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土屋8日目・No.2

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私のやんごとなき王子様














 今日は1日照明担当との打ち合わせと、大道具の手直しに奔走していた。

 新しくオディール役に決まった子と、以前のオディール役の子との肌色の差によって、使用する照明が変わったのだ。当然、大道具にもその色差の影響は出る。

 1日中ドタバタと駆けまわり、やっと照明担当との修正の方向が決まった頃には日はとっくに落ちてしまっていた。

 夜の廊下には人も少なくて、皆それぞれ部屋に戻ってたり遅くまで作業していたりするんだろう。私は照明担当との折り合いを忘れないうちにと、再度大道具部屋へと向かっていた。

 廊下を少し進んだ所で足が止まる。

 あれ?


 ふと人の話し声が聞こえてきたのだ。

 辺りを見回してみると、丁度大道具部屋のドアから明かりが漏れていた。土屋君、まだ作業してるのかな? だとしたら早速照明の事とか報告しておきたいな。

 とそんな気持ちで薄く開いたドアに手を掛けた時だった。


「私、土屋先輩の事が好きなんです……」 


 ――え?


 私は思わず息を飲んだ。可愛らしいけど芯の強そうなその声は水原さんのものだ。


「そう」


 細いドアの隙間から見えたのは相変わらずの尊大な態度の土屋君と、そんな彼にひるむことなくじっと土屋君を見つめている水原さん。

 その緊張がこちらにまで伝って来るようで、私は指一本動かすことも出来なかった。


「土屋先輩の世界が好きなんです。土屋先輩の見ている世界を、私も一緒に見たいんです。感じたいんです。土屋先輩はいつも私に新しい刺激を下さります……だから!」

「そうだね、僕は君に新しい刺激を与えているんだろうね。じゃあ君は? 君は僕に何を与えてくれるの? 貰っているばかりで何も返さないような礼儀知らずには用は無いよ、僕は」

「私は……私の差し出せるものなら何でも、土屋先輩に捧げるつもりです」

「へぇ」


 えーっ! ちょっと、その発言はどうなの!? 水原さんーーっ! なんだか見ているこっちまで緊張してきた。って、私は一体何をやってるんだろう! 盗み聞きだなんて最低だ!


「今すぐに返事はいりません。少し、私の事を考えてもらえれば……それだけでも嬉しいです! 少しの間でいいんです。考えてくれませんか? 私があなたと一緒にあなたの鮮やかな世界の片隅にでも存在して良いかどうか」

「……僕はね」


 土屋君が何か言おうとしたそこまで聞いて、私はゆっくりとドアから離れた。

 一歩二歩後ろに下がり、音を立てないように階段へと向かう。

 それ以上二人が話している所を見るだなんてとてもじゃないけどできなかった。

 土屋君の答えなんて聞けるはずもない。

 今来た階段へと逆戻りする最中、立ち聞きをしてしまった事に対する罪悪感と、水原さんの土屋君に対する真剣な想いが容赦なく襲って来て、胸が苦しかった。

 水原さんの方が、私なんかよりはるかに芸術的だし、二人はきっとすごくお似合いなんだろう。でも私は……。

 なんで土屋君が一緒に作業する事を認めてくれたのかも分からないような人間だ。特に芸術家の家庭の娘という訳でも無い。だけど……それでも……

 それでもやっぱり私も土屋君の事が好きなんだ。


「はあ……」


 無意識に溜息がこぼれた。

 土屋君はなんて答えたんだろう? そんな事が気になって仕方が無い。

 階段を前にすると私は両足に思い切り力を込めて、一気に駆け上った。


 こんな気持ち、走ってなくなれ!












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