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鬼頭7日目・No.1

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streetpoint

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私のやんごとなき王子様












7日目






 今日も朝からどういう訳か、医務室の手伝いをさせられている。知らない間に医務室担当になっていたらしい。真壁先生め!

 だけど昨日海を眺めに出たのがいい気分転換になったらしく、何となく仕事もはかどっている。

 日を追うごとに体調不良を訴える生徒の数も増えてて、またふらりといなくなった鬼頭先生を除く私と水原さんの二人で朝からずっと仕事をしているんだけど……。

 私はちらりと水原さんの様子を伺う。

 美人だな。

 すっごいチープな感想で申し訳ないけど、水原さんは大人っぽい美人さんだ。こう出る所はちゃんと出てて、引っ込む所は引っ込んでて、私とは大違い。

 怪我の手当をされてる男の子も水原さんだと自然と顔がにやけてるもんね。

 どーせ私はまな板ですよーだ。

 卑屈になりかけていた私の耳に、バタバタと廊下を走る足音が飛び込んで来た。

 勢い良く開いたドアから飛び込んで来たのは鬼頭先生と真壁先生。真壁先生の腕には女子生徒が青ざめた表情で抱かれている。確か演劇に出演する子だ。


「どうしたんですかっ?」


 水原さんが真壁先生に駆け寄る。

 私はというと、直ぐさま近くのベッドの布団をめくって桶に水を入れ、タオルを濡らしてベッドの横に置いた。


「小日向、あれ持って来い」

「はい!」


 鬼頭先生の鋭い一言で、私はくるりと体を反転させて机の脇に置かれていた鬼頭先生のバッグを取り上げた。

 『あれ』で分かる私ってばすごいかも……。

 シャッとベッド周りのカーテンが閉められ、中には具合の悪そうだった子と鬼頭先生、そして水原さんが残り、私と真壁先生はカーテンの外で並んでたっていた。


「貧血ですか?」

「多分な。ダイエットのし過ぎだろう。後は任せたぞ」

「あ、はい」


 そう言ってポンと私の肩を叩くと、先生は忙しそうに医務室を出て行った。


 結局女子生徒の状態が思ったより悪かった為、船で本土の病院へ連れて行くことになった。

 鬼頭先生はここを空ける訳にはいかないから、他の先生が付き添うらしい。船にも船医がいるから行き来は問題ないという事だった。

 取りあえず栄養失調と脱水症状を起こしかけてるだけで命に別状はないというので安心した。

 本当に医務室の仕事も大変なんだな。 

 














 昼過ぎになり、私達生徒指導担当は調理室へと向かっていた。

 今日は私達が食事当番なのだ。とはいってもメイン料理を作るのはあくまでも宿舎のシェフの方々。私達は教育の一環として、担当班ごとに日替わりで1品を作るというのが決まりなのだ。
 
 1品とはいっても、全校生徒プラス先生の合計200人分の料理だから作る量がさすがに多い。

 私達が作るのは……えと、なんだろう? そう言えば何も聞いてないや。

 調理室に揃った先生方と私達生徒は、一番前で大きな段ボールを抱える真壁先生の様子を見守った。先生はその段ボールの中から黒い物体を取り出し、こう言った。


「今日は浜辺でバーベキューを晩ご飯にしようと思います!」

「ええっ!?」


 驚きの声が一斉に上がる。先生が持っていた黒い物体は木炭だったのだ。


「倉庫にバーベキュー用のコンロがあるんで、それを浜に運ぶ班と材料を切る班と火をおこす班に分けます。後片付けは生徒達にさせるので、よろしくお願いします!」


 なるほど、極力簡単で美味しく、尚かつ楽しいという究極の選択って訳だ。

 私は真壁先生の愉快な思考力に納得した。

 他の人達も全員納得したらしく、さすが先生達の集まり。あっという間に班分けされ、仕事に取りかかった。


「よし、行くぞ。小日向」

「あ、はい」


 私は鬼頭先生と二人で材料班になっていた。いつどうやって決まったのか分からないけど、先生と一緒っていうのがすごく心配……。

 だって鬼頭先生包丁が似合わないんだもん。きっと自炊なんてしないだろうから、全部押し付けられそうな気がする。

 目の前の野菜達を前に、私は気合いを入れた。


「切るぞ!」


 まずはキャベツかなーーー


「わあああ!!!!」


 私が隣りに視線を動かした瞬間だった、鬼頭先生がありえない構えで人参を切ろうとしていたのだ。

 あまりの衝撃に人目もはばからず大声を出しちゃった。


「うるさい。静かに出来ないのか?」

「なな何冷静な事言ってるんですかっ?! 正気ですか、その切り方っ!!」

「あ? 何を言っている、切ればいいんだろう?」

「物には限度と順序というものがあります!」


 面倒臭そうに顔をしかめる鬼頭先生から人参を奪うと、私は皮をむいて輪切りをしてみせた。


「いいですか、まず皮をむいて……このピーラーを使うと楽ですよ。で、手はこうやって添えるんです。あんな指伸ばしてたら包丁で切っちゃうでしょう?」

「……俺に指図するな」

「指図じゃないですっ! 先生の綺麗な指が切れたらどうするんですか!」

「ーーー気持ち悪い事を言うな」

「っ!?」


 わあ~もう、何言ってるのよ私! 綺麗な指だなんて気持ち悪い! 鬼頭先生も引いてるよ、いや、私自身めっちゃ引いてる!

 とーーっても冷めた目で私を一瞥すると、鬼頭先生はボウルに入れられた人参を無言で手に取って切り出した。

 うん、まだ危なっかしいけど、さっきよりはましか。


「お前が料理をするとは意外だったな。不器用で全然出来ないと思っていた」


 ボソリと言った先生の言葉を、私は聞き逃さなかった。


「失礼ですね。これでもそれなりに作れるんですよ」

「なんだ、聞こえてたのか。そんなに自分が人からどう思われてるのか気になるのか? まったく、本当にガキだな、お前は」


 窓から外に出て海を見に行く人に言われたくありません。それに、本当は突っ込んで欲しかったくせに。

 先生の性格がどんどん分かって来た私は、普通なら文句の一つも言いそうな言葉も平気で返せるようになって来た。成長したなあ。


「……まあ、今お前が何を考えていたかは敢えて聞かないが、自分がガキだって事はちゃんと自覚してろよ?」


 わ、やっぱりムカつく。どっちがガキよ! ……でもまあ、何だかんだ言いながらちゃんと材料切ってるし、当初は全部私に押し付けると思ってたから、その点は憎まれ口叩かれても良しとしてあげよう。

 気付かれないようにこっそり微笑むと、私は残りの材料をどんどん切った。

 こうして鬼頭先生と並んで包丁持ってるっていうのがあり得ないシチュエーションで、昨日の海に引き続き結構楽しい思い出になったな。なんてしんみり思った。












 夕日を見ながら浜辺で食べるバーベキューはとっても美味しかった。

 鬼頭先生が切った不格好な人参やタマネギを食べながら、私は少し離れた岩に座って野菜を食べる鬼頭先生を見た。

 隣りには水原さんがいて、何やら楽しげに話し込んでいる。

 ちょっぴり寂しかったけど、目の前で真壁先生が他の生徒にバーベキューについて熱く語っているのがおかしかったから寂しさは紛れた。

 水原さんは知ってるのかな。鬼頭先生がすごく包丁扱うのが下手だって事。













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