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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

ようこそ、MBへ

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ようこそ、MBへ













 見上げれば遥か上空にまで伸びる超高層ビル。横を見れば今にも崩れそうなボロアパートやしみったれた店が並ぶ下町。心無しかどぶ臭い匂いもおまけで付いて来る。

 ここは近隣の国の中でも一番貧富の差が激しい国、ベニーランド。全長わずか500キロメートルの小さな国だ。

 その小さな国の貧民街の外れにある一軒の廃ビル。その地下に住む奴等がいた。

 廃ビルとはいえ一応買い取ったオーナーは存在する。

 名前は“カッツ”30代後半の、やたらと背の高い、筋肉質な男。

 そしてそこに住み着いているのがあと2人。“シン”という、冷ややかな切れ長の目をした20代後半の男で、バランスの取れた体つきをしている。いわゆるイケメンだ。もう一人は唯一の女で名は“ルーズ”。眼鏡をはめていて、30代前半くらい。赤茶色の長髪を後ろで一つに束ねている。

 彼らは探偵……と言えば格好は良いが、実際は『人探し屋』という胡散臭い屋号を看板にしていた。

 一夜で大金持ちにも一文無しにもなれるこの国は、世界中から色んな連中が集まって来る。人の集まる所は身を隠すにはもってこいだ。

 金が動く所に犯罪有り。犯罪ある所に消える人間有りという事だ。

 依頼によってはターゲットが既に死亡している場合もある。しかしそれでも彼らは探し出す。例え骨の一片しか残ってなかろうとも、必ず探し出して依頼主に引き渡す。

 彼らはどんなに小さな手がかりからでもターゲットを探し出し仕事をこなすため、いつしか付いた呼び名が『探し屋 Minimum Bout』通称『MB』。


 そして今日は朝からカッツのご機嫌は斜めだった。













 「ったくよお! 何なんだよあのガキはっ!?」

 ガンッ!

 と近くのテーブルを蹴って八つ当たりをする柄の悪い男。彼がカッツ。

「文句言うなよ、客だぞ。……一応」

 それを尻目に綺麗な顔をした男、シンが目の前に置かれたコーヒーに口をつけながらたしなめる。

「お前も“一応”とか付けてんだから、腹ん中ではムカついてんだろ?」

 まだ怒りの収まらないカッツは、テーブルの中央にやけに品よく並べられたクッキーを乱暴に鷲掴みにして口の中に放り込む。

 ゴリゴリとクッキーが噛み砕かれる音が、カッツの怒りを見事表現している。

「あんな事で一々怒ってたら身が持たないわよ」

 階段に寄りかかってコーヒーを飲んでいた眼鏡の女、ルーズが言う。

「ムカつくもんは仕方ねえだろ!?」

 くるりとルーズを振り返り、カッツがクッキーのかすを口から飛ばしながらこめかみに青筋を作る。

 今朝仕事の依頼に来た若い女に、「おじさん」と言われたことを根に持っているのだ。

 客はまだ二十歳と若かったため、カッツをおじさん呼ばわりしても何の問題も無いし実際良い年なのだが、自称“イケてる”カッツには一番言って欲しくない単語No.1だった。

 まったく呆れる程の精神年齢の低さだ。

 それでも前金で結構な金額をキャッシュでもらっているし、生きている状態で再会させれば礼ははずむと言ってくれた、ありがたーい客。シンとルーズはいい加減怒りを静めてもらってターゲット捜しに取りかかりたい所である。

「ちゃんとカッツの格好良さを理解している人間がここに2人いるでしょ? 若い女の子の中にもカッツの魅力を理解出来る子がきっといるから、心配しなくてもいいんじゃない?」

 ルーズのこの慰めの言葉は有効だったらしく、カッツはピタリと動きを止めた。

「ーーーそうか?」

 まんざらでもない顔でサングラスの下の目を細めて口の端をニタリと上げる。それを見てルーズは微笑んだ。

 カッツのツボをしっかりと心得ている。

「ええ。万人にモテる人間なんていないんだから、気にする事ないわよ」

「ああ、ルーズの言う通りだぜ。だからさっさとこいつを捜そうぜ?」

 ここぞとばかりにシンも間の手を入れ、コーヒーカップを置くと持っていた写真を指に挟んでカッツの方へ向けた。

「ちっ……あのガキ、仕事が済んだらたっぷり説教してやる」

 あまり態度が良いとは言い難い依頼主に、シンも内心腹を立てていた。ただ、毎回腹が立ってもシンがキレるより先にカッツがキレてしまうので、いつの間にやらカッツをなだめる冷静な人という役回りになってしまっているだけなのだ。

 小さくため息を吐いて立ち上がると、シンはさっさと階段を上り始めた。

「そんじゃま、ターゲットが働いてた工場まで行ってみるか」

「待てシン、俺も行く」

 シンの後に付いてカッツも階段を昇った。途中で足を止めてルーズを見る。

「お前はいつも通り、依頼人の方から探ってくれ」

「了解」

 ルーズは階段に預けていた背を起こし、階段脇のドアの中へと消えた。














 薄暗い部屋は壁一面機械で埋め尽くされ、液晶画面が大小いくつも鈍く光っていた。

 手前の椅子を引き寄せて座り、キーボードに触れる。ブウンと静かなモーター音がすると画面が立ち上がり、ルーズは両手の指を組んでパキパキと顔の前で鳴らした。

「さて、と……やりますか」

 ルーズの眼鏡に目の前の画面が反射する。“ELEN・READ”という名前を元に、今朝ルーズ達を訪れた依頼人のIDを探るのだ。

 人探しの仕事は危険を伴う。依頼主がIDを持っていて身分が保障されていなければ、カッツ達は仕事を受けない。偽造IDを使うヤツもたまにいるが、世界条約でID偽造は重罪とされ、国によっては死刑になる場合もある。

 そういった連中を警察に通報し引き渡す事でも彼らは収入を得ていた。

 今回の依頼主であるエレンという女は、IDによるとベニーランドの隣国、ドルクバの人間だ。年齢は20歳で、自分の恋人を捜して欲しいというのが依頼だった。

 恋人の名はパスト・ヤーセン。同じドルクバ人で、エレンの父親が経営する機械工場で集配部の主任をしている22歳。2週間前から無断欠勤をしているという。自分からいなくなった可能性も現段階では否定出来ないが、エレンはパストが自分の意志で黙ってどこかへ行くとは考えられないと強く言っていた。警察へ行っても相手にしてもらえず、色々と調べ回ってここへ辿り着いたらしい。

 MBの噂はあちこちで知られているが、この廃ビルまで自力で辿り着く依頼人は少ない。基本的には仲介屋を通してメールで依頼を受け、依頼人に会う前にこちらで相手の素性を調べてから会いに出向く。

「ちょっと引っかかるのよね」

 そう呟いてルーズはどんどんとキーボードを叩いて行く。

 ピクリ……

 一瞬眉が動く。

 そして横に置いてあるインカムを装着すると、スイッチを入れた。

『おう、どうした?』

 呼び出し音の後にヘッドホンから聞こえて来たカッツの声に、ルーズは画面上に赤く表示された文を目で追いながら言った。

「カッツ、この仕事、ちょっとヤバいかも」

『何だ?』

「依頼人、エレン・リードは10年前に死んでるわ」

 ほんの少し間が開く。

『どういうことだ?』

「10年前の大型旅客機の墜落事故で死亡ってなってる」

『んじゃああのガキは誰なんだよ?』

 新しい画面を開いてさらに情報を呼び出していると、別の名前がヒットした。

「同じドルクバにエレン・リードという女性が一人いる」

『そいつと間違ってIDが登録されてんのか?』

「それはないわね……こっちのエレンは現在65歳……っ!?」

 突然画面が激しく点滅し始め、部屋中に警報音が鳴り響いた。

 ルーズはすぐに強制終了ボタンを押し、素早く予備のパソコンを立ち上げチェックを始める。

『どうした?』

 カッツの声に、ルーズは小さくため息を吐いた。

「トレースされそうになった」

『大丈夫なのか?』

 このような状況になったのは一度や二度ではない。ルーズはいつもと変わりなく平静とした様子で答えた。

「問題ないわ。でも、このセキュリティを追えるとなると……」

『……ID偽造といい、俺達の居場所を突き止めたことといい、組織が関係してんだろうな』

 重罪であるID偽造は一般人にはリスクが高すぎる。もしエレンのIDが偽造だとするならば、裏社会の組織が関係していると考えるのは自然な事だ。

「中継衛星のダミー数を増やしてまた調べてみる。今どの辺りにいるの?」

『俺の愛機は速いんだ。もうじきドルクバに着くぜ』

「そう。どうする?」

『ID偽造は警察に知らせる義務があるしな。取りあえずその65歳の方のエレンにまず会ってみるか』

「それじゃあ私は父親の会社の方を詳しく調べてみる」

『了解。気をつけろよ』

「後で合流しましょう」








 ****







 カッツとシンは難しい顔で小さなアパートの廊下に立っていた。

 古ぼけたそのアパートはくすんだ焦茶色の木造で、歩く度にギシギシと耳障りな音がそこら中で鳴る。

 ルーズからの連絡で高齢の方のエレン・リードのアパートを訪ねたカッツとシンだったが、自室のベッドで殺されているのを発見したのだ。

 そして今は中で警察が鑑識作業を行っていて、2人は第一発見者として事情聴取を受けるまで待たされていた。

「ちっ……こうなったらガキの方のエレン・リードも危ねえぞ」

「本当に存在してる女ならな」

「色んな意味でヤバい。あのガキ、本当にリード社の社長令嬢なのか? あの口と態度の悪さは品性の欠片もなかったぜ」

 腕組みをしてしかめ面で言うカッツに、シンは目の前を行き来する警察の様子を眺めながら言った。

「カッツに品性がどうのこうの言われたんじゃ、おしまいだな。一応警察にはガキの方のエレンの所に行ってもらってるし、大丈夫だろ」

「うるせー、呑気かお前は。あのばあさんの死体見ただろ?」

 シンは黙る。殺されていた老女の首は、見事一撃で落とされていた。普通の人間が一撃で首を落とすという事は、世界一切れ味が鋭いと言われる日本刀を使っても難しい。手慣れた者、いわゆる殺しのプロの仕業と言わざるを得ない。

 カッツとシンは数年前まで軍に所属していた。数えきれない程の死体を見て来たし、この仕事をするようになってからもこういった陰惨な事件に巻き込まれることも多々ある。

 あの死体独特の香り。ほんの数秒前まで生きていたそれは、たった一つの何かで死へと向かう。

 ぐすりと鼻をすすり、カッツが顔を上げた。

「うおい、こら! さっさと調書取れ! いつまで待たせんだ、こらあ!」

「相変わらずやかましいな、お前は」

 そこへやって来たのは、カッツに負けず劣らずの体躯をした中年の男だった。少し寂しくなりかけた頭をペチンと叩くと、カッツの肩をコツンと拳で押す。

「トレイン! 久しぶりだな、このヤロー!」

 カッツはトレインと拳を合わせて笑う。

「よお、シン。お前まだこいつと組んでんのか?」

 隣りで静かに2人を見ていたシンが微かに笑った。

「まあな。1人にすると猛獣より危険だし」

「はははっ! 言えてらあ」

 このトレインはドルクバの刑事だ。カッツが軍に所属していた頃の同期で、古くからの知り合いである。

 元々刑事をしていたトレインは上層部命令で一時期軍へ入隊し、その後刑事として復帰した。カッツが軍を退役したのはトレインが辞めたすぐ後だが、このMBを立ち上げて間もない頃に警察との関係をスムーズにしてくれたのはトレインだった。

 なんでも戦地でカッツがトレインの命を助けたことがあり、その借りの為にトレインはカッツには良くしてくれているのだそうだ。

 警察では掴みにくい情報もカッツが仕入れる事が出来その逆の場合もある為、お互い持ちつ持たれつの関係を保っている。

「うっせーな。人を猛獣と一緒にすんな……しかしトレイン。この事件、組織絡みだよな」

「報告を聞いただけだが、間違いないだろう。被害者のエレン・リードだが、10年前に事故にあって、それ以来あまり出歩かなかったらしい。そんなばあさんが組織と一体どんな関係があるってんだ?」

「10年前?」

 カッツとシンが顔を見合わせると、室内からトレインを呼ぶ声が聞こえた。

「ちょっと行って来る。悪いがもう少しだけ待っててくれ」

 トレインが大きな体をドアの中へ滑り込ませるのを見届けると、カッツは腕組みをして床を睨んだ。

「何か気持ち悪いな」

「エレン・リードが2人。1人は死んだはずなのに生きていて、もう一人はついさっき殺された……カッツ、リード社へ急ごう」

「俺だって今すぐ行きてえよ」

「カッツ! ちょっと来い!」

 2人がリード社へ向かう決意をしていると、中からトレインのがなり声が飛んで来た。ただならぬ様子に2人は室内へと急ぐ。

「どうした!?」

 カッツとシンは、トレインがかがみ込んでいるバスルームへとやって来ると、その足元に広がるタイルに目を凝らした。

「これは……」

 タイルの数枚が剥がされていて、そこには大量のICチップがビニールの袋に詰め込まれて埋められていた。

 しかしどれも焼かれた後らしく、表面は焦げ、中身の多くがむき出しになっている。

「殺されたエレン・リードは、組織の人間だったみたいだな」

「ーーー口封じか」

 トレインとカッツが真っ黒のICチップに呟くと、シンは神妙な顔でカッツを見た。

「カッツ。リード社に警察が行っているんだよな?」

「ああ」

「リード社は間違いなくID偽造に関わっている。組織との繋がりがあるとしたら、俺達の依頼者である謎のエレン・リードが捜させようとしているパスト・ヤーセンって男はその証拠を持って逃げたんじゃないのか?」

「ちょっと待て、パスト・ヤーセンだと?」

 シンの言葉に反応したのはトレインだった。

「何だ? 知ってるのか?」

 カッツがシンの言葉を噛み砕いていると、トレインは難しい顔をして指で2人を自分の近くへ来るように示した。

「俺の知り合いの息子がリード社で働いていて、名前がパストって言うんだ。そいつは少し前に会社を辞めたって聞いたぞ? それにリード社が組織と繋がりがあるという噂は、警察でも聞いたことがない」

「だがどう考えてもおかしいだろう? 俺達の前に現れたエレンは10年前に事故死してるんだ。そしてここで殺されたエレンも10年前から出歩いてなくて、さらにはID偽造に使われたと思われる証拠を持っていた。そのパストがトレインの知り合いだとして、じゃあ何故エレンは行方不明だと言って俺達に捜索を依頼したんだ?」

「あーうるせえ! 取りあえずリード社に行ってみればいいだろ? ここでごちゃごちゃ話してたってどうせ分からないんだ」

 まだ言い足りなさそうなシンを制してカッツが言うと、トレインも頷いた。

「そうだな。リード社に行こう。調書は行きながら車の中で取るとするか。おい! このICチップの解析を急がせろ。それからリード社の警護を今すぐ厳重にするよう伝えておけ!」

 トレインの指示の元、警察は即座に行動を開始した。









                               続く…





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