チェンジ・ザ・ワールド☆
The bound〜2
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The bound past
「ああ、鬼頭君イギリスの大学にいたらしいよ」
「はあ? イギリス?」
女友達と昼食を食べている時、鬼頭の話しが出てきてそう教えてくれた。
ドイツの間違いじゃないのか?
先日のノートを思い出し、心の中で呟く。そしてはたと気付いた。
「あれ? ってことは、あいつ年上?」
「あははっ! 健亮ったらちょーウケる。なんでもイギリスの大学飛び級して卒業してるんだって」
「すごーい。頭も良くてあんだけ美形だったらモテるのも納得~」
「いつも綺麗な女の子連れてるもんね。毎回別の」
何が面白いのか、そう言って女の子達はゲラゲラ笑った。
「そっか、あいつやっぱり頭良いんだ……」
真壁はなおさら分からなかった。
どうしてこんな二流の大学なんかに来たのか。飛び級で18で大学を卒業してしまうほどの頭脳を持っているなら、大学院に進むなり日本でももっといい大学に引き抜かれたりしてもおかしくない。
この間の講義以来、鬼頭は真壁との接触を避けていた。まあ、嫌われたのは仕方ないが、真壁はもう一度鬼頭と話しがしたいと心のどこかで思っていた。
まるで恋する乙女のように、毎日鬼頭の事を考えている。
それが何故かは分からないが、ただ単にムカつくというだけでは無い。
「あ、そうだ。真壁君、今日合コン行くでしょ?」
「ん? ああ、行く行く」
「やった! 健亮いないとつまんないもん」
腕を絡めて来る女友達に、真壁は微笑んだ。
つまらねえ……
真壁は昼の会話で出てきた合コンに顔を出したのだが、あまりのくだらなさにいい加減飽きてきていた。
未成年のくせに酒やタバコを一丁前に大人ぶって飲んで、下品な会話に笑い声。そのどれもが虚しくて、隣りで先ほどからテーブルの下で自分の太ももを触る女にも苛立ちが募り始めていた。
「ちょっと便所」
我慢の限界に達してきた真壁は席を立った。
自分から行くと言っておきながら、もう嫌気がさしてここで帰ると言うのはさすがに場の空気を悪くするかも知れない。
だが、酒を飲んでも美味しくないし、仲間の会話を聞いて適当な相づちを打つのにも疲れた。
やっぱ帰ろう。
そう思いトイレから出てきた所に、先ほど真壁の足を触っていた女が待ち伏せていた。
「真壁君。ねえ、二人で先に抜けない?」
大きく胸元の開いたシャツにホットパンツの挑発的な服装。真壁に気があるというより、男に気があるというのが見え見えだ。
さらにげんなりとした真壁は首を傾げる。
「あー悪い。俺、先帰るわ」
「え? じゃああたしも……」
「いや、ちょっと用があるから。これ、俺の分の金、幹事に渡しといてくれ。んじゃあな」
「ちょっと!」
引き止めようとする女を振り切り、真壁は逃げるように店を後にした。
ポケットからタバコを取り出し火をつける。
「ーーーはあ」
タバコなど一度も吸った事は無かった。こんなマズいものを平気で吸うなんて、よっぽど人間は何かに頼らなければ生きて行けない弱い生き物だと改めて思う。
そんなタバコに手を出したのも、受験に失敗したつい最近だ。
こんなもの吸った所で己の過去が変わる訳でもないのに。
「あれ? あいつ……」
路地を曲がった所で、真壁は先を歩く男女に目を留めた。
男は間違いなく、あの鬼頭だった。
先ほど真壁に言い寄って来た女と同じように鬼頭に腕を絡める女に、立ち止まった鬼頭が乱暴に腕を引き離して何やら言っている。
女は乱れた髪を整え、高そうなバッグからブランド物の財布を取り出し、鬼頭に金を渡した。
それから再び鬼頭に体を寄せようとした女を壁に突き飛ばし、鬼頭はこちらを振り向いた。
ドキ……
足を止めた真壁は鬼頭の不敵な笑みを見つめる。
動けずにいる真壁の前へやって来ると、鬼頭は真壁の背中を押して歩き出した。
「お、おい。なんだよ?」
訳が分からない真壁は、何も言わない鬼頭の腕を振り払った。
「待ってよ、静!」
追いかけて来る女は近くで見ると随分美人で、身に着けている服も高級品だった。
「うるさい、気安く名前を呼ぶな。もう用は済んだだろ? 俺はこいつに用がある。着いて来るな」
そう言い捨てた鬼頭を横目で見ると、黙って着いて来いと言わんばかりに睨まれて口をつぐむ。
女も鬼頭のその表情を恐れたのか、それ以上は追って来なかった。
しばらく歩いた所で真壁は立ち止まった。
「もういいだろ?」
「そうだな。じゃあな」
「待てよ」
くるりと踵を返した鬼頭を、真壁が制する。
「せっかく黙って着いてきてやったんだぜ? 礼くらい言えよな」
「ーーお前、本当に悪ぶって気持ち悪いな。その口調もタバコも似合わないのが分からないのか?」
「なんだと?」
タバコを一本出してくわえた所で手を止め、真壁は鬼頭を睨んだ。
もう一度話しがしたいと思っていたが、こうも喧嘩腰で来られるとやはり腹が立つ。
「前にも言っただろう? 俺はお前みたいな中途半端な奴がムカつくと」
眼鏡がネオンに反射して一瞬光る。
真壁は一歩足を前に出した。
鬼頭はどう見ても真壁より背が低くて細身だ。力は間違いなく真壁が強いだろう。それでも真壁相手に怯まず言い掛かって来るのは、よほど真壁の事が気に入らないのか、はたまたそういう性格なのか。
「お前、さっきの女は何だ? まさか、小遣い稼ぎに体でも売ってるのか?」
「だったらどうだと言うんだ?」
「犯罪だろ」
「お前だって同じような事をしているだろう?」
「何だと? お前と一緒にするな!」
そう声を荒げながら、真壁は内心気分が悪かった。
確かに鬼頭のように女性相手に金を受け取ったりしている訳ではなかったが、さっきの合コンの女のように言いよって来る相手と誰彼構わず夜を共にしていたからだ。
それがどれほど虚しい行為か、嫌と言う程分かっているのにやめる事が出来ない。
「俺は女という生き物はどいつもこいつも馬鹿だと思っている。あいつらも喜んでるんだ、俺みたいないい男に抱かれるんだからな。それの何が悪い? それに俺はお前みたいに寂しさを紛らす為にやってる訳じゃない」
「何でお前は初めて会った時から俺の人生を見てきたみたいな言い方するんだよ! 勝手に俺を決めつけるな!!」
「ほら、図星だ。そうやってキレる奴は、事実を指摘されたからだ」
「ふざけんな!!」
ドン!!
真壁は鬼頭の胸元を掴み、ビルの壁に押し付けた。
ギリギリと締め上げると、鬼頭は苦しそうに顔を歪める。
「はっ! イギリスの大学まで出たエリートさんも、ケンカは駄目みたいだな……っ!?」
勝ち誇ったように言った真壁だったが、鬼頭に手首を掴み返され締め上げられた。
「てめぇっ……」
それを何とか力で強引に逃れ、真壁は握りこぶしを作って振り下ろそうとした。
その時、
「そのくらいにしておけ」
突然第三者の落ち着いた声が聞こえ、真壁と鬼頭は同時にそちらを向いた。そこに立っていたのはモデルのようにスタイルのいい、鬼頭とはまた違った美しい顔立ちの男だった。
真壁達より年上の男は高級ブランドスーツに身を包み、その顔は気品に溢れていた。
「こんな所で喧嘩をしてどうする? 少し頭を冷やすといい。そこのバーでオレンジジュースでもおごってあげるよ」
微笑みながら言う男に、真壁と鬼頭は同時に顔をしかめた。
「……オレンジジュース? ふん、酔っぱらいの酔いを醒ますには丁度いいな」
冷めた調子で鬼頭が言うと、真壁は鬼頭を人睨みして先ほど作った握りこぶしを解くと、そのモデルのような男を睨む。
「ちっ……何だよ、あんたホモ?」
「それは、随分だな。僕は君達のくだらない喧嘩を止めてあげたのに」
肩をすくめる男に、二人は腹を立てた。一体この男は何がしたいのか。
「くだらないだと?」
「こいつならまだしも、俺までくだらないとは聞き捨てならないな」
「鬼頭、お前ホントムカつくな」
「ほら、やっぱりくだらない。男がこんな盛り場で喧嘩をする理由なんて2つぐらいだろう。女か、虚勢ーーー図星か? 喧嘩ではなく、話し合えばいい」
「ったく、おせっかいなおっさんだな。もういいよ。俺は帰る、二人でジュースでも飲みな」
真壁は二人に背を向け、ヒラヒラと手を振ってその場を去った。
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