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散る〜.7

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散るは花












操は武州にやって来ていた。

のどかな田園風景に子どもの頃が思い出されて、自然と心が穏やかになる。

しばらく民家と田んぼが交互に続くあぜ道を歩いていると、目的の家を見つけた。

庭木の向こうに綺麗に掃かれた庭が見え、玄関へと続く門をくぐった。


「御免ください」


声をかけると返事が聞こえ、しばらくして中から色白の美しい女性が姿を現した。


「はい、どちら様でしょうか?」

「初めまして、私、吉田操と申します。真選組の屯所で医療を担当させて頂いてます」

「まあ、真選組? 総ちゃんたちの?」


目を丸くさせ驚くその所作があまりに繊細で、操はなんと美しい人なのだろうと感心する。


「はい。あたなが沖田ミツバさんですね?」

「ええ……あの、どうぞあがってください」

「ありがとうございます、失礼します」








玄関から中へ招かれ、操は客間でミツバと向かい合った。


「どうぞ、お構いなく」


お茶と見た事もないくらい真っ赤に染まったせんべいをお盆に載せちゃぶ台に置いたミツバ。

そんなミツバに苦笑いを向け、操はすぐ真面目な顔になると用件を伝えた。


「今日お伺いしたのは、あなたのご病気の事です」

「私の……?」

「はい、肺臓の病とお聞きしました。失礼ですが、このような田舎では十分な治療が受けられないのではないですか?」

「ーーーええ」

「総悟くんや土方さんが随分心配されています。今日はぶしつけとは思いましたが彼らに頼まれた訳ではなく、私個人としてあなたの病状を看に来てしまいました」


真摯な目でそう伝える操に、ミツバはまた驚いた。

個人的に会った事もない知り合いの姉に会うため、江戸から武州までやって来たというのだ。


「あの、でも……」

「肺の病にはきれいな空気と安静が一番です。ですが、あなたに会って診察して、お薬をお出しする事くらいは出来ると思うんです」

「だけどとても遠いし、診察に来て頂くのはちょっと……」

「分かっています。ですからなかなか来られないとは思いますが、こうやって一度診察しておけばこちらの医者と話しが出来ますし、指示を出す事は電話でも出来ますから。それに、少しでも病状が安定すれば総悟君たちも安心するでしょう?」


そう言って微笑む操に、ミツバは嬉しくなって頭を下げた。


「お気づかいありがとうございます」


そして操はミツバの診察を始めた。














診察が終わり、カルテを書いていると、ミツバが遠慮がちに言葉を発した。


「……わざわざお越し頂いて看てもらったので大変言いにくいんですがーーー」

「どうぞ、遠慮なさらずおっしゃってください」


畳に視線を落とし、ミツバが言った。


「はいーーーあの、実は……最近縁談があったんです」

「縁談?」


驚く操。

操の初見では、ミツバの状態は決して良いものではない。

結婚に耐えられるほどの体力もないだろうし、ましてや子どもを産むなど不可能だ。

それなのに縁談とは、一体どういうことなのか。

目を丸くする操に、ミツバは続けた。


「江戸の貿易商の方なんですが、とても優しい人で……病気の私に優しくしてくれますし、江戸で最新の治療を受けさせてくれると」

「あ……そうでしたか。では私が出しゃばる必要はありませんでしたね」

「い、いいえ! とても嬉しかったです。総ちゃん達の近況も聞けましたし、あなたのようなお医者さんがいるなら、江戸でも安心して治療が出来ます」

「……ありがとうございます。その言葉が聞けただけで、ここまで来た甲斐があるというものです。それで、いつ江戸に?」


恥ずかしそうに頬を染めるミツバは、結婚出来るのが嬉しいのだろう。

しかし、その表情はどことなく悲しげでもあった。

土方の事が気になっているのではないかと操は思った。


「再来月に行く予定なんです。総ちゃんにもまだ話してなくて、近々手紙を書こうと思っていた所なんです」

「そうでしたか。それは総悟くんも喜ぶでしょうね」

「そう、思われますか?」


ふいに心配そうに眉をひそめたミツバ。

操は首を傾げる。


「ええ。きっと姉上の幸せを願っているはずですから」

「ーーー私、このまま結婚して本当にいいんでしょうか?」

「…………」

「……あらいやだ。私ったら初対面の操先生にこんなお話しして。ごめんなさい、忘れて下さい」


慌てて取り繕うミツバに、操は表情を緩めた。


「土方さんの事、ですか?」


驚いたように操の顔を凝視すると、ミツバはすぐに目を伏せ、無言で微かに頷く。


「あなた達の間の事は私にはもちろん分かりません。ですが、一つ言わせていただくなら、愛の形は人それぞれです。時には我慢や引く事も大切ですが、正直に気持ちを打ち明けることはもっと大切です……あなたが今でも土方さんを大切に想っているのと同じように、土方さんもあなたを大切に想っていますよ」


操がそう言うと、ミツバは瞳を潤ませながら微笑んだ。


「ーーーありがとうございます……そう言っていただけて、力が湧いてきました……私、結婚して幸せになります」











                               続く…






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