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鬼頭10日目・No.3

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私のやんごとなき王子様














「鬼頭先生」


 私と先生は同時に振り返った。


「水原か。どうした?」

「いえ、あの……私も一緒に花火見てもいいですか?」


 思わず鬼頭先生の顔を見てしまった。

 先生は相変わらずの無表情で水原さんの傍へと近寄る。


「何故だ?」

「何故って……」


 戸惑う水原さん。

 答えに困っているその姿に、私は胸が痛んだ。だってそんなの理由は一つしかない。鬼頭先生の事が好きだから一緒に花火を見たいに決まってるもの。


「答えられないのか?」


 冷めた口調で尋ねる先生の顔を悲しげに見上げる水原さんに、私は何か言おうと口を開きかけたが、それはすぐに鬼頭先生の声で阻まれた。


「この間俺は言ったはずだ。自分の都合のいいようにしか物事を考えられないようなヤツと共に過ごす時間など無意味だと」


 はっと口を押さえる水原さんは、俯いて震え始めた。


「それでは――お聞きしますが、どうして……小日向さんと一緒に見てるんですか?」


 その質問にドキリとしたのは私だった。先生が何と答えるのか、その答えを聞きたかった。


「簡単だ。面白いからだ」


 ―――え? いや、まあ、期待してた訳じゃないんだけど……。

 肩を落とすと、水原さんはぐっと力を溜めて一気に吐き出した。


「――分かりました、失礼します!」


 そしてそう言うと走り去ってしまった。


「あっ、待って!」


 思わず追いかけようと走り出した私の腕を、鬼頭先生が掴んで止める。


「行ってどうする?」

「ど、どうするって、あんな言い方しなくてもいいじゃないですか! 別に一緒に花火見るくらい構わないんじゃないですか!? そりゃあ私は先生にとってはからかって遊ぶには丁度いいおもちゃかもしれないですけど、彼女は先生の事を本気で好きなんですよ!?」

「何故あいつが俺の事を好きだと知っている?」

「そっ、それはっ!」


 しまった。ついうっかりしゃべってしまった!


「……まあいい。もしあいつがさっきの俺の質問に答えていたら、別に一緒に花火を見るくらい構わないと思っていた。だがあいつは答えなかった」


 先生が何故一緒に花火を見たいのかと尋ねた時、水原さんは答えに詰まった。素直に一緒に見たいからと答えていれば、一緒に花火を見ていたっていうの?


「お前ならどう答えた? 好きな男と一緒に花火が見たい時、何故一緒に花火が見たいのかとその男に尋ねられたら……」


 そんなの……そんなの分からない。もし水原さんと私が逆の状態だったら、私は先生に何と答えていただろう。


 でもきっと、


「一緒に見たいからって答えたと思います」


 視線を先生の足元に落としたまま答えると、先生が笑ったのが分かった。

 顔を上げた時にはもう笑っていなかったけど、私の腕を掴んでいた手を放し、再び窓辺へと戻る。


「お前があいつを追いかけて行った所で、あいつに嫌われるだけだ。自分が惚れた男と一緒にいた女からの慰めの言葉など、ただの自慢にしか聞こえんだろうからな」

「あ……」


 そうだ。水原さんを余計に傷付けてしまう所だった。

 私は力なく先生の隣りに戻ると、また空を見上げた。

 相変わらず美しく空に鮮やかな色を広げる花火に、ため息を向ける。

 水原さんの気持ちは分かる。こうして隣りにいても鬼頭先生はすごく遠くて、私みたいな子どもが踏み込んじゃいけない相手なんだって分かってるから。

 私はこの突き放すような先生の物言いには慣れてるけど、きっと水原さんは傷ついたと思う。でも、そんな先生の性格も他の人の前では少し猫を被っている所も、私しか知らない方が嬉しいって思ってしまうんだ。


「もう、おもちゃのままでもいっか……」

「何か言ったか?」

「いいえ、なんでもありません!」


 花火の音でかき消された私の呟きは、先生には聞こえていなかったみたい。早く大人になりたいと、初めて思った。












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