チェンジ・ザ・ワールド☆
選ぶ道
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選ぶ道
目を覚ましたチェイスJr.は、シンの顔を見ると涙をこぼした。
「シン……父さんの、相棒……」
「あんまりしゃべるんじゃないよ」
急いでチェイスJr.の隣りへ寄ると、パメラが脈を取りながら様子を伺った。その切れ切れの呼吸から、もう長くはもたないと悟る。
シンはゆっくりとチェイスJr.の脇へ立ち、ぐっと目をつぶって頭を下げる。
「ーーーすまない。オレは、お前の父親を裏切った……」
「ち、違う……父さんは、自分の意志でここに、残った……シンの所為じゃないーーー」
カッツと同じ事をチェイスの息子の口から聞いたことで、シンはほんの少し、気持ちが軽くなった。
共に国を出ようと言った時、チェイスは一瞬悲しそうな表情をした。
それが何を意味していたのか、今、やっと分かったような気がする。
「あたしが代わりに伝えるから、眠りな」
苦しそうなチェイスJr.にそっと手を置くと、パメラがこちらを向いて口を開いた。
パメラによると、半年前に政府軍が打ち出した作戦は、反政府軍との戦争を一次休戦するための大事なものだったという。チェイス率いる先発隊が、反政府軍の前線まで到達した所で一斉攻撃をするように見せかけ、反政府軍の幹部達が政府軍に投降するというシナリオだった。
危険はなく、反政府軍側も承知していたはずが、チェイス達が前線に到着した途端、政府軍は見せかけではなく、チェイスもろとも実際に攻撃をしかけてきたのだ……
頭上を飛び交う砲弾の嵐と、約束と違うと叫びパニックになる反政府軍のるつぼの中、チェイスはJr.と生き残った仲間を反政府側へ逃がす為、自分の身を危険に晒した。たまたま近くにいた反政府軍の幹部の1人がその様子を見ていて、事情を飲み込むとすぐにチェイスJr.達を安全な場所へと誘導したのだが、チェイスとほとんどの仲間は銃弾に遭い命を落とした。
チェイスはずっと戦争が早く終わり、敵味方などなく平和に暮らせる星になって欲しいと言っていた。チェイスJr.は父のその意志を継ぎ、仲間を平気で裏切る政府軍ではなく、反政府軍に加わり戦争を終わらせようと決意した。
しかし、反政府軍に大きな資金と物資を提供し続けていたplainの動きが急激に止まり、ここ最近の反政府軍側の疲弊度は凄まじかった。これはおかしいとすぐに幹部が動いたのだが、リドヒムを出た幹部数名はいまだ戻って来ないのだと言う。
「……もうこのままじゃあたしらは全滅だよ。この星をより良くしようと30数年前に立ち上がった、最初はたった10名ほどしかいなかった仲間も、気付けば政府軍と対等にやり合うくらいにまで大きくなったってのに……どうして組織はあたし達を見限ったんだい? 悔しいよ……」
まるで歯ぎしりでもするようにパメラが言う。何も答える事が出来なかったシンはゆっくりと病室を出、ずっと通信を切っていたインカムに手を伸ばした。
一呼吸置くとスイッチを入れる。
「……ルーズ、オレだ」
『シン? ちょっと、あなた大丈夫なの?』
「ああ。ところで、お前達リドヒムに来てるんだろ?」
『私は政府軍側の基地の近くにいるけど、カッツがそっちに向かってるはずよ。何?』
「調べてもらいたい事がある」
『分かってる。リドヒム政府と組織の事でしょ? 何故チェイス隊と反政府軍をだまし討ちして、反政府軍に物資を流さなくなったのか』
「知ってるのか?」
『知ってるというか、分からない事だらけだけど、取りあえず組織はもう反政府軍は用無しになったから、政府側と組んで一掃するつもりみたいね』
ルーズの言葉にシンはため息を吐いた。
「いつ総攻撃をしてくるか分かるか?」
『作戦の実行計画は立ててるけど、時期はまだ未定のようね。私の予想では、この1、2か月中だと思う……シン、あなたまさか、反政府軍の人たちをなんとかしようって思ってるの?』
「悪いか?」
『いや……別に悪くもないし止めもしないけど、あなたも狙われてるかもしれないのよ?』
「それは……」
その時だった、突然向かい側のドアが勢いよく開き……いや、外れ、先ほどシンをここまで案内して来たウェイとカッツが入って来た。
「か、カッツ?」
『え? カッツ? 無事合流したのね、良かった。じゃあ待ってるから、早く戻って来なさいよ』
「あっ、おい!」
「いよう、シン! 元気そうでなによりだ。んで? チェイスの息子はどこだ?」
「痛ぇっ!! いい加減放せよっ!」
呑気に笑顔で挨拶をするカッツの前で、まだ腕を後ろ手にされたままのウェイが怒鳴る。
「うるせーなあ。お前もここの入り口で見張ってたやつも弱いくせに、口だけは威勢が良いな、おい」
「てめえっ! 生きて帰れると思うなよっ!?」
「帰れる。心配するな、俺はしぶといんだ」
「シン! Jr.がやばいよっ!!」
カッツの所為でどんどんやかましくなってきた所へパメラが飛び込んで来て、カッツとウェイは驚いて喧嘩をやめた。
「やばい?」
カッツの顔が真面目になる。
「ウェイ! あんたは急いでトーヤを呼んで来ておくれ!」
「わ、分かった!」
パメラに言われ、カッツから解放されたウェイは直ぐさま部屋を飛び出した。
そしてカッツとシンは、急いでパメラと共に病室へと入って行った。
****
「あんたの言う事は分かる。だがな、例え組織が俺達を見捨てたとしても、俺達は国を捨てて出て行く訳には行かない」
そう目の前で言う若い男は、反政府軍の幹部の1人であるトーヤという男だった。24、5歳とまだ若いが、落ち着いていて随分と頭も切れるというのがその風体から伝わって来る。ぱっと見は科学者のような細い線をしているが、どこかしら人を束ねる為に必要な威圧感を備えていた。
カッツとシンがチェイスJr.の寝ている病室に入ってしばらくすると、このトーヤを連れてウェイが戻って来た。
結局チェイスJr.はトーヤの顔を見て、シンとカッツに父親からの礼を伝えた後、静かに息を引き取った。
それからシン達は別室へ移動し、トーヤに組織が政府側に完全に付いてしまった事を告げ、反政府軍を惑星エンドへ移住させる事を提案したのだが、断られてしまった所だった。
「何故? 投降しなければ死ぬだけと分かっているのに、何故戦い続ける? そこまでしてこの星を守って何になる?」
納得のいかないシンは、トーヤに尋ねる。トーヤはウェイ、パメラ、そして他にも集まって来た数名の仲間の顔をゆっくりと見回し、笑った。
「幹部数名が組織の意向を探る為に星を出たが、誰も帰って来なかった。その時から覚悟はしていたよ。チェイスJr.の話しと政府軍の密約破棄の行動、内乱が続いて来た期間を考えればそろそろ潮時だ。だが、もしここで俺が星を捨てて出て行ったら、この30数年の間にリドヒムの為に死んで行った仲間達に申し訳が立たないんだよ……分かるだろ? 皆幸せに暮らしたい。ただその一心で戦って来た。今更敵に背中を見せる訳には行かないんだ。死んで行った仲間の為に、苦しい思いをした俺達と同じ思いをあいつらに少しでも味わわせてやりたいーーー」
「武器を取り、死を恐れずに敵を倒す事は勇気じゃない! 敵って何だ? オレは元政府軍の人間だった。だが、人を殺す事に疑問を感じていた……いくら強くても、そんなものは何の役にも立たない。皆それぞれ息をし、時には涙を流し、疲れ喜び、生きているんだ! 生きる事を考えて何が悪い? お前達は仲間を無駄死にさせる事が革命だとでも言うのか? 自爆でもして、華々しく死ねば何か残るとでも思っているのか!?」
ドン!
とテーブルを叩き、シンが声を荒げる。
その言葉に誰もが顔を伏せる。
「ーーーもうよせ、シン」
「いや、よさない。オレは誰にも死んで欲しく無いんだ! 戦争をして何になる? 歴史に名を残して満足するのか? それで本当に何かが圧倒的に変わるとでも思っているのか!? 根本的な解決になどならないことは、お前達だって分かっているだろう!」
怒りが収まらないシンは、とうとう立ち上がって歯を食いしばる。肩を震わせ、拳を握りしめ、悔しそうに呟いた。
「オレは、人殺しだ……お前達の仲間を数えきれない程殺して来た。どんなに偉そうな事を言ってもこの過去は消えない。だがな……人間は生きる事を諦めない限り、必ず幸せを掴めるんだ。男だろうと女だろうと、老人だろうと子どもだろうと、必ずーーー生きる事には意味があるんだ……なければいけないんだ。それは政府の人間だろうが、反政府の人間だろうが、皆同じなんだ……」
「シン……」
カッツはシンのその姿に胸を打たれた。それはトーヤ達も同じようで、皆一様にシンの訴えを静かに聴いている。
しばらくして、パメラが口を開いた。
「あたしは医者だ。医者の立場から言わせてもらえば、もう、誰かが戦争で傷つくのを手当てなんかしたく無い……だけど、トーヤの気持ちも分かるんだ。あたしは内乱が始まった時からずっと反政府側にいて、30年以上医者をやってきたんだからね」
「お、俺は嫌だっ! あんたらみたいに仲間を捨てて逃げ出して、楽な道を選ぶなんてしたくねえ! 例え最後の一人になろうとも、政府軍の奴らを1人でも多く殺してから死んでやる!」
「ウェイ、待ちなっ!」
ガタンと立ち上がり、止めようとするパメラを振り切りウェイはシンに向かってそう言い捨てると、走り去ってしまった。
トーヤはふとシンを見て、頭を下げた。
「ありがとう……敵であったあんたにそう言ってもらえるなんて、夢にも思わなかったよ。なんだろうな。あんたには仲間がたくさん殺されてるのに、腹が立たないーーーもう感覚が麻痺してしまっているのかもしれないな……誰かが死ぬ事が、ここではこの何十年もの間、当たり前すぎた……俺は残るが、もしリドヒムを出たいという仲間がいたら、図々しいお願いだが手を貸してやってくれないだろうか?」
「だがっ……」
「ああ、いいぜ」
すぐにシンを止めてカッツが胸を反らす。
「俺様に任せときな」
「すまない。政府側もすぐには動かないようだし、こちらの準備が出来次第すぐに連絡をする」
「分かった。こっちも準備を進めておこう。それじゃあ帰るぞシン。 ……っと、忘れる所だった。チェイスの息子の事はすまないがあんたらに頼みたい」
バンと勢い良くシンの背中を大きな手で叩くと、カッツはトーヤ達に軽く頭を下げ、力の抜けてしまったシンを半ば強引に連れて外に出た。
それを見送りながらトーヤとパメラ、他の連中はゆっくりと頷いた。
建物を出て振り返ると、カッツがどんよりとした色の空中に向かって言った。
「自由には2種類ある。自分の好きなことを自由に行なう偽りの自由と、自分のなすべき事柄を自由に行なう真の自由……。シン、お前の言う事は正しいよ」
「ーーーそれはお前の名言か?」
「まだ地球に人間が住んでた頃の、19世紀のイギリスのなんとか言う小説家の言葉だよ」
「はは、カッツの口から小説家の名言が聞けるとはな……」
微かに顔が綻んだシンに、カッツはさらに言う。
「人間にとっての自由とは、本能のまま好き勝手行なう事じゃない。この小説家は当たり前の事を大昔から言ってんだ……でも、自分のなすべき事柄を自由に行なえている人間がどれほどいる? そもそもなすべき事柄なんて、誰かに示してもらわなければ分かるはずもないだろうが。お前も俺も、戦争が人間のなすべき事だとは思えなかったから武器を捨てた。そしてあいつらの生き方が正しいとも思わない。だけどな、選ぶのはあいつらだ。強制は出来ない……だったらさ、俺達に出来る事は手伝おうぜ。それでいいだろ?」
「……ああ、分かってるさ」
チェイスJr.は穏やかな表情で、静かに息を引き取った。
チェイスからの伝言は、シンの心を救った。
それは、シンが選んだ道が間違いではなかったのだと、この弱い背中を押してくれた。
仲間の死の知らせなど聞きたくはない。出来る事なら、もう二度と。
シンの心の中が晴れやかになる日はまだ当分来ないかもしれない。自分の過ちと共に生きて行く事を選んだのだから。
それでもこうして毎日は過ぎて行く。誰かの苦しみと、幸せを同時に受け止めながら。
リドヒムがこれからどういう道を辿るのかは分からないが、シンは見守り続けようと思う。そして自分に出来ることがあるならば、カッツが言うように手伝いたいと、心から思った。
リドヒムは生まれた星だ。だが、こんなに薄い感情しか奮い起こしてくれない故郷など、自分には無くても構わない。
誰に言うでも無く、シンは遠くの町並みを眺めて言った。
「いつか、誰もが幸せになる日がくるといいんだがな……」
「来るさ、必ず。神様はちゃあんとタイミングを見計らってるぜ。人間が過ちを悔いるタイミングをよ」
カッツの言葉はいつも、シンの鉛のように重く冷たくなった心を軽くしてくれる。
揺るぎないその確信に満ちた言葉は、現実になりそうで何ともおかしかった。
「ああ、そうかもな」
そう、無意識のうちに頷いてしまうほどに。
続く…
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