登場人物たちのスペック
小学生:珠樹(たまき) 132cm 黒髪ロング、口悪い、4年生
高校生:琳(りん) 163cm ふわふわした淡い茶髪で肩ぐらいの長さ、いつも敬語、高校2年生

「近ごろの小学生はね。すすんでるんだからさ」
「ああ、よくテレビでもやってますね」
この私がわざわざ話題を振ってやったというのに
琳(りん)はつれなく返事を返すと一旦は私に向けてくれた視線をまた戻して、
よくわからない記号でぎっしりのノートにシャーペンで何かを書き始めた。ありえない。
「ちょっと」
私がじと目で睨んでも琳はまったく気にしない。カリカリ。ペンの走る音ばかりが響く。
「ありえなくない?」
「なにがですか」
「だって」
「だって?」
「私たち恋人どーしだよね?」
「そうですね」
「スーガクと恋人どっちが大事なの」
「今はピタゴラスさんがなかなか離してくれなくて」
これだからリケーのオンナは嫌だ。私は心の中でどこかで聞いたことのあるセリフを吐き捨てた。
小学4年生の私より8つも年上の、17才の琳。親から離れて一人でアパートに暮らしている。
琳は、私が生まれた時から知ってる親戚のお姉さん、と言うわけでもなく、
隣近所のやさしいお姉さんってわけでもない。
どっちかというと先生たちやパパママが言う
『危ないお兄さんやお姉さんにはついてっちゃいけません』のお姉さんのほうだ。
琳と私は、1年前なんだかんだで知り合いになって、なんだかんだで恋人になった。
全部内緒の話だ。だから、きっとかほごなママが聞いたら発狂する。べつにヤマシイことはしていないけど。まだ。
それは、これからの話だ。何の話だっけ。そうだ、最近の小学生は進んでるって話。

今日のお昼休み、隣のクラスの山田と私の友達の恵理がキスした。というウワサが流れた。
「マジでぇ―――!?」
「うっわっ、どうだった!?」
精神的に全然ガキな男子たちはそれを聞くと恵理のことを囃し立て、
一部の女子たちもそれに便乗し、残りはそれを遠巻きに見物した。
キスしたのは事実らしい。大勢に囲まれ、あがり症の恵理はすっかり縮こまってしまっていた。
「なっちゃんとかも幼稚園の時とかにキスしたことあるって」
「ギャーーーーー!!」
「恵理ちゃん」「恵理さあ」
まったく、ようちで、くだらない。私はガキに囲まれるのがだいきらいだ。
恵理も恵理だ。私の友達のくせに、ちっともしっかりしないんだから。泣きそうになっちゃってまあまあ。
ま。それだけなら別にいつものことなんだけど。
「たまちゃんはキスしたことある?」
冷めた目で見ていた私をそれは渦中に引きずり込んだ。
そのセリフにみんなが注目したのだ。まあ、気持はわからないでもない。
切りそろえた長い黒髪のきれいな私は学校の人気者だ。頭もいいし。
そんな私を琳はさる山のリーダーですねと言ったけれど(もちろんすぐに殴りとばした)
たとえそうだとしても、リーダーは連中を従えなければならない。
「もちろん!」
よって、少しかじょうな発言をしてもかまわないのだ。と、当時の私は思っていた。
「だって、私。高校生の恋人がいるんだから」
「「「「「えええええええええええええっ!?」」」」」
クラス内の絶叫。予想通りの反応に私はすっかり気分を良くした。
その後のことも考えずに。

当然、クラスの中は驚がくの声や私をほめ称える声で満ちあふれることになる。
「すげー、さすがたまちゃん!!」
「別にそんな対したことじゃないわ」
「ね、ね、どんな人? カッコいい!?」
「それは内緒。ママにも秘密の人なんだから」
秘密という甘美な響きと、それを羨む女子のきゃあっと言う高い声が
私の気分をさらによくしたので、机に色っぽく座りなおすと、
目を光らせたこどもたちに、恋人について赫々と語ってやったのだった。
「キスってどんな感じ?」
「そうね、甘くて少し苦いおとなの味よ。杏仁豆腐にミルメーク十本かけたみたいな」
「糖尿病になるよ!?」
「大人だからね」
「大人……あ、じゃあさ、たまちゃん」
「なに?」
「大人のキスってどんなの?」
「…………お」
「「「「おとなのキスぅうううううう!!??」」」」
「なっ、お、大人のキスって……」
「うん、ちょっとえっちな漫画でねー、なんか、すごくて。
高校生と付き合ってたら、ね、なんか、そーゆーことないの?」
「そ、そんなの……………あるにきまってるじゃん。いまどきの高校生だよ?
そりゃあもうすごい!!! 生卵もさえも使うわ!」
「「「なっ…生卵おおおおおおおおおお!!!!」」」





「生卵ですか。食べる以外の用途に使ったことはありませんねえ。
あ、でも酢酸に漬けて殻を溶かす自由研究は…っ、とと」

と、ここにきてようやく琳が話に参加した。遅いわ。
琳はもうペンを動かしていなかった。いや、動かさせてもらえなかった。私に。
私が、琳の腕にしっかりとくっついたから。口でやめろと文句を言っても聞かないくせに
こうして実際行動に出ると、琳は何も言わなかった。
だって私が琳にくっつくのは私の話を聞いてほしいというサイン。
それを受け入れることが琳はピタゴラスよりも私をずっと愛しているという証だから。
しばらくくっついていると、明後日提出なんですけどね、と少し情けないことを言いながらも琳はペンを机に置いた。
こおん、と、木とペンの当たる硬い音がする。私がピタゴラスに勝利した瞬間だった。
嬉しくなって、白い半そでのブラウスを着ている琳の長い、日に焼けた腕を私は指でなぞった。
くすぐったいですよと言いながら琳は私を引き寄せて、その長い腕に抱きしめる。
成長過程の中にある私の小さな体はその中でいつも少し余るくらいだ。
「それで、嘘ついちゃったんですか、珠樹さん」
「嘘じゃないもん、子供達の期待に応えてあげたんだよ。
役者ですねって褒めてほしいわ」
「ものは言いようです」
私の長い髪の毛の先をくるくると指で丸めながら琳は言った。
「琳は嘘は嫌い?」
「好きじゃありませんけど、嘘も方便という言葉はありますね」
「私、嘘をつくのは得意だけど、つかれるのは大嫌い」
「ふふ、そんなかんじですね。でも良いと思いますよ。あなたらしくて」
そう言って、琳が微笑んだ。今日はじめての笑顔。その顔のままで琳は私の唇にそっと指をおし当てて、
私がまぶたを閉じると、そこに軽くキスをした。暖かな琳の唇が私の唇に触れると
気持ちも、体の中の血液も、ざわざわと波打った。最初は良くわからなかったけれど、今はとても心地がいいと思う。

「琳、琳」
琳の唇が離れても、私は目を閉じたまま琳を呼んだ。
言いたいことはわかるだろうと思う。琳は頭が良いから。
「珠樹さん」琳が私の名前を呼ぶ。そうしてもう一度、今度はずっと強く唇をすわれた。
「…っ、ん」
ママもパパも、私のことを珠樹ちゃんと呼ぶ。先生もそうだ。友達はたまちゃんと呼ぶ。
琳だけ、琳だけだ。私を『珠樹さん』と呼ぶのは。私を子供として呼ぶのでもなく、友達として呼ぶのでもなく
珠樹さん、と私を呼ぶ。そのときの私の気持ちなんて誰にも分からない。だって、誰も知らないから。
琳の舌が、私の唇をつついた時、どきり、と体がこわばるのを自分で感じた。
唇に隙間を空けると、琳の舌がその隙間をこじ開け、ずるりと入ってきて、
その動揺は、琳にも悟られたと思う。
でも、琳はお構いなしに私の口の中に舌を伸ばせるだけ伸ばして突っ込んできた。
口が、琳でいっぱいになる。
「っ…あ……むん」
奥に隠した舌を、恐る恐る琳に近づけると、すぐに絡みとられてしまった。
大きい舌が、小さい舌を蹂躙していく。背中のぞくぞくした震えがさっきから止まらない。
なれない快感に耐え切れず、琳の腰にすがるように手を回すと、彼女は私のほうへ体重をかけて、そのまま床に倒された。
そのむさぼる、と言った形容が似合うような体制で、琳は私をじわじわと追い詰める。
私の唇の端からは、どちらのともしれない唾液が絶え間なくあふれ出し
それをぐちゃぐちゃに私の咥内でかきまわす琳の、私の頭をかき抱く
その手の感触すらとても気持ちが良くて
「………」
……怖い。
頭の中をその感情が一瞬だけ走りぬけた時、ふいに琳の舌が私の中から引き抜かれた。
「っ…!? んはっ……けほっ、けほっ!!」
突然空気が肺の中に入ってきて、忘れていた息継ぎを思い出したかのように私は咳き込んだ。
感情を抑えるように胸に手を当てると、どくんどくんと大きく波打つのが分かる。
琳がそんな私を抱きしめて、平気ですかと聞いてきた。その体を押し返す。
琳に気遣われるのは嫌いだ。しょうがないことかもしれないけど、琳のほうが余裕持ってるみたいでむかつく。
「…なによ、いきなりやめて……心配されるほど弱くないもん」
「そうですね。なんか怖くなっちゃったからやめちゃいました」
「はあ?」
怖かったのは、私のほうだ。琳が突然獣みたいに見えて怖かった。
なのになんで琳が怖いなんて感じるんだろう。

「ごめんなさい。こんなこともあるんですねえ」
「?」
それはともかく、どうでした?
首を傾げる私に、琳は珍しく照れた様子の早口でそう言うと、私の唇をさっきみたいにまた指を当てた。
つーっとなぞられて、思わず肩がすくむ。
「……ぜ、全然余裕よ」
「そうですか?」
少しいやらしさを持たせてそう言った琳が私の口の中にその指を侵入させてくる。
それが私の舌に触れた瞬間、さっきまで感じていたびりっとした感覚が背中を駆け抜けて
「ひゃっ……!」
反射的に琳から体を離してしまい、しまった、と思ったときに琳はいたずらが成功したときの顔で私を見ていた。
恥ずかしくなった私はあーあー、と目をうろうろさせた後、
「……まだ、少し、早かったかも、しれないけどさ」
「そうですね」
思っていたよりずっと小さな自分の声に、琳は笑顔で頷いた。
そうして少し離れた私の体をまた抱きしめなおす。
「お互いまだ早かったですねえ。大人のキスには」
「琳も子供?」
「はい。好きな人を抱きしめてるだけでもすごい緊張しますし、
それだけで、とても幸せになれます」
「う…恥ずかしいこと言うな馬鹿琳!」
琳が子供だなんて私にはとても信じられないけれど、それは単純に嬉しい。
琳に並べることが、私にとってなにより嬉しいから。
でもだからって私も幸せだよ。なんて琳みたいなことは返せたりしないので、
「……もう」
素直に言えない分を、私らしい『子供のキス』で補ったのだった。

(今だけでこんなに幸せになれるのなら、
大人になったら幸せすぎで死んでしまうかもしれない)




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最終更新:2009年08月23日 12:08