チェンジ・ザ・ワールド☆
きみは〜.6
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きみはペテン師
囲碁の大会会場にやってきた仁王は、キョロキョロと辺りを見回していた。もちろん探しているのは汐屋だ。
少しいつもと違うのは、今日の仁王は柳生の姿になっているという所。
なんとも良いタイミングで、柳生から仁王の姿で練習がしたいという申し出を前日もらい、二つ返事でOKしたのだ。
そこで活躍したのが以前柳生の携帯からゲットしていた汐屋のメールアドレス。もちろん仁王の携帯からメールを送ったら、別人のアドレスとバレる可能性があるので、その点はぬかりなく下調べをしてあった。
柳生は自分の携帯の番号は教えていたが、アドレスを汐屋に教えていなかったのだ。つまり、お互いに連絡をするときは携帯に直接電話をかける。という方法のみを使用していたおかげで、仁王のアドレスでも気づかれなかったという事。汐屋もまめに連絡を取るタイプではないようなので、仁王の送ったメールに対する返事も簡潔そのものだった。そして柳生の振りをし、今日の大会の見学に行くという事を伝えて今に至る。
パチパチ、パチパチと、たくさん人がいるにも関わらず面白いくらいに静かな会場に、仁王は無性に大声で叫びたくなるのを堪える。
よくもまあ、こんなに静かに出来るもんじゃ……
そんな事を考えながら、ようやく立海大囲碁部の姿を見つける事が出来た。
手合い中で、4人ずつ並んで相手と向かい合って碁を打っている。汐屋は大将で、相手のいかにも頭の良さそうな男子生徒と向かい合っていた。
こっそり後ろに回り込むが、白と黒の碁石が不思議な形に並んでいることしか仁王には分からない。こんなことなら柳生に言われた時に汐屋から碁について教えてもらっておけば良かったと少しだけ後悔する。
「っ……、ありません……」
仁王が盤上を覗き込んでいると、汐屋の相手が悔しそうにそう小さく言って頭を下げた。
「ありがとうございました」
「ありがとうございました……」
その言葉を受け、汐屋も頭を下げる。どうやら汐屋が勝ったらしい。
!?
突然汐屋がこちらを振り向いて、柳生の姿をした仁王を見つけて微笑んだ。
驚いたが、冷静を装って小さく頷く。
ここで変装がバレては計画が台無しだ。
汐屋が終わってから、先鋒、次鋒、副将の全員が次々に勝った。なんと、立海大附属中囲碁部は全国優勝を果たしたのだ。
「お見事でしたね」
「ありがとう、柳生君。わざわざ来てくれて」
大会の帰り道、部員達は気を遣ったのか柳生に扮した仁王と汐屋を二人で帰らせると、自分たちは後片付けがあるからと会場に残った。そのため仕方なく二人で肩を並べて歩いている。
仁王にしてみれば願ったりなのだが、何とも言えない緊張感がこそばゆい。
「汐屋さんはとても頑張っていましたから、その努力が報われたんです」
「私だけじゃなくて皆も勝ったし、皆が頑張ったからね。皆が同じ目標を持って積み重ねてきた結果、なのかな」
「ええ、素晴らしいと思います」
我ながら役者だと思う。
仁王は柳生が言うであろう言葉を予測して汐屋と会話をしている。本心と偽りの気持ちがごちゃ混ぜになっていて、それでもいかに柳生と汐屋の心の接点を作るかの策を巡らせている。
汐屋はふと足を止め、仁王を見上げた。
その視線に一瞬ドキリとする。
眼鏡の奥の汐屋の目は、何か複雑な様相を呈していたのだ。
「嬉しくないんですか?」
何気なく出た言葉に、汐屋は自嘲気味に笑った。
「嬉しいよ。こうやって柳生君も応援に来てくれたし」
「ーーー私は何もしていません。頑張ったのは汐屋さん達です」
「今度はテニス部の番だね」
「ええ、全国大会が始まりますから……。汐屋さん」
「なに?」
「良かったら、決勝戦の応援に来て頂けませんか?」
「まだ始まってないのに、決勝に行くのは決まってるんだ?」
「決勝までは、何が何でも勝ちますよ。我々立海大テニス部は」
「柳生君、気合い入ってるんだね」
「中学最後の全国大会ですからね」
立ち止まった二人は、しばらく見つめ合った。
ジリジリと暑い日差しに、先に根負けしたのは汐屋だった。
「ふう、暑い……。うん、分かった。今日来てくれたお礼に、応援しに行くね」
「ありがとうございます」
「いい大会になるといいね」
「はい」
賽は投げた。後は汐屋と柳生の距離がどれほど縮まるかが見物である。
今日の感触では、やはり汐屋は柳生の事を好ましく思っている様子だったから、大会の応援に行ったのはポイントが高いと思われる。
悪巧みが成功しそうで、仁王は何だか楽しかった。
このまま上手く行けば、古くさい言い方をすれば恋のキューピッド、になるのだろうか?
「いやいや、楽しみぜよ」
続く…
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