チェンジ・ザ・ワールド☆
The bound〜3
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The bound past
あれから数週間後、真壁はぼんやりと大学内のベンチに座ってタバコを吹かしていた。
講義に出るのも億劫で、ここ最近は鬼頭とも顔を合わせずに済んでいたのだが、ずっと気持ちが悪かった。
中途半端だと、寂しさを紛らす為に女を抱いていると言われたことがまさに本当で、どうして鬼頭にはそれが分かるのか、知りたかったのだ。
「おや、君はこの間喧嘩をしていた……」
「あ?」
顔を上げると、そこには数週間前に鬼頭との喧嘩に仲裁に入った男が立っていた。
昼の太陽の下で見る男はどこかの貴族のような雰囲気で、真壁と同じ位の長身が着ているスーツをさらに高級に見せている。
「君はここの生徒だったのか」
「あんた……」
驚いている真壁に、男は名刺を差し出して笑いかけた。
「もう喧嘩はしてない? 僕は倉持稀彦。これでも高校の理事長をやっているんだ」
「理事長?」
理事長とはもっと年配で威厳のある人間というイメージを持っていただけに、倉持と名乗った男から渡された名刺の肩書きを見て再び倉持の顔をまじまじと見つめる。
どう見ても20代で、真壁の兄と同じ位にしか見えない。若く見えるだけだろうか?
そして名刺に書いてある『星越学園』という学校名に眉をしかめた。芸能人などを多く排出している高校で、あまり良いイメージを持っていなかったからだ。
あんな軽い学校の理事長なのかと、些か倉持という男が読めなかった。見た目は若くて男前で、頭も切れそうなのに……
「君の名前を聞いていなかったな」
倉持の事をあれこれ推測しているとそう言われ、素直に答えた。
「ーー真壁健亮」
「真壁……健亮。なるほど健亮か。うん。それじゃあ君に案内をお願いしようかな」
「案内?」
「今日僕は仕事でここの大学の教授に会う約束をしているのだけど、初めて来たから場所が分からないんだ。よかったら社会学部の教授の所まで案内してもらえないか?」
何故高校の理事長が大学の教授と仕事で会うのか分からなかったが、別に暇だったので真壁は引き受ける事にした。
この間は喧嘩を止められ子ども扱いされた事にムカついたが、この倉持稀彦という一風変わった男に興味を持ったのだ。
鬼頭とはまた違う、何かしら人を惹き付ける倉持の雰囲気にどこかしらほっとしたのかもしれない。
「別にいいけど」
立ち上がった真壁の目の前にぬうっと手が伸びてきて、一瞬にしてくわえていた煙草が口から抜き取られた。
「それは助かる。でも、僕と一緒にいる時は煙草は遠慮してくれ。僕は煙草が嫌いなんだ」
キラリと光りそうな笑顔でそう言われ、真壁は舌打ちをする。
「チッ……分かったよーーーこっちだ」
歩き出した真壁に着いて来る倉持は涼し気な顔でキャンパス内を見回していた。
きっとこの男も頭いいんだろうな。
根拠なくそう思う。
大概自分のネガティブさに呆れて来るが、これはもう幼い頃からの刷り込み以外の何物でもない。
背の高い男が二人並んでいるのはかなり目立つらしく、キャンパス内を歩く女達が遠巻きに何か言っているのが聞こえた。
もう一度倉持を伺う。
「どうした?」
「何が?」
真壁に微笑む倉持に、ぶっきらぼうに言う。
「いや、僕の顔を見ていたから」
「女達が騒いでるから、改めてあんたの男前な顔を確認しただけだ」
「なるほど……それは構わないが、年上に向かって“あんた”は良くないな」
「……」
口をつぐんだ真壁に、倉持は今度は声を潜めてこう言った。
「どうでもいいが、健亮。君のそのしゃべり方は驚く程似合わない。あと煙草も。人間無理をするとボロが出る、もしかして反抗期が遅くて今頃来たのか?」
どうして鬼頭といい、この倉持といい、真壁のことを見抜けるのだろう。そんなことを言われたのは、二人以外にいない。
驚いた顔をしているらしい真壁に、倉持は手を出した。
「あ? なんだよ?」
「さっきの名刺、ちょっと返してくれないか」
無言で上着のポケットから先ほどもらった名刺を渡すと、倉持は名刺の裏に何やら走り書きをして再び返した。
「僕のプライベートの携帯番号だ。何かあったらいつでも掛けて来るといい」
「何で男に番号教えてもらわなきゃ……」
反論しようとした所で真壁は言葉を止めた。前から歩いてきた鬼頭の姿が視界に入ったからだ。
「やあ、静」
当然のように鬼頭に手を挙げる倉持に、真壁は目を丸くする。
「どうも……」
少し目を逸らし短く挨拶をすると、鬼頭は真壁を睨んだ。
「この間健亮が先に帰っただろ? あの後二人でジュースを飲んだんだ」
そう付け加える倉持に、鬼頭はふっと鼻で笑う。
「しつこく誘ったのは倉持さんの方でしょう?」
「何を言ってるんだ、静が寂しそうだったから誘ってやったんじゃないか」
何だか楽しそうに会話をする鬼頭に、真壁は衝撃を受けていた。今まで大学内でもこんなに鬼頭と打ち解けて話しをしている人間を見たことがない。
こいつ、普通に会話出来るじゃねえかよ……
面白くないとそっぽを向く真壁を鬼頭がチラリと見て鼻で笑った。
「倉持さん。こんな奴の相手をするのは時間の無駄ですよ」
「なんだとっ!」
「ああ、もう。どうしてそういちいち突っかかるんだ、二人とも。僕は今健亮に教授の所まで案内してもらっているんだ、静は講義中じゃないのか?」
また喧嘩になりそうだった真壁と鬼頭の間に割って入ると、倉持は肩をすくめる。
「俺は今は空きです。ちょっと調べものをしようと思って図書館に行く所だったんですよ」
「そう。じゃあ、また今度。健亮、行こうか」
「ちっ……」
頭を掻いて、鬼頭と目を合わせないように真壁は歩き出した。
一体なんなんだ、あの男は!
乱暴に足音を立てて歩く真壁に、倉持は笑った。
「本当に君達は似てるな」
「はあっ!? どこが!?」
「どちらも寂しがり屋だ」
「!?」
長い足で優雅に歩く倉持のその言葉は、妙に真壁の心に響いた。
寂しいーーー
そう、真壁は寂しいのだ。
誰からも必要とされていない、家族の期待に答える事も出来ない駄目な自分に苛ついている。
本気で悪ぶることも出来ないくせに大層な口調で話してみてはどこかで違和感を感じている。
誰かに言って欲しかった。
『お前は駄目なんかじゃない』
とーーー。
だがそれを指摘されて、はいそうですと素直に認めるには、真壁はまだ子どもすぎる。
ピタリと足を止め、両の拳に力を込めた。
「ーーーそこの階段昇った2階の突き当たりが教授の部屋だ」
そう、床に向かって小さく言うと、真壁はくるりと倉持に背を向けた。
「後は一人で行ってくれ」
そしてそのまま振り返る事無く倉持の前から遠ざかって行った。
「……困った子だな」
やたらと身長だけが大きくなった子どもの後ろ姿に、倉持は苦笑し呟いた。
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