チェンジ・ザ・ワールド☆
鬼頭5日目・No.3
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私のやんごとなき王子様
夕方近くになると取材のためにたくさんの人達がやって来て、あちこち取材をしてはその度に慌ただしく先生方や実行委員達が走り回っていた。
取材もなんとか無事終わり、私は何故か取材が終わった記者さん達が、船の準備ができるまで勝手な行動をしないように彼らを監視する役目を仰せつかっていた。
もーう、どうしていっつも「小日向、お前仕事したいだろ?」って真壁先生ったらあんなに満面の笑顔で言うかなあ。あんな風に言われたら首を縦に振るしか出来ないじゃない! ……私ってばもしかして真壁先生にいいように使われてる?
膨れっ面でソファに座っていると、20代前半くらいの若い男の記者が私に近づいて来た。
「ねえキミ、可愛いねえ」
「は?」
驚いて顔を上げる。
男性記者は私の隣りに座ると、ずいっと体を寄せてメモ帳を出した。
「ここの学園は芸能関係の仕事してる子が多いけど、もしかしてキミもタレントの卵とかかな?」
「はあ? 違います」
なんなのよ! 私のどこをどう見たらタレントなのよ。――もしかしてからかわれてる? かんべんしてよ、鬼頭先生の相手だけで疲れるのに、見ず知らずの人にまでからかわれるなんて、精神的にきついよぉ。
「そうなんだ? すっごく可愛いのにもったいないなあ……あ、ところでさ、演劇に出る風名玲君と桜亜里沙ちゃんの事なんだけど、学校でも付き合ってるって噂、ある?」
私はピンときた。これが聞きたかったんだ。
確かに風名君と亜里沙様の噂は無いことも無かった。だけど学校では亜里沙様には取り巻きが常にべったりくっついてるし、風名君は特定の女の子と仲良くしたりしてる姿を見たことはなかった。どっちかって言ったら利根君と二人でいることが多い気がする。
「そんな噂は聞いたことありません」
ちょっと突っぱねるようにそう言うと、記者さんは気のない返事をした。
「そうなんだ、ドラマで共演してるし学校も同じだから付き合ってるんじゃないかって言われてるんだけど、まあいっか。それでさ、これ」
差し出されたのは紙切れ。そこには携帯番号とアドレスが書かれていた。
「なんですか?」
「いや、こうやって知り合ったのも何かの縁かなあって。俺のケー番とアドレス。いつでも連絡してよ。キミ可愛いからさ、お友達になりたいなあって……」
もしかしてこれって、ナンパ!?
私が目の前で笑う男性記者に戸惑っていると、突然
「いいだろう」
後ろから手が伸びて来て、番号の書かれた紙切れが奪われた。
「えっ?」
「わっ?!」
男性記者と私は同時に振り返る。
「……あ、鬼頭先生」
そこに立っていたのは鬼頭先生で、取り上げたメモ紙を確認してニヤリと口の端を上げた。
こっ、コワイ。口元は笑ってるけど、目が笑ってない!
「あ、えっと、先生……ですか?」
「そうだ。ここの学園の保健医だ。しかしなかなかいい度胸をしている。演劇祭の取材と称して女子高校生を漁っているとはな……まあ、確かにこいつは見ての通りおつむが弱いから、騙して金になる仕事をさせるにはもってこいだろうな」
「ええっ!?」
鬼頭先生の口から出て来る恐ろしい言葉に、私は慌てて立ち上がった。
「だがしかし、だ。確かに騙すのは簡単かもしれないが、こいつを使って何かやるというのならまず俺に話しを通してからにしてもらおうか。一応学園の生徒を預かる身なんでな。もし何かあった場合、うちの理事長とPTAは相当手強いが……それでもいいという覚悟があるならだが――」
「そ、そんな事考えてませんよ! 考え過ぎです。あっと、そろそろ船の時間みたいだ、それでは失礼しますっ!」
ゆっくりと顔を近づけてくる鬼頭先生から逃れるように早口に言って立ち上がると、男性記者はあっという間に玄関から出て行った。
はあ……良かった。
ほっと胸を撫で下ろしていると、鬼頭先生がジロリと私を睨んで来た。
うわっ!
「す、すみません、ありがとうございました。助かりました!」
頭を下げる私に、先生はふんと鼻を鳴らす。
「まったく、お前のバカさ加減は呆れるを通り越して見事だな。少しは警戒心を持て」
―――あれ? もしかして私の事心配してくれてるのかな?
じっと先生の顔を見つめていると、ものすごく不機嫌そうにため息を吐かれてしまった。
「はあ……いいか、仕事中は仕事に集中しろ。それと、男が近づいて来たらまず距離を取れ」
そこで私は気がついた。
鬼頭先生って実は案外優しいんだって事に。
ちょっと、いやかなりひねくれてるから分かりづらいけど、この間私が先生の車の中でリップを落とした時も拾ってくれたし、なんだかんだ言って家まで送ってくれたし、今もこうやってナンパから助けてくれた。きっと人に優しくする表現が下手なんだ。
そう思うと、何だか急に鬼頭先生が可愛く見えて来た。
「くすっ。はい、ありがとうございました」
笑顔で答える私に、先生はさっきのメモ紙をビリビリと破いて押し付けた。
「ゴミだ、捨てておけ。それと、記者連中が帰ったらまたミーティングだそうだ。二度とぼーっとするな」
「はい!」
仕事は次々私にのしかかって来るけど、こうやって鬼頭先生の知らなかった一面を発見出来たりして、ちょっと生徒指導を選んで良かったかな。なんて思えた。
朝見かけた先生の眼鏡をかけていない素顔はいつもより優しげで、私の心の中にぼんやりとした何かを印象づけたようだ。
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