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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

矛盾

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矛盾













 錆びた鉄条網が延々と続く市街地の外れを、シンはずっと過去を振り返りながら歩いていた。

 昔より高い建物が減り、乾燥しているリドヒムの町並みは殺風景だった。自分が地獄だと思っていた頃はそこら中に敵も味方も分からない程死体が転がっていたが、今はそんな事も無く、銃声や爆撃音は聞こえるものの案外静かだ。

 男に銃を突きつけられて歩くシンを、崩れかけた家々から子どもや若い女達が物珍しそうに覗いている。

「おい、俺だ!」

 男は事務所のような簡素なコンクリート造りの建物の前まで来ると、中に向かってそう声を掛けた。すぐ側のガラスのはまっていない窓から顔を出した中年の男が、シンを見て眉を上げる。

「なんだよウェイ、そいつ誰だ?」

「元リドヒム政府軍の伝説のスナイパー、ヘイズのシンだとさ。わざわざJr.に会いに来たらしいぜ」

「ヘイズ……本当かよ? へえ~! 噂のスナイパーがこんな男前だったなんて、びっくりだ! Jr.なら奥だぜ、入りな」

 そこでウェイと呼ばれた男は銃を下ろし、シンを後ろ手に縛った。

「悪いな、ここの中では武器を手にもってちゃいけない決まりなんだ。縛らせてもらうぜ」

「構わない」












 中に入ると、あちこちのドアは壊れていて隙き間風が吹いていた。一番奥の突き当たりには地下へと続く階段があり、シン達はそこへと入る。

 少しひんやりとする階段は湿気でじめじめしていて、やけに靴音が響いた。

 シンはリドヒムに来る時に死ぬ覚悟をしていた。

 チェイスを置いてカッツと軍をやめなければ、チェイスは死なずに済んだかも知れない。チェイスが死んだ事で政府を恨んでいる息子のJr.は、恐らく国を捨てたシンも憎んでいるはずだ。

「止まれ」

 言われるままシンは足を止める。

 ウェイが目の前のドアをノックすると、女の声で返事が聞こえて来た。

 静かにドアが開き、中から中年の女性が顔を出してウェイを見、次にシンを見た。

「おやウェイ。この男前は?」

「こいつ、Jr.に会いたいんだとよ」

「Jr.に? ……ふうん、そう。入って」

「俺は持ち場に戻る。パメラ、後は頼む」

 そう言い残すとウェイはシンを置いて、さっさと元来た階段へといなくなってしまった。

 パメラと呼ばれた女性はシンが縛られているのに気付き、目を丸くする。

「あんた、政府軍の軍人さん?」

「いや、元だ……チェイスJr.が、MBという人探し屋にシンを探して欲しいという依頼をしてきたんだ」

「じゃあ、人探し屋さん?」

 薄暗い室内にはベッドがいくつか置いてあり、薬品の匂いがした。

 その中をゆっくり歩きながら、パメラは至って静かな口調でシンと会話を続ける。特別シンに対して警戒心を持ってるわけではないようだ。

「ああ」

「なのに何で縛られてるんだい? ほら、切ってやるから後ろ向きな」

 そして壁際にある棚の中からナイフを取り出し、シンの縄を切ってくれた。

「すまない」 

「いいんだよ。もし急にあんたが暴れたら、遠慮なく思いっきり蹴るからね。ほら、こっちだよ」

 壁際にはまたドアがあり、パメラは静かにノックをした。そしてドアを開けてシンを促す。

「こ、これは……」

 シンは驚いた。狭い部屋の奥には簡易ベッドがあり、そこには全身を包帯で巻かれた少年が横たわっていたのだ。

「静かにしておくれよ」

「まさかーーー」

「彼がチェイスJr.。2週間位前に爆撃を受けて、怪我をしたのさ」

「馬鹿な」

 ふらふらとベッドに近づくと、シンは苦しそうな表情で眠る少年の顔をじっと見下ろした。

 今朝CDで見た少年に間違いないが、なんと痛々しい姿なのだろう。

「ここに病院はないのか?」

 パメラを振り返ると、パメラは悲しそうに微笑む。

「ここが病院であたしが医者。残念だけど、こちら側には今は十分な医療機材が揃ってないんだ。痛み止めと包帯を手に入れるのがやっとさ」

 政府軍側とのあまりの違いに、シンは愕然とした。そんな状況にありながら、何十年も政府軍と戦い続けているなど信じられない。当時の記憶では、かなり多くのものを豊富に所有していたはずだ。

 何も言わないシンに、パメラが言葉を続ける。

「以前はね、こっちにもかなり充実した医療器具が揃ってたんだ。だけどここ2年くらい、急に物資が届かなくなってね。それに政府軍も最近は本気で攻撃をしてきたりしなかった。だから怪我人も痛み止めと包帯と消毒液くらいでなんとかなるくらいだったんだ……でも半年程前から急に動きが慌ただしくなってね、なんだかおかしいんだ」

「おかしいとは、どういう事だ?」

「あたしたちだってもう戦争なんかしたくないんだよ。戦争があまりにも長く続きすぎた……だから、適当な所で政府軍と休戦する方向へ動いてたんだ。だけど、半年程前だった。政府軍から次に起こす作戦で、一次休戦をしようという密書が届いたんだ。こちらは同意し、打ち合わせ通りに作戦は進行してたのに、急に向こうが打ち合わせと違う攻撃を仕掛けて来たんだ。結局こっち側の大将は約束と違うと怒って派手にドンパチさ……その時にこの子は政府軍にいたそうなんだけど、自分のいるすぐ後方にいた部隊が急に攻撃を始めて、それに巻き込まれて父親は死んだらしい」

「なんだと?」

 シンはジャイロに聞かされた内容と違う事に寒気がした。それではまるでチェイスを殺し、反政府軍を煽る為にわざと出撃したみたいだ。

「う……パメ、ラーーー」

「あっ! Jr.目が覚めたのかい? あんたに会いに、人探し屋さんが来てくれたよ!」









 ****








 ルーズはジャイロに通された部屋を抜け出し、レンタカーまで戻って来ていた。

 そしてノート型端末を使い、リドヒム政府軍のコンピューターにアクセスし、ここ数年作成された機密事項を調べていた。

 ジャイロの言葉と、チェイスJr.から送られて来た映像に違和感を感じたのだ。

「半年前の記録はどこ?」

 何十にも張られたセキュリティーの隙間を縫いながら、ルーズは思わぬ事実を発見して息を飲む。

「……ちょっと、これってまさか」

 見つけたのは反政府軍とリドヒム軍との密書の原本で、内容は次の作戦でリドヒム軍が総攻撃を仕掛けたら反政府軍は応戦するフリをして前線に出て来る事。そして空の砲弾を連射した後、反政府軍のリーダー及び組織構成員数名で投降するというシナリオだった。

 さらに、リドヒム軍内部で通達された重要連絡事項の中に、その作戦の指揮をとるチェイスとその部下。そして息子のチェイスJr.には内密にして、チェイス達が前線に出たら実弾を発射して後方から狙撃するという作戦があった。ジャイロ達リドヒム政府側は最初からチェイスを殺すつもりだったのだ。

 一体何故?

 最近ルーズ達の所に舞い込む仕事はplain絡みだったり、分からないことだらけだ。

 分からない。

 なんと都合のいい言葉だろう。

 ブルリと一度頭を左右に振り、ルーズはパソコンのキーボードを叩いた。
















 『カッツ、もう反政府軍側まで到着した?』

 先ほどシンが身を潜ませていたのと同じ建物の影で、カッツはルーズからの無線をキャッチした。

「おう。今目の前に境界線が見えてるぜ。ってお前、軍施設の中から無線使ってんのか?」

 上着の中から銃と閃光弾を取り出し、セットして安全装置を外す。

『今は車に戻って来てる。それに傍受されないようにしてるから安心して。ーーそうじゃなくて、政府軍側のコンピューターをハッキングしてたら、とんでもない情報を見つけたの。ジャイロ中将が言っていた半年前の作戦だけど、休戦に持ち込むどころかチェイスをわざと殺して、一気に攻撃して反政府軍側に打撃を与えるつもりだったみたいなの』

「どういうことだ?」

『軍の情報によると、組織から反政府軍の動向や武器、食料なんかの貯蔵量データが漏れていたみたい。もしかしたら組織は反政府軍を使って実験をしていたんじゃないかしら……それである程度データが取れたから、そろそろ捨てようって腹なのよ』

 余計に分からなくなってしまった。カッツはボリボリと頭を掻き、ルーズの言葉を理解する為に頭の中を整理する。

「ーーーあ〜。なんだ? データってのは反政府組織が政府と戦争をやった場合、どういう風に人や武器が動いて、どの程度の金が必要かとか、そいう事か?」

『恐らく』

「んで、組織はリドヒムで何十年も前からそのデータを取って、もう十分だからこの辺で一気に政府に加担して反政府軍の連中を始末しようって事か?」

『ええ』

「それとチェイスが殺された事と何か関係があるのか?」

『チェイスが以前使っていたパソコンのデータを探したんだけど、消去されていたの。復旧作業をしてたんだけど、全部は無理だった。で、チェイスは政府の動きがおかしい事になんとなく気付いていたみたいなのよ。確信があった訳ではないみたいだけど、ジャイロ中将と2人で話した時のデータが見つかったわ』

「……ジャイロのヤツ、体よくチェイスと反政府軍を一気に潰したって訳か」

 ふと物陰の向こう側に人の姿を捉え、カッツは声を潜めた。

「誰か来る。ルーズ、ジャイロに動きを感づかれないように気をつけろよ。シンと合流出来たら連絡する。すぐにステーションに戻れるように上手い事待機しといてくれ」

『待って、チェイスJr.の事だけど、もしかしたら政府の企みに気付いて反政府軍側に寝返ったんじゃないかしら。シンを呼んだのは、政府と組織の繋がりや反政府軍が全滅させられるのを知らせる為かもしれない。ジャイロ中将は生き残ったチェイスJr.を探して会いに来たシンに、2人を会わせて、殺し合いをさせるためにわざと焚き付けるような事を言ったのかも知れない』

「は! んで、ついでに俺達も始末しようってか? 何故?」

『ーーーそれは、分からないけど……』

 ただの人探し屋であるカッツ達を殺した所で、リドヒム政府側には何のメリットもない。もしルーズの推測が正しいとしても、カッツ達に戦争をやめさせる力などないのだ。

 カッツのかつての仲間であったチェイスを殺したのも同じかつての仲間で、そのやるせない憤りをどこへぶつけたらいいのか、カッツには皆目分からなかった。

 とにかく今はシンとチェイスJr.に会わなくてはいけない。

「派手にやり合わずに済めばそれでいいか……まあ、取りあえずジャイロに気付かれんな。切るぞ」

 そう呟き、カッツは物陰から出て行った。

「誰だっ!?」

 銃を向けたのは先ほどシンを連れて行ったウェイだった。どうやらこの辺り一体が彼の持ち場らしい。

「おおっと、撃つなよ。俺はカッツ。チェイスJr.に会いたい……ついでにそのチェイスJr.に会いに来たシンって男にも会いたいんだが」

「ーーー今日はやけに客が多いんだな。生憎だが、Jr.が会いたいのはヘイズのシンだけだ。あんたみたいな強そうなヤツまで連れて行く訳にはいかないな……」

 カチャリと銃を構えたウェイに、カッツははあ、とため息を吐く。

「しゃーねーな」

 項垂れたと思った瞬間だった。カッツは足元に転がっていた石と砂をウェイ目がけて力いっぱい蹴り、それと同時に低く屈んで突進し、ウェイの手首を下から突き上げた。

「うわっ!?」

 石と砂を顔面に浴び、怯んだ所へ今度は強烈な掌底を受け、ウェイは思わず銃を落としてしまった。

「ぐっ!」

 直ぐさまカッツはウェイの後ろに回り込み、手首を捻って簡単に押さえつける。

「悪いな。俺は馬鹿力だから加減が上手く出来ねえんだ。あんたらを殺すつもりはないし、喧嘩をしに来た訳でもないからさ、良かったらシンがいる所まで案内してくんない?」

「いたたた! そ、それが人にものを頼む態度かよっ!?」

「良く言うぜ。最初にお願いしたのに俺を殺そうとしたのはそっちだろ? ほら、どっちだ?」

 明らかにウェイはカッツより小柄で、力では敵わない。仕方なくウェイはシンを連れて行った病院へカッツを案内することにした。

 何より捻られた手首が今まで味わった事がないほど痛い。

「はああ。こんな事がバレたらリーダーにどやされるぜ……」

「心配すんな。リーダーもろとも、近いうちにお前ら反政府軍は全滅させられる」

「は? 何だって?」

 驚いた顔でウェイはカッツを振り返る。まだ腕はしっかりと後ろ手に捻られているが、先ほどのように力を入れられていないのでもう痛くない。

「長い戦争に終止符を打つつもりなんだよ、政府とplainは」

「はあ? どういう事だよ? plainは俺達反政府軍に物資をずっと流してくれてたんだぞ!?」

「詳しい話しはシンと合流してからだ……あ、まさかもうチェイスの息子に殺されてるとかって事はないよな?」

「ふんっ、それはない。Jr.はこの間爆撃を受けて怪我をして動けないんだ。それに、ヘイズのシンは殺す為に探してたんじゃない、何か大事な事を伝えたいからなんだとさ」

 ウェイのその言葉を聞いて、カッツは安心した。取りあえずシンの死体と対面することはなさそうだ。それに、先ほどのルーズの推測が正しい事の裏付けも取れた。

「そらあ良かった。あ、そうだ。一つ聞いてもいいか?」

「なんだよ?」

「さっきから爆音や銃声が聞こえるけど、悲鳴が聞こえないよな? あれはどういう事だ?」

 そうなのだ。カッツは市街地に入ってから、その事がずっと気になっていたのだ。

「最近はこちら側は物資が足りないんだ。だから空砲を撃ったりしてただ威嚇してるだけなんだよ」

「政府軍が攻撃してきたら意味ないだろ?」

「知るかよ。今総攻撃くらったらひとたまりもないが、あいつら気の抜けた弾しか撃って来ないんだ」

「ふうん、なるほどな……よし、んじゃ、急ぐぞ」

 やはり政府軍は反政府軍の様子を見ながら殲滅する時期を見計らっているようだ。それが何故かは分からないが、とにかく今はシンとチェイスJr.に会わねばならない。

「おい、押すなよ痛いんだから! もう少し力抜けよ、馬鹿力! 逃げたりしねーからっ!」

「最初に言っただろうが、俺は馬鹿力だって。男なら少しくらい我慢しろっての!」








                               続く…





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