声が聞こえた。
誰かが叫んでいる。そして響く剣の音。
どうやら近くで戦闘が行われているらしい。
アルマは、漁夫の利を得ようとその音の方向へと走っていく。
「あれは……」
アルマは少女が走ってくるのを見つけた。
見通しがいい場所だったが、少女は後方ばかりを気にしていてアルマに気がついた様子はない。
これは、チャンスだ。
アルマは、ガストラフェテスを構えて――
+ + +
(私は、何もできないんですの……)
ベルフラウは無力だった。
分かっていてもナバールを置いて、逃げるしかなかったことが悔しかった。
戦えると思った。
だって、自分はあの島でたくさんの戦いを乗り越えてきた。
それは自惚れに過ぎないと実感したのだけど。
確かに同年代の少年少女達に比べれば、ベルフラウは経験も度胸もあるだろう。
だが、それはあくまで子供のレベルに過ぎない。
歴戦の戦士と比べれば、どうしても劣ってしまう。
ベルフラウは人を殺したことがない。覚悟がない。
そこでも差が出てしまう。
死体を見た。
ベルフラウは、死体を見るのは初めてではない。
でも、怖かった。まだ暖かい、先ほどまで生きていたであろう人。
(ナバールさん……)
二人の敵は、明らかにベルフラウより強そうだった。
いくらナバールが強くても、数の不利は無視できない。
せめて、武器があれば。
剣などは扱えないかもしれない。
でも、サモナイト石があれば。銃があれば。弓があれば。
そうすれば、援護が出来るのに。
武器さえあれば、私だって……。
思考に没頭していると、ふと目の端に人影が映った。
ベルフラウは、慌てて意識を集中させる。
(弓……?)
矢が放たれるより、ベルフラウが気がつくほうが一瞬早かった。
ギリギリでベルフラウは回避する。
「外しちゃったわ」
残念そうに話す人物は、少し年上ぐらいの少女。
温和そうな声のわりに、話している内容はとても物騒だ。
手にはガストラフェテス――弓だ。
ベルフラウの求めていたものが、そこにはあった。
「あなた……」
言葉にしなくてもベルフラウには分かった。
少女から発せられているのは殺気のみ。
先ほどの戸惑いのない攻撃――確実に少女は殺し合いに乗っている。
事実、ベルフラウの思考を肯定する言葉が少女から放たれる。
アルマは弓を仕舞い、地を蹴った。
(私は……)
襲い掛かってくる少女。
しかし、ベルフラウには抗う術がない。
逃げれば、助かる可能性があったのかもしれない。
だが、背後にはナバール達が戦っている。
もし、少女がナバール達の所へ行ってしまったら、更に戦闘は不利になってしまう。
ベルフラウの、その僅かな戸惑いは――大きな隙を生んだ。
大きな影がベルフラウの目前に迫る。
咄嗟に頭を庇う。
ガッ! と斧が振り落とされた。
(……え?)
しかし、痛みはない。
正確に言えば、頭を地面に打ち付けてたのが痛むのだけど、血がでるような怪我はない。
というより、斧はベルフラウの数センチ横に刺さっている。
外した?そんな訳は……?
金髪の少女は、静かにベルフラウを見下ろしていた。
「ラムザさん、という方はあなたが殺し合いに乗るのを望むような方なんですの!?」
馬乗りになられて、ベルフラウは身動きが取れない。
ベルフラウの生死は、アルマの手の中だ。
しかし、ベルフラウは無様な姿は晒したくはなかった。
だから、気持ちだけでもと震えそうな体を抑えて気丈に少女を睨む。
少女は、誰か大切な人のために戦っているようだった。
『ラムザ』
その名前を発したときだけ、殺気が薄れたような気がしたのだ。
目の前の、今まさにベルフラウを殺そうとしている少女だって鬼ではない――人間なのだ。
兄、肉親への情で動いているのなら、ただの殺人鬼とは違う。
ベルフラウは叫ぶ。少しでも、少女の心に声が届くように。
「妹に手を汚して欲しいなんて思う兄はいませんわ!だから――」
「でも、生きて帰れるのは一人だけなのよ。だったら、私はラムザ兄さんに生きて帰って欲しい」
少女の瞳は揺るがない。
違う!違う!違う!
「殺し合いなんかしなくたって、みんなで脱出する方法は必ずありますわ、絶対に!」
「――そう」
ふと、ベルフラウを抑えていた少女の右手が離される。
多少、もがくことができるようになっただけで逃げることはできないのだけど。
少女は、拘束を緩めないまでも何か考えているようだった。
ベルフラウは無力だ。
だけど、それは戦うことでの話に過ぎない。
ベルフラウは聡明だし、人を思いやる心も持っている。
首輪解除、仲間集め、説得、まだまだやることはたくさん――
「え?」
再び戻って来た右手には、折れ曲がったレイピア。
それが今まさに、振り下ろされようとしている。
「あなた!こんな馬鹿な真似はもうよしなさ」
命乞いではなかった。
少女の愚行を止めようとしての言葉。
戦うことの出来ないベルフラウの必死の抵抗。
しかし、少女の言葉でベルフラウは一瞬思考が真っ白になった。
「私、もう二人も殺しているの。だから――」
(先生、私は――)
アルマはレイピアを、ベルフラウの心臓目掛けて突き刺した。
+ + +
アルマは立っていた。
ここは、とても海が見える。
アルマの足元には、外傷がほとんどない綺麗な少女の死体が横たわっていた。
もちろん心臓付近は血だらけであるのだが。
少女はたいした抵抗をしてこなかった。
支給品を調べてみたら、まったく武器をもっていなかったから仕方ないのかもしれないけど。
矢を無駄にしたかしら、とアルマは思った。
そういえば、ここに来てから殺しているのは女ばかりだ。
アルマが、ベルフラウの殺害を躊躇したのは考え事をしていたからだ。
アメルの支給品の中身を思い出したのだ。
罠につかえるかもしれない。
首を刈り取ろうとした手斧をしまい、レイピアを使ったのはそのためだ。
首がない死体より、綺麗な死体のほうが良いに決まっている。
首輪目当ての参加者も寄ってくるかもしれない。
アメルの支給品だったアイテムは――感知式爆弾だった。
聞いたことのないアイテムだが、説明書のおかげで大筋は理解した。
感知式爆弾など、使い方が限られ役に立たないと思っていたのだが思わぬ形で利用できた。
仕掛けはすんだ。
ベルフラウの死体、または首輪を目的に近づいてきた参加者がいれば――どかん!だ。
この辺りにはラムザ兄さんはいない。
だから、安心して仕掛けられる。
戦いの音は聞こえなくなっていた。
アルマは、既にそれから興味を失くし別の方向に向かうことにした。
走る。早く無事を確認したい。
彼女の瞳に移っているのは、ただ一人――兄の姿だけだった。
【E-5/平原/一日目・午後】
【アルマ@FFT】
[状態]:健康
[装備]:手斧@紋章の謎
死霊の指輪@TO 希望のローブ@サモンナイト2
[道具]:支給品一式、食料一式×4、水×3人分、折れ曲がったレイピア@紋章の謎、ガストラフェテス@FFT、
ガストラフェテスの矢(残り2本)、アメルの首輪
筆記用具、竜玉石@タクティクスオウガ 、ヒーリングプラス @タクティクスオウガ
キャンディ詰め合わせ(袋つき)@サモンナイトシリーズ
(イチゴキャンディ×2、メロンキャンディ×2、パインキャンディ×1
モカキャンディ×1、ミルクキャンディ×1)
[思考]1:ラムザ兄さんが生きていることを確認したい
2:ラムザ兄さんを優勝させるため、ゲームに乗る
【C-5/平原/1日目・日中】
【ベルフラウ@サモンナイト3 死亡】
【残り42人】
C-5にベルフラウの死体が放置されています。
近づくと感知式爆弾が爆発します(威力、感知距離等は次の書き手にお任せします)
感知式爆弾@現実
名前の通り、人が近づくと爆発する爆弾。
地雷と違い、近づいただけで爆発するので厄介。
最終更新:2009年04月17日 23:21