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チェンジ・ザ・ワールド☆
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初恋

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初恋













 カッツがアインの軍事学校にいた頃の事。授業の一環として3人一組でのサバイバル訓練が実施されていた。

 ご多分に漏れずカッツもその訓練に参加していて、幼少の頃から体格も判断力も優れていたカッツはリーダーとして隊を任されていた。

 一クラス30名を束ねる役目を受け、カッツは人員を割り振った。もちろん各隊の実力にばらつきが出ないよう、個人の能力を考慮してだ。

 場所はアインから離れた山岳地帯で、訓練課題は2か月間生き延びること。

 カッツのクラスは学校内でも一番優秀なクラスで、この30名は将来が有望視されている子ども達ばかりだ。そのクラスのリーダーをしていたのだから、カッツの能力の高さは言うまでもない。

 訓練は順調だった。

 最初の一か月はクラスの他の隊の様子を伺いつつ、脱落者が出ないよう常に注意を払っていた。

 が、あと残り一週間となった日のことだった。

 カッツの隊の一人が足を踏み外し、かなりの高所からカッツを巻き込んで滑落してしまった……















 どれくらいの時間が経った頃か、カッツは全身に走る激痛で目を覚ました。

「うっ!」

 ほんの少し体を動かそうとすると痛みは全身を駆け抜け、自分が今どのような体制をとっているのか、体の感覚からは知ることが出来ない程だった。

 ぼんやりとする視界の中、なんとか目を開き辺りを見回すと、隣りで仲間が血まみれになってぐったりとしている。

「お、おい、大丈夫、か……しっかり、しろ」

 自分が仲間のすぐ隣りに倒れている事に気付き、無理矢理体を起こすと、辛うじて動かせる左腕だけで仲間に近づいた。

「おい、おいっ……」

 切れ切れの声で、カッツは呼びかける。が、返事はない。

 山岳地帯とは言うものの、この地域には木などほとんど生えていない。あるのは葉もまばらな細々とした低木だけで、まるで森のように岩がうねうねとせり出していて、無機質な迷路のようになっている。クッションになるようなものがない場所で、落ちた場所すら見えないような高さから二人して落下したのだ。無事でいる方がおかしい。

 どうやら落下途中で岩に頭をぶつけたらしい仲間は、頭部から大量の出血をし、死んでいた。

「く、そっ……」

 再び遠のく意識の中、カッツは人の気配を感じた。

 誰か来るーーー

 しかし、それ以上意識を保つ事が出来なくなったカッツは、薄れゆく己の景色の中で、何とも不思議な感覚を受けたのだった。













 次に目を覚ました時、カッツは薄暗い場所に寝かされていた。

 体は指一本動かせなくて、目だけで様子を探る。

 ここは、どこだ……?

「くっ……」

 ほんの少し首を動かしただけで激痛が走る。

 ぐるりと視線を一周させると、どうやら洞窟の中のようだった。ゆらゆらと揺れるろうそくの炎が反射して、岩肌を赤茶色に映している。

「まだ動くのは無理よ」

 少女の声がして、カッツはその声の主を探した。

「水、飲む?」

 カッツの足もとから現れた少女はニコリと微笑み、首から下げた水筒を見せてカッツの隣りに座る。

 誰だ?

 アインは子供が成長するのも厳しい環境の為、女児の生存確率は男児よりもはるかに少ない。そのため学校の生徒はほとんどが男子で、女子は全体でも10人といなかった。この訓練に参加しているのも全員男だった為、カッツは少女の正体が分からなかった。

 おまけにこの辺りに人が住んでいるという話しは聞いた事がない。本当に岩だらけの場所なのだから住めるはずもないのだが、そんな場所で軍事学校の生徒でもない少女が一体何をしているというのか。

「お前は……誰だ?」

 かすれる声で尋ねると、少女は一瞬困ったように首を傾げ、カッツの頭を少し持ち上げ水を飲ませてくれた。

 どれほど水を口にしていなかったのか分からないカッツは、少女が与えてくれたその水のあまりの美味さに驚いた。

 目をつぶり水の味と感覚を思う存分に味わうと、ゆっくりとカッツは息を吐いた。

「あんな高い所から落ちて助かるなんて、本当に奇跡ね。もう一人は残念だけど……でもあなたも全身骨折と打撲だらけだから、当分動くのは無理よ。出来ればすぐにでもあなたの仲間の所へ連れて行ってあげたいのだけど、今、私がここにいる事を誰かに知られたらまずいの」

 一体何を言っているのか、少女は言葉を切ると再び立ち上がった。

「あと6日で私の仕事は終わるわ。その後であなたがここにいることを仲間に知らせてあげるから、もう少し我慢して頂戴。それまであなたの怪我は私が看るから」

 そう言い残し、少女はカッツの前から去って行った。

「おい……」

 色々と尋ねたい事はあったが、痛みで言葉も思うように出て来ない。カッツは少女の気配が近くから消えた事を確認すると、もう一度辺りの様子を伺った。

 自分が寝ているのは少女が寝床として使っているのだろう、やけに気持ちのよい寝袋で、下にはクッションになるよう何か軟らかいものが敷いてあるようだ。

 自分が落下した地点はかなりの標高だったはずだ。地図ではサバイバルを行なっていた中心地点からかなり外れている。仲間が一人助かったはずだから、応援を呼びに行ったかもしれない。

 少女がカッツを担いで遠くまで来たとも思えないため、落下した場所からそう遠くない洞窟だと推測出来る。

 はたと思考を止めた。

 先ほど少女はここで仕事をしていると言ったが、仕事とは一体何の事だろう。

 標高の高い寒冷山岳地帯で、少女が行なえる仕事などあるのだろうか。

 目がかすんでいるため少女の顔ははっきりと見えなかったが、声質やしゃべり方、歩き方などで同年代くらいの少女だと分かった。が、カッツの中には次から次へと疑問が浮かんだ。

 いつ戻って来るのだろう。色々と聞きたい事があるのにーーー

 そう心の中で考えながら、カッツは再び眠りに落ちた。















 「で? その命の恩人の少女に惚れたという訳か?」

 隣りで昔を思い出しながら語るカッツを横目に見ながら、シンが尋ねる。

「まーな。一週間の間に俺の怪我はかなり回復した。女は食いもんから飲み物から排泄物の世話まで、そらあもう、まるで看護士みたいに世話してくれたよ。思春期の男にはつれーよなあ。女に糞尿の処理してもらうなんてよ……まあ、おかげで何が起きても平気になったけどな」

 そう言ってふざけた顔で笑う。

 生い立ちはカッツもシンも似たようなものだ。どちらが不幸かなど比べようがないが、カッツはそんな中でも生きる事に必死だった。

 よって、セイラという幼なじみの女性がいても、本人がセイラを女性として認識しないまま軍事学校に入校した為、女性に対する免疫も少なかったと見える。

 瀕死だった自分を救ってくれた命の恩人の、同年代の少女に恋をしたというのなら、それはいわゆる“吊り橋現象”かもしれない。

 しかしたった6日で怪我がかなり回復したというのは恐ろしい話しだ。

 全身骨折と打撲なら、最新の医療施設でも完治するまで数週間はかかる。

 高所から落ちて死ななかったのだから、この頑丈な体は何物にも勝る賜物だと言えるだろう。

 カッツの生命力の強さに感心すると同時に、命の恩人に惚れたという単純さにシンは呆れた。

「それで、結局女の仕事というのは何だったんだ?」

「さあな。残念ながら教えてもらえなかった。でも、名前だけは教えてもらったぜ」

「……おい、ちょっと待て。まさか……たったそれだけの情報でその女を探そうとしているのか?」

「悪いかよ」

「悪いというか、無謀だろう。他に特徴とかないのか?」

「ーーーすげー可愛かった……」

 カッツのその言葉に、シンは思い切り項垂れた。

「はあ……もういい。お前の初恋物語を聞いてると、こっちの脳みそがどうにかなりそうだ。で? その女の名前は? ……っ!?」



 突然。


 あまりにも突然にシンは突き飛ばされた。

 何が起こったのか理解する一瞬の間に銃声が数発聞こえ、真横にいるであろうカッツの小さなうめき声が直ぐさま聞こえた。

「くっ」

「敵か!?」

 突き飛ばされた反動でくるりと一回転し、シンは近くに置いてあった鉄板を拾いカッツの前へとしゃがみ込む。

「カッツ、大丈夫か!?」

「大丈夫だ。肩に当たっただけだ」

 後ろで肩を抑えるカッツに安堵し、シンは少しずつ建物の中へとカッツを下がらせながら辺りの様子を伺った。

 次々と銃で狙って来ると思われたが、最初の数発以降撃ってこない。

「気をつけろ。結構遠くから狙ってるぞ」

「分かってる。いいから早く中に入れ。セイラが心配だ」

 カッツは素早く着ていた服を破り、自分の腕を器用に縛って止血した。そして入り口から倒れるように入ると、セイラが寝ている部屋へと急いだ。

 カッツもシンも殺傷能力のある武器を持っていない。相手が武器を持っているだろうことは分かっていたが、上手くやれると思っていた。シンは予め敵が襲ってきた時の為に探索に出た時に罠を仕掛けていた。その罠をこんなにも容易く抜けて来られるなど、よほどの訓練を積んだ軍人でも不可能に近い。

 何かしら罠を見破るツールを持っているのかもしれない。

 緊張が走る。

 少しずつ身を滑らせながら、シンは神経を研ぎすませた。

 もしもの場合の逃走ルートも確保しているが、まずはセイラの安否確認が先だ。

 カッツの後を追い、鉄板を壁に立てかけると、シンも身を低くして素早く移動した。










 「カッツ!」

 部屋に入ると、シンはうずくまるカッツに駆け寄った。

「痛むのか?」

「くそっ!!」

「どうした?」

 床を拳で叩き付けるカッツの先に、いるはずのセイラの姿がなかった。

 急ごしらえで作った草のベッドはもぬけの殻で、毛布だけが妙に暖かそうに居座っている。

「まさか……」

「タタタンッ……」

「きゃあっ!」

 銃声と女の悲鳴が遠くで響く。

「セイラっ!」

「おい、待て! カッツ!」

 怪我をしているとは思えないほどのスピードで、カッツは窓から外へと飛び出した。

 そのあまりの素早さに、シンはカッツを止める事が出来なかった。

「くそっ、一体どうなってるんだ!?」

 あっという間にジャングルの奥へと姿を消したカッツを追いかけながら、シンは今起きたであろうほんの数分間の出来事を整理し始めた。

 先ほど銃撃された時、カッツもシンも敵の気配を感じなかった。という事は、かなりの長距離から狙ってきたのだろう。

 だがジャングルで木が密生しているのに、そんなに遠い場所から何の障害物もなしに狙って撃てるものではない。仮に障害物のないポイントがどこかにあったとしても、たまたまカッツとシンが座っていた位置と重なるとも思えない。

 そして最初の銃撃以降、セイラの悲鳴が聞こえるまで一切撃って来なかった事も腑に落ちない。

 ーーいや、それを言うならば寝ているセイラを起こす事無くジャングルへ運び出すというのは、かなりの技だ。

 薬を使った可能性もあるが、先ほど悲鳴が聞こえた事から考えて恐らく無い。シンが敵でセイラを人質に取るなら、気絶させて縛り、くつわをかける。

 かなりの人数で動いているのだろうか?

 と、そこで再び銃声が辺りに鳴り響いた。

「おいおい、今度は本気だぞ?」

 シンは慎重に音の聞こえた方へと進み出す。

 今度の銃声は先ほどとは比べ物にならないほどの数で、どうやら数人が同時に撃ったらしい。

「ちょっと分かりづらいが、恐らく3人か……セイラを拘束している人間がいるとして、4人ーー」

 襲ってきたであろう大体の人数は分かった。そして使っている銃は全員が自動小銃のようだ。セイラが持っていた銃は自動拳銃だから、やはりセイラの仲間である政府関係者は連中にやられたのかもしれない。

 もし4人以上の敵がいるなら、手首に仕込んだテグスごときでなんとか出来るだろうか。

 シンの中を不安が駆け巡る。

「タタタタ……」

「ダダダダ……」

「いやあーーーっ! 放してっ!! カッツ! カッツーー!!」

「静かにしろ」

「うっ!」

 銃声とセイラの叫び声に我に返り、シンは足もとに転がる石を幾つかポケットに仕舞うと木によじ上った。

 少し先に視線を走らせると、迷彩服を着た男がセイラを羽交い締めにし、別の迷彩服の男が3人、銃を構えて輪を作っている。

 どうやら叫んだセイラは気絶させられたらしく、男の腕の中でぐったりとしていた。


 っ!?


 シンは我が目を疑った。

 男たちの間で血まみれになって倒れている影……

 セイラが血相を変えて叫んでいたのは、カッツが撃たれたからだった。

 なんて事だ、カッツが撃たれてしまったーーー

 動揺している暇はない。シンは一度深呼吸をしてすぐに冷静さを取り戻すと、ポケットに入れておいた石を取り出し、セイラを拘束している男の腕目がけて思い切り投げつけた。

「うぅっ!?」

「あっちだ!」

 石をぶつけられた男が呻いて一瞬前のめりになった。

 だがすかさず他の男たちは石が飛んで来た方向へ銃を向け、シンの姿を探し出す。

 シンは木の上を軽やかに移動しながらまた石を投げる。

「ぐう!」

 次々とシンの投げた石は男たちに命中し、隙を作った。

 隣りの木に飛び移った所でシンは手首に仕込んだテグスを飛ばし、真下にいた男の腕に巻き付けた。

 何が起こったのか分からない男は激痛に顔を歪め銃を手放し、それと同時にシンは別の木に飛び移り男を木につり上げた。

「うわあっ! 腕が、腕があっ!」

 もがけばもがくほどテグスは男の腕に食い込む。

 シンはテグスを切り離し、男が落ちないように固定すると、新しいテグスをグローブに仕込み茂みに身を隠す。

「くそっ!」

「タタタタタタタッ!!」

 パニックになった若い男が銃を乱射すると、中年の男がすぐにそれを制する。

「やめろデニス! コーディに当たったらどうする! 落ち着け、こっちには人質がいるんだ、あっちも迂闊には手を出せない!」

「しかし隊長!」

 木の陰からそっと伺うと、中年の男がナイフを取り出し、シンがいるであろう方向へ向けて声を上げた。

「大人しく出てくればこの女は助けてやろう。女がここで転がっている男と同じようになってもいいのか?」

 その言葉を信じるわけにはいかない。

「お前たちの目的はなんだ? 俺達は政府の調査団の行方を探しに来ただけだ!」

 シンは会話をすることで次の手を考えることにした。この状況では全員を木につり上げるか気絶させる以外に逃げる方法がない。

 再び足もとの石を拾い、相手の様子を探る。

「お前たちが知る必要はない! 10秒やる。俺の気が変わらないうちに出てくれば女は助けてやろう」

 出てはいけない。シンが出て行った所でセイラも撃たれて全員殺されるだけだ。

「お前たちはplainに雇われた傭兵だろう! 地球にお前たちが来た目的に組織が関係している事は分かっている! それにお前たちが地球に入ったルートも俺達は知っている! この事をエンド政府に通報することはいつでも出来るぞ!」

 この言葉に効果があったのかは分からないが、突然中年の男が部下達に指示を出すと、一人が先ほど宙づりにされた男のテグスを切り、セイラを担いであっという間に霧散してしまった。

 男たちがいなくなると、木の陰から出て血まみれで倒れるカッツの元へと急ぐ。

「カッツ、しっかりしろ! カッツ!」

「う、う……セイラ、を……」

 意識が薄れる中、カッツはセイラを追えとシンに言う。

「くそっ、オレが戻って来るまで死ぬなよ!」

 懐に入れてあった閃光弾を取り出すと、シンは男たちが消えた方へと足を踏み出した。








                               続く…





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