チェンジ・ザ・ワールド☆
1日目・No.2
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私のやんごとなき王子様
「せんぱーーい! 小日向せんぱーーい!」
ふいにはるか後方から自分を呼ぶ声を聞いてやっと意識が現実世界に戻ってくる。
声のした方へと視線を向けると、そこには後輩の波江潤(なみえ じゅん)君がこちらへ向かってさわやかな笑顔のまま走ってきていた。
「おっ、誰かと思えば次期王子様じゃない。今日は朝からモテますなぁ」
さなぎがからかうように私を小突く。
「もうっ、なに言ってるのよ」
「いいの、いいの! 私の事はお気になさらず! 先、教室行ってるね~」
勝手にそんなことを言って軽やかな足取りで階段を上って行ってしまう。
まったくもう。
「先輩、おはようございます!」
さなぎを目だけで見送っていると、既に私の横には潤君がいた。
「おはよう、潤君」
私が返事をすると、彼は本当に嬉しそうに笑った。
その笑顔の可愛さに思わず私の顔も綻ぶ。
潤君は今年入学したばかりの一年生。けれどその整った容姿と人懐っこい愛らしさに風名君が卒業した後の、学園の次期王子様は彼になるだろうと早くももっぱらの評判なのだ。
「どうしたの? そんなに息を切らせて」
潤君は私のことを『小日向先輩』と呼んで懐いてくれているけれど、なにも部活動が一緒だとかそういう訳ではない。私は彼が入学してきた時に学校の案内を務めただけなのだ。けれどなぜだかそれをきっかけに、こうしていつも屈託のない笑顔を彼は私に向けてくれる。
「実は……あのっ」
いつもハキハキしている潤君にしては珍しく言いよどんだので、私は少しだけ不審に感じた。一体どうしたんだろう?
「あ、えっと……せっ、先輩は演劇祭って何を担当なさるんですか?」
「えぇ?!」
びっくりした。まさか潤君にまでそんな事を聞かれるだなんて思っていなかったから。
「え……と私は……まだ……なの」
先輩でありながら、まだ決めかねている自分がなんだか情けなくって、思わず声が小さくなった。
「そうなんですか?!」
そんな私の答えを聞くと、潤君は子犬のようにキラキラと目を輝かせて私のほうへと一歩踏みよった。
えーっと……これは……?
「実は僕、今度の演劇祭で風名先輩の従者役を務めるんです!」
「そうなの? 凄いじゃない! おめでとう!」
私は思わず手を叩いて喜んだ。
だってあの風名君の従者役なんて、望んでも出来るものじゃない。さすがは次期王子様といったところか。今度の演劇祭で潤君自身も、各メディアから相当な注目を浴びる事だろう。
「ありがとうございます!」
私の素直な喜びに、潤君もまた心から嬉しそうに笑った。
「え……っと、それで」
そうかと思うと、またも言いよどむ潤君。一体どうしたっていうのだろう?
「うん、なあに?」
私が優しく声をかけると、意を決したように潤君は私を真っ直ぐ射抜くように見つめてこう言った。
「小日向先輩も、舞台に立ちませんか?!」
「へ?」
思わず間抜けな声が出た。
だって。私が? 舞台に? 風名君や潤君や亜里沙様と並んで?
あり得ないあり得ない……想像しただけで恐ろしくて、思わず私は身震いした。
「小日向先輩は、きっと舞台の上でこそ輝くと思うんです! それはもう絶対!」
きっとなのか絶対なのか、どっちなのよ……と心の中で突っ込みつつも、この展開に脳みそが追いつかない。
「えー……っと、私は……」
「僕、練習日に会えるのを待ってますから!」
言いたいことだけ言うと、潤君は照れ臭そうにはにかみながら、校舎の中へと消えて行った。
舞台……って言われても、困るわよーーーーーーっ!
私は心の中で絶叫し、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
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