チェンジ・ザ・ワールド☆
雨の日に〜5−6
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5-6
近藤が出て行った店内で、三人は押し黙って卓上の桂元秋杜の写真をじっと見つめていた。
何故、秋杜と坂井は度々会って話していたのに、写真を見せた時に坂井は嘘を吐いたのか。何か理由があったに違いないのだが、今はそれを想像することも難しい。
推理するという枠を超えすぎていて、今まで培って来た加藤の刑事としての感は、大して働かなくなってしまっていたのだ。
「本村理恵についてしつこく聞かれてたのかもな……」
加藤が独り言の様に小さく呟くと、岡部は向かい側に座る友人の顔を見上げた。
加藤達の話しによれば、本村理恵はあの時坂井と本村を覗いていた男、桂元秋杜の初恋の女性に良く似ていたという。おそらく本村を偶然見つけたのは6年程前だろうと言う事なので、坂井が何かしら秋杜と本村の接触を避けようとしていたのではないかと考えた。
優しい坂井の事だ、秋杜の異常性を感じて、友人である本村を守ろうとしたのではないか。
目の前のすっかり冷めたコーヒーを手に取り、岡部は口を付けた。
と、その時だった。
ぐったりと項垂れる女性の体を後ろから抱きかかえ、何やら女性の耳元で囁くコートを着て中折れ帽を被った人物の姿が岡部の頭に浮かび上がった。
コートを着た人物は顔を女性にくっつける様にしてしゃがんでいて、顔は見えない。
ぐったりとする女性の顔も、コートを着た人物の帽子に遮られ見えない。
ただ、地面には大きな水たまりが出来ていて、二人の姿が映り波紋でぼやけていた。
「おいっ! 岡部、大丈夫かっ!?」
加藤がテーブルから身を乗り出し、突然様子がおかしくなった岡部の肩を揺らした。
「あっ……ああーーー」
我に返った岡部は、頭を抑えた。
「お前、まさか……」
口を開けて岡部を見る加藤とは対照的に、成川は素早くノートを取り出した。
「何が見えましたか?」
岡部は今浮かんで来た人物と女性の事を詳細に二人に話した。
今日は頭に浮かんですぐだった為、今までより鮮明に伝える事が出来た。
もやもやと頭の中を何かが蠢く様な感覚に、岡部は一瞬吐き気を催した。
少し膜が張った様な感じがして、すぐに耳鳴りだと気付いた。加藤が誰かに電話をかける声が遠くに聞こえた。
坂井春香に注意する様にといった感じの事を話しているようだ。
「岡部さん、岡部さん! 大丈夫ですか?」
体を横から揺すられて、岡部は少し前のめりに体が倒れている事に気付いた。
「大丈夫……です」
どうやら軽い目眩がしたらしく、岡部は心配そうに自分の顔を覗き込む成川の手に自分の手を重ねた。
「あっ!……す、すみません」
「いっ、いいえ……」
互いに慌てて手を引っ込めると、加藤が不思議そうに岡部と成川を見下ろし、店から出ようと促した。
外はもうすっかりネオンで明るく照らされていた。
自分達の住む町の歓楽街と比べるのは申し訳ないが、やはり規模が違う。日本の西側で三本の指に入る歓楽街だ。近藤のような美人ももちろん多いのだろう。
「何だか、犯人に振り回されっぱなしだな」
ぼそりと加藤が呟いた。
「そう……ですね」
桂元秋杜は一体どこにいるのか、坂井春香は何故、秋杜との事を隠したのか。
「ーーーもしかして、次に狙われるのは坂井先生なんじゃ……」
成川の隣りを歩く岡部が口にした言葉に、加藤は再び携帯を取り出した。
「大丈夫じゃないでしょうか?」
「え?」
携帯をポケットから出した加藤に、成川が言った。
「どうしてだ?」
加藤の疑問はもっともだし、岡部も不思議そうに成川を見ている。成川は二人を見上げて言った。
「もし、過去に坂井さんと会っていたのが本当で、本村理恵さんの事で揉めていたのだとしたら、おそらく坂井さんが秋杜さんと本村さんが会うのを阻止していたんではないでしょうか? そう考えると、ラウンジで秋杜さんが坂井さんにすがるようにしていたのも、坂井さんが少し怖かったように見えたのも頷けますし。もしそうだと仮定するなら、私が秋杜さんの立場なら一番邪魔な坂井さんを最初にどうにかしようと考えるはずですーーーそれが無いと言う事は、坂井さんを始末する必要が無い、と言う事になりませんか?」
成川の言うのには一理あると、加藤も渋い顔で頷いた。
「なるほどな……」
「でも、何だか胸騒ぎがするんです……」
岡部がそう言うのを聞いて、加藤は握っていた携帯を見つめてボタンを押した。
「まあ、用心に越した事はないからな。津田のやつにもう一度念を押しとくさ」
電話をかける加藤の後ろ姿を眺めながら、岡部は坂井春香と本村理恵の顔を思い出していた。
いつも笑顔で、誰に対しても優しい坂井。そして気が強そうでいて実は繊細な本村。
そんな二人が学生時代売春に係わっていたなんて、未だに信じられない気持ちだ。
「何だってっ!?」
「!?」
急に大声を上げた加藤に、通りかかった通行人も驚いて立ち止まった。
「警官全員投入してでも探せ! 今すぐだっ!」
チッと大きく舌打ちをすると、加藤が怖い顔をして岡部と成川を振り返った。
「……坂井春香の行方が分らなくなったーーー成川さん、あんたの感は外れたな」
岡部は言葉が出なかった。
歓楽街のネオンは、キラキラと美しく輝いていて、岡部の心を攫って行く様だった。
そんな明るい街の空を見上げながら、最悪の結果が待っている……そんな気がしてならなかった。
続く…
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