203 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 12:43:11
未解決にある『アパシー 学校であった怖い話 ~Visual Novel Version~』です
最後の日記のところまで選択肢はないほぼノベルとなっていますが本編もまとめます
『私の人形』
私の人形はヨイ人形。片時だって、離したりしないわ。
名前は、マミちゃん。
でも、高校に行くようになってから、チョット困ったこともあるの。
クラスのイジメっ子たちが、マミちゃんを取り上げて、イジメたりするの。
そんな、やめてよ。私のマミちゃんになにするの。そんなことしたら、おっこっちゃう。ここは、三階よ。
……ああ、マミちゃん、かわいそう。私のマミちゃん、死んじゃった。カワイイ、人形だったのに。
「あら、これ、真美の持ってた人形じゃない?どうする?」
「じゃ、私もらっちゃお。真美の形見だと思えばいーじゃん。キャハハハハ」
あなたのお名前は、ヨシエちゃんっていうの?
ヨシエちゃんが、私の新しい人形になってくれるのね?
ヨシエちゃん、イジメられて死んだりしないでね。
うふふふふ。
(その後、人形の影がそれを持つ女の子の頸を切り落とすと女の子の首が落ちてタイトル画面)
「なあ、今度は学校の七不思議の特集をやろうぜ。坂上、お前、この企画やってみろ」
部長の一言で、今度の校内新聞は学校の七不思議をメインにすることで決まったのだ。
そんな大事なものをまだ新聞部に入って間もない一年生の僕に任せるなんて、ちょっと信じられない
「何、驚いた顔してんだよ。お前、怖い話は苦手か?」
それもある。けれど、そう思われるのは癪だな。
「そんなことないですよ。でも僕なんかまだ新人ですし、学校の怖い話と言ってもあんまりよく知らないですから」
「……だから、お前にやってほしいのさ。お前には、完全に客観的な立場でいて欲しいわけ。
そうすれば、生の怖さってものが新聞を読む連中にも伝わるじゃないか。お前が、怖い話に詳しかったら困るの。
お前は単なる聞き手として、怖がってくりゃいいの。そこんとこが大事なんだよ」
結論から言うと、日野先輩が明後日この新聞部の部室に学校の七不思議に詳しい人間を七人集めてくれるそうだ。
そこで、僕は集まった七人から一人一話ずつ話を聞いていきそれを記事にまとめればいいらしい。
(当日放課後)
日野先輩は何だか忙しいらしく、来れないということだった。
七不思議を話すためにやってきた彼らは、もう部室に集まっていた。
しかし七人集まるという話だったのに、六人しかいない。
「……あなたが七人目ですか?」
男性、四名。女性、二名。それぞれが初対面なのか、会話がない。
「……こうしていつまでも顔を付き合せていてもしょうがありません。あと一人もいつ来るかわからないですし、話を始めませんか?」
「皆さん。彼の言う通りです。皆さんさえよろしければ、そろそろ話を始めたいのですが」
そして、始まった。まだ見ぬ七人目を待たずして見知らぬ六人が語る、学校であった怖い話が……
204 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 12:47:39
一話目 新堂誠 『高木ババア』
それじゃあ、俺が一番最初の話をしてやるか。俺の名前は、新堂誠。三年D組だ。
……覚悟はできてるだろうな、お前。俺が話し始めたら、もう後戻りはできないぜ。いいな?それじゃあ、話を始めてやろう。
俺の知っている、学校の七不思議の一つを。
噂話って知ってるか?口裂け女とか人面犬の噂をな。
……お前、笑っているのか?俺はな、お前とそっくりの奴を知っているぜ。そいつも、噂を信じなかった。
教えてやろう。俺が話すのは、噂を信じなかった男の話さ。
俺のクラスメイトに、吉田達夫って奴がいた。現実主義というか、アンチ・ロマンチストというのか、とにかく嫌な奴でな。
自分が選ばれた人間にでもなったつもりで、俺達のことを見下しているのは見え見えだった。
そんな時、俺はちょっと面白い話を聞いてな。高木っていう名前のババアの話なんだ。お前、聞いたことあるか?
そのババアはな、ませたガキが履くようなフリルのついた真っ赤なロングスカートをはいてるんだ。
それで、そのババアは腰まである伸ばし放題の髪の毛をいつも垂らしてて、顔を隠してるんだよ。
そんでもって、そいつ変な歩き方をするんだよな。それが物凄いスピードでよ。
時速100キロで、ピョコピョコ飛び跳ねながら走る厚化粧をした薄汚えババア。そんな奴に追いかけられたら、お前どうする?
なんでも、交通事故でトラックのタイヤに足を巻き込まれたらしいんだけどな。
その時、家族も一緒にいてさ。息子夫婦に三人の孫。全員、即死だったんだとよ。
それで、ばあさんは発狂しちまったんだとさ……でもよ、高木ババアは死んだらしいんだ。
その時の事故じゃなくて、その後のショックでな。自宅の布団で、誰にも看取られずに死んだらしい。
……だから、今現れる高木ババアは幽霊なんだ。高木ババアは、ある目的があって狙った奴の前に現れるんだ。
高木ババアに狙われると最後だっていうぜ。でも、出会ったからいきなり追いかけてくるわけじゃないぜ。
最初は、何気なく声をかけてくるんだとよ。「身寄りのない年寄りの思い出話を聞いてくだされ」ってな。
それで、ついうっかり情けをかけて相手をしてやったらもう最後だ。いきなり、あの時の事故の話を始めるのさ。
「こんなババアに気を遣ってくださって。あんた様は、死んでいった家族達のことがかわいそうだと思いますかのう?」
すると、高木ババアはふと薄汚れたスカートをめくるのさ。スカートをめくると、二本ある筈の足が一本しかない。
誰だって驚く……走って走って、心臓が口からこぼれるほど走りまくって逃げるのさ。でも、逃げ切れないんだよ。
「よくできた息子は、腹の上を裂かれて真っ二つ。かわいそうだと思うなら、あんたの内臓をくださいな」
そして、お前の首は締め上がられる……それで、ジ・エンドだ。死んだ後、死体は見付からないぜ。
この話を聞いた奴はよ、一週間以内に必ず高木ババアに会うっていうぜ。
でもよ、高木ババアに会わないでもすむ方法もあるんだぜ。
それはな、一週間以内に誰でもいいから十人以上に高木ババアの話をするんだ。それも、高木ババアの話を知らない奴にだぞ。
……それでな、吉田にもこの話をしてやったんだよ。頭まで下げて、何とか話を切り出すことに成功したよ。
それほど、俺は高木ババアの話を聞かせてやりたかったのさ。俺が高木ババアの話を聞いた時は、急いで十人に話したぜ。
……それで、吉田はどうなったと思う?俺の話を信じたと思うか?俺はそれからの一週間、吉田を観察してたんだ。
何かありゃあ、高木ババアの噂は本物だってことになる。何ともなけりゃあ、高木ババアの噂なんてえのはでたらめだったことになる。
そして、いよいよ明日で約束の一週間が終わるという日になった。そうしたら、どうだ。吉田が変なんだよ。
あいつ、高木ババアの話を気にしてるのさ。でも、誰も聞いてくれやあしねえ。俺のクラスの連中は、もうみんな高木ババアの話を知っているからな。
205 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 12:51:43
それで、約束の一週間目がやってきた。
吉田は学校に来なかった。それで放課後、俺は吉田の家に電話したよ。あいつは家にいたぜ。
「あれは冗談だったんだろ?いやあ、僕としたことがちょっと取り乱しちゃったよ。今日は、ちょっと疲れたから休んだだけさ」
そこまで聞いて、俺は受話器を叩きつけた。それ以上聞くに堪えなかったからな。吉田なんて殺されればいいって真剣に思ったもんさ。
俺はベッドに転がると、いつの間にか寝ちまったのさ。電話のベルの音で、はっと目が覚めた。
「助けてくれよ、新堂君!!高木ババアが出てきちゃったじゃないか!高木ババアが、あと六時間でお前を殺すっていうんだぞっ!」
電話の主は吉田だった。俺は、受話器を置いた。もう六時を回っていた。
ちょうどその日、親父とお袋は法事とかで田舎に行っててよ。俺は家に一人きりだったんだ。
くつろいでいると、また電話が鳴ったんだ。吉田だった。時計を見ると八時を回っていた。
「高木ババアが僕のことを見ているんだよっ!あと、五人なんだよっ!」
俺は、電話線を外したよ。時計を見ると、十時を回っていた。
十二時まであと五分ほどになった時、家のドアをぶち壊すような勢いで、叩く奴がいた。吉田が、俺の家にやってきたのさ。
「新堂!もう時間がないんだ。俺は死ぬ!だから、お前もっ!!死んで責任を取りやがれっ!!」
俺は急いで玄関に行き、中からドアを押さえつけた。突然、ドアの木目を裂くようにして包丁の刃が飛び出してきたのさ。
しかし吉田はあきらめたのか、すぐに物音はしなくなった。その時、鼓膜が破れるようなものすごい音が鳴り響いたんだ。リビングからだった。
絨毯に撒き散らされたガラスの破片の上に、土足の吉田が仁王立ちになっていた。手には包丁を持ち、体中から血を滴らせながらな。
包丁を振り回しながら、見えない何かを必死に追い払っていた。高木ババアだ。吉田には高木ババアが見えているのさ。
「やめろよっ!もう少し時間をくれよっ!少しでいいんだっ!こいつを殺してからにしてくれよっ!」
突然、吉田の腹が真一文字にパックリと割れたのさ。間違いねえ。あれは高木ババアの仕業さ。
俺は叫ぶや否や、逃げ出した。階段を駆け上がり、自分の部屋に逃げ込もうとした。その俺の足首を、吉田の手が掴んだのさ。
吉田は、俺の足首を握り締めたまま、嬉しそうに包丁を振り上げていたよ。俺も必死だった。渾身の力を込めて、俺は足を蹴り出したんだ。
俺はそれでも階段を上がると、なんとか自分の部屋に逃げ込んだのさ。ドアのノブに手をかけ、開かないように必死に身体を踏ん張らせた。
突然、ドアを破って包丁を握った手が突き出てきたのさ。その手は、必死で俺のことを捜していた。
その時だ。ドアに開いた穴から、もう一本の手が伸びてきたのさ。高木ババアの手だよ。その手が、吉田の手を掴んだのさ。
ドアの向こうから吉田の悲鳴が聞こえてくるのと、穴に手が引きずり込まれているのとほとんど同時だった。
その後、一切の物音は聞こえなくなり、床には包丁だけが落ちていた。時計の針は十二時を指していた。
見ると、リビングの窓ガラスは割れたままだった。確かに、吉田は来たんだ。そして、十二時を過ぎると同時に姿を消しちまったのさ。
学校にも吉田は来なかったぜ。行方不明になったんだってよ。
これで、吉田の話は終わりだ。
何で、お前だけに話したのかわかるか?ここに集まった残りの連中は、もう高木ババアの話を知っているから意味がねえのさ。
あの一件以来、俺もこんな話を他人にするのは気が引けるんだけどな。毎晩よ、吉田の野郎が俺の夢の中に現れんだよ。
そんで、毎週十人に高木ババアの話をしろって脅すんだ。俺がその約束を守り続けなければ、俺のことを殺しにやってくるんだってよ。
ちょっとしたいたずらをしたばっかりに、俺の人生には大きな足枷がついちまったってわけよ。
まあ、お前が高木ババアの話を一週間以内に十人に話すかどうかは、あくまでお前次第だけどな。
これで、俺の話は終わりだ。
206 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 12:57:42
二話目 荒井昭二 『ゲーマーの条件』
それでは、二話目は僕が話しましょう。
僕は、二年B組に在籍している荒井昭二といいます。
霊は、いろんなものに形を変えて潜んでいるんです。霊はですね、決してアナログな物ではないんですよ。
霊はですね、結構デジタルな存在なんですよ。その時その時に応じて、うまく時代に馴染んでしまう。それが霊なんです。
……ところで、あなたゲーム遊びますか?
僕もね、多少ゲームを嗜むんですよ。ええ、自分でもちょっとコンピュータを扱えますのでね。まあ、簡単なゲームなら自分で作れます。
知ってますか、同人ソフト。一般のショップで売られることはまずないんですけれど、そういう即売会があるんですよ。
僕はそういう即売会があると、暇を見つけては顔を出すことにしてるんです。
この学校にもね、同人ソフトのマニアが一人いますよ。僕と同じ二年生で、赤川哲也君ていうんですよ。
僕ととても気が合いましてね、彼とはよく情報を交換したり、即売会があると一緒に出かけます。
僕が話すのは、そんな一人のコンピュータ少年が体験した話なんですよ。
同人ソフトの即売会は、年に数回大きなものが開かれるんですよ。かなりの同人サークルが集まり、大々的にソフトの販売が行われます。
あれは、数ヶ月前のことでした。赤川君が、パソコン通信で情報を仕入れてきましてね。
聞いたこともないサークルばかりが集まる即売会が行われるっていうんですよ。しかも、入場料に一万円もかかるというんです。
僕はあまり乗り気がしなかったんですが、赤川君は妙に乗り気でしてね。仕方なく、僕もついていくことにしました。
会場はS駅から程遠い古びたビルの六階でした。他の階も、ひっそりとしており空いているようでしたよ。
受付には、全身黒ずくめの服を着た男性が一人いるだけでした。まるで、死人のような人形のような人でした。
入って驚いたのは、いくつもの長テーブルが置いてあるんですけど、そのテーブルに座っているのはどれも黒い服を着た男達なんですよ。
普通、即売会の時はコンピュータを持ち込んでソフトのデモプレイを行ったり、実際にゲームを触らせてくれたりするのですが、
コンピュータなんか一台も置いていませんでした。
僕は、もう完全に裏切られた思いでいっぱいでしたよ。なのに、赤川君は違いました。取り憑かれたよう目を輝かせてました。
テーブルに置かれているのは、受付と同じ空き缶と薄っぺらい大き目の封筒が一つ。
そこにタイトルと、起動するためのハード名が書き殴るように記されているだけなんです。
僕達と同じようなマニアが何人かいましたけれど、みんなあからさまに不機嫌そうな顔でさっさと会場を後にしていきました。
「荒井君。何だかドキドキしちゃうよね。こういうのって、絶対に掘り出し物だよ。六万円か……一本しか買えないな」
僕は値段に驚きましたが、それ以上に彼が買う意志を示したことの方が驚きでした。その日、僕も三万円は持って来てましたから。
「……あのう。これ、どんなゲームなんでしょうか」
無表情で座る販売員らしい男は、何も答えてくれませんでした。六万円もするゲームソフトを売っているはずの男がね。
僕がそんなことを考えていると、突然赤川君が一つの茶封筒を握りしめ僕の前に立ちはだかりました。
「これから、僕の家においでよ。一緒に遊んでみようじゃないか」
彼は、当然のように僕を誘ってきました。断る理由などありません。それに、正直どんなゲームか見てみたいのも事実です。
家に着くや否や、彼は僕がいることも忘れて急いで自分の部屋に飛び込みましたよ。
茶封筒に書かれているタイトルは、『スクール・デイズ』。中身を取り出して、赤川君はちょっと驚いたようでした。
マニュアルと呼ぶにはおこがましい薄っぺらなレポート用紙が一枚。そしてフロッピーディスクが一枚。
茶封筒の中には、それしか入ってなかったんですよ。今時、ディスク一枚のゲームなんてたかが知れてますよ。
まるで、コンピュータゲームが出始めの頃というんでしょうか。今時あんなタイトル画面はめったに見れませんよ。
ピンク色の片仮名で画面中央にただ『スクール・デイズ』と書かれているだけなんですから。効果音さえないんですよ。
彼は、マニュアルらしきレポート用紙には目もくれずゲームをスタートさせました。効果音さえ鳴らないゲーム。
画面に表示された内容を要約すると、どうも学校を作るシミュレーションゲームらしいんです。
グラフィックは、ほとんど無いに等しいものでした。
「すごいよ、このゲーム。生徒の名前も先生の名前も全部入力できるんだ」
さすがに、先生や生徒の名前までは付けませんでした。
最初から定められているものをそのまま使用し、せいぜい、生徒の一人の名前を自分の名前に変えるくらいでした。
「そうだ。荒井君の名前も入れてあげるよ」
基本的にはゲームというよりは、データベースとか環境ソフトに近かったかもしれません。
あまりに単調で、作りたくて作ったという覇気が伝わってこないんです。隣で見ていても触れてみたいという気は起きず、正直つまらないのですよ。
それでも、赤川君は一所懸命でした。一人でニヤニヤ笑いながらディスプレイに向かっていました。
「ゲームの結果は、明日学校で教えておくれよ」
そして、僕は家に帰ったのです。
207 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 13:01:07
次の日、学校に行くと赤川君が晴れ晴れとした顔で僕の肩を叩くんですよ。
「ああ、カルチャー・ショックってやつか。あれだけ面白いゲームは初めてだからね。今日も、学校が終わるのが待ち遠しいよ」
昨日は、無理におもしろいと思い込もうとしている様子が見え見えでしたが、今は心底面白いと感じているようでした。
僕は気が削がれ、一瞬、放心状態にさえなりましたよ。そして、同時に悔しさが込み上げてきたのです。
放課後になると、打ちひしがれた僕に止めを刺すように赤川君が近付いてきました。
「どう?今日これから僕の家に来ない?よかったら、『スクール・デイズ』を見せてあげるよ」
「嫌だなあ。赤川君。月曜日に、僕は三つの塾を掛け持ちしていることを知っているじゃないか」
彼は、最初から僕が断ることを知っていたのでしょうよ。そそくさと荷物をまとめると、風のように教室から出て行っていました。
その日、初めて僕は塾をさぼりました。でも、許せなかったのです。あのソフトを買えなかった自分が許せなかったのです。
僕は銀行でお金をおろすと、すぐに昨日行ったあのビルに急ぎました。もっとも今日、即売会をやっているとは思えませんでした。
でもね、あそこに行けば何か手がかりがわかる気がしたんです。管理人の人でもいれば、あの同人サークルの連絡先もわかると思ったのです。
ところが、見当たらないんですよ。会場どころか、あのビルすらなくなってしまっているんです。
斜め前にある小さなお菓子屋さんに立ち寄り、僕は尋ねてみました。
「あそこは、もう何年も前から空き地だけれど?ビルなんてないよ……そりゃあ、空き地になる前は確かにビルが建っていたよ。
お兄ちゃんの言うようなビルがさあ。もう五年以上前かねえ。あのビルの六階でね、ちょっとした問題があって取り壊しちゃったんだよ。
なんでも、私にはよくわからないんだけどさ。コンピュータゲームってあるでしょ?
その会社が入ってたらしいんだけどね、何でもひどいことをやってたらしいよ。
小遣いをあげるとか高いコンピュータに触らせてあげるとかいって、中学生や高校生をあのビルに連れ込んでね。
六階に閉じ込めて、ゲームを作らせていたらしいのよ。不眠不休でゲームを作ったんですってよ。
普通だったら、子供の方から家に帰してくれと訴えたり、逃げ出すとかするじゃないの。
それがさ、自分から進んで閉じこもってたんですってよ。食べるものも食べないで、ゲーム作りに夢中になっていたっていうんだから。
でもさ、親の方は気が気じゃないわよね。子供が行方不明になっているんだもの。それで、警察が捜査に乗り出したのよ。
強制捜査になってあのビルに踏み込んだ時、何人も死んでたっていうから。生きていた子供達も栄養失調で、死ぬ寸前だったんですってよ」
そういう話は実際にあったんですよ。まだゲーム業界が黎明期の頃、どんなゲームでも出せば売れましたからね。
実際にそういう少年を集めて、一つのところでゲームを作らせていた会社があったそうですよ。
自分では買えないようなコンピュータに好きなだけ触れるのだし、誰も文句はいわない。それでお金までもらえるんですからね。
彼らにとっては天国だったんじゃないでしょうか。常識を知らないって怖いですよ。
「それでね、その会社の社員の何人かは捕まる寸前に自決したそうよ。その会社っていうのが正式の会社じゃなくてね。
悪魔を崇拝する、何とかっていう怪しい組織だったんですってよ。それで、変なゲームばかり作ってたって」
……僕は、帰りの電車の中でずっと考えていました。あの即売会にもう一度だけでも出会えないか。
できることならば、全作品を独り占めしたい。たとえ、この命と引き換えにしてでもね。僕の足は、自然と赤川君の家に向かっていましたよ。
僕のゲームを取り返さねばなりませんし、勝手に僕のものを奪った彼をこれ以上のさばらせておく訳にはいきませんもの。
……彼は、家にいましたよ。家で、僕のゲームを遊んでいました。
僕は目を疑いました。これは、昨日のあのゲームじゃない。クオリティが、あまりにも高すぎましたからね。
「どうだい?『スクールデイズ』は?進化するゲームなんだ。こんなゲーム見たことないだろう?」
「……売ってくれないか?ここに四十六万円ある」
僕は銀行の封筒から有り金残らず取り出し、それを赤川君の鼻先にちらつかせました。
「いい加減にしてくれよ。いくら積まれようが、僕はこのソフトを手放すつもりはないよ」
その時でした。突然、コンピュータが喋ったんです。
「生徒同士の喧嘩が発生しました。二年B組の赤川哲也と荒井昭二です」
偶然、ゲームの中で二人が喧嘩を始めたんですよ。
「大変です。どちらかが死ぬまで、この喧嘩は終わりそうにありません」
まるで、コンピュータの中に一つの世界があって、そこで二人が喧嘩をしているように思えました。
「何と、赤川君は切り出しナイフを持っていました」
いつの間にか、僕の目の前にいる赤川君も切り出しナイフを持っていたんですよ。赤川君は、手にしたナイフで僕のことを威嚇しました。
「新井君も黙ってはいませんでした。新井君は、チェーンで応戦します。殺らなければ殺られるのです」
コンピュータの女の声がそう言った瞬間、どこから現れたのか、僕の手にはチェーンが握られていました。
もはや、何が現実といえるのでしょうか。僕は、赤川君めがけてチェーンを振り下ろしました。
しばらくすると、彼は動かなくなってしまいました。
そうしたら、またあのコンピュータの女の声が聞こえてきたんです。
「決着はつきました。赤川君は、新井君に殺されて喧嘩は無事終了しました。死亡により、赤川君の存在は削除されます」
そういった瞬間、僕の足下でうずくまっていた赤川君の姿が消えたんです。そして、画面の中の赤川君もいなくなっていました。
僕は、ようやく自分のゲームを取り返すことができました。
コンピュータから『スクールデイズ』のディスクを取り出すと、逃げるように赤川君の家を後にしました。
次の日から、学校で赤川君のことを知っている人は誰もいなくなりました。
え?『スクールデイズ』がどうなったかって?
……それがね、動かないんですよ。ディスクには何も入ってない初期状態で、何も起ち上がってくれないんですよ。
僕がディスクを間違えたのか、それとも機嫌を損ねて動いてくれないのか……でもね、僕は事実をわかってるんです。
誰かが盗んだんですよ……本当は、あなたが持っているんじゃありませんか?
あなたの部屋から『スクールデイズ』が見付かったときは、覚悟してくださいよ。
それじゃあ、次の人の話に期待しましょうか。
208 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 13:06:48
三話目 福沢玲子『あなたは幸せですか?』
私、一年G組の福沢玲子といいます。
それじゃあ早速、私が三話目を話させていただきます。
坂上君もまわりにさ、宗教に凝ってる人とかいない?
私なんか、自分で体験しちゃったんだから。実は、私のクラスにもいたの。宗教に狂っちゃった子。
蜜田真奈美ちゃんていうんだけどさ。私が話すのは、その真奈美ちゃんの話だよ。
真奈美ちゃんて、すごく親切な子でさあ。人の嫌がることとか、自分から率先してやるんだよ。
人気あったよ。ないわけないよね。何にでも真面目で、すごくいい子だったもの。
あれは五月の初め、ゴールデンウィークの明けた頃だったかな。
最初はかわいかったんだよ。「手を握らせてね」っていう程度で。何でもね、毎日沢山の人の手を握っていると、世界が平和になるんだって。
まあ、手を握られるくらいならいいじゃん。別に真奈美ちゃんのこと嫌いじゃないし。
それから一週間ぐらいしたらさ、いきなり学校に何本もシャンプーを持ってきたんだよ。
それでさ、商売始めちゃったの。真奈美ちゃんの持ってきたシャンプーはねえ、いろんな花の搾り汁を主成分にした天然のものなんだって。
匂いとか、ほんのちょっとしかないんだよね。色も透明で、何だか洗剤みたいなの。
みんな素見し半分だったけど、真奈美ちゃんの説明がすっごくうまくてえ。聞いてるとさ、何だか使わなくちゃ損みたいな気がしてくるんだよね。
「お金は気持ちだけでいいの。私、世界平和のためにやっているだけだから」
それでさあ、そのシャンプー、チョー評判よかったんだよね。次の日、使った人達はベタぼめだったもんね。
「みんな、そんなに喜んでくれるんだったら自分で作ってみたらどうかしら?今度の日曜日。一緒にシャンプー教室に行きましょうよ。
私もね、そこで作り方を教えてもらったの。実は昨日みんなが使ったものは、私の手作りなのよ。玲子ちゃんも来てくれる?」
でもね、その日はおばあちゃんが田舎から来るっていってたの。本当は行きたかったよ。
それでね、月曜日になったの。
そしたらさあ、シャンプー作りに行ったメンバーが、朝からすんごく盛り上がっちゃってぇ。
真奈美ちゃんと囲んで、手作りシャンプーを手に手に持って踊ってるんだよ。変な歌を歌いながらね。
それだけだったら、ただの変な集団ですむけどさあ。彼女達、シャンプー飲んじゃうんだよ。
「もったいないなあ。飲めるし、頭も顔も洗えるし、目薬にだってなるんだよ。これ、シャンプーだけど何にでも使える万能製品なのにい」
みんな、気味悪がってたよ。それまで仲のよかった子も、みんな彼女達に近付かなくなったの。そりゃ、そうだよね。
……それが、三日ぐらいすると驚くことが起こったのでした。なんと!みんな見違えるような美人になっちゃったんだよね。
だから、みんなすぐにわかったよ。あのシャンプーが原因なんだって。気味悪がって遠巻きに見ていた女の子達が、我先に飛んでったもんね。
それでさ、次の月曜日なんか、もう女の子なんかみんなあのシャンプー持っていてえ。
クラスでシャンプー教室に行かなかったのは、男の子以外は私と野沢さんだけだもんね。
野沢さんて、クラス一の秀才。みんなとはお付き合い程度にしか話さないけれど、悪い子じゃないんだよ。
塾行ってるしさ。家がうるさいんだって。もっと気を使えばすごくきれいになるのに、全然気を使わないから目立たない子っているでしょ。
まさに、野沢さんてその典型なんだよね。日曜日も塾があるから、そういうのには行けないんだってさ。
それで、一週間目がやってきた。
私はねえ、本当は行く予定だったの。そんなの当たり前じゃん。だってさあ、みんなきれいになっちゃうんだよ。
でもね、風邪ひいちゃったの。熱四十度も出ちゃってさあ。それでね、行けなかったの。
その次の月曜日の朝は、大合唱だったよ。
なんか、私、孤立しちゃったんだよ。話せるのっていったら野沢さんだけだし、彼女とはあんまり話が合わないし。
たとえ真奈美ちゃんが誘ってくれても、私はあの輪に入る勇気ないよ。よく考えると、やっぱり気持ち悪いよね。
209 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 13:13:07
それでさ、また三日くらい経ったらもうみんなきれいになっちゃってえ。
そんな子達がさ、突然男子達と仲良くし始めたんだよね。女の子の方から、誘いかけてんだよね。
男子、馬鹿だから。すぐ、引っかかっちゃって。なんか、うちのクラス、カップルだらけになっちゃったんだよ。
何だかんだで、うちのクラスの人は私と野沢さんを残して、全員シャンプー教室に行っちゃったの。もう完全に疎外感ヒシヒシだよね。
こうなっちゃうと、逆に意地でも行くもんかって思っちゃってさ。誘われれば行くんだけど、あれからは誰も誘ってくんないの。
それから数日したら、もっと驚いたことがあったの。
ちょっとした実力試験をやったんだけどね。みんな、異常に点数が高いんだよね。高いっていうより、全員百点。
私と野沢さん以外は。野沢さん、悔しかったと思うよ。今までいつも一番だったのに、たった一問間違えただけでビリから二番目。
でね、テストが返された日の放課後、野沢さんが泣き出しちゃったんだよね。
……そうそう、あのシャンプー愛好集団がね、毎日毎日、放課後になるとぞろぞろどっかへ行っちゃうんだよ。
夢遊病者みたいでさ、何かに操られてるみたいだったよ。
それでね、次の日野沢さんが思い詰めた表情で真奈美ちゃんと話し合っているのを目撃しちゃったのよね。
「私にもシャンプーちょうだいよ!何でもするから、私にもシャンプーちょうだいよ。私だけ仲間外れにしないでよ」
「仕方ないわね……あなた、世界を平和にしたい?そのお手伝いをしてくれる?なら、あなたを教室に連れてってあげる」
真奈美ちゃんと野沢さんは手を取り合って、みんなと一緒に行っちゃった。あの歌を歌いながらね。
次の日、野沢さんは学校を休んだよ。それで、私一人になっちゃった。完全に孤立しちゃったんだよ。
みんなも、野沢さんのことなんか気にしてない様子で、平然とあの歌を歌ってたし。
私は変な胸騒ぎを覚えちゃったんだよ。きっと何か、ある。昨日シャンプー教室に行って、何かあったに違いない。
そんなこと考えてたら、後ろから背中をツンツンつつかれてさあ。後ろの席は、真奈美ちゃんでしょ。
『地球は宇宙人のものなの。でも地球を人間が汚しちゃったから、もういらなくなっちゃったの。それで、壊すの』
その時さあ、私初めて気付いたんだよね。真奈美ちゃんがシャンプーを飲んでいるとこ、一度も見たことないんだよね。
飲むどころか、触りもしなかったもんね。
『シャンプー教室って何なの?』
『ワールド・ハッピー&ピース・カンパニーのことだよ。地球を宇宙人の破壊から救うために作られた組織なのよ。
玲子ちゃんは、みんなと違います。だから、本当の事を教えてあげます。今日、二人だけでシャンプー教室に行きましょう』
それで放課後、約束の場所に行ったの。
私は、真奈美ちゃんの後についていったの。学校から、電車を乗り継いで一時間くらいだったかな。何だか突然巨大な建物についちゃったの。
「ここがそうなの。でも、玲子ちゃんが行くところは、みんなとは別のところなの」
地下はわけのわからない機械や実験器具がたくさん置かれていてね。いくつもの部屋に区切られてた。
そして、何人もの人がいたわ。みんな同じ服を着ているの。頭からすっぽり被るタイプの白衣のような服。
私と真奈美ちゃんも、それに着替えさせられたの。
「やあ、真奈美。新しい理解者かい?」
着替え終わったら、頭の禿げあがった悪魔のような顔をした壮年のおじさんと出会ってね。
私はね、きょろきょろしながら真奈美ちゃんの後をついていった。
「みんなが行ったのはシャンプーを形だけ作るところ。ここではシャンプーの素を作ってるの」
真奈美ちゃんは、似たような扉が並んでいる通路を歩きながら、そのうちの一つで止まったわ。その中に私を迎え入れてくれた。
部屋の中にはさあ、人が素っ裸になって天井から吊り下げられててね。吊るされてる人はさ、血で真っ赤に染まってるんだよ。
その時気付いたんだけど、吊るされてる人達って生きてるんだよ。弱ってるだけなの。細目を開けて、脇を通る私達のことを目で追ってるんだよ。
それで「助けてえ~~」とか「許してえ~~」とか、苦しそうな声を半開きの口の中から絞り出すの。
奥の方には、大きな手術台みたいのがあってね。一人の男の子が乗ってて。
「ああ、昨日のクランケを連れてきなさい」
そして連れてこられたのは、変わり果てた野沢さんだったの。
顔はげっそりしちゃって、目の焦点は合っていなくて、髪もぼさぼさで一気に老けこんじゃったようだけれど、それは確かに野沢さんだったわ。
体も、骨みたいにガリガリに痩せちゃって、お腹だけダルマのようにプックリ出てるんだけれど、気味悪くてさあ。
野沢さんは手術台に乗せられると、四つん這いにされてね。口を無理矢理こじ開けると、お医者さんは肘まで腕をねじ込んだわ。
お医者さんが一気に腕を引き抜くと、野沢さんはゲロゲロ液体を吐き出したの。
「あれがシャンプーの素になるの」
野沢さんの口からゴボゴボ血が噴き出しててね。
「もう一匹サジタリウスを入れておこうか」
お医者さんは、虫をつまみあげると、野沢さんのおへそに落としたの。
野沢さん、ものすごい声を上げて泣き叫んだわ。そのあと、おへその中からどろっとした血の塊が出てきたけれど、それ以外は見た目は変わらなかったよ。
またトロンとした生気のない目に戻って、力なくぐったりしちゃったの。
お医者さんは、ひと仕事終わったのか額の汗を拭うと、マスクを外して真奈美ちゃんに尋ねたの。
「今度、同士になった福沢玲子です」
そういって、私のことを紹介したわ。
真奈美ちゃんはそのまま私を抱きかかえて部屋の隅にあるドアを開けたの。
ドアの向こうは、上へ続く階段だった。階段の上には、ドアしかなかった。
ドアを開けると、今度は私の重苦しい心を解かすように、明るくて黄色いざわめきが聞こえてきたの。
その部屋の中では、二十人くらいの女の子達がキャーキャーはしゃぎながらシャンプーを作っていたの。
「あれはね、主成分は人間の油とサジタリウスのエキスなの。あれを素にシャンプーを作るのよ。
髪を洗うととってもサラサラになるから、最初はシャンプーという名目でみんなに渡すのよ」
みんな、嬉しそうにそれを飲んだわ。私、とめようとしたけど声が出なかった。
「今ここにいてもしょうがいないわ。これからあなたは何度もここに足を運ぶことになるんだから。うふふ…」
「……野沢さん、死んじゃうの?」
「野沢さんは頭がよかったから。ああやって、みんなの肥やしになってもらっているの。世界平和のためよ。
野沢さんも、とても幸せだと思うわ。あのサジタリウスはね、ワールド・ハッピー&ピース・カンパニーが作り出した寄生虫の最高傑作なの」
「真奈美ちゃん。あのシャンプーを飲んだ人はどうなるの?本当に、頭がよくなったり健康になるだけなの?」
絶対に何かあるんだよ。本当の事をいえないってことは、それ以上聞いちゃいけないってことなんだよ。
「さあ、玲子ちゃん。玲子ちゃんは、私のことわかってくれるわよね。私の同士になってくれるわよね」
ここで真奈美ちゃんの誘いを断ったら、もっとひどい目に合うかもしれない。
私に残された道は、真奈美ちゃんと一緒になって世界を平和にすることだけ。
……これで、私の話は終わり。
私は今も頑張って世界平和のために働いてるよ。シャンプーを飲むとどうなるのか、結局わからないよ。
本当は、真奈美ちゃんもどうなるのか知らないのかもね。もちろん、私も飲んでないよ。
いいよ、別に信じなくたって。私が今も活動を続けているんなら、こんな大事な話をするわけないもんね。
でもね、誰にも口止めされてないもん。だけどさ、私は話すの。
どうしてかっていうと、自分でも悪いことしてるなあって思うから。懺悔ってあるじゃん。あれと同じだよ。
それに、やめたら殺されるもん。それで、嫌々続けてるんだよ。
で、次は誰が話してくれるの?
210 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 13:19:25
四話目 風間望 『かぐわしきにほひ』
それじゃあ、次は僕が話そうか。
僕の名前は風間望。三年生だよ。
舌が優れている人間は結構いるもんなんだ。
だけどね、鼻が優れている人間になると、これは滅多にいないんだよ。
で、うちのクラスにもいるんだよね。その匂いに敏感な男がさ。
彼の名前は綾小路行人っていってね。いかにもいいところの出って感じだろう?ところが普通の一般人なんだよ。
ただ一つだけ普通の人と違っていたんだな。それが、さっきもいった鼻さ。
……ところが、世の中そううまくはいかないんだよねえ。ある日突然、綾小路の頭上に不幸は降ってきたのさ。
転校生さ。色白の小太りで、まるで白豚のような奴だった。髪の毛は、ポマードを塗っているようにテカテカのコテコテに光ってギトギトしていた。
要するに洗ってないわけだ。その転校生が、何ともいえない臭いを放っているんだよ。体臭だよ。並のきつさじゃないよ。
「大川大介です。細かいところは気にしないで、大きなことが大好きです。うはははははは……」
「それじゃあ……そうだな。綾小路のとなりに座れ」
綾小路はぴくりともしなかった。額に脂汗をにじませ、綾小路はぐったりしていたよ。
もう、すごかった。世の中にあんな下品な人間が存在してたとはね。綾小路の代わりに、僕が倒れるかと思ったほどさ。
え?怖い話はいつ始まるんだ?君ねえ、十分怖いでしょうが。心配しなくても、怖いのはこれからだから大丈夫だよ。
綾小路はついに耐え切れなくなったのか、白目を剥いてぶっ倒れたよ。
幸い一命は取り留めたものの、もう少しで呼吸困難に陥って死ぬところだったらしい。
でも、それは綾小路が味わう恐怖のほんの始まりに過ぎなかったのさ。
それからの綾小路は、悲惨以外のどんな言葉も当てはまらなかったね。なぜなら、大川が綾小路に懐いてしまったのさ。
綾小路は大川が近付いてくると、一目散に逃げたよ。その点は、綾小路の方が有利だった。でも、それは外での話だからね。
教室の中では、立場は逆転していたよ。綾小路にとっては毎日が地獄さ。
とにかく、大川は綾小路にべったりだった。多分、ホモだったんだろう。綾小路は、登校拒否になったよ。
ところがどうだ。三日と経たないうちに、大川が見舞いにいったのさ。
文句を言いたくても、大川に文句を言うことさえ出来ないのさ。大川に文句を言うことは、あの臭いを嗅ぐことを意味するんだよ。
彼は、仕方なく学校に行くことにした。すぐに席替えをしてもらえたよ。
しかし、それで引き下がる大川じゃなかった。
綾小路は、ブラスバンド部に入っていたんだけれどね。そう、ブラスバンド部の部員が一人増えてしまったんだよ。
大川がトランペットをやりたいということは、否が応にも手取り足取り彼が面倒を見なければならないわけだ。
練習中に、ほんの一瞬だけ目を離したのが運の尽きだったのさ。
戻ってくると、綾小路のトランペットにはベッタリとヨダレがついていたんだよ。
彼は悩みに悩んだ末、仕方なく手放すことにしたんだ。
その頃からだ。綾小路が、真剣に学校を辞めることを考え始めたのは。でも、それと同時に別の心配も沸き起こったんだ。
それは、学校を辞めても大川はついてくるんじゃないかという心配だ。
綾小路は悩みに悩んだ。何とか大川から逃れられる方法がないか、と。なんせ、近付くことができないんだからな。
綾小路は、決死の思いで最後の手段に出た。
封筒の表に「すぐ読め」と大きく書き、今後は付きまとわないで欲しいという内容文を中に入れて直に手渡しすることにしたのさ。
案の定、大川は手紙を読み進めるうちに手を震わし、わっと泣き崩れた。
「僕は、綾小路君と友達になりたかっただけなのにぃ!僕と付き合って欲しいだなんていわれても困っちゃうよおっ!」
そう叫ぶや否や、手にした手紙をくしゃくしゃと丸め込み、ポイッと口の中に放り込んでしまったのさ。証拠隠滅だ。
大川は、間違いなく変質者だ。このまま奴と関わっていけば、間違いなく綾小路の人生は破綻を来すことになるだろう。
臭いは元から断たねばならないことに気付いたんだよ。
奴が家を出て、人気のなくなった隙に刺し殺してしまえばいい。通り魔の犯行にしてしまうのだ。
……が、その希望はすぐに握り潰された。大川の周りは、四人もボディガードがしっかりと護衛していたのさ。
それで、綾小路の計画はあっという間に崩れ去ってしまったわけだ。
211 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/28 (Sun) 13:21:48
……そんなわけで、綾小路は計画を変えなければならなかった。
燃やしてしまえ……燃やしてしまえ。そうすれば、あの臭いはすっかり消えてしまうんだ。
綾小路は火炎瓶を作ったんだよ。その一本一本に火をつけ、外から放り投げたんだ。
結局、綾小路は逃げ切り、成功したように思われた。
休み時間が終わると、綾小路は机の中に一通の手紙が入っていることに気付いた。
『昨日、僕の家に放火魔がやってきました。幸い、大した被害になりませんでした。でも、犯人を映したビデオテープがあります』
もはや、普通のやり方では大川から逃げることはできない。こうなったら、刺し違えてでも自由になるしかない。
何としてでも、自分は傷つかずに大川を殺す方法を捜したのさ。そして、それは見つかった。
黒魔術さ。悪魔の力を借りるんだ。
実は、僕のダディが海外に行った時に黒魔術グッズをお土産に買ってきてくれてね。
それで、彼は僕のところに頼ってきたわけ。ぜひ、黒魔術グッズを貸して欲しいってね。大川に関する一連の話は、その時に聞いたのさ。
……場所は、駐車場を提供してあげた。何といっても、巨大な魔方陣を描かなきゃならなかったからねえ。
それに、真っ昼間からやるわけにはいかないだろう?仕方ないので、夜中の二時まで綾小路を置いてやることにした。
「死んだとき、僕の魂は悪魔のものになってしまう。でも、いいんだ。僕は死後の世界なんて信じていないからな」
「…悪魔って卑怯ものだからなあ。知ってるだろう?悪魔とどんな契約を交わしても、最悪の結果になるって話」
二時になった。
「我が名は、綾小路行人。我と契約を望むものよ!今日こそ地獄の扉を開き、その姿を見せよ!」
突然、魔法陣がまるで燃えるように赤く染まったじゃないか。そこから真っ白な煙が吹き出してきたのさ。
それに、凄い臭いだったんだ。とにかく息を吸うのがつらくなるような、鼻腔にまとわりつく変な臭いが辺りに立ちこめた。
「私を呼んだのはお前か!?私に何の用だ?」
「魂を抜いてほしい男がいるんです。お願いします。大川の魂を抜いてください」
尋ねると、煙の中から一本の細い腕がにゅっと突き出てきた。その爪が、一枚の紙を挟んでいるんだ。
「さあ、この契約書にサインするのだ。さすれば、お前の望みは叶えられる」
綾小路はいわれるがまま親指をべったりと契約書に押し付けた。契約は無事、成立したんだ。
そして、悪魔がその恐ろしい姿を僕達の前に曝け出したんだ。
薄れゆく煙の中に佇んでいるのは、大川大介そのものだったんだよ。大川の手には、悪魔の腕のオモチャが握られていた。
悪魔の姿を見た時の綾小路の顔ったらなかったなあ。
「ありがとう、綾小路君。僕と契約してくれて。僕が悪魔なんだよ。僕は君を気に入ってしまってね。
けど、まだ僕は低級な悪魔だから、君を手に入れるためには悪魔として契約してもらう以外に方法はなかったんだよ。
……待ってたよ。君に呼び出されるのを。僕と契約したんだから、もう大丈夫だ。僕は裏切ったりしないからね。
僕を殺すことが条件だっていいたいの?大丈夫だよ。僕はとっくに死んでいるから。
卑怯だって言いたいの?これでも僕はまともな悪魔なんだよ。ひどいことしたりしないよ。永遠に楽しい時間を過ごそうね。
僕には契約書があるんだからね。どこへ逃げたって、世界の果てまで追いかけていくよ」
これで僕の話は終わりだ。
その後二人はどうなったのかって?二人とも学校に通ってきてるよ。
綾小路も、もうあきらめがついた感じだしね。こうなることが自分の運命だったんだって、最近は自分に言い聞かせているよ。
あの黒魔術グッズは、今でも僕の押し入れにしまってある。
……さあ、次は誰が話すんだい?
212 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 09:48:41
五話目 岩下明美 『偽りの愛』
私の名は明美。三年A組の岩下明美というわ。あなた、人に裏切られたことってあるかしら?
人間てね、結構知らず知らずのうちに他人を裏切っているものなのよ。さして良心は痛まないわ。
……ふふ、でもいいわ。私はまだあなたに裏切られていないから。私はあなたを憎む理由は幸いなことにないの。
私はね、裏切られることが大嫌い。もし私を裏切る奴がいようものなら、殺してやる。
人を裏切るんだったら、死ぬ覚悟で望まなくちゃあね。私ね、今までに人に裏切られたことないの。
私はね、人に裏切られるくらいなら、先に裏切ってあげるの。私は、間違ってないわ。
……あなた、汗をかいてるわ。ハンカチを貸してあげましょう。
これから私が話すのは、人を裏切ることなんか何とも思っていない人間の話。
私のクラスに、とても仲のいいカップルがいたわ。
名前を佐藤直之と本田佐知子といったの。二人は、どれくらい付き合っていたかしら。
……そうね、半年も経っていなかったかしらね。
周りが噂するようになってからは、二人は一緒に学校に来るようになったし、いつも一緒に帰っていたわ。
二人で幸せな時を過ごしたいという、典型的なカップルの見本のようだったわ。
二人は仲のいいまま、月日は流れたわ。これ以上目につくような進展はもうないというほどになったの。
そして、二人は三年生になったわ。でも、悲劇なんてどこからやってくるかわからないものね。
佐藤君の前にね、とてもおいしそうな果実が現れたの。厄介な感情を持った果実がね。
その果実はね、及川由紀っていったわ。人のものを欲しがる人。しかもその人が大事そうに使っていたり、大事そうにしているものを欲しがるの。
及川さんは、本田さんが幸せそうに付き合う佐藤君を欲しくてたまらなくなったの。
三年になってまだ一か月と経たないうちに、及川さんは行動を開始したわ。
私は噂話を聞いただけで見たわけじゃないけれど、彼女は二人のデートにまで割り込んでいたみたいね。
でも、及川さんの行動は決して無駄だったわけじゃないのよ。佐藤君と本田さんは、今までのような楽しい顔をあまり見せなくなったから。
別の女に言い寄られてもはっきりとしない彼。他の女が言い寄ってきているのに、何も言わない彼女。
表面的には言葉にしないけれど、二人は本当に自分が愛されているのか不安になったんじゃないかしら。
もうこの時、佐藤君の気持ちは本田さんから離れ始めていたんじゃないかしら。
誰だって、これだけ言い寄られれば悪い気はしないもの。とにかく、あまり三人でいることはなくなったわ。
佐藤君は本田さんの側にあまり近付かないようになり、及川さんといることの方が多くなった。
「ねえ、佐藤君!本田さんのことが嫌いなんだったらはっきりいってよ!あたし、こんなに佐藤君のこと好きなのにい!」
ある日、及川さんはみんなの前でそんなことをいって泣いたわ。もちろん、嘘泣きだったんでしょ。
本田さんは、そこまでいわれても何も答えなかったわ。それから一週間も経たないうちに、佐藤君は行動を起こしたわ。
「……俺、本田さんのこと何とも思っていないから。悪いけれど、俺はもう君と付き合えないから」
あろうことか、みんなの前で本田さんに向かってきっぱりといってのけたわ。
本田さんは、佐藤君にそんなことをいわれても何もいわなかったわ。いったい彼女がなにを思っているのか、その時は私にもわからなかったわ。
彼女が何も言わないから、佐藤君は図に乗ったんじゃないかしら。それからは、本田さんのことなんか見向きもしなかったわ。
本田さんも、それ以来佐藤君には一切近付かなくなったし。
それにしても、馬鹿なのは佐藤君ね。本気で及川さんが佐藤君に惚れているとでも思っていたのかしら。
どう考えたって、あの彼女が佐藤君で満足するわけはないのに。
213 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 09:51:45
及川さんが佐藤君とべたついていたのも三日ぐらいだったかしらね。
そして、佐藤君は完全に捨てられたわ。佐藤君としては、実際のところ何が起こったんだかわからず、戸惑ったんじゃないかしら。
……でも、これで、終わらなかったの。いいえ、むしろこれが始まりだったのね。佐藤君が及川さんに捨てられて、すぐのことだったわ。
あれだけひどいことをされた本田さんが、また佐藤君に接近し始めたの。それだけ、佐藤君のことを好きだったのね。
佐藤君、どうしたと思う?あれだけ本田さんにひどいことをしておきながら、復活したのよ。そう、また本田さんと付き合い始めたの。
佐藤君としては、彼女に頭が上がらなかったでしょうよ。そして今度こそ真剣に付き合おうと心に決めたんじゃないかしら。
でもね、そんなことなんてまれよ。奇跡に近いことね。一度裏切りの味を覚えた飼い犬は、その味を忘れられないの。
そして、その兆候はすぐ現れたわ。
及川さんが、面白くなかったのね。飽きてしまうくせに、一度自分が手に入れたものは、もう他人に奪われたくないのね。
今まで以上に仲良くなった佐藤君と本田さんを、及川さんは今まで以上に邪魔するようになったの。
でも、佐藤君だって、全く学習しなかったわけじゃないわ。
「……俺、気付いたんだ。俺が好きだったのは本田さんなんだ」
あくまで顔色を変えない本田さんに対し、及川さんの顔ったらもうすごかったもの。
「……ひどいよ。あたし、佐藤君のこと好きだったのに!本気で好きだったのに!」
けれど、不思議なことになにもしないのよね。次の日から、まるで昨日のことが嘘のように二人に構わなくなってしまったの。
でもね、それから二週間ほどたった日のことだった。及川さんが、突然私のところに来たのよ。
「私、子供ができちゃったみたいなの。佐藤君の子供みたい。どうしよう、私、どうしていいかわかんないよ!」
佐藤君には、どうせうまいこといってやらしてあげたんでしょうけれど、それ以上にいろんな男とやっていたんでしょうに。
二人の仲を完全な破局に導くために、彼女はこの相談をしたくても、じっと耐えてチャンスを待っていたんだわ。
彼女、別に私だけに相談したんじゃないんですもの。クラスの女子全員に相談していたのよ。さも、その人だけに相談するふりして。
その話が本当だったら、真っ先に佐藤君に相談すればよかったわけだし、その話が嘘だっていうことは誰にでもわかったと思うの。
でも、みんなはそうは思わなかったのね。結局は、みんな野次馬だったのよ。
それで、一瞬にして及川さんは悲劇のヒロインという地位を奪い取ったの。
そして、それは同時に佐藤君に極悪人という役を与えることにもなったわ。
本田さん、それでも何もいわなかったわ。私は、じっと見守ることにしたわ。
……佐藤君、死んだわ。自殺よ。その日の夜、自分の部屋で首を吊って死んだの。
遺書はあったんだけれど、及川さんの妊娠のことについては何も触れていなかったそうよ。
さすがに、及川さんも佐藤君が自殺するとは思っていなかったんでしょうね。話を聞いて、真っ青になっていたわ。
泣かなかった女子は、二人だけだった。私と本田さんだけよ。
それから、別段変わったことは何もなかったわ。及川さんがおとなしくしていたのも、ほんの二、三日だった。
クラスのみんなも、佐藤君の死は悪い夢と思って早く忘れることにしたんでしょう。いつものクラスに戻ったわ。
214 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 09:56:50
実は、まだ話は終わってないの。このあと、続きがあるのよ。
佐藤君が死んで何週間か経ったあと、私は放課後の教室でぼんやりしていたの。振り向くと、本田さんだったわ。
「及川さんが妊娠した時、女の子はみんな佐藤君のことをいじめたわ。でも、そのとき岩下さんだけは佐藤君をいじめなかった。本当にありがとう」
「あなた、頭よかったのね。どうして、馬鹿のふりをするの?本田さん、用はそれだけ?それだけならば一緒に帰らないこと?」
「どうしても岩下さんに立ち会ってほしいことがあるの。手伝ってくれなんていわないわ。もう準備もすませてあるのよ」
彼女がそこまで言うのなら、私は断るつもりはなかったわ。私がうなずくと、彼女は私の手を引っ張って教室を出ていったわ。
彼女は、理科室に入っていったわ。理科室には、誰もいなかった。私達が入ると、彼女は中から鍵をかけたわ。
理科室の奥には大きな机があるのよ。そこに、及川さんが寝かされていたわ。私ね、及川さんが死んでいると一瞬思ったの。
その時気付いたんだけれど、机の横にはメスやらハサミやらが並べられていたわ。まるで、本当に手術するみたいだった。
「私の家ね、産婦人科なの」
私は、何も手伝わなかったわ。手伝わなければ、私が罪に問われることはないわ。
及川さんが生まれたままの姿になると、今度は彼女を机に縛り付ける作業に移ったわ。きっと、手術されれば及川さん死んじゃうんでしょうね。
「本当はね、堕胎の時にはお腹を切り裂いたりしないのよ。でもね、今は仕方ないの。お腹を切るしかないのよ」
その時だったわ。突然、及川さんが目を覚ましてしまったのよ。彼女、自分がどこにいるのか何をされているのかわかっていないようだった。
「及川さんも、さぞつらかったでしょうね。でも大丈夫よ。何も心配しなくていいの。私が責任を持ってすべて解決してあげるから」
ようやく、何が起こっているか把握したんじゃないのかしら。あんなに本気で取り乱している及川さんを見るのは初めてだったわ。
大口を開けてわめいた彼女の口に、本田さんはさっき脱がしたスキャンティを押し込んだ。そして、すかさずガムテープで口を塞いだの。
「大丈夫よ、及川さん。あなた、まだ佐藤君の子を堕ろしてないんでしょ?私がちゃんと処理してあげるから。
あのね、私ね、佐藤君の赤ちゃんが欲しいの。及川さんが産んでくれるんならばそれでよかったんだけれど、及川さんいらないんでしょ?
だからね、代わりに私がもらうの。私のお腹の中で育ててあげるの」
本田さん、切り裂いた傷口に両手を突っ込むとそれを上下に引き裂いたの。
本田さんね、泣き喚く及川さんを無視して、自分の仕事に没頭してたわ。引き裂いた及川さんのお腹に手を突っ込んで、腸を引きずりだしたの。
本田さんは、及川さんのお腹の中からいろんなものを取り除いて、机の上に並べていったわ。
彼女が取り出して嬉しそうに抱きしめたのは、及川さんの子宮。あの仲に、佐藤君の赤ちゃんが入っていると思い込んでいるのね。
「佐藤君の赤ちゃん。本当ならば、私のものになるはずだった、佐藤君の赤ちゃん。私が大事に育ててあげるの」
そんな言葉を繰り返しながら、彼女ったらその子宮を食べちゃったの。一口で飲み込んだの。彼女、本当に満足そうだったわ。
「……及川さん、気持ち良さそうに眠っちゃってる。かわいそうだから、そっとしておいてあげましょうね」
本田さん、取り出した彼女の内容物を元に戻し始めたわ。中にあったものを全部押し込んだら、パックリ裂けた及川さんのお腹を縫い始めたの。
それからようやく彼女の口に貼ってあったガムテープを剥がしてあげたわ。そして、さっき口の中に押し込んだスキャンティを取り出したの。
それから、彼女を縛っていた縄を解いてあげたわ。本田さんて、本当に優しいのね。脱がした服も全部きれいに着せてあげて。
「及川さんたら、まだ寝てるわ。でも、もうこれで楽になれるからね。子宮がなくなっちゃったから、もう赤ちゃんは産めなくなっちゃうけれど、
ごめんなさいね……でも、あなただって少しは責任があるのよ。岩下さん、待たせてしまってごめんなさいね」
それで、一緒に帰ったの。本田さん、嬉しそうに何度も言ってたわよ。
「これで、佐藤君の赤ちゃんが産める。これで私も幸せになれるわ」
本田さんね、一緒に帰る途中に捕まっちゃったわ。そりゃあ、そうよね。だって、彼女のセーラー服は返り血を浴びて真っ赤だったんですもの。
私も一緒に連れて行かれて、いろいろ質問されたわ。でも、私は何も答えなかった。本田さんも、私のことはいわなかったわ。
あまりの惨劇だったらしくて、本田さんは罪に問われなかったの。学校は辞めてしまったけれど、犯罪者にならないですんだわ。
今ね、本田さんは治療しているの。精神の病気だから、いつ治るかわからないんですって。
でもね、本田さんは自分の頭が狂っているから入院しているとは思っていないのよ。
佐藤君の赤ちゃんを妊娠しているから、大事を取って病院に入っていると思っているの。
……私ね、思っているの。彼女、本当に妊娠しているんじゃないかって。
だって、及川さんが本当に妊娠していたのかいないのかは誰もわからないことなんですもの。
真実を知っていたのは、死んでしまった及川さんだけ。だから、本田さんは、本当に佐藤君の赤ちゃんを食べたのかもしれない。
神様がいるならば、きっと本田さんの思いをかなえてくださるわ。この世に奇跡は数え切れないほどあるんですもの。
だから、私も楽しみにして毎月一度は本田さんのお見舞いにいってあげるのよ。
……これで私の話は終わり。
私ね、最初に裏切られたことが今までに一度もないっていったでしょ?
どういう意味かわかる?私を裏切った人はね、なぜか死んでしまうの。私にも、どうしてだかわからない。
私ね、時々記憶なくすの。そうすると、私を裏切った人が死んでしまってるの。
だから、私は裏切られたことがないの。さあ、最後の人に話をしてもらいましょうね。うふふふふ……
215 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 10:03:07
六話目 細田友晴 『魅惑のトイレ』
いやあ、とうとう僕が最後になっちゃいましたね。それにしても、七人目はどうしちゃったんでしょうかねえ。
あ、申し遅れました。僕は細田友晴っていいます。2年C組です。
僕、自分がデブなことなんか少しも気にしてませんよ。気にしているのなら、痩せればいいだけのことですから。
でもね、痩せられないもんなんですよ。体質っていうんですか?
どうしても我慢できなくて……食べちゃうんですよ。それに、ジュースも好きだし。汗っかきなんですよ。
僕からいわせれば、デブな人のことを馬鹿にする人の方が、かわいそうですよ。心がひねくれてますもの。
……でも、坂上君っていい人みたいですね。ええ、僕にはわかりますよ。僕ね、霊感が鋭いんです。坂上君て、僕と同種の人間だと思いますよ。
僕、友達少ないんです。少ないどころか、本当の友達なんて一人もいないかもしれない。
それでね、霊感の話だけれど、やっぱり霊を感じる場所ってあるんですよ。それも体質っていうんですか?
それでね、僕の場合それがトイレなんです。トイレにもね、幽霊っているんですよね。
僕がこんな話をしているのも、全てこれから話す話のためなんですよ。
これから僕が話すのは、僕が体験した話なんです。トイレにまつわる話なんです。
あれは、僕が二年生になってすぐのことでした。
僕ね、実を言うとトイレって結構好きなんです。だって、トイレにいれば一人きりじゃないですか。
外の世界に出れば、人と接しなければならない。でも、トイレにいる限りは誰にも邪魔されない。
そういうわけで、僕はトイレが大好きです。でもね、変なトイレが一個あるんですよ。そのトイレって、不思議なんです。
とにかく、異様な雰囲気が渦巻いているんですよ。怖いっていうのじゃなくて、不安になってくるのになぜか落ち着いてしまう。
僕は、なぜかそのトイレが気に入ってしまって。休み時間になると、いつもそのトイレに入っていましたよ。
不思議なことに、なぜかそのトイレだけはいつも空いてました。他の人は気付いていないようでした。僕だけが感じるようでしたよ。
それで僕が二年生になったときのことです。いつものように、あのトイレに行きました。
その時は、ものすごく落ち込んでいましたよ。二年生の時、僕のことをいじめていた吉川君と星野君とまた同じクラスになってしまったんですよ。
僕は彼らのなすがままです。逆らって、もっとひどい目にあうのは嫌ですよ。
でもね、その日は違ったんです。ちょっとひどかったんですよ。僕を一度もトイレに行かせてくれなかったんです。
僕がトイレを我慢してるのをおもしろがって、一日中教室にいるように命令したんです。
僕が、耐え切れず完全に漏らしてしまったのは五時間目が終わる頃でした。
高校生にもなって、僕は授業中に漏らしてしまったんです。大便まで漏らしてしまったんですよ。
僕は、全員の白い目の中をかき分けながら教室を後にすると、一目散にトイレに逃げ込みました。
ええ、そうです。あの僕の大好きなトイレです。
僕は何度もため息をつきながら、あの個室の中でズボンを脱ぎました。僕は、泣きましたよ。
それで、一生このトイレの中から出なくて済むものならいいなあなんて思ってました。
だから、そのままトイレの中でじーっとしていたんです。
不思議なもので、トイレは僕を慰めてくれているようでした。トイレが僕を助けてくれているようでしたよ。
216 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 10:04:55
いったい、どれくらいの時間が経ったんでしょうか。はっきりとした時間は覚えていません。
誰かがトイレのドアを激しく叩く音で、僕は我に返りました。不思議なことに僕はパンツもズボンもはいていました。
漏らしたはずなのに、すっかり乾いていて汚れもきれいに取れていました。
何が起こったんでしょうか。あれは全て夢だったんでしょうか?ドアの外には担任の先生が一人で立っていました。
「いやあ、細田君。いつまでも戻ってこないから、先生は心配してしまったよ。学校中のトイレを捜してしまった」
今まで、僕は先生にそうやって優しい言葉をかけてもらったことがありませんでした。
本来なら逃げ出してしまうところだけど、先生が妙に優しかったから僕は教室に戻れました。
それでも、怖かったのは事実です。教室に入ると、みんながどんな顔をするか不安で仕方ありませんでした。
ところがどうです。教室で僕を出迎えてくれたのは、みんなの暖かい視線だったんです。僕はびっくりしました。
時計を見ると、もう六時間目が始まっている時間でした。授業が終わると、ホームルームがありいよいよ放課後です。
僕は一緒に帰る人なんて誰もいませんでしたから、いつもと同じように変わりない行動をしました。
ところが、違うんです。なんていうか、みんなが僕のことを見ているんです。
そして、あの二人が僕の側にやってきました。でも、いつもとどこか違うんです。
突然両手をあわせ、今にも泣きそうな顔で僕に頭を下げるんですよ。
「細田君、よければ一緒に勉強してくれないか?」
吉川君も星野君も、はっきりいって成績は悪かったですよ。でも、ビリは僕の指定席でしたからね。
その僕にですよ。勉強を教えてくれとまでいってきたんです。僕はね、自分の耳を疑いました。さもなくば、新たないじめだと思いました。
「……そうだね。こんなことを頼もうなんて、虫がよすぎるよな。ごめん、細田君の立場も考えないで、わがままだったよ」
彼らが僕の前からいなくなると、今度は何人ものクラスメイトがやってきました。みんなニコニコ笑っていました。
「おい、細田。一緒に帰ろうぜ」
普段ならば僕と視線が合っただけで嫌な顔をして背を向けるような奴らが、なぜ僕に近付いてきたのかさっぱりわけがわからなかったんです。
「……いや、ごめんよ。今日は、僕は一人でいたいんだよ。ごめんなさい。勘弁してください」
僕は今置かれている現状を整理するだけでも、頭の中がパニックになってしまっていて、慌てていたんですよ。
僕は、何だかその場にいるのが恥ずかしくなって逃げるようにして帰りました。
寝付きのいい僕が、その日に限ってなかなか眠れませんでした。
明日、学校に行くのが不安で仕方ないのに、心のどこかでは妙な期待というか楽しみさえ感じているんですよ。
それで次の日。
学校に行く途中、クラスメイトが何人も話しかけてくるじゃないですか。しかも、楽しそうに。
僕が学校に行っても、みんなが僕のことを見る目は変わりませんでした。
どこか、現実と違うんですよ。それから、いろいろなことがわかりました。どうやら、僕はみんなの人気者なんです。
その日一日、僕は雲の上を歩いているような気持ちでした。僕と、僕に対するみんなの気持ちだけが昨日までと違うんです。
吉川君と星野君は、相変わらず勉強のできないクラスの鼻つまみものでした。
とても、いい気分でした。本当に信じられない気分でした。僕はね、その日いっぺんに友達が増えました。
僕はね、吉川君や星野君にも声をかけてあげました。同情心からですよ。
僕の方から声をかけてあげると、彼らは犬のように喜び従順でしたよ。
先生だって、僕を見る目が違うんですよ。
それからの僕は、あまりトイレに行かなくなりました。
そりゃあ、そうです。休み時間に、一人でトイレに閉じこもっているなんてもったいないじゃないですか。
僕はね、あのお気に入りだったトイレをわざと避けるようになりました。
あのトイレに入ってしまい、あのトイレの持つ独特の魅力に引かれていくのが怖かったのかもしれません。
僕の楽しい学園生活が始まりました。これが、何をやってもうまくいくんですよ。
217 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 10:06:30
………………はあ、そのまま僕の人生が続いたらどんなに幸せだったでしょうか。
中間試験があるでしょ。中間試験で、僕は失敗をしてしまったんですよ。
僕としては、信じられない程よくできたんですよ。何と、クラスで真ん中辺の成績を取ることができたんですから。
でもね、みんなは違うんです。僕がそんな成績を取ることに満足してないんですよ。
クラスのみんなはびっくりしてました。先生は心配しました。両親は寝込むほど落ち込んで悲しみました。
でも、みんなは僕のことをなじったり、いじめたりしません。
僕はね、期待の眼差しってやつを初めて痛いほど実感しましたよ。わかりますか?幸せだった僕に、また嫌な恐怖感が芽生え始めました。
そんなプレッシャーに耐えられるわけないじゃないですか。
それからは、僕がいつものように冗談をいっても、またみんな笑ってくれなくなりました。
僕は、家に帰って、昔の通信簿を引っ張り出しました。
どうして、急にみんなの態度が変わったのか、僕は何で人気者になったのか不安で仕方なかったんですよ。
僕は、一年生の時の通信簿を見て愕然となりました。成績はオールAでした。
僕の通信簿は、どちらかというとオールEに近いものでしたから。それが、オールA。
僕は、すべて理解したんです。僕じゃなかったんですよ。この通信簿をもらった僕は、僕じゃない。僕じゃない僕がいる。
坂上君、パラレル・ワールドって知ってますか?
この世にはね、自分が過ごしているのと同じような世界がたくさんあるんですよ。
だからね、僕はピンときてしまったんですよ。僕が今いる世界は、僕の元いた世界ではない。
何かが狂って、こっちの世界の僕と向こうの世界にいる僕とが入れ替わってしまったんじゃないかってね。
そうすれば、すべては納得がいくじゃないですか。
でもね、やっぱり僕は多大なプレッシャーをかけられても無理なんですよ。
それからの僕は、またトイレに入り浸るようになりました。あのトイレにですよ。
どう考えたって、あのトイレが原因だとしか思えませんよね。トイレの神様が僕にチャンスをくれたと思うんですよ。
けど、僕は、せっかくのチャンスを活かすことも出来ず、さらに感謝することも忘れてしまった。
僕が人気者になった途端、あのトイレに近寄りもしなくなってしまった。神様が怒っても当然ですよね。
だから、僕はこんな目にあってしまった。
でもね、全くもって虫のいい話ですけれど、今からでも間に合うかもしれないって思っているんです。
それで、毎日、あのトイレに通うようにしてるんです。
そうすれば、ほら。また同じようなことがおきるかもしれないじゃないですか。
元の世界に戻れるとは思わない。でも、他の世界には行けるかもしれないでしょう。
今度うまくいったならば、絶対に感謝してトイレの神様を崇め祭ります。
だからね、僕はトイレに入り浸ることをやめません。トイレに通いつめて、毎日便器を磨いてるんです。
……でも、駄目なんですよ。あの時感じたトイレの異質な感覚があまり感じられないんです。
……これで、僕の話は終わりですよ。
……七人目、来ませんね。
218 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 10:09:56
七話目 『学校であった怖い話』
……ついに、六人の話が終わった。
それなのに、どうだ。彼らの話は、どこが学園の七不思議だというのだ。
僕だって、学校の七不思議がどんなものか、それなりに知っているつもりだ。
多少の違いはあれど、どんな学校にも伝わっている七不思議というものじゃないのか。
なのに、彼らが話したのは……とても、学校の七不思議と呼べるものじゃない。
すべて、彼らの体験談じゃないか。しかも、どれもこれも信じられないような陳腐な作り話。
それに、彼らが話したのはみんな最近の話だろ?だったら、一体何人が死んだっていうんだ。
日野先輩は、こんな話を聞かせるために僕を呼んだっていうのか。こんなことを校内新聞にまとめるために、今回の企画をたてたっていうのか。
……でも僕は、何とも言い知れぬ恐怖に襲われている。
彼らの話が怖かったからじゃない。僕は、彼ら自身が怖かった。彼らは常人じゃない。
確かに、怖い思いができたことは認めよう。でも、これは学校の七不思議じゃない。
明日、日野先輩に話して、この企画はやり直すか中止するかしてもらおう。
「どうするんですか?このまま七人目をお待ちになりますか?」
こんな連中と、まだ一緒にいたいっていうのか。もう、やめよう。帰るんだ。
「すいません。風間さんのおっしゃる通り、このまま待っていても七人目は来ないでしょうから。もう、お開きにしましょう」
「俺はもう帰るぜ。俺の役目は終わったんだろ?じゃあな」
そして、後ろ手でドアを閉めようとしたとき、彼は腕を止め振り返った。
「高木ババアの話だよ。お前があの話を聞いた時点で、もうお前も逃げられねえんだよ。
他人を犠牲にするか、お前が犠牲になるか、一週間以内に決めるんだぜ。じゃあ、あばよ!」
「皆さん、新堂さんも帰ってしまいましたので、やはり帰りましょう。時間ももう遅いですし……」
「……仕方ないでしょうね。僕もそろそろ、おいとまさせてもらうことにしましょう。それでは皆さん、お元気で」
立ち上がった荒井さんは、僕に右手を差し出した。握手を求めているのだ。
「君とは、また会うことになるでしょう。それまで、くれぐれもお大事に。『スクール・デイズ』の件は……どうか、よろしく」
あれじゃあ、まるで脅迫じゃないか。
「ねえ、坂上君さ、一緒に帰らない?せっかく、こうして知り合えたんだしさ」
あんな話の後では、いくら彼女が屈託のない笑みを送ってくれても、僕は線を引いてしまう。
「福沢さん。何も、坂上なんかを誘うことないじゃないの。僕が送っていきますよ、僕が」
すかさず風間さんが立ち上がってくれた。二人は、長年の恋人のように肩を寄り添いながら、仲よく並んで部屋を出て行った。
「坂上君、帰ろう」
細田さんだった。
「岩下さん、もう帰りましょう。みんな、帰ってしまったし」
「……そうね。このまま待っていても、仕方ないわね。私は帰ることにしましょうか。
あなたがわたしの親切を無駄にしたこと。わたしの行為を裏切ったことを覚えておくのね。また、会いましょう」
「さあ、帰ろうよ」
「すいません、僕、後片付けをしなければならないので。迷惑です。先輩にこんなこというのは何ですけれど、もう僕に構わないでください」
「すいませんでした。坂上君と仲良くなれそうだと思った僕が間違いだったんですね。それじゃあ」
さて、後片付けをして帰らなければ。
219 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 10:14:55
僕は、解放されたのだ。学校に潜む、目に見えぬ恐怖から。
家では、母さんが夕飯の支度をちょうどすませたところだった。
父さんは、まだ帰ってきていない。いつも、仕事で遅いのだ。きっと、今日も遅いのだろう。
僕はワイシャツを脱ぎ、ぎょっとした。僕のワイシャツの背中に、真っ黒な人の手形が二つ付いていた。まるで、後ろから突かれたような染み。
今日、誰かに押されただろうか。そんな記憶はない。
やっぱり、こんな大役断るんだった。どっちにしろ明日は、先輩を捕まえなきゃ。これじゃあ、特集なんて組めやしないもの。
疲れていたせいか、学校での怖い体験も忘れ、ぐっすりと眠ってしまった。ようやく、僕の長い一日が終わったのだ。
二日目。
昼休みになると、僕は日野先輩の教室に行った。
「あのう、昨日のことなんですけれど。先輩の呼んでくれた七人ですけれど、六人しか集まらなかったんですよ」
「ちょっと待てよ。なんだよ、それ。昨日って何だ?約束は今日だろ?俺はちゃんと七人に声をかけたよ」
僕には、何が何だかわからなかった。あれは悪い夢だったのだろうか。納得できない。
「でも、岩下さんや新堂さんが……」
「岩下?新堂?誰だ、そりゃ?俺はそんな奴ら知らねえぞ」
僕の見たことは、本当に夢だというのか。今日の放課後、もう一度部室に行けば、わかるはずだ。
ホームルームが終わると、僕は急いで部室に向かった。
約束の時間が迫るにつれ、一人、また一人と新聞部にやってきた。三時半を待たずして、僕の前に七つの顔が揃った。
昨日見た顔は、一人もいない。そして、新しい七人による学校であった怖い話が始められた。
みんな、普通の人たちだった。そして、そんな彼らが語ってくれたのは、僕が思い描いていたような学校の七不思議だった。
……けれど、なぜだろう。僕は、昨日岩下さんたちから聞いた話の方が、よっぽど怖かった。
いや、話自体は今日の方が怖かったかもしれない。でも、あの何ともいえぬ迫力がないのだ。
僕は学校を後にした。今日は、昨日と違ってなかなか寝付けない。寝たら、彼らが夢に出てきそうでならない。
220 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/09/30 (Tue) 11:47:25
今回はここまで
続きはまた後日に
221 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/09 (Thu) 14:08:18
三日目。
なぜか、あの六人のことが忘れられない。僕の頭の中で彼らの存在がどんどん大きくなっていくようだ。
…こうなったら、自分で確かめるしかない。彼らが夢でないことを確かめればいいのだ。
僕は、おぼろげな記憶を頼りに彼らの教室を尋ねて回った。
結果は悲惨なものだった。この学校に彼ら、六人は存在しなかった。やはり、あれは夢だったのだろうか。
細田さんの話が思い起こされる。異次元のトイレの話。
僕は、異次元のトンネルを通り抜け、僕のいた世界と別の世界に来てしまったんだろうか。
僕は、その日家に帰って、ずっとそのことだけを考えた。
さすがに、昨日一睡もしていなかったせいか、その日はすぐに眠ることができた。
……そして、僕は悪夢を見た。
夢の中で、僕は公園のベンチに座っていた。突然、僕の隣に一人のおばあさんが座る。とても薄汚いおばあさんだ。
突然、おばあさんは僕に話しかけてきた。
「……私には身寄りがありませんのじゃ。私には、人様の羨むような家族がいましての……」
この話をこのまま聞いていたら、きっと悪いことが起きる。でも、僕は逃げられなかった。
「あと四日でごぜえますよ」
「うわあっ!」
僕は、大声で叫び、飛び起きた。
……僕は、まさかあんな、よた話を信じているというのか。でも、自分でも気付かぬうちに、あの話を気にしていたんだろう。
四日目。
あれから、少しも眠れなかった。学校では少しも勉強に身が入らなかった。じっと座っていると、まぶたが重くなり頭が垂れてくる。
何か考えようとすると、思い出されるのはあの六人のこと。僕をおかしくさせた、実在するのかしないのかさえもわからない六人。
放課後、僕は新聞部に行った。新聞部には、在校生の名簿がある。
……何も無かった。
僕が調べてわかったことといえば、何年か前にいじめにあって三階の教室の窓から突き落とされた女子生徒がいるくらいだった。
ない。六人の名前は、ない。彼らは、この学校に存在しない人物だったのだ。
家に帰ると、珍しく父さんがビールを飲んでいた。
「今日ね、会社のゴルフ・コンペがあったのよ。それでね、何を間違ったのか父さんが優勝してしまったの」
「それで、お前にお土産だ。優勝の景品で貰ったものなんだけどな、父さんにいらないもんだ。だから、お前の部屋に置いといた。見てみろ」
僕は、部屋に入って愕然とした。外観からして、それが何かは一目でわかった。パソコンの本体と、ディスプレイだ。
僕の脳裏を、一瞬新井さんの顔がよぎった。なんてことだ……これは偶然か。それとも、悪い報せなのか。
222 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/09 (Thu) 14:23:24
五日目。
今日は日曜だ。時計を見ると、もう十時を過ぎていた。久しぶりにぐっすりと眠れた気がする。
……頭がガンガンする。夕食を食べてからの記憶があまりない。ひどい頭痛だ。風邪をひいたのだろうか。すごい熱だ。
「薬を飲まなければ……」
僕は、とりあえず台所に向かった。台所は、ひどく荒らされていた。流しにはまな板が置いてあり、その上に一本の包丁が寝かされていた。
僕が寝ている間に、何があったのか。僕は台所にうずくまり、嘔吐した。
突然、僕は誰かに抱きかかえられた。この手の温もりは、母さんだ。僕は母さんの肩を借り、何とか自分のベッドに戻ることができた。
母さんが買ってきてくれた薬を飲んで、静かに寝ていよう。
この分だと、明日は学校に行くのは無理だろう。明日も、こうしてベッドの中で眠っていることになるのだろうか。
「修一、電話よ!どうする?名前いわないけれど」
くだらない電話でも、友達と話せば少しは気晴らしになるだろう。誰かに相談すれば、気が晴れるかもしれない。
「あのさ、斉藤。ちょっと話したいことがあるんだけどさ」
「私、相談されるの嫌いなの」
僕がそういった途端、電話の向こうから女の声が聞こえてきた。
「……ああ、ごめんよ。実はな……」
「相談されるの嫌いだっていってるでしょ」
「……岩下さん」
もう一度電話の向こうから聞こえてくる声を聞いて、僕は確信した。
「岩下?岩下って誰だよ。お前、熱でボケたな。狂ったんじゃねえの?悪いから切るよ。相談だったら、明日学校で聞いてやるよ」
斉藤は、それで電話を切った。ガチャリという電話を置く音が聞こえ、電話を切った後の平坦な発信音が聞こえてきた。
「お久しぶり」
突然、発信音が途切れ、岩下さんの声がした。
「覚えていてくれたのね。嬉しいわ。人に忘れられるってことも、裏切りだと思うの」
「岩下さん、今、どこにいるんですか?どこから電話してるんですか!」
「七人目がみつかったの。明後日の放課後、新聞部で待ってるわ。その時、お待ちかねの七人目に会えるから。楽しみにしていなさい」
「みんな、来るんですか?岩下さんも、新堂さんも、風間さんも、みんな、みんな来るんですか?」
「来ればわかるわ。いいこと?火曜日の三時半。新聞部で待っているから。それじゃあ、さようなら」
岩下さんの会話はそこで終わり、再び電話の向こうからは発信音だけが聞こえてきた。
僕は、また夢を見ているのか?いや、そんなことはない。彼女達は、やはり実在しているのだ。どこかに……
それにしても、なぜ明後日なんだろうか。彼らは学校にいないのに。
畜生……明後日か。彼らは絶対に部室にやってくるだろう。ならば、僕にだって考えはある。
まな板の上に横たわっていた包丁。母さんには悪いが、あれを失敬していこう。
もし、あいつらがまだ僕のことを馬鹿にするのならば、僕の怖さを見せつけてやればいいのさ。
六日目
今日は月曜日だ。朝起きると、風邪は完全に治っていた。頭もすっきりしている。
それはすべて、昨夜のあの電話のおかげ。黙って明日の放課後を待っていれば、すべては解決する。
その日一日、僕は本当に清々しい気持ちで学園生活を送ることができた。
うざったく話しかけてくる連中は何人もいたが、みんな無視してやった。奴らは、建前しか語らない。仮面を被って、僕の前にやってくる。
僕は、本音で生きるのだ。そして、邪魔するものは排除すればいいのだ。
授業が終わると、僕はまっすぐに家に帰った。
「今日は早かったじゃない。今さっき友達が来たわよ。確か、荒井さんといったわね。
何でもあなた、彼から何か借りたんですってね。困っている様子だったから、あなたの部屋で待ってもらうことにしたの」
僕に貸したものがあるだと?『スクール・デイズ』だな。
僕は、ドアを開けた。中はしんと静まり返り、誰もいなかった。机の上にまだ手を付けていない紅茶が一つ置かれていた。
そして…机の上のパソコンの電源が入っていた。いつの間にか、セッティングされている。
そして、ディスプレイには『スクール・デイズ』の文字が写っていた。新井は、まだ帰っていないんだ。この部屋にいるのさ。
「あいつ、僕の邪魔ばかりするんだよ。だから、殺してやらないとね」
僕は、ディスプレイを持ち上げるとそれを床に叩きつけた。母さんの悲鳴に近い驚きの声が背中に聞こえた。
僕は、何度も何度もパソコンを床に叩きつけた。母さんは、大声をあげて泣いていた。
……これで、荒井は死んだろう。もう、復活できまい。ざまあみろ。
「風呂に入るよ。風呂、沸かして」
僕は手探りでシャンプーを探し当てると、それを頭にかけた。
裏には『ワールド・ハッピー&ピース・カンパニー』と印刷されたシールが貼ってあった。
ついに宗教の魔の手は母さんまで毒そうというのか。せっかくの僕の気分が台無しだ。明日は、対決だというのに。
どうやら、母さんはもう寝てしまったようだった。僕も寝た。明日のために、たっぷりと睡眠を取っておく必要がある。
僕はとても冷静だった。僕は、完璧な人間に一歩一歩近付いているのだ。気の狂いかけた僕は、もう正常に戻っている……
223 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/09 (Thu) 15:06:29
七日目。
会話のない、単調で味気ない朝食をすませ、僕は学校に出向く。
もちろん、洋包丁を一本、カバンの中に忍び込ませておくことを忘れてはいなかった。
その日、時間が経つのがとても遅かった。その日すべての授業の修了を告げるチャイムが鳴り響く。
ついに、決戦の時が来た。部室の前に立つと、僕は時計を見た。三時三十分ちょうど。
僕は、ためらく事なくドアを開けた。
そこには、あの六人がすでにこの前と同じ場所に、同じ格好で座っている姿があった。
僕は、ドアを閉めると、この前と同じ場所に、この前と同じ格好になるように座った。
果たして彼らは息をしているのかさえ疑わしくなるほど、音を立てない。僕もまた、それに倣った。
それを破ったのは新堂だった。
「おい、坂上。よく逃げなかったな。俺はてっきり、お前が来ないと思っていたぜ。
高木ババアの話は、ちゃんと十人に話したか?もしまだだったら、お前は今日中に死ぬぜ」
「新堂。死ぬ前に、お前の本名を聞いておこうか。僕はね、もうお前のことを先輩とも思っていないし、敬うつもりもない」
僕は、荒井に目を向けた。
「『スクール・デイズ』は絶対に渡さないぜ。あれは僕のものだからな」
「……ええ、そうおっしゃると思っていましたよ。『スクール・デイズ』を取り返すため、何か別の方法を考えますよ」
「岩下。七人目はどうなったんだ?僕は、それでわざわざここに足を運んでやったんだがね」
僕が岩下に目を向けると、彼女もまた笑っていた。
「……坂上君?私ね、あなたに呼び捨てにされる覚えはないわ。私がここに来てあげたのは、あなたに復讐するためよ」
「お前が僕に復讐するというのなら、それがどんなに愚かな行為か教えてあげてもいい。七人目が来たら、すべてはっきりさせようじゃないか」
「じゃあ、あなたのお手並み拝見といきましょうか。七人目は、最初から来ているんだから」
僕は、全く見落としてしまうところだった。僕の正面に座っている、名も知らぬ一人の女。あいつが七人目なのだ。
「大本真美といいます。一年A組にいます」
「馬鹿をいうな。一年A組は僕のいるクラスだ。僕のクラスに、大本真美なんて女はいない」
「坂上さん。私の話を聞いてください。せめて私がどうしてこの前これなかったか、その理由だけでも聞いてください」
「よし、聞いてやろう。なぜこの前来なかったのか、説明してみろ」
「ありがとう。あのとき私ね、お人形を捜してたの。私の大事なお人形。名前をメルモっていう女の子の人形なのよ。いつも、一緒にいたわ。
学校にも連れてきてたの。でもね、はぐれちゃったの。私、いじめられっ子だったから。三階の教室から突き落とされちゃって。
気付いた時、もうメルモはどこかに行っちゃってたの。それで、一生懸命捜していたから……」
「お前、正気か?正気でそんなことをいっているのか?この、大嘘吐きめ!」
僕は、机を飛び越えると対角線上に座っていた真美の胸に包丁を突き刺した。
「嘘じゃないのよ。とても痛かったんだから。全身の骨が砕けて、うまいこと動けなかったんだから。
それでも、メルモと離れるのは嫌だったから、一生懸命捜したのよ」
包丁を刺したのに、平然と話をしている。血の一滴も出やしない。まるでワラ人形に刃物を突き立てているようで、まるで手ごたえがない。
セーラー服が破れ、肌が見えても血は出なかった。僕の突き刺した跡が残るだけで、まるで剥製のようだ。が、彼女は痛がりさえしない。
僕は、彼女ののどに包丁を突き立てた。いとも簡単に彼女の首は切断された。
床に落ちた首は、それでも相変わらず情けない、人の同情を誘う泣き顔を浮かべ、僕に目玉を向けた。
「私の話を聞いてほしいのよ。私が話をしないと、あなた困るでしょう?七不思議がそろわないでしょう?」
首なし女は、床に落ちた首を抱き上げ座り直した。
「坂上君。君に僕たちを殺すことなんてできやしないよ」
僕は、けらけら笑う細田の額に包丁を刺し込んだ。奴もまた、血液が通っていなかった。
「大人しく座ってなよ。そんなことをしてると、坂上君、狂っちゃうよ。きゃはは」
「君ねえ、自分を何様だと思ってるの?身の程知らずとは、まさに君のためにあるような言葉だよねえ」
僕は、間違いなく予定通りの行動をしているはずだ。なのに、思い通りの結果にならない。
「俺たちは死なねえよ。それでも殺したければ、気のすむまでやりな。逃げも隠れもしねえさ。
でも、お前も逃げられねえぜ。俺たちは、いつでも好きな時にお前に会いに行けるんだからな」
彼らは、一斉に口を開いた。勝ち誇ったような笑い声をあげながら。
お前らの言いなりになぞなるものか。お前らから逃げるのなんて実に簡単なことじゃないか。
僕は、包丁の刃を左手首に押し当てた。
「見ろ!お前らとは違うのさ。僕の身体には赤い血が流れているんだ」
逃げられるに決まってるじゃないか。その証拠に僕の目の前からお前たちの姿が消えていく。
そうだ。みんな、消えちまえ。僕の視界から。ほぅら、僕の視界は真っ暗だ。
再び目が覚めた時、白い殺風景な部屋の中だった。
母さんは目にいっぱいの涙を溜めていた。
「ここはどこ?病院?」
「そうよ。何も考えず、寝ていなさい。あなたはね、新聞部の部室で倒れてたのよ。それを日野さんが発見してくれたの」
「僕一人だったの?」
「ええ、誰もいなかったわ」
「父さんは?」
「……父さん?父さんは三年前に亡くなったでしょ?」
僕は父さんがいなかったんだっけな。すっかり、忘れていた。
「あなた、三日間眠り続けてたわ」
やっぱり、高木ババアの話なんか嘘だったんだ。僕は死ななかったものな。
母さんが病室を出ていくと、僕はまた眠くなった。
「よう、坂上」
新堂さんが立っていた。
「お見舞いに来てくれたんですか?やっぱり、高木ババアの話って嘘だったじゃないですか。ひどいなあ」
「まあ、ばれちゃしょうがねえな。お前、死ななかったもんな」
新堂さんが笑い、僕も笑った。
「早く元気になっておくれよ。そうでないと、僕は寂しいよ」
細田さんも立っていた。
「ええ。元気になったら、一度僕の家に遊びに来てください」
側には岩下さんがいた。風間さんもいた。福沢さんもいた。荒井さんもいた。
僕の大好きな六人が揃っていた。
「あのう、大本さんは?」
「ああ、真美か。あいつ、大事な人形がまだ見付からないんだってよ。見付けたら、すぐ来るそうだ。お前によろしくっていってたぜ」
「私たちは、いつでもあなたの側にいてあげるわ。だから、何も心配することはないのよ。何もね……」
僕は、彼らから離れられないのだ。
六人とも、ただ笑っているだけだった。
でも、もういい。人間なんて、みんな最初から狂っているじゃないか。
そして、悪夢を見ているんだ。みんな、悪夢の中をただひたすら歩いていることに気付くか気付かないだけの差でしかないんだ。
僕はまた深い眠りに落ちた……
スタッフロール終
224 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/09 (Thu) 15:08:21
続きはまた後日
次で最後です
225 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/16 (Thu) 09:54:15
恵美ちゃんの坂上クン観察日記
一九九五年六月二日 金曜日
……今日の私はとってもブルー。まったく日野先輩、ひどいったらありゃしないわ。
今回の壁新聞で特集する『鳴神学園七不思議』の企画、私に任せるなんて言っておきながら、どうしてあの坂上なんかに任せるのよ!
「倉田さん」
さ、坂上!?
「どうしたの?今日は部活、お休みなのに」
「うん。日野先輩に頼まれた例の企画まで、あと一週間しかないからね。僕、怖い話とかあまり知らないし、自分なりに勉強しておこうと思って。
倉田さん、もしよければ資料集めとか手伝ってくれないかな?僕、実は怖い話とかあんまり得意じゃなくて」
私だったら怖い話いっぱい知ってるし、聞き上手だし、どんな語り部が集まったって、うまく話聞きだせるのに。
でも、いいわ。手伝ってあげようじゃないの。飛んで火にいる夏の虫よ、坂上君。
「ありがとう、倉田さん。それじゃあ、明日放課後、お昼食べた頃でいいかな?」
「そんなぁ。明日は土曜日でしょ?よかったら、私がお弁当を作ってきてあげる」
一発であの世に逝かせてあげるから、うふふふふ。
一九九五年六月三日 土曜日
「うわあ、すごいなぁ!もしかして、これ倉田さんが一人で作ったの!?」
うふふふふ……実は、この料理に毒は入っていないのよ。
だって、もし私が食べなかったら、坂上君に怪しまれちゃうじゃないの。
問題は、食後のデザート。
目立たないように錐で穴を開け、そこから毒を溶かした青汁をたっぷり注入した恵美ちゃん特製おしるこドリンクよ。
「よおーっ!お前ら何やってんだ?」
日、日野先輩。どうして、こんなところに!?
「あれ?倉田、何持ってんの?おしるこドリンクじゃん!俺にくれよ」
「ああっ!?どうしたんですか、日野先輩!大変だよ、倉田さん!日野先輩、真っ青だよ!」
※選択肢
<逃げた場合
その日、私は家に帰って部屋に閉じこもり一日中悶々としていた。警察が来ると思ったのに、なぜか警察はやってこなかった。
そしてそのまま何事もなく月曜日を迎えた。
「倉田さん、いきなり帰っちゃってびっくりしたよ。あの後、大変だったんだから。
日野先輩が動かなくなって救急車を呼んだんだけれど……もう間に合わなかった。
あれから警察が来て、大変だったんだよ。でも、大丈夫。犯人は、もう捕まったから。
あの後すぐね、校門の付近をうろうろしている変なお婆さんが見付かったんだよ。
そしたら、なんと!そのお婆さんが持っている飴は人間の目玉だったんだよ!」
……助かった。浮浪者のお婆さんに感謝しなくちゃ。
「ところで、坂上君。七不思議の集会の企画なんだけれど、大丈夫?」
「日野先輩が亡くなった今、語り部を呼ぶといっても誰を呼べばいいのかわからないよ」
「大丈夫、それは私に任せて。まずね、同級生の元木早苗ちゃん。彼女ね、エクトプラズム吐けるのよ。
あと三年の竹内さん。彼ね、体の中に虫飼っていて面白いのよ。
それから……この際だから先生も呼んじゃいましょうよ。黒木先生なんかいいんじゃない?あいつ、絶対に人殺しよね。
あとは理科の白井先生も呼びましょうか。あの白髪鬼。あいつ、理科室で合成人間を創ろうとしているのよ。
あと、生徒だか先生だかよくわからないんだけれど、この前知り合った女の子も呼んじゃおうかな。
宿泊施設のね、天井に住んでいるのよ。ヤモリみたいに。逆さまになって天井からぶら下がってるの。
あと、プールのロッカーにも面白い子がいるのよ。瀬戸さんて言うんだけれど、彼女も誘えば喜んできてくれるわよ、きっと。
「……なんか、すごいメンバーだね。最後の一人は?」
「もちろん、私よ、ワ・タ・シ!任せてちょうだい!思いっきり怖い話をしてあげるから。
あ~、楽しみだなぁ、七不思議の集会。早く金曜日にならないかな!」
終
>
226 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/16 (Thu) 09:58:08
<大声を挙げた場合
「きゃあーーーーーっ!誰か来てぇーーー!!坂上君が!坂上君が日野先輩を!!
坂上君が、おしるこドリンクに毒を入れてそれを日野先輩に飲ませたの!
今日、私は日野先輩に呼ばれて部室に来たの。そうしたら、私のこと好きだって告白してきたわ。
でも、私はそんな気がないから丁寧にお断りしたの。そうしたら、突然坂上君が現れて、おしるこドリンクを飲ませたの!
坂上君たら、『僕を捨てる気かよ!』って怒鳴りながらおしるこドリンクを飲ませたわ。
二人は、出来ていたのよ。男同士なのに、愛し合っていたんだわ。ケダモノよ!
そして、日野先輩が死んだのを確かめると、突然私に襲い掛かってきて…私、犯されそうになったの!殺されそうになったの!!」
「ちょっと、倉田さ……お、おい!みんな、何をするんだ!?これは何かの間違いだよ。助けてっ!」
……坂上君、みんなに連れて行かれてしまった。
その日、テレビはこのニュースで大騒ぎだったわ。
「学園に巣食う同性愛の魔の手」
その餌食になった可愛らしい女子高生。あ、また電話が鳴っている。
「はい、もしもし……えっ、取材?でも、精神的につらくってテレビの取材なんか……
取材費300万円ですか?いいです、やります。えっ?再現ビデオですか?やらせでもいい?捏造したい?
でも、さすがにそんなことしたら坂上君、いくら未成年だからって死刑になっちゃいますから……え?
女優に興味ないかですって?水曜サスペンス劇場でこの事件をドラマ化?自分役で私を主役に?やります、やります。
捏造でも何でもやりましょう。任せてください、体当たりでやりますから。詳しい打ち合わせですか……そうですね、それでは……」
坂上君、日野先輩、ありがとう。私はあなたたちを肥やしに大空へ羽ばたきます。
終
>
「日野先輩!大丈夫ですか!?しっかりしてください!!」
ちょっと、こんなところで死なないでよ。こんなところで死なれたら、私の人生お先真っ暗じゃないの。
……ん?ポケットの中に変な紙切れが……これ、来週の七不思議に呼ぶ語り部達のリストじゃないの!
しかも、殺人クラブですって?学校の七不思議の特集なんかよりも、よっぽどこっちの方がスクープじゃないの。
この学園には気に入らない相手を殺す殺人クラブという謎の組織があり、そのリーダーが日野先輩だったなんて。
さらに、今回の七不思議の集会は仮の姿で、聞き役として呼んだ坂上君が実は今回の殺しのターゲット。
でも、日野先輩は残念だったかしら。病院に急いで運ばれていったけれど、もう間違いなく死んでいるものね。
となると、この秘密を知っているのは今度の七不思議の集会に現れる殺人クラブのメンバーと私だけ。
<スクープにする場合
あ~あ、大スクープだと思ったのになぁ。私の話なんか誰も信じてくれないし。
でも、こんなことで挫けていたらいけないわ。明日から、証拠集めだわ。
(呼び鈴が鳴る)
あら、誰かしら?今日に限って、家族誰もいないのよねえ。
「(岩下明美)こんばんは。あなたが倉田さん?」
何、この人。いきなりカッターなんか取り出し…
(頸を切られる)
「倉田さん?あのね、世の中にはあまり首を突っ込まない方がいいこともいっぱいあるの。
特に今回、あなたは開けてはならない扉を無理矢理抉じ開けてしまったのよ。その酬いは受けなければならないわ」
終
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227 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/16 (Thu) 10:05:48
こんな話、証拠もないのに信じてくれる人なんていないわよね。
となれば……
一九九五年六月四日 日曜日
「こんにちは、あなたが福沢さん?新聞部の倉田恵美です。実は七不思議の集会のことで相談があるんだけれど……」
「ねえねえ、恵美ちゃん。せっかく来たんだから、お茶でも飲んでいきなよ」
<遠慮した場合
危ない、危ない。こんな顔してても殺人クラブの一員なんだもの。家に上がって気を許したら何をされるかわかっ……
(殴られる)
おぼつかない足取りで私が振り向くと、真っ赤な視界の中で福沢さんがゴルフクラブを手にして笑ってた。
「日野先輩が集会のメンバーを人に言うわけないじゃん。知ってるってことは、あんたは入っちゃいけない領域に入っちゃったってことでしょ?」
終
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「私の部屋でくつろいでて。お茶もっていくから」
……へぇ、結構可愛い部屋じゃん。
<部屋を漁った場合
あの顔で殺人鬼なんだから、きっと部屋にもそういうものがあるよね。
<コーヒーを飲んだ場合
あ、なんか気持ち悪い。げほ……苦しいんだけど。あ、息できない。
「どう?おいしい?私の淹れた特製コーヒー。このノートね。私が今までに見てきたいろんな人の死に様を記録したノートなの。
『生と死に関する百日の動向』っていうんだけれどね。恵美ちゃんも、ちゃんとこのノートに記録してあげるから。よかったね、きゃはは…」
終
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<玲子に飲んでもらう場合
どう考えても怪しいわ。
「ふ~ん、いいよ。じゃあ、私が飲んであげる」
「ぎゃっ!熱い、熱い、熱いよっ!!」
「どう、恵美ちゃん?激熱コーヒーのお味は?何を企んでいるのか知らないけれど、あんた知りすぎ。死んじゃえばいいわ!」
終
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福沢さんを訪ねると、どうやっても私は殺される運命にあるじゃないの。
一筋縄じゃいかない。どうあがいても、私が殺されてしまう。
明日は月曜日だし、このリストを使って坂上君に目にもの見せてあげるわ。
228 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/16 (Thu) 10:17:46
一九九五年六月五日 月曜日
「あなたですか……僕を呼び出したのは」
「そうです。新聞部一年の倉田恵美です。よろしくお願いします、荒井センパイ。
ところで、この屋上、素敵ですよね?もしここから人が落ちたら死んじゃうと思います?
実は、知ってるんですよ、私。荒井センパイて人の死に興味があるんですよね?」
「だったら、何なんですか?人が死ぬことに興味を持つのは罪ですか?誰だって死ぬんです」
「屋上から人が落ちたら、死ぬと思います?」
「あなたが興味あるのならば、自分で確かめればいいでしょう。なんなら、自分でここから飛び降りたらいいんじゃないですか?」
「そんなこと言って、荒井センパイて本当は興味あるんですよね。屋上から人を突き落としたくてうずうずしてるんですよね?」
「……なるほど。あなた、自殺したいんですね。自殺したいんだけれど、死ぬ勇気がない。そこで協力者を探したところ、僕の存在を知った」
「そんなぁ!私、自殺願望なんてないですよ。それより、ある人間を一緒に突き落としません?」
「やあ!倉田さん、待ったぁ!?どうしたの?急に大事な話があるなんて……あれ?えーっと、こちらの方は?」
「あ!種違いの兄弟なの。実は私のお父さんて、やくざで出入りの時に人殺しちゃって。それで再婚したお父さんの子供なの」
「そうなんだ。倉田さんて、ずいぶんと複雑な環境で育っているんだね。それで、話って何かな?」
「あ、その前に、さっきね、ハンカチを落としちゃったから、ちょっと見てほしいんだけれど」
「落としちゃったの?じゃあ、取ってくるよ」
「この柵から身を乗り出して下を覗いてちょうだいね、坂上君(さあ、早く突き落としてちょうだい!)」
「あなた、悪魔のような女ですね。それじゃあ、お言葉に甘えて……」
「うわぁーーーーーーーっ!!」
「やたっ!成功よ!!」
(その頃直下では)
「それにしても、よく無事だったな、日野」
「ああ。さすがの俺も死ぬかと思ったけれどな。何とか間一髪で一命は取り留めたよ」
「とりあえず、日野様が無事で良かったよ」
「ん?おい、何か上から降ってくるぜ」
「何?何が上から降っ……うぎゃあーーーーーーーーっ!!」
「おい、日野!誰か救急車だっ!!」
「おい、新堂。救急車なんて呼ぶな。日野なんて、いつも威張り散らすだけのお荷物野郎さ。このまま死んじゃった方が、みんなのためじゃない?」
「風間……日野がいなくなりゃあ……確かに俺たちの天下か?」
「それが一番だよ。この時間、僕達はここを通らなかった。だから、何も見なかった」
一九九五年六月九日 金曜日
「倉田さん、お見舞いに来てくれたの!?ありがとう」
「でも、坂上君て運がいいわよね。屋上から落っこちたのに、たいして怪我しなかったんだもの。来週からは学校に行けるんでしょ?」
「うん。もう何ともないんだから早く学校に行きたいよ。それより、日野先輩の容態はどう?」
「まだ意識不明の重体よ。おそらく、このまま死ぬまで植物人間の可能性が高いんですって」
「屋上から落ちた時、下に日野先輩がいてクッションになったおかげで、こうして僕は無事でいられるんだ」
「坂上君が悪いんじゃないわ。すべては坂上君を突き落とした荒井が悪いんだから」
「屋上にいた君のお兄さんかい?」
「ごめんなさい、坂上君。実は私、嘘をついていたの。いいえ、嘘をつかされていたの。あの荒井という男は、私の兄でもなんでもないわ。
あの荒井って気味の悪い男に付きまとわれるようになったの。毎日のように日野先輩と付き合わないと殺すぞって脅かされて……それで
私、実は好きな人がいるんだってつい言ってしまったの。その好きな人が……坂上君なの。
嘘よ?もちろん、日野先輩から逃げるためについた嘘なのよ?でも、勝手に坂上君の名前を使ってごめんなさい。
でも、その嘘のせいで坂上君をこんな目に合わせてしまったわ。あの荒井って男は坂上君を屋上に呼び出せって私に命令したの。
きっと、邪魔な坂上君を屋上から飛び降り自殺に見せかけて殺そうとしたのね。私のせいで……ごめんなさい、坂上君!」
「泣かないで、倉田さん。日野先輩ってそんなに酷いやつだったのか。こんな目に遭ったのも自業自得だよ」
こいつ、本物のオバカ。
「それより、あの荒井って男はどうなったの?」
「……それがね、実はあの男、殺人鬼だったのよ」
「鳴神学園でね、去年、何人もの不良が行方不明になる事件があったんだけれど、実はあの荒井が屋上から突き落としていたらしいのよ。
相沢って男が屋上から突き落としたって言い張っているらしいんだけれど、相沢なんて生徒はその頃の鳴神学園には一人もいなかったの。
要するに、全ては荒井の妄想?彼ね、多重人格者で、完全に頭がイカレているみたい。
警察に捕まった時もね、坂上君を突き落とすように命令したのはこの私だなんて言い出したのよ」
「それはそうと……今日予定されていた七不思議の集会はどうなったの?」
「もちろん、中止になったわ。今度は二人で何か企画を立てましょうよ。やっぱり夏だから、怖い話がいいわよね。
全国の心霊スポットを集めた特集記事なんてどうかしら。タイトルは……そう四八」
その頃、新聞部では……
「ああ~、みんな来るの遅いなぁ。今日は、楽しみにしていた七不思議の集会なのに、まだ誰も来ないなんてオドロキだよ。
でも、坂上君てどんな子なんだろうなぁ。友達になれるかなぁ。うふうふ……でも、友達になってもすぐに殺しちゃうんだよなぁ。
もったいないなぁ。ああ!だんだんトイレに行きたくなってきちゃったし……どうしよう、どうすればいいんだ。教えてトイレの花子さん」
終
229 名前:アパシー 学校であった怖い話 2025/10/16 (Thu) 10:35:28
長かったですが『アパシー 学校であった怖い話 ~Visual Novel Version~』はこれで終わりです