小鳥の囀りさえない、不気味なほど静かな森を
ミカヤは歩いていた。
高い木々が昇りかけの陽光を遮り、辺りはかなり薄暗い。
足元に気をつけながら、ミカヤは森を南下する。地図を見たが、森はいくつもあるためどの地点にいるのかまったくわからなかった。
早めにここから抜け出したい。そして仲間たちやこの“ゲーム”に反する者たちと合流して、ともに抜け出さなければならない。
「……」
ミカヤは無言で歩き続ける。道の険しさよりもバッグの中身の重さで足が重くなってきた。
支給された武器はミカヤには到底扱えないようなものだったのだ。
強大な禍々しい力を宿した槌。その重量はミカヤが持つには重すぎる。
それに、それを手にすることで何かに心を蝕まれてしまうような錯覚さえした。
だんだんと光がこの薄暗い森にも満ちてくる。それがミカヤにとってはありがたかった。重く暗い気持ちが多少和らぐ。
だがそれもすぐ意味を成さなくなる。歩けど歩けど、森を抜ける気配はない。歩行速度はかなり遅いが、それでも数十分は経っていた。
奥深くに配置されていたのだろうか。ミカヤの表情には焦燥の色が浮かんでいた。
ずっとこのまま森が続くんじゃないか、そう思い始めた頃、ミカヤは木の陰に何かを見つけた。
「……あ」
人だった。長い髪から女性だと思われる。だが不審だったのは、彼女がそこにうずくまったまま動かないことだった。
どこか具合でも悪いのだろうか。ミカヤはゆっくりと人影に近寄りながら、声をかけた。
「あの……大丈夫ですか?」
答えはない。それどころか、その体勢を維持したままでピクリとも動かない。なぜ――と思い、まさか――と直感する。
ミカヤは慌てて荷物を地面に放り投げると、女性のもとへ走り寄った。しゃがんで女性と同じ目線の高さにする。
「あ、あの――」
肩をゆする。そこでやっとミカヤは理解した。“心が読めない”。女性は微動だにせず、その内なる声もまったくない。
そう、今この島では殺し合いが行われているのだ。このことが意味するのは一つしかない。簡単なことだ。
「し、死んで――」
いなかった。
いつの間にか、女性はミカヤに顔を向けていた。
目と目が合う。ああ、なんて冷たい目なんだろう。これは絶対に生きているヒトのモノではない。
腹部に鋭い痛みを感じた。けれども女性から顔をそらすことができなかった。その口は狂気を思わせるように歪んでいた。
笑っているのかもしれない。自分の腹から何か温かい液体が滲む感覚を覚えながら、ふとミカヤはそんなことを思った。
「……ぁ…………」
小さなうめき声がもれた。女性は口元はニヤリとしたまま動かない。
痛みと恐怖に思考が侵食される。視界も徐々に輪郭を失い、ぼんやりとしてきた。
ぬちゃりと音がした。短剣が引き抜かれたのだ。それと同時にさらに鋭い痛みが襲い掛かり、失いかけていた意識を強制的に覚醒させられた。
鋭い刃が目の前にあった。今度はどうするのだろうか。相手の思考が読めなくとも、ユンヌがいなくとも、その未来は簡単に予測できた。
眼前のモノが揺れ動いた。ミカヤは目を見開いたまま相手の目をみつめていた。
もはやどうしようもない。ただ最後に、どうしてこんなことになったのかを知りたかった。
声が聞こえた。本当に小さな声。けれどもミカヤはそれを聞き取った。
ミカヤの顔に優しげな表情が浮かんだ。それは哀れな彼女に対する、最後にできる慰めだった。
風を切る音が聞こえた。目を閉じていなかったミカヤは、はっきりとその光景を見た。
「可憐な少女がこのような目に遭っていては助けないわけにはいかないだろう。
たとえこのような状況であったとしても……わたしは許せんッ!」
力強い声。その情熱が心に流れ込んでゆく。そして声がはっきりと聞こえる。
――安心してくれ、キミは必ず守る。
ありがとう。ミカヤは助けに来てくれた“勇者”に心の中で礼を言った。
「その小さな短剣でこのわたしを倒せるかな?
わたしは素手でもキミに勝てる自信があるがね」
「…………」
血塗れの短剣を手にした女は無言でこちらを睨む。その冷徹な目はまるで魔王のような威圧感を持っている。
う、なんか怖い……という思いを振り捨てて、
ゴードンも負けじと睨み返す。
女の身体が動いた。前屈動作。直後に、恐ろしい速度でこちらに駆けてきた。
ゴードンは冷静に対応した。短剣が振られた瞬間、彼は攻撃を避けられる距離だけ正確に下がったのだ。
凶刃が胸すれすれを走り抜けた。そして空振りをした女には大きな隙ができた。
それを見逃すはずはない。ゴードンは身体をかがめ、拳を握り腕を後ろに引いた。
「セイッ」
短い掛け声とともに拳を繰り出す。それは確実に女の腹に入った。その威力と衝撃に彼女はそのまま吹き飛ぶはずだった。
女の腕が動いた。短剣を持つほうだ。痛みなどないかのように、彼女は打撃を受けながら反撃したのだ。
ゴードンは斬られた肩を抑えた。それほど深くはない。アレを使えば即座に完治する。
「痛みがないだけで、ダメージは蓄積しているようだな……?」
数メートル吹き飛ばされた女はよろよろと起き上がると、じりじりと後退をしていた。もはや戦意はないと取れる。
「去れ! 今は貴様のような者に付き合っている暇はない!」
ゴードンの一喝を受けて、女はそれを合図にしたかのように背を向けて駆け出した。彼はその様子からもう戻ってはこないだろうと判断する。
ぐずぐずはしていられなかった。ゴードンは急いで少女のもとへ駆け寄った。「大丈夫か!?」と声をかけながら、彼女の容態を確認する。
息が荒い。腹からの出血はなお続いている。すぐに理解できた。
このままでは彼女は死んでしまうということを。
――待っててくれ。今すぐ助ける。
いいえ……もうダメだわ。
――大丈夫だ……。
傷は深い。止血をしてももう遅い。わたしは死ぬ。
――キミを必ず助けよう。地球勇者の名にかけて。
何かが身体を包み込む。暖かい。そしてあれほどの痛みが和らいでいた。
腹部の傷が塞がってゆくのを感じた。出血は止まっていた。本当に、彼は自分を助けたのだ。
ありがとう。ミカヤは薄れゆく意識の中で再び礼を言った。
【B-2/森/1日目・朝】
【ゴードン@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:健康
[装備]:回復の杖@TO
[道具]:支給品一式(支給品アイテム不明)
[思考]1:少女(ミカヤ)を守る
2:打倒
ヴォルマルフ
【ミカヤ@暁の女神】
[状態]:気絶 出血により貧血気味 精神的にも肉体的にも疲労 服が血塗れている
[装備]:なし
[道具]:支給品一式(ダグザハンマー、支給品アイテム不明)
[思考]1:仲間と合流したい
2:みんな一緒に生還を
【B-2/森/1日目・朝】
【
オリビア@TO】
[状態]:アンデッド化 手に血が付着
[装備]:バルダーダガー@TO
呪いの指輪@FFT
[道具]:支給品一式
[思考]:人間を殺して回る
最終更新:2009年04月17日 08:09