自身の決断は間違ってはいなかった。
城の監視に見切りをつけて街道沿いに移動してみようと考え、
リュナンは街道に出て歩き始めた。そして大した距離を移動することなく
名簿を覗きながら座り込んで話をしている二人(人か?)組を見つけた。

しかし、あろうことか街道の真上に座り込んで話をしているのである。
よほど実力に自信があるか、それとも現状を把握できていない者か。

近づいてみると分かったが少なくとも後者ではなさそうだ。
雰囲気。
現実逃避をして開き直っているわけでもない。
ましてやピクニック気分で森を眺めているわけでもない。
"こういった"場に慣れている者特有の何かを、
リュナン自身もそうだからこそ感じる。

そう、感じるのだ。余計なモノも一緒に。
こちらに気付いた少年が、笑顔を浮かべて鳥?に何かを言っている。
そして鳥っぽいほうはその少年に何か言い返している。
声はよくは聞こえないが焦っているような口調であることは察せた。
それに対して20%UPの輝きを放つ笑顔で何かを語っている少年。
呆然とその話を聞き、はっと気付いたように
その少年の肩を掴み説得らしきものをしている鳥。
鳥の手?を払い除け、こちらに更に20%UPの笑顔を見せる少年。

友好的な笑顔?とんでもない。確かに清々しい輝きを放つ笑顔だ。
邪悪さとか凶悪さとかを通り越しての清々しさ、であったが。
笑顔が似合うはずの歳に見える彼のその表情は海賊ガロの笑顔並に迫力があった。
早い話が殺気がこもっているのである。しかも非常に濃い目の。

再び鳥のほうが手振りを交えて諭すような感じで少年に語りかけ始めている。
そこでふと気付いたが、その説得されていると思しき少年には見覚えがあった。
最初の広間でヴォルマルフという騎士に文句を言おうとして、
殺されてしまった巨人に吹っ飛ばされた"自称"魔王の少年だ。
あの巨人に吹っ飛ばされてすぐに立ち上がっていたところを見る限り
本当に魔王かどうかは分からないが只者ではない。
魔王と聞いて、よい印象を抱く人は…普通いないだろう。
仲間を求めて前へと歩んでみたはいいがとんでもない参加者と遭遇したものだ。

選択肢は2つ。

①このまま接触
少なくとも彼はヴォルマルフを快くは思っていない。それは間違いないだろう。
そして、彼の連れである鳥は先程の挙動を見る限り
好んで争いをしようというわけではないようだ。
もしあの少年が殺し合いに乗っている人物なら
殺し合いをするつもりがない鳥と一緒に行動する理由はないのでは。
ということは仲間となれるのではないだろうか?

②逃げる
三十六計逃げるに如かず。
もしかしたら自分の考え付かないような協力体制が
彼らの間で築かれている可能性もある。
現に、少年はこちらと闘る気マンマンな気がしてならない。
手持ちの武器は……使い方がイマイチ分からないので鈍器代わりにしかならない金属だけだ。


冷静に二つの選択肢を吟味。
そして結論を出そうとしたまさにその時、展開が動いた。
鳥が非常に不満そうな少年を残し一羽でこちらへと歩いてきた。
リュナンは警戒し、体勢を整えつついつでも逃げれるよう周囲をうかがう。
その雰囲気を敏感に察したのか、その鳥が声を発した。

「大丈夫です。僕はこの通り手ぶら。危害は加えません。
 僕たちには………いや、少なくとも僕は平和的な解決を望んでいますから」

鳥が発したのは穏やかな青年の声だ。そして、聞き覚えがある。

「その声は…広間でヴォルマルフと直に言い争った…」

「ああ、この着ぐるみを着ていては姿が見えませんね。
 初対面の方に挨拶をするときぐらいはこれを脱ぎましょうか」

そういって、鳥の背後から『ジ~~~』という音がし、出てきたのは。

「はじめまして。確か、リュナンさんでしたよね?
 僕はラムザ=ベオブルです」

「確かに、僕の名はリュナンだ。だが……」

着ぐるみの中に入ってたからか、汗で金髪がちょっと張り付いている青年のその言葉に
リュナンは戸惑った。

(………なぜ初対面の僕の名前を知っているんだ?)


最初のヴォルマルフの説明で、
参加者名簿が各々に配られていることは知らされていた。
そして、自分の名簿を見た参加者は疑うことなく、
他の参加者も同じ名簿が配られていると思うだろう。
しかしこれはヴォルマルフが因縁のラムザへと意図的に仕掛けた罠なのか。
それとも単なる手違いだったのか。ラムザの持っている参加者名簿は
リュナンのそれとは少し仕様が異なるものだった。
名前と共に顔写真が添付されていたのである。

ラムザは迷うことなく初対面のリュナンに名前で呼びかけた。
先程、ラハールと一緒に顔写真付き名簿に目を通していたので
初対面だがリュナンの顔と名前が一致したのだ。

ここが問題だった。
"参加者名簿が全て同じものか"という疑問をラムザは抱かなかった。

所持している参加者名簿が名前のみのリュナンは
自身の名前を知るはずもない相手に名前で呼ばれた。
謀らずも、これはリュナンが情報的劣勢に立たされているということを彼に知らしめる。
戦場において敵か味方か分からない相手が自分の情報を、
自分が把握していないところで入手している。
これは、非常に危険な兆候だ。
顔や名前以外の重要な情報をあとどれほど持っているかも定かではないのだ。
リュナンが警戒を強めたのは至極当然だった。


殺気満々の自称魔王に、出所不明の情報を握る青年。
結果、押すか引くかを決めかねていたリュナンの腹の内は決まった。

(今の状況で彼らと接触するのは危険だ)

そう結論付けると、リュナンは踵を返して駆け出した。
自身が不運と深読みにより求めていた仲間を見つける機会を放棄したとは知らず。
ラムザが背中に言葉が投げかけられるが聞かないようにした。




「ほぅれ見ろ!話をすることもなく逃げたぞ!
 血の臭いもさせていたし、俺様の敵に違いない!追うぞ!!」

厄介なことになりそうだなぁ、などと頭の片隅で思いつつ
ラムザはラハールのやけに嬉しそうな声が耳に入ってくるのを感じた。

「はぁ……次に会ったときはもう一度僕が話をして"説得"、"勧誘"を試みますから…
 荒事は起こさないようにしましょうよラハールさん…」

「甘いぞ!あんみつを食べながらしるこをすする並に甘い!!
 世の中先手必勝だ!疑わしきは滅せよだ!」

そんな過激な言葉ありません。
なんてツッコミが喉まで出てきたが飲み込み、別の言葉を紡ぐ。

「リュナンさんがなぜ逃げたのか分かりません。
 彼が善良な人間かどうかも知りませんし、
 ここで追ったとしてトラップや待ち伏せの可能性もあります。
 追いかけるなら慎重を期すに越したことはありませんよ」

「安心しろ。俺様がそんな小細工は叩き壊してやる」

(………ストレス発散のための修羅場を欲してるんですね)

場の危険性を訴えるのは火に油ですかそうですか。
がっくし、という効果音と共にラムザの両肩と頭が重力に任せ垂れ下がった。

実際のところ、リュナンが逃げたのはラハールに恐怖してではないだろうかと
思うが、それをいうとこの魔王はさらに喜びそうなのでやめておく。

「俺様と貴様は一蓮托生だと言ったのはラムザ、お前のほうだ。
 さぁて、追いかけるぞ♪」

「………分かりました。僕も巻き込まれますよええ巻き込まれますとも」

半ばヤケ気味に言い放つ。
いっそのこと、これまでの経緯や技術者を捜すという目的を一から懇切丁寧に
ダーラボン先生の真似をしつつ説明、つまり話術『ダーラボンのまね』によって
ラハールを眠らそうかとかプリニースーツを着つつ本気で考え始めたラムザであった。



僕は何をしているんだ?
僕一人では無力だ。
人を救うどころか、自分の身を守ることすらおぼつかない。
そう思ったからこそ他の参加者と会うために歩み始めたはずだった。

それなのに、僕は何をしているんだ?
確かに彼らは安全とは言い難かったかもしれない。
しかし、会話することもなく逃げたのは間違いではなかったのだろうか。
オイゲンがいたら苦言を呈すだろうか?
自身の決断は間違ってはいなかったのだろうか?
分からない。今からでも戻るべきか?
分からない。今からでも進むべきか?
そもそも、僕の考えは正しいのか?
この島を脱出し、エンテやホームズ達と冒険を。僕がそれを望んでいるのは間違いない。
だからこそ…オイゲン達ももちろんだが、僕やホームズがここで死ぬわけにはいかない。
では、危険を冒して仲間を探してどうする?
もし危険な相手に声をかけてしまったら?
逃げるのか?説得するのか?倒されるのか?倒してしまうのか?

仲間を見つけなければいけない。
死ぬわけにはいかない。
僕はどうすればいいんだ?
分からない…
分からない……


走るリュナン。
街道を走っているはずなのにまるで迷宮をあてもなく駆けているような錯覚。
ラムザ達から逃げ出してから、自分の思考が全くまとまらないことに彼は焦っていた。
彼の上下運動に合わせ、彼の髪が、鎧が、マントが、荷物が揺れる。
その振動により袋の中の荷物ががっちゃがっちゃと音を立てる。

走っている彼が雑音の中に紛れる音色に気付かなかったのは仕方なかったのかもしれない。
振動に身を任せ弦を揺らす楽器。
ラミアの竪琴からわずかに漏れる魔性の音は
リュナンの精神を、理性を、少しずつだが確実に侵食していく。

【F-3/平原/1日目・夕方】
【ラムザ@FFT】
[状態]: 健康、後頭部にたんこぶ
[装備]: プリニースーツ@ディスガイア
[道具]: 支給品一式(食料1.5食分消費)、ゾディアックストーン・サーペンタリウス@FFT、
     サモナイト石詰め合わせセット@サモンナイト3
[思考]1:ヴォルマルフ、ディエルゴの打倒
    2:白い帽子の女性(アティ)と接触しディエルゴについての情報を得る
    3:ゲームに乗った相手に容赦はしない
    4:ラハールの暴走を抑える
    5:とりあえずリュナンを追いかけよう
[備考]:現在プリニースーツを身に付けているため外見からではラムザだとわかりません。
    ジョブはシーフ、アビリティには現在、話術・格闘・潜伏をセットしています。
    ジョブチェンジやアビリティの付け替えは十分ほど集中しなければなりません
    自分の魔法に関することに空白のようなものを感じている。(主に白魔術)


【ラハール@ディスガイア】
[状態]: 健康
[装備]: フォイアルディア@サモンナイト3(鞘つき)
[道具]: 支給品一式(食料0.5食分消費)
[思考]: 1:さぁ敵を追いかけるぞ!
     2:自分を虚仮にした主催者どもを叩き潰す
     3:そのためなら手段は選ばない
     4:何とかして首輪をはずしたい
     5:とりあえず今の状態を打開するまではラムザに同行



【リュナン@TS】
[状態]:脇腹に打撲、肩に軽い痛み(痛みは大分引いている)、焦燥・軽い混乱
[装備]:ロマンダ銃(残弾0/1)@FFT
[道具]:潰れた合成肉ハンバーグ@TO ラミアの竪琴@FFT、不明道具(シーダのもの)
    支給品一式、食料2人分
[思考]:1:僕はどうしたらいいのか、分からない…。
    2:ホームズ達他、仲間を探す
    3:レンツェンは見つけ次第抹殺
    4:出来ればヴォルマルフを倒したい


063 獅子王リチャード 投下順 065 少女の罠
062 鷹と竜と聖騎士と 時系列順 067 アルガスの受難 2
055 俺様全開! ラムザ 077Limitation
055 俺様全開! ラハール 077Limitation
055 俺様全開! リュナン 077Limitation
最終更新:2010年06月04日 11:08