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雨の日に〜4−6

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4-6
















 津田政昭は、警察署内の会議室で対峙する女性二人を先程から何度も見比べていた。

 一人は二十四歳の塾講師の坂井春香で、もう一人は密かに自分が想いを寄せている、国の機関である科学警察研究所の成川皐子。年齢は知らないが、自分と同じくらいでおそらく二十代後半くらいだろう。


「急にお呼び立てしてすみません」


 ぺこりと成川が頭を下げると、坂井はいいえと笑顔で答えた。


「何か私に聞きたい事があるとか……岡部先生に関係ある事で、私に出来る事なら何でも協力しますから、何でも聞いて下さい」

「そうですか……では早速ですけど坂井さん、あなたが聖パトリキウス女学院に在学していた時の事を窺いたいんです」


 成川の口から出た母校の名前に、坂井は一瞬顔を曇らせた。しかし黙って成川の言葉を待つ坂井に、成川は話しを続けた。


「昨日色々と調べさせて頂きました。本村理恵さんが、高校生の時に売春の斡旋をしていたとか……これは事実ですか?」

「ーーーそれは、理恵の事件と関係がある事ですか?」


 暗い表情でテーブルを見つめて言う坂井に、成川は、


可能性があります。もしそれが事実で、我々が調べた人物と本村理恵さんとの接点が見つかれば、新たな証拠になるはずです」


 と言った。成川の言葉に坂井は驚いて、


「っ!? それは、理恵を殺した犯人かも知れない人が分ったって事ですか?」


 と言うと、浮かしかけた腰を椅子に降ろして、しっかりと頷く津田と成川を見た。そして神妙な顔で目の前のコーヒーをじっと見つめ、ぽつりと語り出した。


「……理恵とは、小学校の時からずっと一緒でした。あの子お金持ちのお嬢様で、ちょっと我が儘な所もあるけど、根は優しい子なんです。周りの子は理恵の事を自己中だって言って嫌ってたみたいですけど、私は理恵のハッキリとものを言う態度とか、顔立ちとかスタイルとか、とにかく全てが羨ましかったし、好きでした……中学校から聖パトリキウス女学院に一緒に入学して、高等部の2年の終わりくらいから、理恵は少しずつ変わりました。彼氏が出来て、その男に誑かされて売春の斡旋をするようになったんです……」

「彼氏ーーーじゃあ、やっぱり売春の話しは本当だったんですね……」


 津田が唖然として独り言の様に呟くと、坂井は悲しそうに頷いた。


「はい……私は何度も辞める様に言いました。でも、やっぱり好きな人の言う事だし、辞めたら嫌われるのが嫌だと言って……」


 池末が言っていた、父親の仕事関係のやくざとは関係がないのか。

 成川はチラリと視線を天井に向けて続けた。


「売春が行われていた期間とか、場所、相手の人とか何か分りますか?」


 成川に尋ねられ、坂井は何かを思い出すようにふと窓の外を見た。つられて津田も外を見る。

 殺風景な室内よりはいくらかましな、緑の小高い丘が見える。その中は広い公園になっていて、ここからは見えないが奥には動物園もある。

 会議室はコーヒーの香ばしい香りが充満していた。


「ーーーそうですね、期間は確か私達が高校3年生の夏休みの少し前から、2学期の途中くらいまでだったと思います。場所は、比佐市内から少し離れた所にある『ミモザ』という名前のホテルでした……相手の人は理恵の彼氏が連れて来ていたみたいで、私には分りません」


 相手は本村理恵の彼氏が連れて来ていた。その事に成川は疑問を抱いたが、それには触れず続けて質問をした。


「なるほど、あなたは手伝いをしていたんですか?」

「……はい。理恵の彼氏が組関係の人で、男性と一度会うのに4万円でOKしてくれる女の子を探して、ホテルまで案内するように……脅されて手伝わされてたんです……」

「組関係者!? どこの組の誰か分りますか?」


 津田の鼻息が荒くなり、それに少し驚いた坂井は少し体を後ろへやると、首を横に振った。


「いいえ、分りません……ただ、俺は組の者だから、大人しく言う事聞いて理恵の手伝いをやらないと、理恵も私も二度と普通に生活出来ない様にするぞと脅されて……」


 やはりヤクザが関係していた。

 比佐市でそう言った事に長けている事務所ならば、道現組か……と、津田は考えた。


「その本村さんの彼氏というのは、本村さんのお父様の仕事関係の人なんですか?」

「え? いいえ……」


 と、坂井が何か言いかけると、部屋の入り口が開いた。

 津田が振り返ると、加藤が入って来た。


「先輩」

「おう、すまない。途中からだが、俺も聞いていいか?」


 加藤は椅子を一つ引き寄せると、津田の隣りに腰掛けた。

 津田が簡単に今までの内容を加藤に説明すると、成川と坂井は加藤を見て微かに頷き、話しを続けた。


「男の名前とか連絡先は分りますか?」


 成川に尋ねられ、坂井は俯いて首を横に振った。


「分りません。ただ、理恵は『サトル』と呼んでいました」

「本村理恵さんはそのサトルという男と、どこでどうやって知り合ったかはご存知ですか?」


 津田が尋ねた。


「確か……ゲームセンターでナンパされたとか言ってました」

「ゲームセンター? どこのですか?」


 さらに津田が尋ねる。


「堂ヶ崎駅近くの、商店街のゲームセンターです。高校の帰りにたまに寄り道して遊んだりしてたんですけど、理恵が一人で行った時にナンパされて、格好いい人だったから仲良くなってそれから付き合う様になったと」


 そこで二人の会話は途切れてしまった。

 成川は何やら考え事をしている様子だった。

 しばしの沈黙の後、加藤が静けさに痺れを切らした様に坂井に尋ねた。


「……その、サトルって男の特徴は? 大体の年齢とか、身長とか、分からないか? 顔知ってるんなら似顔絵とか作れるだろうし」


 加藤に言われ、坂井も気付いたらしく頷いた。


「そうですね、顔を見ればすぐに分ります。年齢は確か、22歳だと理恵が言ってました。身長は170センチくらいで、痩せ形でした。特徴は……確か左目のすぐ下に、泣きぼくろがありました」

「話し方に特徴とか無いですか?」


 成川が言うと、坂井はしばらく考えた。


「話し方……ですか? ちょっと分りません」

「あと、売春の時期が高校3年生の夏休み前から2学期の途中という中途半端なのは、何かあったんですか?」


 さらに成川に質問され、坂井はチラリと腕時計に目をやり答えた。


「ええ、理恵が彼氏と別れたんです……別れたというか、彼氏と急に連絡が付かなくなったみたいで……だからもう売春なんてする必要なくなったから」

「連絡がとれなく……」


 加藤はぼそりと呟いた。それに被せる様に成川が尋ねた。


「女の子はどうやって探していたんですか?」


 成川に尋ねられ、坂井はピクリと肩を動かした。


「ーーー夜、高校生が溜まり場にしていた店があって、そこで遊んでいる人とかに声を掛けて……」


 坂井は消え入りそうな声で成川の質問に答えていた。

 よほど辛かったのだろう。今にも涙が溢れそうな声だった。俯いて、ぎゅっとテーブルの上に置いた自分の拳を握りしめていた。


「私が入手した情報では、同じ高校の子にも声を掛けた事があるみたいですけど……」

「……一人だけです。聖パトリキウス女学院は夜に遊びに出る様な不良はまずいないんですけど、一人だけ私が女の子を捜しに行っていたお店で偶然会った同級生がいて、そこで私が女の子を捜している事を知ったみたいで……ばらされたくなかったら私にもその仕事を回してくれと言って……」


 坂井が答えると、成川はふうとため息を吐いた。


「その女性は、古井仁美さん……旧姓松元仁美さんですね?」















                                  続く…












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