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散る〜.2

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散るは花












「あれはマジやばいって! さっき門の所で声掛けられたんだって!」

「うああ~~~そんなにかっ!? あ~、早く見てええ~~!!」

「いいから早く見に行こうぜ!」


バタバタと目の前を走り去って行った部下達に、土方は首を捻る。

一体何の話をしているのかはさっぱり分からなかったが、走って行った先は土方を呼び出した局長である近藤が指定した会議部屋の方向だった。

先日屯所の勤務医が老齢のため引退することになり、その代わりの医者が今日から来る事になっているのだが、先ほど到着したから顔合わせの為に集まるように言われたのだ。

ヤバい。

という単語に土方は嫌な想像をする。


まさかスプラッタのように顔とか体が崩れているのでは?


ゾゾゾ……


全身が総毛立つ。

普通の顔の人間でありますようにと心の中で願いながら、部屋の前に立った。


「土方です」

「おう、トシか、入れ!」


近藤の声がして障子を開けると、近藤の隣りに座っている人物を見て驚いた。


「あ……あんたはーーー」

「……あ、土方さん。こんにちは」


あの日、公園のベンチで相席をした銀時の知り合い、吉田操がこちらに向かって微笑んでいた。


「なんだ、トシ。お前操先生と知り合いだったのか?」


操先生?


「ええ、先日公園でお会いしたんですよ。ねえ、土方さん?」

「そうですかー。あいつ副長なんで、困った事があったら何でもあいつに言ってください」

「はい。ありがとうございます」


驚く土方を他所に、開かれた障子の向こうから次々に部下達がなだれ込んで来た。


「初めましてっ! お、俺っ、三番隊の……」

「てめえっ! 抜け駆けしてんじゃねえ! あの、俺はっ!」

「自分は副長の部隊の……」

「ええい、やかましいっ! てめえら静かにしろ!!」


びっくうううう!!!!


土方の雷が落ち、部下達は直立不動の姿勢になった。


「大人しく座りやがれ」

「「「はいっ!!」」」


ドタバタしたやり取りを見て、操がくすりと笑う。

その笑顔に全員の鼻の下が伸びた。


「おっと、大体揃ったな。それじゃあ新しい先生を紹介する。先日引退したじじいの代わりに今日からここ真選組の屯所の勤務医となられた、吉田操先生だ。お前ら迷惑かけるんじゃねーぞ!」

「「「はいっっ!!!!!」」」


土方はまだ実感を得ていなかった。

しかし、この偶然の再会がなんとなく嬉しくもあった。

目の前の操は今日は白衣を着ていて、髪の毛も後ろで一つにまとめ上げている。

キリリとした表情は、医者という職業にまったく似つかわしいと思えた。


「今日から勤務医としてここで働くことになりました、吉田操です。皆さんのお役に立てるように頑張ります。病気や怪我のことなら何でも相談に乗りますので、いつでも医務室に来てくださいね」

「「「はあ~い」」」


全員がだらしのない顔で返事をする。

そんな部下達の不甲斐なさに軽くため息を吐いていると、近藤に名前を呼ばれた。


「それじゃあトシ。お前医務室まで操先生をお連れしろ」

「了解」


立ち上がった土方を、全員が恨めしそうな顔で見る。

ちょっとだけ優越感。


「おい、行くぞ」

「あ、はい。お願いします」


副長いいな~。という部下達の声を無視して、土方と操は会議部屋を出た。

廊下を歩きながら少し下がって隣りを着いて来る操を見る。

微笑をたたえたその顔に、土方は柄にもなくドキドキと胸を躍らせる。


「この間公園でお会いした時」


ふいに話し始めた操に、土方は顔をそちらに向ける。

にっこりと土方に笑いかける操。


「真選組の方だって聞いたので驚きました。あの時にはここでの勤務が決まっていたので、また会えると思って何も言わなかったんですけど」


でも銀時が邪魔だったから話せなかったのが本当ですけど。と言って苦笑した。

万事屋とどういう関係なのか、ずっと気になっていたので聞いてみることにした。


「万事屋とはどういう関係なんだ?」

「え、銀時ですか? まあ、子どもの頃からの腐れ縁です」

「幼なじみか?」

「まあ、そんなところです」

「ふうん」


付き合ってるのか。

とは聞けなかった。

多分そういう関係ではないのだろう。もし恋人同士ならどういう関係か尋ねた時にそう答えるだろうし、わざわざ幼なじみと嘘を吐く必要はないからだ。

ただし、あの慌てぶりから察するにあのくるくるパーマはこの操に惚れている事は間違いなかった。


「あいつの子ども時代なんざ想像出来ねえな」

「ふふ。あのままですよ。背が小さくなったくらいです」

「なんだ、そりゃまた随分と可愛げのねえガキだな……あんたは子どもの時から可愛かったんだろうな」


ーーーーな、何を俺は口走ってんだ?


土方は自分で驚いた。

こんな軟派な言葉を自然に言ってしまうなんて、初めてのことだ。

操はあまり気にしなかったようで、適当な返事をした。


「子どもはみんな可愛いです。土方さんも可愛かったでしょう?」


軽くかわされたことに多少ショックを受けながらも、土方はほっとした。

女に対して誰彼構わずそんな軽口を叩く男だと思われたくなかったのだ。


何故?


湧き上がる自身の疑問に、土方は操の目を見て言葉を詰まらせた。


「どうしたんですか?」


見上げる操の顔に、土方はまたドキリとした。

信じられないという思いと同時に、今自分の中に芽生えようとしている感情が何かに気付く。


「いや……俺のガキの頃か。まあ、生意気なガキだったな」

「この人はこう見えて実はモテるんでさぁ。しかももうぞっこんラブな女がいましてね。いや、それはもう美人でして。一途に大切にしてる女がいるんだから驚きですぜぃ」

「へえ。土方さんの恋人ならさぞお綺麗な人なんでしょうね」


突然後ろから湧いて出て来た沖田総悟に、土方は驚いて体を反らす。


「てっ、てめえは! どっから湧いて来やがった!!」

「ひどいなあ、土方さん。人をゴキブリみたいに。遅れて会議部屋に行ったら、近藤さんが土方さんと新しい先生が医務室に向かったから着いて行ってちゃんと挨拶しろってんで、来たんでさぁ」


そう言って操の手を握って挨拶をする、沖田。


「初めまして、沖田総悟でさぁ」

「初めまして、吉田操です」

「なあ操。あんたM?」

「え?」


いきなり年上を呼び捨てにし、さらにはとんでもないことまで聞き始めた沖田の頭をガシッと腕で絞めると、土方はギリギリとグーで沖田の頭頂部を攻撃した。


「お前は何様のつもりだ、コルァ!」

「何様って、俺様にきまってるじゃないですかぃ。いたたたた」

「しかも何ホラ吹いてやがるんだ! 誰が誰にぞっこんラブなんだ、このやろうっ!」


沖田は素早く土方の腕から逃れ、操の後ろに逃げた。


「操。この男、俺の姉貴にそれはもう惚れてましてね」

「へえ、沖田さんのお姉様?」

「総悟って呼べよ」

「え? あ、総悟……君?」

「それでもう二人とも相思相愛。髪の毛一本も二人の間に入る隙間もないくらいラブラブなんでさぁ」

「素敵ですね。そんなに愛し合える方がいるなんて」

「そりゃあもう、あっさり捨てて置き去りにしちまうくらい」

「置き去り……?」

「だあああーーーーっっ!! うるせえっ! 総悟っ、てめえいい加減にしやがれっ!!!!」


抜刀して沖田に切り掛かった土方をヒラリと躱し、沖田は無表情で笑いながら庭へと逃げた。


「はははは、土方さんが怒ったー」

「戻って来やがれっ! 叩っ殺してやる!!」

「くやしかったらここまで来やがれってんだぃ」


興奮して肩を怒らせる土方に、操が笑う。


「仲が良いんですね」

「どこをどう見たらそんな言葉が出て来るんだっ!? いいか、あいつには近づくな、知らない間に体のどこかに針刺されて体の自由を奪われるぞ!」

「そうなんですか?」

「あいつはこの世のものとは思えないくらいのドSだからな」

「ああ、なるほど」


飄々と言う操は、あまり気にしていないようだ。

大物なのだろうか。


「ちっ、あの馬鹿の所為で疲れちまった。ほら、行くぞ」

「はい」


廊下を再び歩き出す。隣りの操は相変わらず微笑をたたえている。

ふと冷静になる土方。

先ほど沖田が言った沖田の姉との事は半分本当だった。

ただ、危険な仕事に就いている土方の所為で沖田の姉であるミツバにも危険が及ばないようにと自ら身を引いた。

お互い好き合っていたことは確かだ。

だが、そういう愛の形があってもいいと土方は思っていたし、ミツバもそれに納得してくれていた……と思う。

危険に晒したくない、ミツバの幸せのために離れるのは男として当然だと、それが自分、土方十四郎なのだと、そう思っていた。


それなのにーーー


隣りを着いて来る操に、ミツバの姿を重ねてしまう。

いや、ミツバとは違う操の持つ何か不思議な雰囲気に惹かれてしまう。

まるで誰かを好きになることを土方に思い出させるように、操は土方の心の琴線をくすぐるのだ。


「でもいいですね」

「あ?」

「沖田さんのお姉さんです。土方さんみたいな素敵な方にそんなに大切に想われて」


無邪気に笑う操に、土方は視線を逸らして言った。


「ーーーそんなんじゃねえっつってんだろ」

「……土方さんは嘘が下手ですね」

「あん?」

「だって、沖田さんのお姉さんの事、本当は好きなんでしょう? もしかして危険なお仕事だから、身を引いた。とかですか?」


土方は驚いた。操はすぐに気付いたのだ。


「ちっ……何とでも言いやがれ」


吐き捨てるように言いながら、自分で傷ついていた。

やはりまだミツバの事が引っかかっている。


「好きなら好きでいいじゃないですか。そんなに大切に想える人なんて、そうそう出逢えませんよ」


それに対して何も答えはせず、土方は操に気付かれないように顔を前に向けて小さく舌打ちをした。


「ーーーちっ」


そこでちょうど医務室に到着した。


「ここだ」

「ありがとうございます」

「何かあったらいつでも言いな。ただし、総悟にだけは頼るな、あいつ何するか分かったもんじゃないからな」

「はい、分かりました。土方さんは煙草吸いすぎないようにしてくださいね」

「ちっ……ほら、これが鍵だ。スペアはもう一人の医者と俺が持ってるが、それはきちんと自分で管理しろよ」

「ありがとうございます。それでは失礼します」


頭を下げて医務室に入って行くのを見届けると、土方はため息を吐いた。











                               続く…






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