🚀 マーキュリー計画を支えた2つのロケット
レッドストーンとアトラス、その歴史と進化を追う
アメリカの宇宙開発史を語るうえで外せない「マーキュリー計画」。
「人類を宇宙へ送り出す」という、まさに夢の第一歩だったこの計画を支えたのが、2つのロケットでした。
アメリカの宇宙開発史を語るうえで外せない「マーキュリー計画」。
「人類を宇宙へ送り出す」という、まさに夢の第一歩だったこの計画を支えたのが、2つのロケットでした。
それが、レッドストーンとアトラス。
名前は聞いたことあるけど、「どっちがどんな役割だったの?」「その後どうなったの?」という人も多いはず。
今回は、それぞれの開発の背景から、マーキュリー計画での役割、さらにその後の展開までを、紹介していきます。
名前は聞いたことあるけど、「どっちがどんな役割だったの?」「その後どうなったの?」という人も多いはず。
今回は、それぞれの開発の背景から、マーキュリー計画での役割、さらにその後の展開までを、紹介していきます。
🔴 レッドストーン・ロケット:アメリカ初の宇宙飛行を成功させた「はじまりのロケット」
■ 開発のルーツは、ドイツのV2ロケット
レッドストーンはもともと、アメリカ陸軍が開発していた短距離弾道ミサイル「PGM-11 レッドストーン」をベースにしています。
このロケットの祖先をたどると、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが開発したV2ロケットに行き着きます。
レッドストーンはもともと、アメリカ陸軍が開発していた短距離弾道ミサイル「PGM-11 レッドストーン」をベースにしています。
このロケットの祖先をたどると、第二次世界大戦中にナチス・ドイツが開発したV2ロケットに行き着きます。
V2の開発責任者だったヴェルナー・フォン・ブラウンたちは戦後アメリカに渡り、その技術を活かして新たなロケット開発に取り組みました。
レッドストーンはその成果のひとつであり、軍事技術から平和的な宇宙開発への転用という意味でも、象徴的な存在です。
レッドストーンはその成果のひとつであり、軍事技術から平和的な宇宙開発への転用という意味でも、象徴的な存在です。
💡豆知識:V2ロケットは史上初めて宇宙空間(高度100km以上)に到達した人工物でもあります。
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フォン・ブラウン | PGM-11 レッドストーン | V2ロケット |
■ マーキュリーでの役割:サブオービタル飛行を担当
マーキュリー計画初期では、宇宙空間まで人を運び、無事に帰還させるテストとしてサブオービタル飛行(弾道飛行)が行われました。そのミッションを担当したのがレッドストーンです。
マーキュリー計画初期では、宇宙空間まで人を運び、無事に帰還させるテストとしてサブオービタル飛行(弾道飛行)が行われました。そのミッションを担当したのがレッドストーンです。
1961年5月5日、アラン・シェパード少佐が乗った「フリーダム7」が打ち上げられ、アメリカ初の有人宇宙飛行に成功します。
飛行時間はわずか15分ほどでしたが、高度約187kmまで到達し、宇宙空間を“味見”した歴史的フライトでした。
飛行時間はわずか15分ほどでしたが、高度約187kmまで到達し、宇宙空間を“味見”した歴史的フライトでした。
その後、同年7月にはガス・グリソムが「リバティ・ベル7」で飛行しています。
■ その後の展開
マーキュリー初期ミッションの終了とともに、レッドストーンは宇宙打ち上げ用としての役割を終えます。
しかしその後、ロケット技術は「ジュピターC」や「サターンI」など、さらに大型の打ち上げ機へと進化していきます。
マーキュリー初期ミッションの終了とともに、レッドストーンは宇宙打ち上げ用としての役割を終えます。
しかしその後、ロケット技術は「ジュピターC」や「サターンI」など、さらに大型の打ち上げ機へと進化していきます。
🚀この“はじまりの経験”が、やがてアポロ計画で人類を月に送る大ジャンプへとつながっていくんですね。
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アラン・シェパード少佐 | 計画で使用された有人発射機 | レッドストーン2号 |
🟢 アトラス・ロケット:地球周回を可能にした本格派
■ 元はICBM(大陸間弾道ミサイル)だった
アトラス・ロケットは、アメリカ空軍が開発したSM-65 アトラスというICBM(大陸間弾道ミサイル)をベースにして作られました。
軍用兵器がそのまま宇宙開発に転用された例としても興味深い存在です。
アトラス・ロケットは、アメリカ空軍が開発したSM-65 アトラスというICBM(大陸間弾道ミサイル)をベースにして作られました。
軍用兵器がそのまま宇宙開発に転用された例としても興味深い存在です。
構造的な特徴としては、「バルーンタンク」と呼ばれる薄いステンレスの風船のような構造で、内部の燃料圧で形を保つというユニークな設計。
また、エンジンの一部だけを途中で切り離すステージ・アンド・ア・ハーフ方式も当時としては革新的でした。
また、エンジンの一部だけを途中で切り離すステージ・アンド・ア・ハーフ方式も当時としては革新的でした。
🎈豆知識:バルーンタンク構造は、ロケットの軽量化には貢献したけれど、地上では常に圧力をかけていないと潰れてしまうという扱いづらさもありました。
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組み立て中のバルーンタンク | SM-65D アトラスミサイル |
■ 地球周回軌道に挑む:ジョン・グレンの偉業
1962年、アトラスロケットに乗ってジョン・グレンが地球を3周した「フレンドシップ7」は、マーキュリー計画の中でも最も有名なミッションのひとつです。
アメリカ人として初の地球周回飛行を成功させ、世界中にその名が知られることになりました。
1962年、アトラスロケットに乗ってジョン・グレンが地球を3周した「フレンドシップ7」は、マーキュリー計画の中でも最も有名なミッションのひとつです。
アメリカ人として初の地球周回飛行を成功させ、世界中にその名が知られることになりました。
その後のミッションでも、スコット・カーペンター、ウォルター・シラー、ゴードン・クーパーといった飛行士たちがアトラスロケットで軌道飛行を実施。
アメリカの宇宙技術がいよいよ本格的になってきたことを印象づけました。
アメリカの宇宙技術がいよいよ本格的になってきたことを印象づけました。
■ アトラスの驚異の“長寿命”
マーキュリー計画終了後も、アトラスロケットは改良を重ねて長く使われ続けます。
たとえば:
マーキュリー計画終了後も、アトラスロケットは改良を重ねて長く使われ続けます。
たとえば:
アトラス・アジェナ:上段に別ロケットを追加して月探査や偵察衛星用に使用
アトラス・セントール:液体水素燃料を使った高性能な上段を搭載、惑星探査機(マリナー、ボイジャーなど)を打ち上げ
アトラスV(2023年まで運用):商業衛星やNASAの探査機、そして有人宇宙船スターライナーの打ち上げにも対応
🛰️ なんとアトラスシリーズは70年近くも現役。軍事から科学探査、そして商業打ち上げまで、用途も幅広く、まさに“ロケット界のロングセラー”と言えます。
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ジョン・グレン | アトラスロケット |
✍️ 最後に:2本のロケットが残したもの
レッドストーンはアメリカの宇宙飛行の“はじまりの一歩”を。
アトラスはその次のステージ、“地球を飛び出す大きな挑戦”を担いました。
この2つのロケットがなければ、その後のジェミニ計画、アポロ計画はきっと実現しなかったでしょう。
彼らの飛行は短くても、その影響は果てしなく大きかったのです
彼らの飛行は短くても、その影響は果てしなく大きかったのです
歴史的背景の補足
冷戦背景と宇宙開発競争:マーキュリー計画はソビエト連邦との宇宙開発競争の中で開始されました。
特に1957年のスプートニク打ち上げと1961年4月のユーリ・ガガーリンの地球周回飛行後、アメリカの危機感が高まったことが背景にあります。
マーキュリー計画の正式名称と期間:正式名称は「プロジェクト・マーキュリー」で、1958年から1963年まで実施されました。NASAの初の有人宇宙飛行計画でした。
特に1957年のスプートニク打ち上げと1961年4月のユーリ・ガガーリンの地球周回飛行後、アメリカの危機感が高まったことが背景にあります。
マーキュリー計画の正式名称と期間:正式名称は「プロジェクト・マーキュリー」で、1958年から1963年まで実施されました。NASAの初の有人宇宙飛行計画でした。
レッドストーンに関する補足
正式名称と性能:「マーキュリー・レッドストーン」は軍用レッドストーンを改良したもので、推力約35トン、全長約25メートルでした。
マーキュリー・レッドストーンの打ち上げ回数:有人飛行の前に無人テスト(MR-1、MR-1A、MR-2)が行われました。MR-2では「ハム」というチンパンジーが搭乗しています。
リバティ・ベル7の回収問題:グリソムのカプセルは着水後に緊急脱出ハッチが誤作動して沈没し、グリソム自身は救助されましたがカプセルは失われました(1999年に海底から回収)。
マーキュリー・レッドストーンの打ち上げ回数:有人飛行の前に無人テスト(MR-1、MR-1A、MR-2)が行われました。MR-2では「ハム」というチンパンジーが搭乗しています。
リバティ・ベル7の回収問題:グリソムのカプセルは着水後に緊急脱出ハッチが誤作動して沈没し、グリソム自身は救助されましたがカプセルは失われました(1999年に海底から回収)。
アトラスに関する補足
マーキュリー・アトラスの仕様:軍用アトラスDを改良したもので、推力約170トン、全長約29メートル。レッドストーンの約5倍の推力を持っていました。
マーキュリー・アトラスの打ち上げシリーズ:無人テスト(MA-1からMA-5)が行われ、MA-1は失敗、MA-2は部分的成功、MA-3は失敗、MA-4とMA-5は成功しました。MA-5ではチンパンジーの「エノス」が搭乗しました。
ジョン・グレンの軌道飛行の日付と詳細:1962年2月20日に実施され、約5時間の飛行で地球を3周しました。飛行中に熱シールドの問題が疑われる重大な危機がありました。
残りの軌道飛行ミッション:
マーキュリー・アトラスの打ち上げシリーズ:無人テスト(MA-1からMA-5)が行われ、MA-1は失敗、MA-2は部分的成功、MA-3は失敗、MA-4とMA-5は成功しました。MA-5ではチンパンジーの「エノス」が搭乗しました。
ジョン・グレンの軌道飛行の日付と詳細:1962年2月20日に実施され、約5時間の飛行で地球を3周しました。飛行中に熱シールドの問題が疑われる重大な危機がありました。
残りの軌道飛行ミッション:
MA-7:スコット・カーペンター(1962年5月24日)、3周回
MA-8:ウォルター・シラー(1962年10月3日)、6周回
MA-9:ゴードン・クーパー(1963年5月15-16日)、22周回(約34時間)
MA-8:ウォルター・シラー(1962年10月3日)、6周回
MA-9:ゴードン・クーパー(1963年5月15-16日)、22周回(約34時間)
アトラスの後継と進化の補足
アトラスの様々な派生型:
アトラスの様々な派生型:
アトラス-E/F:ICBMの改良型で宇宙打ち上げにも使用
アトラスII、III:1990年代に開発された近代化バージョン
アトラスV:2002年から使用開始された現代型
アトラスII、III:1990年代に開発された近代化バージョン
アトラスV:2002年から使用開始された現代型
アトラスVのバリエーション:401、411、421、431、501、511、521、531、541、551、552など様々な構成があり、打ち上げる衛星の重量によって選択されます。
ヴァルカン・セントール:アトラスVの後継として開発され、アメリカの国家安全保障ミッションと商業打ち上げの両方をサポートする次世代ロケットです。
ヴァルカン・セントール:アトラスVの後継として開発され、アメリカの国家安全保障ミッションと商業打ち上げの両方をサポートする次世代ロケットです。
技術的補足
バルーンタンク技術の詳細:通常の0.3インチ厚のタンク壁に対し、アトラスは0.01インチという薄さでした。
これにより大幅な軽量化を実現しましたが、内部加圧がないと自重で潰れるほど薄かったため、常に窒素で加圧する必要がありました。
ステージ・アンド・ア・ハーフ方式:アトラスは打ち上げ時に中央エンジン1基と側面エンジン2基の計3基を同時に点火し、
上昇途中で側面の2基のみを切り離すという独特の方式を採用していました。完全な2段式ではないためこう呼ばれました。
マーキュリー宇宙船の仕様:直径約1.9メートル、重量約1,800kg。単座式で、最大2週間の滞在が可能な設計でしたが、実際の最長ミッションは約34時間でした。
これにより大幅な軽量化を実現しましたが、内部加圧がないと自重で潰れるほど薄かったため、常に窒素で加圧する必要がありました。
ステージ・アンド・ア・ハーフ方式:アトラスは打ち上げ時に中央エンジン1基と側面エンジン2基の計3基を同時に点火し、
上昇途中で側面の2基のみを切り離すという独特の方式を採用していました。完全な2段式ではないためこう呼ばれました。
マーキュリー宇宙船の仕様:直径約1.9メートル、重量約1,800kg。単座式で、最大2週間の滞在が可能な設計でしたが、実際の最長ミッションは約34時間でした。