チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜4−7
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4-7
成川の口から出た名前に、加藤と津田は驚いて成川を見た。そしてすぐに成川と向かい合わせに座る坂井を見た。
坂井春香は驚いた様に一瞬目を見開いて、すぐに瞑るとこくりと頷いたのだった。
「古井仁美さんには先日お会いしました。とても感じの良い若奥さんで、着物も良く似合ってらっしゃいましたよ」
成川が言うと、坂井は微笑んだ。
「そうですか……彼女、親同士が昔からの知り合いで、勝手に決められた先方の息子さんと高校卒業したらすぐに結婚しました。クラスも3年の時一緒だったし、仲良くさせてもらっていましたけど、結婚以来嫁ぎ先のお仕事が忙しくて同級生とは会っていないみたいです……とてもいい人だと思っていたのに、あんな……あんな人だったなんて、裏切られたみたいでショックでした」
「高校を卒業して以来会った事は?」
「ありません……彼女も結婚して幸せになったのだし、私と会って昔の事がバレたら困るでしょうし……とは言っても、卒業前に彼女には絶対に売春の事は誰にも話すなときつく言われましたけど」
泣きそうな顔で微笑む坂井に、津田は胸が締め付けられそうな気分になった。なんと大人しくて不幸な女性なのだろうと。自分より若い身でありながら、波乱にとんだ人生ではないか、と。
「先日見て頂いた写真の男性には見覚えがないんでしたよね?」
成川が尋ねると、坂井は頷いた。
「ええ、コートを着て帽子を被った男性ですよね? ありません……」
「本村理恵さんは売春をしていたんですか?」
「ーーー」
黙ってしまった坂井に、成川は肯定と受け止めた。
「……していたんですね」
「断れなかったんだと……思います。でも、いくら好きな人の頼みでも、自分の体を売るなんて、そんな事……ひどすぎます!」
坂井が少し声を荒げたので、津田は驚いた。加藤を見ると、何かしら考え込んでいる様子だった。
「坂井さん、あなた自身は?」
成川に聞かれ、坂井は苦笑いをした。
「私は顔が可愛くないので、女子高生で可愛い子に声を掛けるだけでした……こう言っては何ですけど、あの時程美人に生まれなくて良かったって思った事はありません……」
そこで成川は何度か頷き、メモを取る手が止まっている津田に言った。
「……津田さん、そろそろ坂井さんはお仕事の時間ですから、今日はここまでにしませんか?」
津田も成川の言葉に我に返り、慌ててメモ帳をたたんだ。
「あ、そうですね。取り敢えず今日はこのへんで……また後日、本村理恵さんの恋人だった男の似顔絵作成に協力してもらう事になると思いますので、また連絡させていただきます」
「はい、分りました……すみません、私の都合でゆっくりお話出来なくて」
立ち上がって申し訳無さそうに頭を下げる坂井に、つられて津田と加藤も立ち上がった。
「いいえ、こっちが急に呼び出したんですから、お話聞かせてもらって、本当に感謝します」
「それじゃあ、失礼します」
そう言って坂井は頭を下げて会議室を後にした。
坂井が出て行ったのを確認して、成川と津田が座り直そうと振り返ると、加藤が難しい顔をして立っていた。
「どうしたんですか? 先輩」
津田が尋ねるも、加藤は眉間に皺を寄せて何かを思い出している様子だった。
「先輩?」
津田が不思議そうに顔を覗き込むと、加藤は急に目を開き、目の前にある電話の受話器を取り上げた。
その動作があまりにも急だった為、津田と成川はびくりと肩を竦め、互いの顔を見合わせた。
驚く二人を無視して、加藤は内線ボタンを壊れそうな勢いで大きな指で押した。
「……おう、俺だ。6年前に四山(よつやま)裏で見つかった変死体の資料、残ってるよな?ーーーおお、それだそれ、ちょっと出しといてくれ、今から戻って見るから……ああ、よろしくな」
加藤が携帯を切ると、津田が詰め寄って来た。
「先輩、何ですか? 6年前の変死体って?」
「あ? ああ……さっきのサトルってやつの話しを聞いてて、何かずっと引っかかってたんで、思い出してたんだが、6年前に県境にある四山の裏手で発見された変死体の特徴が似てるんだ……身元不明で名前とか結局分らず終いだったが、死んだ時期と坂井春香が言ってた男がいなくなった時期が同じくらいだし、もしかしたらと思ってな……」
「なるほど、先輩頭いいですね。そんな6年前の事を覚えてるなんて!」
「いや、この町で変死体なんて珍しいだろ? だから覚えてただけだよ……」
憮然と答える加藤に、津田は何だか微笑ましさを感じた。
「あ、でも……」
津田が急に声のトーンを下げた。
「どうした?」
「いえ、もし先輩の言う男がサトルって人物だったとしたら、もう死んでるって事ですよね?」
「そうなるな」
「そうなるとまた手掛かりが減りますね」
神妙な顔で言う津田に、加藤は鼻息を荒げた。
「ふん、仕方ないだろ。まだそいつが坂井さんの言う男と決まった訳じゃないんだし、それならそれで別の方向から調べればいいだろうが」
「それもそうですね……まあ、そいつかどうかは坂井さんに確認してもらうとして、売春斡旋に力を入れてる事務所に、サトルという男がいたかというのも調べてみましょう。後は、古井仁美にはもう一度会って話す必要がありますね……そこから秋杜に繋がる可能性もありますし……っ!? もしかして、古井仁美が秋杜の共犯って可能性は無いですかね?」
「でも彼女は写真を見ても驚いた顔はしてませんでしたよ? 牧夫さんに似てるとは言ってましたけど……」
成川が言い、加藤も頷いた。
「でも嘘を吐いてる可能性だってあるじゃないですか」
「嘘を吐いている様には、私は見えませんでしたけど……」
津田と成川のやり取りに、加藤は先程広渡に聞かされた事を思い出した。
本村理恵の衣服に付着していた女性の毛髪。
「おい、津田……」
加藤は二人に先程の毛髪の話しをした。
「じゃあ先輩、取り敢えず明日また古井仁美に会って、毛髪を提供してもらいましょう。DNA鑑定すればすぐに分りますし。あと、ミモザってホテルにも話しを聞かなきゃですね。サトルの事を調べないといけないし……」
加藤の話しを聞いた津田は、すっかり古井仁美共犯説に傾倒している様だった。ぶつぶつとこれからやらなければならない事を自己確認している。
「まあ、取り敢えずそれは置いといてだな、これまでの事をまとめて課長の所に行くぞ。毎回報告しろとか言われてたが、今までの内容じゃ違う仕事に回されそうだったしな。ここまでくればあの写真の男、桂元秋杜を容疑者として捜査対象に入れてもらえるだろうし、岡部も容疑者から外れるだろ」
加藤が言うと、成川が腕を組んで唸った。
「うーん……確かにこれまでの聞き込みで、犯人に近い人物が見えて来ている気はしますけど、岡部さんが犯人じゃないという確実な証拠になるかは怪しいと思いませんか?」
「何でだ?」
成川の言葉に加藤は眉間に皺を寄せる。
「だってどの点も確実に繋がってはいませんし、証明もされてません。分っている事は、おそらく桂元秋杜という性的錯綜者が、高校時代に売春行為を行っていた、自分が好きになった女性にそっくりな本村さんを6年前にどうやってか見つけた。そして確実なのは数週間前、その女性を数時間に渡って道端から覗き見していたという事です。そして不審者と思い声を掛けた加藤さんから逃げた……事実はこれだけです。事実かどうかも怪しい点が多すぎます。憶測だけで課長を納得させられるでしょうか?」
理路整然と述べる成川に、加藤は口を噤んだ。
「そんだけ分ってたら十分だろ……いくら課長が石頭でも、証拠が無いのにでっち上げた証拠だけで岡部を犯人に仕立て上げたら、後が困るのは分ってるだろうし」
そう言って加藤はすっかり冷めたコーヒーを一気に飲み干した。
続く…
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