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チェンジ・ザ・ワールド☆
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チェンジ・ザ・ワールド☆

敗北

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敗北













 シンはセイラを取り戻す事が出来なかった。

 男達は、シンの目の前で乗って来たであろう宇宙船に乗り込み、まるであざ笑うかの様に遥か上空へと飛び立ってしまった。

 悔やんでいても仕方ない。

 目の前で仲間が死ぬのなど、嫌というほど見てきたシンにとって、今一番やるべきことを瞬時に判断するのは雑作もない事だった。

 ただ、感情を押し込めているだけであって悔しい、歯がゆい事に変わりはない。

 近くの木を蹴り倒し、くるりと元来た方へと体を反転させた。

 すぐにシンはカッツの元へ戻り、素早く止血をしてキャンプへとおぶって運んだ。

 その途中、祈るような思いでルーズへ連絡を入れる。

 ルーズはすぐに反応をした。

『今、地球から出て来る航行ルートにズレが生じたのを確認したわ。何かあったの?』

 どうやら政府管轄のルートを細やかにチェックしていたらしい。

 恐らくルーズが見つけたのは、先ほどシンが逃がした連中の宇宙船だろう。

 重たいカッツの体を半ば引きずるようにジャングルを進みながら、シンはつい今しがた起きたばかりの出来事を事細かに説明した。















 『セイラは捕まったのね? 殺されなかったって事は、利用価値があるからよ。きっと生きているわ。取りあえず昨日政府に話しを付けて、私も地球へ向かっているの。もうじき到着するから、通信を切らずに待ってて。医療道具も今回は揃えてきてるから』

「そうか……分かった」

 そこでルーズとの通信を切ると、シンは大きく息を吐いた。

 一体何故こんな事になってしまったのだろう。

 地球に来て敵との戦いに巻き込まれ、セイラは拉致されカッツは瀕死の重傷を負ってしまった。

 一体plainは何を企んでいる? 地球に危険をおかしてまで来て、こんなジャングルで何を探しているというのだ?

 そこでシンは一度カッツを担ぎ直すと、一瞬頭に浮かんだ何かをもう一度探った。

 探している?

 そうだ、政府の調査団は地球の調査に来ている。だが、組織の連中は調査が目的などではないはずだ。

 地球の状況を知りたいなら、調査を終えて戻ってきた政府のコンピューターをハッキングすれば簡単だ。

 だとするなら、必ず目的の物がここブラジルにあるという事。

 それが何か分かれば、もしかしたら組織に大ダメージを与える事が出来るかもしれない。

「う、う……」

 微かに呻くカッツに我に返り、シンはビルへと急いだ。















 ルーズがやってきたのは、シンが基地に戻ってきて1時間もしないうちだった。

「カッツ……」

 虫の息のカッツの姿に、さすがのルーズも動揺を隠せない。

 直ぐさまルーズが乗ってきた宇宙船にカッツを乗せ、緊急手術が行なわれた。

 ルーズは医者ではなかったが猛勉強をしたためある程度の医療知識を持っている。

 そして医者がいない場所で緊急の場合に限り、ネットを繋いだ状態で医師と連携を取りながら一般人でも怪我人や病人の手当が出来るようになっていた。有事の際の緊急処置だ。

 もっと設備が整った宇宙船なら、医師が遠隔操作をしながら緊急手術を行なうことも出来るのだが、如何せんこの宇宙船はそこまで最新ではない。

 大きな画面に映し出される医師とカッツの映像を見ながら、ルーズとシンは必死で出される指示通りにカッツの体から弾を摘出し縫合するという作業を繰り返した。














 何時間経過したのか、ふと集中が切れ掛かった時、やっと処置が終わった。

「ーーー終わった……」

 ドサリと近くの椅子に座り込み、シンは大きく息を吐いた。

「取りあえず出血が多いからしばらくは増血剤を点滴して様子を見ましょう」

「ああ……なあ、ルーズ。カッツは死なないよな?」

 ベッドの上で眠るカッツの様子をチラリと伺い、シンが尋ねる。

 ルーズは微笑んで頷いた。

「この男が簡単に死ぬ訳ないでしょ?」

 その一言に、何故か説得力があってシンも笑う。

「そうだな。とんでもない高さの崖から落ちても死ななかったんだし、銃弾浴びた位じゃ死ぬ訳ないか」

 そう言い終わると、シンは疲れからかその場で眠ってしまった。









 ****







 私の名前はソラ……

 「空」から付けられたんですって。

 あなたの瞳の色は、とても不思議ね。

 私の名前と同じ、空の色ーーー















 ふわふわと心地よい温もりを感じ、カッツは意識を取り戻した。

 驚くほど周囲がまぶしくて、顔をしかめてゆっくりと目を開いて行く。

 懐かしい記憶はひどく甘い味がして、ぞくりと心の奥底を揺らした。

 無機質な天井がはっきりと見えるようになってくると、カッツは首を横に動かす。

「……うっ!」

 体中に痺れるような痛みが走り、思わず声を漏らす。

 と、

「やっとお目覚めか?」

 聞き慣れた野郎の声が近くで聞こえ、その声はすぐ側までやってくると美味しそうにお菓子を食べながらカッツを見下ろした。

「ここ、は……?」

「ルーズが乗ってきた宇宙船だ。本当にお前は悪運だけはピカイチだな。こんなに早く意識を取り戻すとは、恐れ入る……何か飲むか?」

「セイ、ラは?」

 その名を聞くと、シンの顔色が変わる。

「……連れ去られた。すまない」

 シンの答えに目をつぶり、カッツは悔しさに歯ぎしりをする。

 それでも力が入らないため、思うように噛めていない。

「迷惑、かけたな」

 悔しそうな表情のシンは、ふと表情を変えると、今度は悲しそうにくるりとカッツに背を向けた。

「オレは何もしていない。礼ならルーズに言えばいい……あいつはこの4日間、ずっと寝ずにお前の看病をしていたんだからな」

 4日間ーーー

 そんなに眠っていたのかと、カッツは記憶をなくすまでの出来事を思い出す。

 セイラは連れ去られた。そして自分も重傷を負った。

 一体なにをしているのだろう。

 セイラは無事なのだろうか? 泣いていないだろうか?

「カッツ、起きたの?」

 部屋に入ってきたルーズが、二人の様子に眉を上げる。

「ルーズ、お前さっき休むって出て行ったばかりだろ?」

「何だか気になって眠れないから、戻ってきたのよ」

 そう言いながらカッツの隣りに座って脈を取る。

「……落ち着いているみたいね」

「すまないーー」

「ミイラみたいな姿で言われてもねえ」

 そう言って笑ったルーズに、カッツも気持ち微笑む。

「セイラさんを連れ去った連中の宇宙船の行き先を突き止めたわ」

「本当か?」

 先に口を開いたのはシン。

 頷いてルーズはテーブルに置いてあった端末を使い、エンドの地図を画面に表示した。

 それを見る為に体を起こそうとするカッツを押さえつけ、叱る。

「ちょっと、怪我人は動かないで頂戴。傷が開いたらエンドに戻るのがまた遅くなるんだから」

 大怪我をしたカッツを乗せたまま大気圏を抜けるのは危険な為、ルーズ達は未だ地球から出ていなかったのだ。

 どうせまともに動けないし力も入らないので、カッツは諦めてシンが口に押し込んだストローから栄養ドリンクらしいジュースをチュウと飲んだ。

「ここよ」

 ルーズが示したのはドルクバだった。

「トレインの所か……」

「宇宙船を降りたのは別の国だったけど、空港や道路のカメラ画像を入手出来るだけ入手して探したの。それでやっと突き止める事が出来たのよ」

 カッツの看病をする傍ら、休む事無くそんな作業を続けていたらしい。

 シンはルーズの根気に脱帽した。

「それで、セイラは無事そうだったのか?」

「ええ、怪我なんかはなさそうだった。顔は頭からショールを被せられてたからはっきりとは分からなかったけど、男達に両脇を挟まれて自分で歩いていたから大丈夫だと思う。そのうちトレインから連絡が入ると思うわ」

 そう言い終わると同時に、まさにルーズとシンが見ている端末に連絡が入った。

 二人は顔を見合わせ、呼び出しに応える。

 画面にトレインの顔が映し出された。

『よう、カッツの野郎の様子はどうだ?』

 開口一番トレインが尋ねると、ルーズは体をずらして後ろでジュースを不味そうに飲むカッツの姿を見せる。

「ご覧の通り、しぶとく生きてるわ」

『はははっ! 意識が戻ったんだな。そらあ良かった。おい、カッツ! てめえ怪我が治ったらルーズに特別ボーナス払っとけよ!』

「うるせえ」

 先ほどよりも喉が潤った分、カッツの声から掠れが取れた。力はないが滑らかにそう言うと、プイと画面と反対側へ顔を向けて目をつぶる。

『まあ、お前は殺しても死なねーからな。っと、忘れる所だった。頼まれてたセイラ=バーミリアンの行方だが、ついさっきドルクバの外れにある汚水処理センターの近くの倉庫で保護されたらしい』

「保護された? 一人?」

『ああ。連れ回してた連中はルーズが送ってくれた画像を使って緊急手配してるが、今の所確保したという連絡は入ってない』

 取りあえずシンとカッツはほっと胸を撫で下ろした。

 無事に警察に保護されたというのならひとまず安心だ。

「トレイン、plainの連中地球で何やらこそこそやっているみたいなんだ。セイラの事もふまえて、エンド政府に掛け合えないか?」

 シンが真面目な顔で言うと、トレインはあごに手をやり、うーんと唸る。

『セイラ=バーミリアンはエンド政府に在籍しているから、もちろんお前達からもらった情報と一緒にこれから報告はするつもりだ。だが、すぐに動くかどうかは難しい所だと思うぞ』

「それは分かってるが、地球探索チームが数名殺されているんだぞ? おまけにカッツまで大怪我だ。これで組織とは付かず離れずですからって言われたら、こっちは大損だ」

 シンはセイラを助けられなかった事に責任を感じている。

 さらに元々短気な性格なおかげで、組織が何を企んでいるのか本気で探る腹のようだ。

『そう言われてもなあ。俺らみたいなただの刑事に、そんな権限はねえし……お前達が独自に動くってんなら、情報があればすぐリークしてやるぞ』

「ちっ、それでも公務員か……ところでルーズ、ベニーランドにはいつ帰れる?」

 トレイン達だけでなく、エンド政府としても恐らくplainの動きをしっかりと把握しておきたいというのが本音だろう。

 しかし、一介の刑事や人探し屋がどうこう出来る相手ではない。

 警察をけしかける事を諦めたシンが、ルーズとその向こうで不貞腐れるカッツを見て尋ねる。

「そうね……あと10日後って所ね」

 怪我をしたのがエンドだったなら、もっと設備の整った病院で治療も受けられただろうカッツの容態は、限られた医療道具だけですぐに回復するというのは難しい。

 それでもカッツの回復力は常人離れをしているため、全身を銃で穴だらけにされても2週間ほどでかなり回復すると予測が立てられた。

『取りあえず、こっちで出来る限りの事はやって情報も仕入れとく。お前達もそこから出来る事をやってくれ。で、何か分かったら教えてくれ。じゃあな』

 ブツリと通信の切れた画面を閉じ、ルーズとシンはどちらからともなくため息を吐いた。

 組織がいつ頃存在し始めたのか、正確な事は分からない。

 だが、地球から宇宙へと人類が逃げてきた200年前には既に政府の裏側を担う仕事の為に組織されていたようだ。

 完全に政府の手を離れてしまったのか、それとも政府との関連が今だ強い為か、組織が関係していると思われる事件は往々にして霧と消える。

 調べようにもルーズでも探し当てられないデータがあって、組織に関しては分からない事だらけなのだ。


 エンドに戻るまであと10日。








                               続く…





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