 遺跡の外に居るガードロボとは違い、本格的な警備を目的とした戦闘ロボット。さしずめスーパーガードロボとでも言えるそれは、訓練された兵士達を次々と殺して行った。
 それが護るその先には、一体何があるのか……』



※ ※ ※



『ここからは私の個人的見解を述べる。
 まだ調査はほとんど進んでいないと言える遺跡だが、それを遺した『彼ら』は非常に高度な科学技術を有していた事は否定しようも無い。
 そして、我々とは思考の構造は違えど、理論的な思考も有していたはずである。そうでなければ、これほどの技術を、文化を得られるはずは無い。
 その上で我々が最も注意せねばならぬ事、それは、『彼ら』の機嫌を損ねる事である。

 我々はよそ者だという事をまず自覚せねばならない。そして、いかに彼らと適当な距離を置くか、そこを注意しなければならない。
 入植が始まった以上、人々はいずれ海に出るだろう。そうなれば、必ず遺跡とも関わる機会が出てくるはずである。
 その時に備え、我々は遺跡に対してどう接するべきか、予め把握し、それによって起こる事態を理解しなければならない。
 幸いにも遺跡は比較的寛容である。
 だが、おいそれと超えてはならない一線もある。
 それを超えた時、遺跡はその恐るべきテクノロジーで我々に問い掛けるのだ。それに答える能力が人類にあるのか、私は時期尚早であると思っている。
 それに、遺跡を建造した者達が絶対にこの星から離れ、遺跡が無人であると言い切れるのだろうか?
 もしそうであれば、異文化の交流が可能となり、人類はさらに発展するかもしれない。また、たとえ無人であれ、遺跡のテクノロジーは人類にとっては貴重な宝であると言える。
 そして、一番危惧すべき問題。それは、彼らとの力での交流へと発展した場合である。恐らく人類では、彼らの力を受け止められない。
 究極の異文化交流。それはつまり、戦争である。
 もし彼らが、我々を敵と判断したら。それによって解き放たれる、彼らの力とは。それだけは、もっとも注意しなければならない』



※ ※ ※



『もう一度はっきりと明言しておこう。
 この文書は公文書ではない。つまり政府の公式見解ではなく、さらに言えば存在そのものすら知られてはならない。
 あくまで秘密裏に、そして本当に一部の者だけの文書である』



※ ※ ※



『我々は無事に人類がネオアースへと移り住む事を祈っている。
 そのためにはこの星の事を理解せねばならない。だが、ネオアースの遺跡群は我々に大きな問題を遺している。
 不幸な事に、政府と議会は遺跡に対してさしたる興味を持っていない。彼らのテクノロジーがいかに凄まじいか、理解しようとすらしていないのが現状である。
 だからこそ、この文書は秘密なのだ。同士達は、必ず人類の為に、これを役に立てると信じている』


※ ※ ※


「ふう……」


 分厚い資料の最終ページには、ミゲーラ提督の直筆でのサインがしてあった。
 そこまでしっかり確認し、ミヤタは資料を閉じ、それを鍵付きの引き出しの中へとしまう。

 海賊の襲撃によって墜落したアルバトロス。解放されたエネルギーは熱核兵器に匹敵する破壊力を見せた。
 同時に、墜落現場で発見された新たな遺跡。そして、時を同じく動き出した、謎の超大型ロボット。
 ミヤタは震えていた。資料に書かれた、『彼ら』との戦争。
 全ては偶然である。しかし、それによって引き起こされた事態は、最悪かもしれない。
 水を一口飲み、痰を切るように咳をした。

「我々はいかにすべきか……」

 遺跡のテクノロジーは人類を大きく超える。
 そして、その力が悪意を持って語りかけてきた場合、人類はどう答えるべきか。どれほど大声で叫んでも、それは届かぬ可能性すらある。
 最悪の状況。戦争。
 ミヤタは立場上、常にそれを考えなくてはならない。考え、考え抜いて。そして、恐怖で震えていた。
 あまりにも、それは強大すぎるのだ。
 地表では工作員が情報を集めているはずである。それによって少しでも、対抗出来る力を得なければならない。
 全ては、人類生存の為に。

「今どうしている? フラン……」




※ ※ ※




「きゃああああああ! モノアイにキモいのがへばりついたぁあああ!」
「落ち着きなさいよ。付いたらとればいいじゃない」

 遺跡内部。
 グソクムシのようなガードロボに囲まれたフランとマーレ。
 そのガードロボは見た目同様に大した事はない敵ではあったのだが、フランには強敵であった。

「もうイヤだ……。ここまでリアルに作らなくても……」

 ぞろぞろと現れるグソクムシ型ロボは、強固な外骨格にソフトマシンの内部構造を持っていた。シリコンか何かでチューブが作られ、緑色のオイルらしき物が中を流れている。
 無数の脚はどうやら液体の移動によって動作を得るらしく、血管のような枝別れした模様のある膜が内部からべろりと覗く。

 彼らは一匹ずつでは全く驚異では無かった。
 オステウスが踏み付ければ簡単に潰れ、中身がぶちょっと飛び出す。しかし、それがあまりにも生き物っぽい作りであった為に、フランは精神的ダメージを受ける。

「おろろろろ………」
「大丈夫なのアンタ? 解りやすい弱点ね」
「リアル過ぎる。気持ち悪さで精神攻撃を目的に作ったとしか思えない」
「あながち間違いじゃないかもよ?」
「……作った奴とは仲良くなれない」

 大量のグソクムシ達はそれこそ無数に、絨毯の如く押し寄せる。小さな口でカリカリかじってくるのだが、ほとんど意味はない。
 床だけでなく天井にまでへばりついて居るので、見渡す限りは虫だらけである。
 オステウスはその中をスラスターを使って突っ切っている。いちいち相手にしていられる量ではないのだ。当然ながら彼らもそれを許すつもりは無く、健気に行く手を阻む。

「ぎゃああああああ! 天井からボタボタ降ってきたぁああああ!」

 絶叫した。その気持ち悪さたるや並大抵では無かったらしい。
 人間は極限になると、本当に冗談のような声を上げて叫ぶ。フランはそれを実証した。
 一方のマーレは、そんな物には一切動じず。鼻歌混じりにグソクムシを観察している。彼女がタフな理由それは。

「あのねフラン。グソクムシ、というかフナムシなんてどこにでも居るのよ?」
「だから何よ……」
「その昔、私達の船に食糧危機が訪れた事があるの」
「突然何?」
「パンも無く、野菜も無く、魚を釣るエサすら無かった。居たのは、船にへばり付く大量のフナムシとフジツボみたいな奴だけだった……」
「まさかアンタ……」
「捕まえた。そして、素揚げにしてみたわ。エビみたいだった」
「食べたの……?」
「案外おいしかったぜ」
「しばらく私に話し掛けないで」

 それは極限の人間が成せる技の一つではあったのだが、マーレが元からタフであったのも原因。生きるか死ぬかの状況では、皆食べるはずだとマーレは言いのけた。もちろん、自分の強さは棚に上げての発言である。
 纏わり付くグソクムシ達を尻目に、顔面蒼白のフランが駆るオステウスは内部を止まる事なく突き進んだ。

 やがて見えてきたのは、潜水艦のドックのような場所だった。

「ありゃ? どうやらオステウスはここまで?」

 水中での通路は行き止まりだった。そこは一見すると広いプールであった。
 グソクムシ達はそこまでは付いて来なかった。どうやら持ち場ではないらしい。通路を超えてしまった以上は彼らの仕事ではないようだった。
 とにかく、フランにとっては大助かりではある。

「上を見てフラン。水面から上がって今度は陸路ね」
「さっきよりはマシよ……」
「どうかしら。今度は百足とか蜘蛛とか……。あとフナムシは陸地でも……」
「やめてマジでやめて……」

 なるだけ思考を止め、フランはパネルを操作する。陸地に上がるならば、オステウスから降りなければならない。
 その為には、最低でも胸から上を水面より上まで上げなければならないのだ。

「……ウィンチ使えるかな?」
「あー……。天井までブっ放して届けばたぶん。先っちょが刺さらなかったらヤバイけど」
「じゃあやってみる」

 オステウスがウィンチを発射。ワイヤーはうまく天井に届き、突き刺さる。反しが食い込み、これで簡単には抜けないはずである。
 巻き上げると、オステウスの巨体がゆっくりと、水面から現れる。滴る水の量はさすがに多く、ばちゃばちゃと水面を叩いた。
 ハッチが開き、コックピット内に外の空気が流れ込んできた。冷たかった。水が近くにある為だろうか。
 ブカブカのずんぐりむっくりなスマートスーツに身を包んだ二人は、それこそ一生懸命にコックピットから降りた。
 狭い機内では殆ど動作が出来なかったため、フランは自分の間接が固まったような気がしてならなかった。一方のマーレも、馴れてはいたがやはりそれなりに疲れている様子。
 見渡す限り、そこには何も無かった。ただの空間。ドアも階段も無い。一見すると行き止まり。
 唯一あった物は、高さ一メートル程の小さなロボットだった。


続く――



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