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チェンジ・ザ・ワールド☆
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初春抄.7

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streetpoint

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初春抄







第5話「だいたい分かる」





 新入社員が入って来た社内はどことなく浮ついていて、羽百合と美緒がいる部署でもそれは同様だった。

 残念ながら美緒が願っていたイケメン社員ではなく、あくまで普通の男性社員と大人しそうな女性社員の2名が羽百合達の部署に配属となった。

「あ~あ、せっかくイケメン君が来てくれたらもっと頑張れると思ってたのにさ」

 ノートパソコンでメールのチェックをしていた羽百合の前で、美緒が頬杖を付いてため息を吐く。

 昼食の時間、羽百合と美緒は行きつけの大衆食堂に来ていた。

「あのねえ、佐伯君はどうしたのよ?」

「今度の日曜日でしょ! もう、大会楽しみ~! 絶対羽百合も来てよね。私はお手伝いするから、カメラよろしく」

「私が美緒の為に佐伯君の写真を撮らないといけないの?」

「他に誰がいるのよ?」

「報酬は?」

 冷めた目でパソコンから美緒に視線を移すと、美緒が可愛く笑った。

「お医者さんとの合コンでどう?」

「ーーー却下」

「ええ~!? どうしてよっ!?」

「どうして私がお医者さんとの合コンで喜ばないといけないのよ。もっと実用的な報酬にしてちょうだい」

 頬を膨らませる美緒が可愛くて、羽百合はこっそり笑った。うーんとしばらく考えて、美緒が食堂の壁を指差す。

「じゃあ、スペシャルランチおごる」

「3日分ね」

「う~~~~。分かった、3日間スペシャルランチおごる!」

「交渉成立」

「羽百合の鬼! 友達なのに、人の足下見てー!」















 日曜日が来る前に、羽百合の企画の最終的なチェックが入った。今目の前に座っているのは、以前美緒を怒鳴っていた編集長。

 そしてその手に握られているのは羽百合が企画した特集の下書きだ。羽百合はじいっとその様子を立ったまま見つめている。

 しばらく無言で下書きに目を走らせていた編集長が、ふと机に下書きを置いて羽百合を見上げた。

「うーん。まあ、悪くはないんだが、なんというか……もう少しインパクトが欲しいなあ」

「インパクト、ですか?」

「企画は悪くない。若い母親世代をターゲットに絞って、芯も通ってる。でもこのレシピにしても、ちょっと地味なんだよな」

 編集長の口から出た言葉はあまりかんばしいものではなかった。

「最終校正までもう少し時間がある、もう一度頭からアイデア絞り出してみろ」

「分かりました、失礼します!」

 羽百合は下書きを受け取り、頭を下げて編集長の前から去った。

 インパクト、と言われても、企画の内容自体がそう派手なものではないだけに、羽百合は正直困っていた。席に戻り下書きをじいっと見つめる。

「地味……ねえ」

 確かになんだか色味が少ない気がする。

 もう少し時間があるとは言われたが、あまり悠長に構えている暇は無い。

「う~~~~~~~~~ん……」

 どうしよう……。














 結局何も良いアイデアが浮かばないまま、退社時間になってしまった。

 美緒は予定があるらしく、羽百合に挨拶をすると早々に会社を出て行った。

 しばらく机で下書きと睨めっこをしながら他の仕事もこなしていたが、とうとう羽百合はさじを投げた。

「ああー! もういい! ここで考えてたっていい案なんて浮かばないわ!」

 バサバサと机の上を大雑把に片付けると、羽百合は帰宅する事にした。

 会社を出て公園を一人歩いていると、やはり気になって足を止める。近くのベンチに投げやりに腰を下ろし、薄暗い空を見上げてため息を吐く。

「はあ……」

「何か悩み事ですか?」

「え?」

 顔を戻した羽百合は驚いた。

「こんばんは、新部さん。隣り、いいですか?」

 さも当たり前のように羽百合の隣りを指差し、返事を待たずして座った男。

 そう、佐伯虎次郎だ。

「どうして……?」

 驚きすぎてまだ目が大きくなっている。

 そんな羽百合にクスリと笑うと、

「あなたの事ならだいたい分かります」

「ーーー嘘」

 すぐに顔をしかめて佐伯を睨む。佐伯も苦笑して近くの入り口を指差した。

「偶然ですよ。そこを通りかかったら、見た事ある女性がぼんやりと空を眺めていたんで声を掛けただけです」

「そう」

「それで? 何か悩み事ですか?」

 話しを元に戻すと、佐伯は相変わらずの爽やかな笑顔で首を傾げた。

「まあね……佐伯君ってさ、要領良さそうだよね」

「悪くはないと思いますけど、もしかして、お仕事の悩みですか?」

 羽百合は突然現れた佐伯に、動揺させられていたのかも知れない。いつもは弱音など吐かないのに、口が自然と動いていた。

「うん……今度私が企画した特集が雑誌に載る事になったんだけど、編集長にインパクトがないって言われたのよねーー」

「へえ、凄いですね! どんな内容なんですか?」

「あー、えっとね……」

 それから羽百合は佐伯に内容を大まかに説明すると、しばらく何か考えるように黙っていた佐伯が、ふと言葉を漏らす。

「ーーーそうですね、親子で出来る体操も載せるんですよね? それなら、女性に受けのいいウェアも一緒に紹介するというのはどうですか?」

 ピタリと羽百合は動きを止める。

 自分が作った下書きを頭の中で描きながら、佐伯の案をはめ込んでみた。

「すごくいいっ!!」

 なんともその色味や配置がピタリとはまり、羽百合はベンチの背もたれから体を起こした。

「ねえ、佐伯君!」

「はい?」

「その案、もらってもいい!?」

 瞳を輝かせる羽百合に、佐伯が笑う。

「もちろん、構いませんよ」

「本当に!? ありがとう!! っと、こうしちゃいられないわ、すぐに会社に戻って作り直さないと! あっ! ウェアも会社を調べてすぐ交渉に入らなきゃ!」

 立ち上がった羽百合の頭の中は次々とやるべき事が駆け巡り出していた。心はもう会社に戻っている。

「本当に本当にありがとう、助かったわ! 今度お礼するから! じゃあね……!?」

 羽百合が走り出そうと足を踏み出した瞬間、強い力でそれを阻止された。

 驚いて振り向くと、佐伯が羽百合の腕を掴んでいる。

「ちょっと待ってください」

「え? 何?」

 佐伯も立ち上がり、真面目な顔になると羽百合の体を自分の方へと向けた。

「一つ、条件があります」

「条件?」

「今度俺とデートしてください」

「……え?」

 羽百合は何を言われているのか理解出来なかった。じっと自分を真剣な眼差しで見つめる佐伯の様子に、体の力を抜いて頭を冷やす。

「駄目ですか? この条件を飲んでもらえないなら、俺の案を使うのは遠慮してください」

 いつもより少し低い佐伯の声。

 羽百合は掴まれた腕から佐伯の鼓動が伝わるようで、急に恥ずかしくなった。

 本当にこの人は私の事が好きなの?

 ぐるぐると回り出す色んな思い。

 そうだ、美緒はこの人の事が好きじゃない……それなのに、私がデートなんてしたらーーー

 返事をしない羽百合に、佐伯がさらに詰め寄る。

「俺と出かけるのはそんなに嫌ですか?」

「別に、嫌とかそういうんじゃ……」

 視線を上げた羽百合は驚いた。佐伯がとても悲しそうな顔をしていたのだ。

 先ほどまでは企画の事で一杯だった頭も、今は佐伯の事でパンパンになっている。

 やだ、何でこんな心臓がドキドキするのよ。

 くらくらと頭が回るような感覚がし出して、羽百合は足もとを見た。佐伯の靴と、自分の靴が向かい合っている。

「俺の事、もっと知ってください。そして、あなたの事をもっと教えてください」

 以前この公園で一目惚れをしたと告白された時とは違う、佐伯の表情。

 羽百合は思わず頷いていた。

「分かった。デート、しよ?」

 するとすぐに佐伯が吹き出した。

「ぷっ……」

「なっ、何よ?」

 顔を上げると、佐伯が悲しそうな顔で笑っていた。

「そんなに俺が提案した案が気に入ったんですか?」

「な……」

 そんな事などすっかり忘れていた。すぐに羽百合は口を尖らせると、

「ええそうよ! 何が何でもいい記事にしないといけないんだもん! それじゃあね!」

 佐伯に背を向けると、一目散に駆け出した。

「今度は本当に仕事が一段落したら連絡してくださいね! 約束ですよ!」

 背後から佐伯がそう大きな声で言う。羽百合は遠ざかる佐伯の声にぎゅっと目をつぶった。

 絶対計算だ! 危うくほだされる所だった! 悔しい!!









                              続く…



次で最後です!

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