トワイライトシンドローム~究明編~
・第五話~第七話 part37-232~242,246,247,293~295
・第八話 part40-182、wiki直接編集
・第九話~第十話 part40-193~203
- 232 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 00:58:03 ID:nflfIs/90
- 第五の噂『雛代の杜』
ミカとそのお取り巻きは、図書室の奥の机に妙な落書きを見つける。
「お友達が欲しいんです…誰か私と机の上で文通してください」
ミカ達は面白がり、からかい半分でミカが返事を書いておいた。
ユカリ達にも報告しにきて、呆れるユカリ。
しばらくして行ってみると、返事が書いてあった。
ミカはそれにまた返し、するとまた返ってきて…という内に、段々相手のことが分かってきた。
その子は女の子、イニシャルはS・H。クラスや本名は恥ずかしいからヒミツ。
二年生で、おとなしくて本が好き。風立ちぬ、という小説を読んだばかり。
放課後はいつも図書室奥の机で本を読んでいる。そこの窓からの景色が好き。
体が弱くて、友達はあまりいない。流行にも鈍感で、歌や服にくわしくない。
彼女は流行に異常に疎くて、ミカが何気なく書くアーティストの話題などに全くついてこれない。
がんばるから流行のことを教えて、と書いてあったので、ミカはあらゆる最新情報やおしゃれのヒケツ等、自分の得意分野を伝授すべくはりきる。
いつの間にか文通は長く続き、友達が皆飽きてもミカはせっせと返事を書き続けた。
しばらくして、ミカがまたユカリ達に報告に来る。
「センパイ、アタシ怖くなってきちゃった。なんかあの子変なの。まるで、ずっと昔の人みたい…」
「だったら、文通、返事書くのやめときな」
「うん、でも…なぜか、やめられないの…」
- 233 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 00:59:56 ID:nflfIs/90
- チサトが嫌な噂を聞いて、ユカリに話す。
ミカの机上文通が、最近妙な雰囲気らしい。S・Hからの返事に、死ぬ、とか寂しい、とかいう言葉が目立ち始めたという。
ミカの事を心配する二人。
それをよそに、S・Hからの返事はエスカレートしていった。
ミカちゃん、ごめんね。私、もうお返事できないかもしれません。
私、もうすぐ死ぬから。
変なこと書いてごめんね。でも、これは決められていた事。私の運命。
おかあさんも、おねえちゃんももう死んでいます。
おねえちゃんは3年前、だから今度は私の番…。
小さい時からずっと覚悟をしてきたつもりだったけど、もうすぐ…と思うとやっぱり怖いです。
ミカちゃん…ひとりで死ぬのはさみしいよ…
ミカちゃん…もうそろそろ、さよならです。
でもその前に…会いたいよ、ミカちゃん…
今日、行きます。
行く前に一度だけ会ってください。
午後六時半、裏山の社で待ってます。
ミカが、消えた。文通の結末を見て、裏山に探しに来たユカリとチサトの目の前で。
ガケから宙に身を躍らせて、彼女は落下せずにそのままかき消えてしまった。
やはり、ミカが文通していた相手は、ただの人間ではなかったのだろう。
そして、多分S・Hはミカを道連れにしようとしている。
今なら間に合うかもしれない。二人はS・Hの情報を求めて、図書室に戻る。
彼女の少ない手がかり、好きな小説は風立ちぬ。図書室を探して風立ちぬを見つけ、古い先生に聞いてみる。
先生は、昔女生徒が寄贈してくれたものだと言う。寄贈者欄をみてみると、そこに名前が書いてあった。
「寄贈 昭和38年 姫神 桜」
ヒメガミ・サクラ。S・H。
新聞の縮刷版で、彼女が30年前に裏山のガケから転落して死んだ事を知る。
ついでに、ミカのように消える超常現象についての文献も調べる。
神隠しや民話の文献を漁っていると、自分達の住んでいる武蔵野の名前が出てくる。
武蔵野の民話を調べると、雛城の話が載っていたが、城の字が違う。昔は、雛代と書いていたようだ。
載っていたのは、お内裏川を上流へ辿った人が、皆消えてしまう話。あの川をさかのぼると、異界へ飛んでしまうのだ。という民話。
お内裏川を古い地図で調べると、そこは、この学校の裏のドブ川のことだった。
昔は、雛流しなどの風習がその川で行われていたらしいが、今はコンクリートで覆われ、地下を走る汚れた川になってしまっている。
半信半疑ながら、手がかりはこれだけ。二人は川に下りて、足場を上流へ歩いていく。
ミカがいる所に連れて行って と願いながら。
- 234 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:01:39 ID:nflfIs/90
- その頃、ミカは霧の深い森で、ヒメガミサクラと対峙していた。
やっと会えた事を喜び、色々な話をする二人。
川をさかのぼったユカリとチサトは、裏山の森の中に出る。
でも、きっとここは知っている裏山とは違う。裏山の、更に裏の、知らない世界。
「ミカちゃんを取り戻せる自信、ある?」
チサトがユカリに尋ねる。
「ヒメガミサクラさんの想い、すっごく強く感じる。ミカちゃん、取られちゃうかもしれないくらい…。」
ユカリは、正直自信は無いと答える。
「ヒメガミサクラから取り戻せる程、私がミカに執着してるかわからないよ。
新学期よりは気になるようになったけど、中学の時の友達みたいに、会わなくなったらすぐ忘れちゃうのかもしれない。」
二人は黒い森をひたすら彷徨うが、森はループを繰り返す。二人の行く手を阻むように。
一度引き返すと、お堂を見つけた。中には、ひたすら三味線を引き続ける法師がいた。
チサトが、法師に不思議なお願いをする。
友達を探しているんです。お願い、次の場所に行かせてください。あなたの守っているものに悪さはしません。
法師の弾く曲が変わり、チサトはお礼を言ってお堂を出る。ユカリも、訳が分からないが後に続く。
二人を迷わせていた森は姿を変え、進むべき道を示した。
誘うように飛ぶフクロウを追って、その道を駆け抜け、二人は異世界に辿りつく。
その頃、ヒメガミサクラが、ミカにおひなさまの話を始めていた。
お雛様とは、女の子が健やかに育つよう、その厄を全て背負って、流される為のもの。
言ってみれば、女の子達の幸せの為に捧げられる、イケニエ。
悲しい話題を嫌がるミカに、サクラは続ける。
「ミカちゃんは、前向きで、明るくて、生きる喜びに輝いてる。私達にはまぶしいの。
私達は、そんな輝きは持てない。いずれ流される、雛だから…。」
サクラちゃんも、おひなさまなの?と尋ねるミカに、サクラは
「ミカちゃんだってそうだよ。だから、ずっと一緒にここにいよう。」と言う。
「そうなんだ…。」思考を何かに侵されるように答えるミカ。
ミカはサクラに色々な事を話した。好きなブランド。中々いい新譜。メンバーズオンリーで感じのいいクラブ。
そして、話が友達の所へさしかかり、ユカリのことを思い出す。
ユカリが心配しているかも…と帰りたがるミカを、サクラは優しく押しとどめ、話の続きを促す。
- 235 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:04:35 ID:nflfIs/90
- ユカリとチサトは、ミカを探す途中、元の裏山にあったのとにそっくりな社を通りかかる。
中を調べてみると、奉納されたものの中に、ヒメガミサクラの日記を見つけた。
それを読んで、ヒメガミ家のお役目について知る。
ヒメガミ家の女の子は、お内裏川の災いを鎮める為、17になったら自らの命を絶たねばならなかった。
ヒメガミサクラも、姫神としてお内裏川に身を捧げた、イケニエだったのだ。
サクラの日記には、そうなるに至った歴史も綴られていた
ずっと昔、お金持ちの家の少女の病を治すために、ある少女がイケニエとして捧げられた。
彼女が庶子だったという理由だけで、村の人達は、泣いて謝る彼女をお内裏川に投げ入れた。
そして、彼女の死と引き換えに、病の癒えた少女は、幸福を手に入れた。
それに、どんな意味があるのかは、わからない…。
でも、彼女の生は、その少女の幸福よりも無意味だったのだろうか。
それだけの理由で、彼女は生きることが許されなかったのか…
イケニエとなった少女の悲しみは、お内裏川に渦巻き、村には災いがおとずれた。
少女の悲しみを癒す為、ヒメガミ家の少女達は、代々イケニエに捧げられ続けた。
少女達は、この裏山、形代山で死に、お内裏川に捧げられていた。
この山は、少女達の悲しみの連鎖が、深く沈み積もっている場所なのだ。
その風習が止んだ今も、少女達の嘆きが新しい少女を呼び寄せ、連鎖が続いていく。その一番新しい少女が、ミカ…。
はやくミカを取り戻さなければ…でもどこにいるのかが分からない。
焦るユカリ達は、社の窓から見える風景に違和感があるのに気付く。
この社の向こうは、湖だったはず。でも、窓からは、森が見える。
そして目をこらせば、そこにはミカともう一人の少女 ヒメガミサクラが立っていた。
ミカを必死で呼ぶユカリ、その声に気付くミカ。
また帰りたがるミカに、サクラが優しく語りかける。
「どうして?ミカちゃんが居るべき場所は、ここだよ。
あの人達、他にたくさんの光を持ってる。でもここの光は、ミカちゃんだけなの。」
「ミカちゃんに行って欲しくないって、皆言ってるよ…」
サクラの呟きに合わせて桜が吹き、ぼんやりとした少女達の輪郭がミカにも見え始める。
いかないで…ずっとここにいて… 少女達は口々に呼びかけてくる。
ユカリも、負けじとミカに呼びかける。チサトのアドバイスに従いながら、サクラの正体をミカに教える。
ミカは、信じない。
「ウソだよ!だって、サクラちゃん、こんなにやさしいのに!」
サクラは、何も言わない。
「サクラちゃんが死んでる訳ない!だってここにいるじゃない!
サクラちゃん、すっごくいい子なんだよ!話してても、今時の娘とは思えないくらい………いまどきの こ…?」
ハッとするミカ。サクラは、ただ ミカちゃん… とだけ言った。
- 236 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:06:55 ID:nflfIs/90
- ユカリが更に畳み掛ける。
「ミカ、あんたがそこにいることは、その子にとってとりあえず幸せなことかもしれない。
だけどそれは、根本的な解決にはならないんだよ
ヒメガミだって、それはわかってるんでしょ?
あんたのしてることは、あんたがそこにいる理由と同じことなんだよ?」
それでもミカは、反発する。
「それ以上ヒドイ事言わないで!センパイ嫉妬してるんだよ!私がちょっと他のコに浮気したからって!
サクラちゃん、ウソだよね?私しんじないからね!ねぇ、サクラちゃん!」
サクラは、何も答えない。
ユカリは、どちらを取るか、自分で決めな、と突き放す。
迷うミカに、サクラは、「もう、いいよ…」と呟いた。
「ごめんね、ミカちゃん。
私がこんな目にあって、私はこんなにさみしいのに、何も知らないミカちゃんがさみしくならない訳ないよね…
私、自分の事だけ考えて、ミカちゃんを同じ目に合わそうとしてた… 」
サクラはミカを解放する。。
ミカは、サクラちゃんも一緒に帰ろうよ!!と叫ぶ。
サクラは、最後まで優しくミカに語りかける。
「ミカちゃん、私達のこと、覚えていてくれる?
こんな友達がいたこと、忘れないでいてくれる?」
あたりまえだよ!と叫ぶミカに、サクラは、ありがとう…と答え、別れを告げる。
サクラの姿も他の少女達のようにぼんやりとかすれ始め、花びらのような光に包まれて消えていく。
姫神の少女達は、自らその連鎖を断ち切ることで、自分達も呪縛から解放されたのだった。
後日。3人は元通りの日々を過ごしていた。
ミカはさすがに数日間おとなしかったが、チサトによれば、また探検のネタを仕入れた!とはしゃぎだしたらしい。
その回復力にあきれるユカリの元に、ミカが駆けつける。
「アタシらまだ若い!いつまでも過去のことにとらわれてちゃドントクライ!!」
ユカリ達を追って、ミカも歩き出そうとしたが、風の音に乗ってサクラの声が聞こえた気がして、振り返る。
少しの間立ち止まっていたが、すぐにまたユカリの方へ駆け出した。
サクラの声が響く。
「さよなら、ミカちゃん…」
- 237 :ゲーム好き名無しさん:2008/03/16(日) 01:10:31 ID:nflfIs/90
- 続けていきます。
この話は、やっててかなり暗くなります。
怖いのは幽霊そのものじゃない、ていうのもトワイライトの味わい深いところですね。
- 238 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:13:35 ID:nflfIs/90
- 第六の噂『夕闇の少年』
ユカリはカズヤと喫茶店デートをしていた。
だが、フジタと奥野の騒ぎで、教師の卵として悩むカズヤは、二人の事を考えてユカリと距離を置こうとする。
強がって、気遣いのない傲慢な態度を取り、ユカリはカズヤを傷つけてしまう。
しばらく会うのはよそう、と言われて、
「ねぇ、これでおわりじゃないよね…?」と呟くユカリ。
また一人、雛城高校の生徒が自殺した。
1-CのK・T君。遺書はなかったが、T君がいじめられていたのは周知の事実だった。
ウワサは女子の間に素早く伝播する。
いじめの主犯格は、T君の所属していたバスケ部の男子だったこと。
何をされても愛想笑いをするT君は、女子にも気持ち悪がられてシカトされていたこと。
T君は、部屋でビニール袋をかぶって自殺したこと。
体育器具庫には、T君の霊が出ること。夕方、隅でうずくまっている男の子に話しかけたら、T君だったとか…。
もちろん、ウワサの達人であるミカも、その情報をつかんでいた。
いつものように、見に行こうと提案するミカ。
ユカリは機嫌が悪く、シビアな意見を吐く。しかし、めずらしくチサトが行こうと言い出す。
このままにしておいちゃいけないような気がするの…とうつむくチサトに負け、夕方体育器具庫に行くことに。
体育館履きにはきかえる時に、T君の靴箱を覗いてみると、体育館履きが片方なかった。
部活動が制限されていて、体育館は静か。
器具庫に入って、しばらく待ってみたが、何も起こらない。帰ろうとすると、チサトが反応する。
狭い窓から差し込む夕日が、床に小さな赤い陽だまりを作っている。その中に、T君はいた。
話しかけてみたが、T君は反応せずに消えてしまった。
- 239 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:16:41 ID:nflfIs/90
- チサトが、やけにこの件を気にかけていて、3人はT君ことタタラキミヒコの情報を集めることにする。
クラスメイト達は皆口が硬く、責任をなすりつけあっていたが、いじめの主犯格だったのはクラスも部活も一緒のサエキとクロダだったとわかる。
最初の頃は仲がよかったのに、いつの間にかタタラ君は殴られたりミツがされたり。
他に居場所がなかったのか、それでもタタラ君はバスケ部男子達といつも一緒にいたらしい。
サエキに話をしにいくが、サエキはチョイ不良で顔もよく頭の回転も速いスポーツマン、という感じで一筋縄ではいかない。
こちらをバカにしきった態度で、いじめについてものらりくらりとかわされる。
霊のウワサを持ち出すと、「センパイ、頭、大丈夫?」と嘲い、
「そういうの詮索するのって趣味ワルいよ。センパイ達、彼氏いる?」痛い所を突かれて、ユカリは逆上し、チサトを連れて去る。
ミカもサエキも、異性に人気があり、1年生ではヒエラルキーのトップに属している。
「岸井もさー、もっとつきあうニンゲン選んだら?」
「よけいなお世話」
「あ、そ。俺のベル番、知ってるよな?今度連絡して。」
「気が向いたら。じゃーね~。」
ユカリは手を引こうと言うが、チサトはタタラ君の気持ちを知りたいと譲らない。
もう一度夕方に器具庫に行く。同学年のミカの呼びかけにだけ、タタラ君は反応して姿を現した。
タタラ君は、何かを探しているらしい。でもその何かがわからないという。よく見ると、タタラ君は体育館履きを片方しかはいてなかった。
サエキ君たちに何かされたの?と尋ねると
「ううん、ボク、うまくやってるよ。」と答える。
ほんとに?いじめられていないの?ともう一度聞くと
「う、うまくやってるよ…ボクうまくやってるんだ。うまくやってるんだあぁぁっぁぁ!!」
T君は急に激昂して消えてしまった。
ユカリとチサトは、珍しく仲違いする。
もう関わりたくない、何故自殺した奴に執着するの!?と言うユカリと、
彼の言いたいことを理解したい。私達にも責任のあることなんだから…と言うチサト。
明けて翌日、体育館で事故が発生した。
いじめの共犯だった、バスケ部のクロダが、落ちてきたライトの破片で負傷。入院することになった。
体育館は改装したばかりでライトも新しい。事故であるはずがない…。
チサトが食い下がり、ミカの人気を利用して、クロダのお見舞いにいくことに。
クロダはやや地位の低いDQNといった感じで、サエキより御しやすいが、タタラ君の話題になると似たようなもの。
逆に、タタラとは仲間だったと主張する。タタラの家に遊びに行って、タタラ母に感謝されたこともあるとか。
チサトが、タタラ君の家に行って、サエキ君達とタタラ君の本当の関係を知りたいと言い出す。
ユカリが非常識だと怒り、勝手にすれば!?と言うと、チサトはすっと脇を抜けて、本当に行ってしまった。
ミカもそれを追い、ユカリは一人家へ帰る。
- 240 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:23:26 ID:nflfIs/90
- チサトとミカは、タタラ母に話を聞く。
タタラ母は、サエキとクロダの事を、内気な息子に出来たはじめての友達だと話した。
そのサエキ君とクロダ君が、いじめのリーダーだったんです…と伝えるチサト。
タタラ母は、息子は二人の事を本当にうれしそうに話していた、信じられない と言う。
チサトはもう一度、器具庫に行きたがる。このままじゃ、タタラ君はずっとあそこに縛られ続けてしまう…と心を痛めるチサト。
でも、ユカリは来ないだろう…。そんなチサトに、ミカが明るく言う。
「だーいじょうぶ!長谷川センパイなんかいたって役に立たないんですから!」
「?」
「この私がいれば十分!ね?一緒にいきましょ!」
やはり、ユカリは器具庫行きを辛辣に断った。
道すがら、最近やけにユカリがヒステリックだとこぼすミカに、チサトが答える。
「ユカリちゃんね、本当は全然怒ってなんかいないんだよ。
あんな風にいうのは、そうじゃなきゃ耐えられなくなるくらい辛いことが、他にあったからだと思う。昔からそうだから…」
器具庫に着いて、T君に問いかける。事故を起こした事や、サエキ達とのこと。
タタラ君は、わからない うまくやってる の一点張り。
消えそうなタタラ君に手をのばしたチサトに、タタラ君の記憶が流れ込んできた。
- 241 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:25:34 ID:nflfIs/90
- この器具庫で、あったこと。
サエキ、クロダ、カワイのバスケ部男子グループ。資金調達係という名目で、お金をみつがされていたこと。
お金を工面できなくなって、コンパを一つおじゃんにして、集合場所のここで謝ったこと。
ニヤニヤと笑いながら蔑まれて、殴られたこと。飛んでくるボールやパイプ、キック、からかいの言葉。
殴られる合間、カワイが聞いてきた。
「タタラ君さぁ、今流行りのいじめにあってるとか思ってない?」
「えっ?思ってない…思ってないよ ボクがしくったんだよ」
「死にたいとか思ってるか?」
「ううん、思ってないよ…」
「……あのさぁ、ちっとは思えよ、タコッ!ボクチンがせっかく苦労して捕まえてきたんだぜ、清陵のコ。
約束も守れねぇヤツがノーノーと呼吸してんじゃねぇよ!」
重い打撃音が響く。ヒーヒーという呼吸音と、謝る声。
「ズイマセン、スイマセン、スイマセン…」
顔を殴るな、と指示するサエキ。体を狙って、途切れることなく続く攻撃。
「さーさー、罰ゲームの時間でーす。さっさと靴ぬげよ」
「なんか最近こいつなれなれしくない?調子のりやがって」
「いいんじゃん?友達ぽくて。ナカマだろ。」
「でもさサエキ、ちょっとヤバくない?50万って…」
「あれ?クロダ、もしかして裏切り2号くん?俺は期待してるぜ、調達係。お仕事取っちゃカワイソウだろ」
「そうそう、それしか存在理由ねーんだからよ。仲間だってよ、ケッ」
「最後に本音言うクセ治せよ、カワイ。」
「ぜってぇ50万持って来いよ」
「な?仲間って結構たのしいだろ?タタラ。」
失神したのは、タタラだったのか、チサトだったのか。
追体験の負荷に耐え切れず、チサトは倒れてしまう。
そのまま、チサトは体調を崩して、寝込んでしまった。
それでもチサトは言う。
私、行かなきゃ…。タタラ君はね、どうしてあそこにいるのか自分でもわかっていない。
痛みに目をつぶっているうちに、どこが痛いのかわかんなくなっちゃったの…。
「タタラ君は、孤独だった。仲間だって言ってくれる人が必要だったの。
だから、サエキ君たちを最後まで信じてた。でもその気持ち、サエキ君たちは利用して…」
- 242 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/16(日) 01:28:14 ID:nflfIs/90
- 親友が倒れ、ユカリがとうとう本気になった。
ガキの分際で!鼻っ柱ヘシ折ってやる!ということで、サエキと一騎打ちするユカリ。
「タタラはまだアンタの事まってるよ。
ひどいことされたのに、見えないフリして、自分をだまして、一度は逃げ出したくせに、未だに未練たらしくうじうじとアンタらを待ってる。
利用されてたことくらい、とっくに気付いてるのに、それを認めるのが怖くて!
こいつも確かにサイテーだけど、アンタらはその上いくね!」
それでもシラを切るサエキ。いじめた側も、いじめられた側も、しらんぷり。現実を見たくない。
いじめて相手を殺してしまったこと、いじめられて死んでしまったこと。その現実を怖くて認められない。
強がるのはもうやめな、みじめになるのはアンタだよ。そう言ってユカリは立ち去る。
3人で、また器具庫へ行く。今度はチサトとタタラの一騎打ち。
チサトは、タタラ君に現実を受け入れさせようと長い説得を続ける。
「ねぇ、認めて!悔しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと、見ないフリしないで!その憎しみも全部、自分のものだって認めて!
そうしなきゃ、ずっとここにいなきゃいけなくなるんだよ!」
「やめろ!やめろぉ!」
「ううん、やめない!私に教えて!考えてること、考えてたこと、感じたこと、言いたかったこと全部…聞いてるから、私ここにいるから!」
ぽつり、ぽつりとタタラ君は話し始め、最後は泣きながら、怒りながら、叫ぶようにサエキ達の事をなじった。
ちくしょう、ちくしょうと繰り返しながら、タタラ君は消えてしまった。
3人は、学校中探して、タタラ君の体育館履きを見つけた。ボロボロになって、焼却炉脇に捨てられていた。
チサトは、それを拾い上げて、タタラ君の靴箱にそっと収めた。
「さようなら…。」
その後、タタラキミヒコの父親が、学校を相手に訴訟を起こし、ワイドショーが事を大きくしていった。
学校がいじめの調査に乗り出した所、サエキとクロダが自ら名乗り出た為、大人たちは肩透かしをくらったような形になったらしい。
今は二人とも、保護観察つきで学校生活を送っている。
ウワサも止み、学校に、またケダルい静けさが戻ってきた…。
タタラキミヒコは静かに眠れたのだろうか。ユカリ達はそうであってほしいと願っている。それが、せめてもの…。
- 246 :ゲーム好き名無しさん:2008/03/16(日) 21:22:14 ID:Z+5Vxcxs0
- あれ。
いじめっこ組のカワイっていうのは無罪放免?
- 247 :ゲーム好き名無しさん:2008/03/16(日) 21:56:27 ID:nflfIs/90
- カワイが一番タチ悪くて、とうてい反省する奴じゃなかったっぽい。
多分、サエキ達が自首したのをこれ幸いに、全部なすりつけたんでしょう。
- 293 :ゲーム好き名無しさん:2008/03/19(水) 11:21:24 ID:j6YIRhcQ0
- 議論中ですが、トワイライト失礼。
この話は電話に出続けるだけで解決するのでとても楽です。
- 294 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/19(水) 11:22:58 ID:j6YIRhcQ0
- 第七の噂『テレホンコール』
真夜中の12時ちょうど、ユカリは自室で電話を取った。
「はい、長谷川ですけど。」
「あのね……あのね……あのね……あのね……あのね……あのね……」
一定間隔で、少女の声が繰り返される。
イタズラ電話だと思って、ユカリは受話器を置いた。
翌日、ミカとチサトにその事を話す。
すると、ミカが都市伝説を持ち出してきた。
「12時ジャストの電話は、死者からの電話だから、取ってはいけない
取ってしまったら、絶対自分から切ってはいけない。切ってしまったら…それは死者からの申し出を受けたことになる。」
チサトも、同じことを聞いたことがあると言う。
チサトは、気になるから調べてみると言ってくれたが、ユカリはただのイタ電だと思っていた。
夕方、ユカリが部屋に居ると、ステレオや時計が壊れてしまった。
タイマーも表示も、何故か0:00で止まっている。
時報を聞いてみると、6時15分だったので、それに合わせておく。
何度か電話がかかってくるが、間違い電話や宅急便等、普通の電話ばかりだった。
チサトから電話がかかってきて、調べた結果を教えてくれる。
やはり、死者からの連絡は昔からよく言われていることらしい。
大抵はこちらに好意的で、だが愛着が強い分、連れに来てしまうこともあるとか。
やはり切るのはよくない。亡くなった人は一つの想いにとらわれがちだから、いったん悪意に変わると…
もう少し調べてみるから、また連絡する、と言ってチサトは電話を切る。
また、時計が狂って、0:00になっている。
時報を聞いてみると、今度は時報も0;00を告げた。そんな訳ないのに…。
電話が、何度かかかってくる。
段々と、おかしい電話ばかりになっていく。無言電話、誰かの笑い声、など。
チサトから、電話の意味がわかった!とかかってくる。
その死者は、ユカリにどうしても言いたかったことや、守れなかった約束などがあるらしい。
それをユカリが思い出してあげないと、その人はあちら側に行けないそうだ。
そして、思い出せないでいるとあちら側に連れて行かれるらしい。
今、ほんとの時間は11:30。あと30分で、それを見つけなければいけない。
- 295 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/03/19(水) 11:25:16 ID:j6YIRhcQ0
- 誰か古い知人が死んだのか、と昔のアルバムをめくってみるが、
この頃はよかったな…普通に毎日幸せで…という発見しかなかった。
思い出を探ってみるが
チサトと出会ったこと
昔つきあってたやつ
とうさんとかあさんが別れたこと…
そのどこにも心当たりはなかった。
その時、出かけている母から電話がかかってきた。
川越の親戚のサチコちゃん、ユカリの一つ上で、昔はよく一緒に遊んだ…病弱でずっと入院していた彼女が、昨日亡くなったらしい。
サチコ…さっちゃん…。ユカリの記憶が蘇る。
「すごーい!さっちゃん上手!」
「ずっとベッドに寝てるから、いつのまにかうまくなっちゃったの。」
「いいなぁ、これかわいいな。」
「今度もう一つつくっておくから、ゆかりちゃんにあげるね。」
「わぁ!ありがとう、約束ね!」
そして、またかかってきた電話に出ると
少女の声で あのね が繰り返され始めた。それを遮るように、問いかける。
「さっちゃん…?さっちゃんだよね?…どうしたの?」
「ゆかりちゃん……あのね、私…死んじゃった。」
約束、守れない……と呟くさっちゃん。
「いいよ…もういいよ、さっちゃん。」
「ごめんね…私、行かなきゃ。ばいばい、ゆかりちゃん…」
「うん…うん…ばいばい、…さっちゃん…」
ブツ と音を立てて、それきり電話は切れた。
-
- 第八の噂『錆びた穽』
ユカリ達3人は、ミカの発案でカラオケBOXにやってきた。
ミカは最新のポップスを、ユカリはお気に入りのロックを歌う。
ミカが歌ってる間に、チサトがそっとユカリを慰める。
教育実習が終わってしまったこと。それと同時に終わってしまったもの。
チサトはカズヤとの事に気付いていたらしい。ユカリは、「気にしないで、アレ、もう終わったことだから」と返す。
チサトにも何か歌わせようとするが、チサトは人生初カラオケで恥ずかしがる。
無理に歌わせたら、選曲は演歌。はいっちゃって、回る回るコブシ。
その間に、ユカリとミカは本題に入る。
カラオケは前菜で、今日も探検の計画があった。
全く工事をしている気配の工事現場。駅前の一等地に関わらず、ずっと放置されているのは何故か?
人骨が大量に出てきたからだとか、埋蔵金が見つかったとか、色々噂がたっているので、それを検証しにいくことになる。
カラオケを切り上げて、工事現場に向かおうとすると、チサトが渋る。
「あんたまだ歌うの?」
「もしかして、気に入っちゃった?」
「えへへ…」
時間まで歌ってから追いかける、というチサトを置いて、ユカリとミカは問題の場所へ。
「しかし、逸島センパイ、あんなハマるとは…」
「あんたのせいでしょ。悪いことばっか教えて…」
「メンエキがないってのは、こわいですね~」
工事現場に潜入したら、中は掘り返したまんま放置されていた。
一番下まで降りてみると、そこには謎のハッチが。
開けてみると、中には深い穴が続いている。これが出てきたから、工事はストップしたのか?
目印にゲーセンで取ったぬいぐるみを吊り下げて、二人は降りていった。
中は、トンネルに作られた基地のようになっていた。
錆びた配管が通り、各所にドアがある。戦時中のようなスローガンが貼ってあって、マニアックな雰囲気。
発電機が稼動していて、人の気配もある。どこかの戦争マニアの趣味なのだろうか?
探索中、兵隊の格好をした人を見つける。水を取ってきてくれと頼まれて、井戸で水をくんで渡す。
ある部屋に入ると、そこは手術室のような場所だった。消毒薬の臭いと、嫌な感じがする。
そこを出ようとすると、ゲートルを巻いた老人に捕まった。
何故疎開していない?とにかく大丈夫だ、この地下壕までは爆撃は届かん、と言う老人。
匿ってやる と老人に連れられて、貴賓室へ通される二人。
本来ここは民間人が入れるような所ではないが、非常時だからな とのこと。
「ワシもずいぶん長いことこの壕に潜っている気がする。最初の大空襲の頃からだが…」
老人は、地上の戦況を訊いてくる。
どうやら、頭のイっちゃった軍事マニアの大富豪だろう、と見当をつける二人。
ここではある軍事機密である作戦が行われているらしい。
この作戦が成功すれば、米兵など怖るるに足らず。日本を必ずや勝利に導くと請け負う老人。
老人はいい人で、上には内緒で二人を匿ってくれるらしい。
妹から来た手紙を嬉しそうに話す。妹は広島に疎開して、農業を始め、胡瓜が取れたと手紙を送ってきたそうな。
調子を合わせておいて、老人が去った後逃げ出す二人。
だが、途中にある扉が開けられず、出口に戻れない。足音が聞こえて、近くの部屋に逃げ込む。
カーテンので隠れていると、老人が入ってきた。誰かに何かを報告している。
準備は整いました!あとは、満月を待つばかりであります!と謎の報告をする老人。
すると、誰も居ないはずなのに声が返ってくる。
金剛が完成すれば戦争が終わる と嬉しそうに話をする二人。老人は相手を少佐と呼ぶ。
老人が去った後、部屋を見回してみたが、やはり誰も居ない。
ただ、禍々しい感じの軍人の肖像画が壁にかかっていた。
その後、ユカリとミカは金剛区画と書かれた場所に迷い込む。
すると、老人に見つかってしまった。この場所はズバリ機密そのものらしく、二人は薬を嗅がされて眠らされる。
貴賓室へ戻されて、今度は鍵をかけられてしまった。機密に触れたからには、外に出す訳にいかないそうだ。
どの道、地上に出れば死ぬだけだから、日本が勝つまでの辛抱だ。
もうすぐ作戦が成功して戦争は終わるから、大人しくしていてくれ、とすまなそうに言う老人。
その頃、歌いつくして満足したチサトは、延滞料金を払って店を出た。
工事現場に着き、目印を見つけて、壕へ降りていく。
チサトは、ここが非常に危険な場所だと察知する。遊びで来ていいところではない。
二人を連れ戻そうとして彷徨うチサトに、出会った兵隊が鍵束をくれた。水のお礼だ、と二人が監禁されている場所も教えてくれる。
一方ユカリとミカは、次に老人が来たら倒して逃げようと待ちかまえていた。
足音が近づいてきて、ユカリは必殺技の構えを取る。
ユカリの快心の一撃は、扉を開けたチサトにクリティカルヒット。
しゃがみこんでしまったチサトに慌てて謝る二人。
3人で逃げ出そうと歩いていると、少佐の部屋から話し声がする。
盗み聞きしてみると、どうやらユカリ達の話をしているようだ。
悲願の最終兵器、金剛鉄兵。あとは少佐が満月の晩に儀式を行えば完成する。
その非常時に民間人を入れた事に激怒し、即刻始末するように命令する少佐。
必死でユカリ達をかばい、あの部屋から一歩も外に出しませんとねばる老人。
部屋に突入すると、やはりそこには老人しかいなかった。
「お前達…本当に敵国のスパイだったのか…騙しおって!」老人は銃を構えて追ってくる。
逃げているうちに、金剛区画を抜けて、今までと様子の違う部屋に辿り着いた。
そこは不退転の間。ろうそくの灯る、呪術的で妖しい部屋だった。
カーテンの陰に安置された柩のようなものを覗くと、そこには歪で大きなヒトのような何かが横たわっていた。
禍々しく、目を背けたくなるような、生きている何か。これが恐らく、兵士達を素体とした生体兵器、金剛鉄兵。
老人が追いついてきて、銃を構える。とうとう金剛まで見てしまったか…生かしてはおけないと。
3人は、必死で説得する。ユカリが叫ぶ。
「戦争は終わったのに…!」
老人の中にも、ユカリ達と会った事でかすかに迷いが生じていたらしい。戦争は、もしかしたら終わっているのではないか?と。
ユカリの一言で、老人は揺らぎ始める。
そこで、更に説得を続ける。
もう、ずっと昔に戦争は終わったんです。日本は負けたの!ヒロシマとナガサキに原爆を落とされて…
原爆!?新型爆弾が使用されたのか?ヒロシマ…まさか、広島には妹が!
信じまいと苦しむ老人に、ユカリがつぶやく。
「戦争は、終わったんです…。」
その時、金剛鉄兵が動き始めた。
「まだ動いちゃいかん!そんな体で動いては…!」
金剛鉄兵は、ユカリ達を敵だと認識したのだろうか。戦争が終わったという事を否定する為に立ち上がったのか。
お前達は逃げなさい、と老人は言う。
一緒に逃げようというと、老人は遣り残したことがあると言う。
3人は教えられた道を逃げ、水路に飛び込んだ。そのまま流され、地上に出ることが出来た。
外に出ると、夜が明ける頃。あの工事現場の方を見ると、噴出すように爆煙が上がった。
老人の遣り残した事は、機密の爆破だったのか…。
チサトが呟く。
「50年も、一人で戦争をしていたんだね…。」
その爆発を、ミカが写真に収めた。
後日写真を見ると、立ち上る煙に絡んで、無数の光の筋が空に向かっていくのが写っていた。
あの暗い穴に閉じ込められいた魂達は、きっと開放されたのだろう。
- 193 :ゲーム好き名無しさん:2008/08/02(土) 16:51:48 ID:nl5Npas90
- トワイライトシンドローム第九話投下します。
ユカリがツンデレからヤンデレに進化しかけました。
- 194 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 16:52:32 ID:nl5Npas90
- 第九の噂『オカルトミステリーツアー』
夕暮れの街角に、ひっそりと辻占が佇んでいる。ユカリはなんとなくその前で足を止めた。
占ってもらうと、
・ユカリは激しい変化の中にいて、行く先がわからず悩んでいること。
・大事な人を失ったこと
・今まで自分を信じてやってこれたのに、はじてめての心細さを感じている事
を言い当てられ、更に、貴方にはこの世の外に力が加わっているみたい と言われる。
そして、貴方の心の奥深くに小さな女の子が隠れている、と言われ、占い師の催眠を助けに、目を閉じて自分の心に意識を集中する。
ユカリの頭に、幼い少女の笑い声が聞こえた。あの日、最初の冒険で出会った少女の声だった。
「あなたはこの子にもう一度出会うでしょう。それによってあなたの運命は大きく変わっていく…」
あなたは、近いうちに大きな選択を迫られる事になるでしょう。
占い師の声が途絶え、目を開けると、そこには誰もいなかった。
学校でミカが、一番最初の冒険の話を持ち出してきた。
旧校舎に出る、おかっぱの少女の霊。その子を呼び出すと、願い事が叶うという噂。
最初の冒険は失敗して、追い掛け回されて命からがら逃げただけに終わった。
「あれは呼び出し方が悪かったんです!今度のはもうバッチリ!」
チサトは嫌がるが、結局、その噂にリベンジ挑戦することになった。
夜の学校に忍び込むが、いつもと勝手が違う。
もうカズヤはいないから、ユカリは鍵束を借りる事はできない。行けない所が多く、逃走毛色にも制限有。
今回の呼び出し方は前回より手が込んでいる。学校の鬼門となる美術室で、わらべ唄を歌うと言うもの。
「庄屋のおじょうさん 小紋の小袖
髪あげ前の おかっぱあんで
橋のむこうの オケ屋のせがれ
かんざし買って 石段のぼって
おいなりさんに あぶらげあげて
グルグルまわる 三回まわる
願掛けそうろう 豆食ってそうろう
門松市松 かがんでくぐって
関のお山の守り人さん
愛しいあの子と結んでくりゃさんせ」
歌ってみたけど、特に変化はない。女の子の霊が出たか、旧校舎まで確認しにいくことに。
旧校舎の一室に、明かりが灯っているのが見える。蛍光灯ではない。明かりは、床のほうから灯っているのだから…。
その教室は、旧校舎の鬼門、一番北東の教室。
そこまで行ってみることになるが、教室に近づくと、明らかに異変が起こっているのが分かる。気温がとても低い。
扉を開けると、そこには青白い光が浮かんでいた。
チサトはその光を怖がり、あの女の子とは何も関係ないとても悪いモノだと言う。
3人はひとまずその場を逃げ出す。
- 195 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 16:57:20 ID:nl5Npas90
- 校舎の中には、霊が沢山出現している。あの光の中から出てきたようだ。
自分達は、大変なことをしてしまったらしい。
校舎を逃げ惑う内に、ユカリは二人とはぐれてしまった。
生物室を覗くと、ぼんやり霞む少女の後姿が目に入った。
彼女はすすり泣き、ブツブツと自分を振った男への未練を口にしていた。手首からは血が流れている。
直感的に、フジタマユミだと思うユカリ。あの時、彼女は成仏できなかったのだろうか。
「…違う!フジタマユミは…」首を吊って死んだんだ。
少女は、別れた男への恨み言を口にし続ける。
「あんな一方的に言うなんて、ひどすぎるよ…
そう思ったらくやしくなっちゃって…ゆるせない
…ゆるせない!ゆるせない!!ゆるせない!!!」
「違う!違う!私は…」
ユカリがたまらず叫ぶ。
「私はそんな風に死んだりしないよ!!」
「…カズヤ…」
言いながら振り向いた少女の顔は、ユカリと同じだった。
気がつくと、ユカリはチサト達に介抱されていた。生物室に倒れていたらしい。
合流し、自分達が召喚してしまった何かを封じる方法を探す。
生物室に、いつもの鍵束がぽつんと置いてあった。生物の先生がしまい忘れたのだろうか?
有難く拝借する。通行制限解除。
- 196 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:00:39 ID:nl5Npas90
- 校舎内の怪奇現象はますますひどくなっていく。自分達が召喚したのは、霊たちが出てくる出口だったようだ。
霊たちは口々に苦痛の声を上げている。
苦しい 開けてくれ 出口を開けてくれ ここから出たい 帰りたい
自分達が開けてしまった扉は一方通行で、押し出された魂達が行くことも帰ることも出来ず苦しんでいるのだろうか。
わらべ唄しか自分達には材料が無いので、歌詞をよく見直してみる。
この唄は、おかっぱの女の子を呼ぶ唄としてはおかしい。
オケ屋のせがれが、庄屋の娘に会うために、橋を渡してくれと お稲荷さんと守り人に頼んでいる。
オケ屋のせがれとは何の象徴なのか?何故自分で川を渡れないのか?これは、死者を此岸に渡すための歌なのだ。
どの道、手札はこの唄しかない。この唄を、然るべき場所で歌えば、霊の帰る道が出来るんじゃないだろうか?
その場所はどこなのか、歌詞とにらめっこしながら考える。
関のお山って関所のこと?人の出入りを司る所と言ったら、玄関のことだろうか。
そこで、チサトが閃いた。
「玄関だよ、ユカリちゃん…あの人たち、霊の世界に帰りたがってたんじゃないんだよ…」
霊たちは、もう一度生者の世界に帰りたいと呻いていたのだ。
霊たちが目指していたのは、この学校からの出口だ。そこを封じないといけない。
3人は、一か八か玄関でもう一度わらべ唄を歌った。
校舎内の霊魂達が、開いた出口に飛び込んでいった。霊たちを飲み込んだ出口は校舎中を発光させて、消えてしまった。
最後にチサトの視点での後日談が入る。
死者と私達の境は何なのか… いつかは必ず、自分達も彼らの仲間入りをするというのに、私達は彼らを恐れ、拒絶する。
私達が開いた扉から見えた、生者の世界の眩い光。それが彼らにどんなに渇望を抱かせたか。チサトはその事に罪悪感を覚える。
そして、あれ以来、ユカリの様子がおかしくなった。はぐれていた間、ユカリが死者達からなにを見せられたのか…
チサトは今日も心配し続けている。私達は死者に近づきすぎたのかもしれない…。
「この穏やかな生者の世界で、私達はいつまで生という夢にまどろみ続けていられるのでしょうか…。」
- 197 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:09:02 ID:nl5Npas90
- 続けて最終話です。
あの街の名前は「夕闇ヶ丘」じゃないでしょうか。第3話的な意味で。
- 198 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:10:55 ID:nl5Npas90
- 第十の噂 「裏側の街」
ユカリは夢を見た。夕焼の中、小さな女の子が滑り台を何度も滑り続けていた。
珍しく寝坊して、母親に起こされ、お隣りのチーちゃんー幼稚園の可愛い女の子が昨日行方不明になったと聞かされた。
チーちゃんがいなくなったのも公園だったらしい。あの夢は予知夢だったのだろうか…。
夏休みに入ったが、その日は登校日。ミカとチサトにその夢のことを話すと、その公園に行ってみようという事になった。
すべり台を、女の子の真似をして何度も滑ってみる。
同じ所をぐるぐる回ると別世界に迷い込む、という民間伝承もあることだし…。
当たりは夕闇。トワイライト。死者に近づきすぎた3人が、女の子の消えた公園で、ぐるぐるとすべり台を滑る。
3回目を滑り終わった時、雷が鳴った。夕立がくるのかもしれない。
急いで公園を出ると、そこは 自分達が知っている街ではなかった。
ここは駅にどちら側?PARCOはどこにいってしまったんだろう。町並みは妙に古く、紙芝居屋なども出ている。
街に立つ人たちに話しかけると、皆どこかおかしい。自分の名前を言えなかったり、何処から来たか覚えてなかったりする。
その内にチサトが、胸騒ぎがすると言い出した。
「ねぇ、今日何日か覚えてる?8月なのまでは覚えてる。でも何日なのかが…」
「何言ってんですか?今日は登校日だから……あれ?」
今日が何日なのか、誰も思い出せなかった。
広場に出ると、皆街頭テレビに夢中になっていた。
老紳士が説明してくれた。あのテレビに映るのは人々それぞれの記憶。
みなそれを慈しみ、ここで別れを告げるのだという。訳が分からない内に、どこかの路地に紛れ込んでしまった。
夕陽が心地よく、自分が暖かさの中に溶け出していくような気持ちになる。その気持ちと戦いながら、先を急ぐが、路地裏がループして出られない。
その内に、3人はクラスメイトの顔が一人も思い出せないことに気付く。
路地で夕涼みをしているおばあさんに、この街について訪ねると、おばあさんはここを「お彼岸の町」だと言う。
橋を渡れない悲しいホトケさん達は、この町で夕日にゆっくり溶かされて、全てを忘れて彼岸へ旅立つのだと。
おばあさんは、ここでおじいさんを待ってるらしい。もう、おじいさんの顔は思い出せないけど…。
- 199 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:14:10 ID:nl5Npas90
- 「でも私達、生きてるんです…迷子になっただけなのに…」
おばあさんは、この町を出るには橋が一本かかっているだけだという。彼岸に渡る為の橋。
3人は、この町から出るために、他の方法を探す。
ループを抜けて、教会にたどりつく。
神父に相談する内に、自分達のことを少し思い出す。
そして、神父は、3人が死者に近づきすぎたことや、ユカリが生きる事に対する迷いや苦痛を感じていたことを見抜く。
死に近い者は、死者の世界に迷い込んでしまう事があるらしい。ユカリの迷いが二人を巻き込んでしまった。
3人は町に戻る。ユカリは、自分が2人を死へ誘い込んでる事に責任を感じる。
自分の、迷いに対する答えを探さなければならない。
でももう、その迷い自体も、記憶もほとんど失われてしまった。家族のことも思い出せない。
ユカリは、チサトと昔好きだったコックさんの絵描き唄の話をする。どんな唄か忘れちゃったけど、楽しかったね。
童心に返り、色々な話をしながら土手を歩いた
その内に、3人は橋へと辿り着いてしまった。
夕焼けがとってもきれい。あっち側で見たらもっときれいだよね。
もう橋を渡ってはいけないことも思い出せず、ユカリは橋へ向かって歩き出す。
ミカとチサトは、本能的に橋を渡る事にためらいを感じて立ち止まる。
「ユカリちゃん戻って!」
「センパイ!その先はダメです!」
二人の制止を聞かず、ユカリは橋を夕日に向かって歩いていってしまった。
ミカとチサトは、ユカリにひきずられてここに迷い込んだだけ。ユカリがいなくなり、二人は夢から醒めるように元の世界へ戻っていた。
二人は、ユカリが戻ってくると信じて、ユカリと近い場所を探そうと走り出す。
- 200 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:17:11 ID:nl5Npas90
- ユカリは、夕焼けの中をいい気持ちで歩いていた。
見覚えのある道を登ると、そこは雛城高校。確かにここを知っている気がした。
夕日に満ちた世界で、小さな女の子が砂にコックさんの絵を描いている。会ったことがある気がする。
その子を追いかけて、ユカリは校舎の中へ入っていく。
校舎を歩く内に、段々ユカリは記憶を取り戻していく。
ミカとチサトとはじめて探検した時、ここから入った…カズヤに借りた鍵で…。
カズヤとの最後のデート、喫茶店で、カズヤを傷つけてしまったあの時のことが再生される。
虚勢を張って、傲慢に振舞っている自分を見ながら、ユカリは後悔する。
違うよ、こんなの全部嘘だったんだよ。私だってカズヤと一緒にいたいだけだよ…
廊下の先に、小さな女の子が立っていた。ユカリは、チーちゃんの事をなんとなく思い出した。
「あなたはチーちゃん?私、お隣のユカリ。一緒に帰ろう。」
逃げる少女を追ううちに、また記憶が蘇ってくる
父さんに、離婚のことを切り出された時の記憶が再生される。
強がって、何でもないことのように振舞った自分を見ながら、ユカリは苦しむ。
その先は聞きたくないよ。本当は嫌だよ。父さんと母さんが別れるなんて、私絶対認めないよ…
強い子だと言う父さんの声にユカリは心の中で叫ぶ。
強くなんかない!私は全然強くなんかないよ!やだ…行かないで、父さん…
カズヤと雨の中出会った事。ずぶぬれのまま自転車のチェーンを直していた自分に、カズヤが傘を差しかけてくれた。
カズヤが見てくれたけど、結局直らなかった。父さんからもらった大切な自転車だったけど、もう寿命だった。
結局二人ずぶぬれになって、自転車を押しながら相合傘で歩いた
チサトと出会ったのも、夕焼の中だった。雛城に引っ越してきて最初にできた友達。大切な親友。
あの公園でよく遊んだ。いつだったか、あのすべり台に座って、二人で夕日を見た。
「ユカリちゃん、帰らないの?くらくなっちゃうよ」
「お母さんね、お父さんのこと、きらいなんだって…お父さんも、お母さんのこと、おこるの…」
「ユカリちゃん…」
「帰りたくない。わたし、おとうさんもおかあさんも…きらい」
流れてくる記憶を受け止めながら、ユカリは夕暮れの校舎を歩く。
入学式、両親に素直じゃない態度を取った事。
ミカと出会った時の事、初対面からなれなれしい奴だった。
3人でうさんくさい噂を検証して回った事。明るくはしゃぐミカ、おだやかに微笑むチサト…。
はじめての噂の時、おかっぱの少女に出会ったトイレの前を通りかかった。
あの時と同じように、3回回ってみる。あの時は、この後屋上に行ったっけ…。
- 201 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:20:48 ID:nl5Npas90
- チサトとミカの声が聞こえた気がして、階段を登った。世界には夕焼けがいっぱいに広がっている。
押し寄せてくる記憶の洪水に飲み込まれ、暗転し、気がつくとそこは屋上だった。
おかっぱの少女がユカリを待っていた。
「おねえちゃん、どうしてこんなとこにいるの?」
「あたし…」
「だめだよ、おねえちゃん。こんなとこにはいってきちゃ。
ここは夕焼けの町。死んだ人が最後にたどりつくところ。
嬉しかったことも、悲しかったことも、夕日がバターみたいに溶かしてくれるの。」
「…。」
「でも、おねえちゃんは、まだちがうよ。まいごになっちゃったの?」
帰りたい?と少女に聞かれて、ユカリは戸惑う。
もう、いいかもしれない。疲れてしまった。どうせ一人ぼっちだし、このまま…。
「でも、おねえちゃん、ずっといっしょだったよ?
ここにのぼってくるときも。気がつかなかった?」
そういえば、声が聞こえた気がした。誰かの声が…。
わかっていた…思い出した…ずっと感じていた…。
「本当は帰りたいの!
でもあたし、もう自信ないよ
必死に意地張って、強いフリして
本音に気付かれないように…気づかれないようにしながら
もうそうやって生きていく自信がないの!」
本当は離れたくない、チサトやミカとずっと一緒にいたい。
でも…
おねえちゃん、まってるひとがたくさんいるね。きこえない?
少女にそう言われてユカリは気がついた。
幼い少女の泣く声が聞こえる。気がつくと、目の前に立っているのは、おかっぱの少女ではなく、チーちゃんだった。
すすり泣く少女越しに、ビルが見える。見慣れた風景だ。帰ってきた。元の世界に帰ってきた。
振り向いたユカリの目には、こちらへ歩いてくるチサトとミカが映っていた。
エンディングを挟んで後日談。
夏休みが終わり、3人は教室から空を見上げていた。
結局、噂の検証をしてる内に休みはパァ。若い娘らしい秘め事もなく…。
「まぁ、シゲキ的なコトは二学期に期待ってとこですね!」
振り向くと、ユカリとチサトは教室を出て行くところ。
慌ててミカも後を追う。まだキツい日差しが、誰も居なくなった教室を明るく照らしていた。
ー「噂」終了ー
- 202 :トワイライトシンドローム~究明編~:2008/08/02(土) 17:52:34 ID:nl5Npas90
- この後、prankという話が出てきますが、それはムーンライトの宣伝なので、
トワイライト無印はこれで終わりです。