潮風が気持ち良く頬を撫でる、天気も良好。
ただ残念な事は周りに生物が一切見受けられない事だけで、
それ以外は文句の無い絶好の景色である。
そんな事を考えながら海を眺める金髪の青年ホームズは大きく伸びをする。

「あ~、ひと泳ぎでもするか、船で海に出るのもいいなぁ~。」

全く緊張感のかけらも無い事を呟くホームズ。
彼は決してこの状況を理解していない訳ではない。
ではどうして彼がこのような事を呟いているのか、少し時間を遡る事にする。

ホームズは初め、突然意味も分からず奇妙な空間に連れて来られたうえに
自分達に殺し合いを強制し、しかもそれをゲームだと言ったヴォルマルフに対して嫌悪を覚えていた。
それは最も自由を愛し束縛される事を嫌う彼の性格もあるが、参加者の中に共に戦ってきた
リュナンオイゲンという仲間達、それに自分が愛する女性カトリの姿を
見つけていたホームズは尚更「殺し合え」というヴォルマルフに激しい怒りを覚えていた。

「俺達に殺し合いをしろだって?ふざけるな!!」

彼は転送された直後からそう息巻いてこのゲームを潰そうと動いていた。
彼にとっての今の最大の障害は首にかけられている処刑装置『首輪』の存在である。
正直ホームズもあの時の巨大な怪物を一撃の下に葬ったこの存在は恐怖を抱くものではある。
だが、彼だって伊達に死線を越えてきたわけではない。
彼よりも巨大な力を持った存在とは幾度も戦ってきた。
その経験と強靭な精神力で主催者と首輪に対する恐怖を押さえ込み、
どうやったらこのゲームを潰す事ができるのかを考える事ができていた。

そこまでは良かったのである。

とりあえず、ゲームに乗ってしまった者もいるかもしれないので身を守るための手段を
確認するために自分に支給された物を確認しようとして、
明らかな不自然さにやっと気づく事になるのである。

「………何か随分とみっしり荷物が入れられてるみたいだな。」

感情が高ぶっていたため、気づくのが遅れていたが自分に支給された布袋は明らかにおかしい。
何かが詰められすぎであり、袋の口からは黄色い鳥の嘴の様なものがはみ出している。
何かの罠なのかと思い、それ以上確認する事に躊躇っていた時である。

「………き、気づいたんなら早くここから出して欲しいっすぅ。」

はみ出た嘴が懇願の言葉を発したのである。
はっきり言ってこれは怪しい、怪しすぎる。
入れられてるモノは明らかに“物”ではなく“者”である事は最早、間違いない。
開けた瞬間に襲い掛かってこないとは言い切れないのである、
どうすればいいのか分からずに逡巡してる横で入れられているモノは苦しそうに喘いでいる。

「……エェイ!こうなったら為すがままだ!開ければいいんだろう開ければ!。」

半ばヤケクソ気味にそう叫びつつも、いざという時の為に片手は自由にしたまま
袋の口を掴み、思いっきり空けてみるホームズ。
……出てきたのは奇妙な鳥のような生き物であった。
鳥のような生き物は今まで満足に呼吸できなかったのか、2・3回大きく深呼吸した後に
のそのそと自分から袋から出てきたかと思うとホームズに自ら話しかけてきた。

「あ~、苦しかったっす。姐さんも相当キツイっスけど、あいつも同じくらい人遣いが
荒いっス、幾らサイズを大きめにしてくれてたって俺より小さいじゃないっスか・・・
あ、ドモ自分ホームズさんに支給されることになったプリニーっス。
あ、あとこれ一応俺に関するメモらしいんで目を通しといてくださいっす。」

先ほどまで袋に閉じ込められていた流暢に言葉をしゃべる青い鳥(チャック付いてる?)に
呆気に取られ無言のままメモを受け取り、その内容に一応目を通してみる。

プリニーについて。
お前に支給された武器は魔界の生き物プリニーだ。
お前の命令には従うように指示は出してある。
ただしプリニーの武器はこちらで没収済みだ。
プリニーは参加者に対して自主的に攻撃する事はできない、
また主人から離れて別のエリアに行く事もできない。
あぁ、それと最大の注意事項だ、プリニーは投げると爆発する。
取り扱いには注意したまえ。>

「……爆発すんの?」
「するっす。」
「何で?」
「さぁ?」

「武器は本当に無いのか?」
「あ~、本当は背中のリュックにたくさん入ってたんすけどね、取られました。
俺、Lv低いんでビームも出せませんし」
「れべる?びーむ?」

こういったやり取りを繰り返すうちに冒頭に至るのである。
要するに彼は今、軽い混乱状態と現実逃避、それに脱力が合いまった
心理状態に至ってしまったのである。

「あの~、さっきから海とか船の話ばっかっすけど、移動しないんすか?」

今では海に向かって石投げまで始めていたホームズはプリニーの言葉に反応して
現状に慣れてきたのか、やっと正常な反応を見せる。

「……あぁ、そうだな。
そろそろ気を取り直さないとダメだな。
リュナンやそれにカトリがこの島のどっかにいるんだからな、
早く合流しないといけないな。
後はあの金髪のあいつか赤髪の姉ちゃんがなんか知ってるぽかったから
あの二人も探してみるか。
…それよりさっきからそこで覗いてる奴!
いるのは分かってる、出てきたら如何だ!」

「えぇ!!どこっすか、どこ!!」
「………頼むからお前は黙っててくれ。」

「すまぬ、様子を伺っていた事は謝るのじゃ。
そなたたちが信用できるものなのか、確認したかったのじゃ。」

岩陰から本当にヒョコッと身を乗り出したかと思うとその少女サナキ
厳かにそう告げる。

「何かと思えば子供の癖にずいぶん堅苦しい言葉で話すお嬢ちゃんが出てきたもんだな、
その口振りからするとゲームには乗り気じゃないって事で良いのか?」

「なっ!お嬢ちゃんとはべグニオン帝国皇帝であるわたしを侮辱するのか!
ゲームにはのらぬがそなたの言葉は聞き捨てならぬ!」

「べグニオン?そんな帝国、俺は聞いたことも無いぞ?とりあえず謝るが
お嬢ちゃんこそ何言ってるんだ?皇帝ごっこか?」

このホームズの発言に更に感情を煽られたサナキはホームズに詰め寄り、
遂には互いに罵りあうにまで発展してしまっていた。
そんな状況を尻目にプリニーはさっきから暇なのか踊ったり、草を毟ったりしている。
まるでホームズを手助けする気はないようである。

「お前はとりあえず俺に支給されたんなら何か手伝えっつの!!」

サナキと喧嘩しつつ横でだらだらしているプリニーに強烈な蹴りを食らわせるホームズ、
横っ飛びですっ飛んでいくプリニー、そんな光景を目にしてつい笑ってしまうサナキ。
結局のところはプリニーのおかげで場の雰囲気はとりあえず収まる事になった。

空気も収まり、さっきまで少女相手に喧嘩していたのが恥ずかしいのか、
頭を掻きながらホームズは照れ隠しにサナキに告げる。

「あ~、俺はシーライオンっていう所の一応、頭をやってるホームズだ。お嬢ちゃんは?」

こちらも恥ずかしいのか少しもじもじしながらホームズに返す。

「う、うむ。わたしはべグニオン帝国皇帝サナキじゃ。」

「俺はとりあえずプリニーでいいっす!」

いつの間に戻ってきたのか、呼ばれてもいないのに勝手に自己紹介するプリニー。
二人(+1匹?)はとりあえず自己紹介した後に互いに信頼できる人物の情報交換をする。

「フゥ~ン、アイクミカヤねぇ。何か俺の知ってる奴に似てるなぁ。
まぁ、俺の知ってる奴はそいつらに比べてガキだけどな。」

そう言って、ホームズは本当に楽しそうに笑う。
それを見てサナキは不思議そうにホームズを見つめながらホームズに尋ねる。

「ホームズ殿はどうしてこの様な状況でそのように笑うことが出来るのじゃ?
わたしは正直に言うと怖いのじゃ、あやつの匙加減一つでわたし達はこの場で死ぬかも知れない
…それを考えると、この通り震えが止まらないんじゃ。」

そう言い、皇帝という身分であれ一人の少女であるサナキは自分の置かれている
状況を理解し、素直な今の気持ちをホームズに伝える。
その小さな身体は確かに恐怖により震えている。
それを見てホームズはまた高らかに笑う。

「心配すんなサナキ、俺がついてる。
それにな、こう見えて俺は世界を救った事だってある英雄ってやつなんだぜ?
まぁ、俺はそうは思ってないけどな。
だから心配すんな、あのクソ野郎をぶっ飛ばしてそのアイクとか
言う奴らと一緒に帰ろうじゃねぇか!」

全く根拠の無い自信である。
実際ホームズも首輪を外す事ができなければヴォルマルフを倒す事は出来ない事は理解しているだろう。
だが、この場に措いてはその言葉は何よりもサナキの心に響くものがあった。

「フフ、そうじゃったな。わたしだって無謀な戦いを越えてきたんじゃった、今は神も
おらんのじゃから自分達の力で乗り越えなくてはいかんのじゃった。」

「神?何かよくわかんねぇけど、とりあえず大丈夫みたいだな。
…さてと、悪いけど多分俺の事を待ってる奴が居るから、そろそろこっから移動しようと
思うんだが、どうする一緒に来るか?」

「これぐらい話しをすれば、信用できる人物なのか如何かぐらいは分かるのじゃ。
一人でいるよりはホームズ殿と一緒に行く方が安全じゃろう、こちらこそ宜しく頼むのじゃ」

「もうちょっと、女の子っぽく話せないもんかね?まぁ、いいや、こちらこそヨロシク頼む。
…ところで俺の武器はどうやらこいつらしいんだが、サナキは弓か剣持ってないか?

「ぶ、武器じゃったのか!そなた?」

「Zzzz、あっ!話は終わったんすか?それじゃ、行きましょうっす!
…って、どこにいくんすか?」

「………」

ドカッ!

「イタァ!何で蹴るんすかぁ!?」

それを見て笑いながらサナキが悪戯そうにホームズに尋ねる。

「ところで、ホームズ殿のことを待ってる人というのは、ホームズ殿の思い人か?」

「ブフゥ!!と、突然何言いやがるんだ!」

「先ほどの仕返しじゃ。」

子供特有の顔でサナキは楽しそうに笑う。

「………やりゃ、できんじゃねえかよ。でもな、さっきの話は子供にゃ関係ねーの!」

「あ~、赤くなってるっす!さては図星っすね、コノコノ~、ヒューヒューっす!!」

「………」

ドカバキグシャグリゴリャメシャズタボキ・・・・

【H-2/崖の上/一日目・朝】
【ホームズ@TS】
[状態]:健康
[装備]:プリニー@魔界戦記ディスガイア
[道具]:支給品一式(ちょっと潰れている)、不明(未確認)
[思考]:1:あのおっさん(ヴォルマルフ)はぶっ飛ばす。
    2:リュナン、カトリと合流したい。
    3:弓か剣が欲しい。

【サナキ@FE暁の女神】
[状態]:健康
[装備]:リブローの杖@FE
[道具]:支給品一式、手編みのマフラー@サモンナイト3
[思考]:1:帝国が心配。
    2:皆で脱出。
    3:アイクや姉上が心配。

備考:暁の女神エンディング後から参加。


【プリニー@魔界戦記ディスガイア】
[状態]:ボコボコ(行動には支障なし)
[装備]:なし
[道具]:リュックサックのみ(水と食料も支給されていません)
[思考]:1:とりあえずホームズに従う。
     2:あのおっさんから給料貰ってはいるけど黙っとこう。

  • プリニーについては本文準拠でお願いします。
  • ホームズの袋はプリニーを入れるためか、少し大きめですが中身は他の人と一緒です。

018 炸裂王女様 投下順 020 勇気ある者
018 炸裂王女様 時系列順 020 勇気ある者
ホームズ 034 適切適当
サナキ 034 適切適当
プリニー 034 適切適当
最終更新:2009年04月17日 08:07