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  • takumisenpai @ ウィキ
  • 第2話「さらば、さっぽろ」

takumisenpai @ ウィキ

第2話「さらば、さっぽろ」

最終更新:2021年02月26日 21:05

匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集

第2話「さらば、さっぽろ」


境内の裏手の人目に付かない場所に、枯葉や新聞紙に覆われた3つの遺体が並んでいる。浩一郎ら男性陣が出来うる限り、対処した結果だ。
即席避難場所と化したこの場所に、日付が変わる頃には30人ほどが集結していた。
誰もが悲愴感に満ちており、あちこちから悲嘆の声が聞こえる。
「大丈夫ですか!?」と男性は言い、「避難所は・・・・はぁ・・・・大津波に襲われて・・・・はぁ・・・・高台以外・・・・はぁ、はぁ・・・・全滅だ」と、最後にやって来た若い男性は言った。
「誰か!」
「さあ、気を付けて・・・・」
「マジかよ、どこもひでえな・・・・」
そのショッキングな報告に、居合わせた全員が顔面蒼白となり、しばし固まった。
コンビニの店長・長島四郎が、境内の中でも比較的居心地の良い一角に大きくて厚めのレジャーシートを敷き、店から持ち出した食料を積み上げていた。
店長は500ミリリットルの水とおにぎりを1人に1セット配っており、行列ができている。八宮家の面々も列に並んでいた。店長らの少し後方には灯織もいる。
「はい」
ただえさえ恰幅が良い店長が、いつにも増して大きく見える。
「ありがとうございます」
受け取った者は深々と頭を下げる。普段とは完全に立場が逆転していた。
この状況下では、物質の豊富な者こそが賢者だ。彼を頂点としたヒエラルキーが構築されつつあった。
春生は列に並ばず、定位置で音楽を聴きながらスマートフォンをいじっている。画面の明かりに照らされ、春生の顔は青白く光っている。春生はTwitterを開こうとしているが、「サーバーに接続できませんでした。時間を置いてからお試しください」と表示される。何度やっても同じ結果なのだが、春生は取り憑かれたようにトライし続けていた。
「ちゃんと並んでください!」
「横入りしたのはそっちだろ!」
「何言ってるんですか!私見てたんですからね!」
「クソ・・・・」
順番が来たので、裕太がわざと甘えたような声を出してねだる。いつもはいじめられっ子のように気弱な性格な裕太だが、お年玉をもらう時など、用途に応じてキャラを使い分けることがある。めぐるはそんな弟のキャラ変にいつもながら感心する。
水は1種類だが、おにぎりは何種類かある。貰う側に選ぶ権利はないらしく、店長が独断で選び出す。
「えっ・・・・」
裕太は突き付けられた非情な現実にしばし固まった。おかか、梅干し、昆布、明太子が2つだった。なぜか年配者に人気の具ばかりがチョイスされていた。
めぐるは店長がニヤッと笑ったのを見逃さない。意地悪しているのではないかと勘ぐってしまう。
裕太は諦めないのか、おにぎりの入っている買い物かごをじっと見ている。そこには大量のツナマヨが転がっていた。
「・・・・あの、あそこにいる彼の分も、もらえませんか」
めぐるの視線の先には春生がいた。
「ごめんね、お嬢ちゃん。自分で並んでもらわないと、誰にあげたか分からなくなっちゃうからね」
「そうですか・・・・」
ゆるゆるのルールだが、ここでは店長こそが掟なのだ。めぐるは仕方なく引き下がった。一方、浩一郎は寝る準備をしていた。
「散々だな」
「帰れてよかった」
「帰国早々に川でひと泳ぎしたのよ」
ジュリは帰国早々に川で泳いだことなどを語っている。浩一郎は「おい、大丈夫か?」と心配そうに言った。
「ママ」
裕太が持っている飲み水をジュリに渡し、ジュリは「Oh,Thank you」と英語で言った。
「あれ?あの子、古賀さんとこの引きこもりの・・・・」
「ん?どこ?」
「ほら、あの向こうに・・・・見える?」
「よく分かったね」
「私、昔ファンだったから」
「長らく見なかったからね」
「ちょっと前は、有名だったのにな」
「ずいぶんと印象変わったわよねえ」
2人の老人女性が春生の事を語っている。2人の老人女性のうち1人は、昔春生のファンだったことが明かされる。
「先輩・・・・」
めぐるは春生を見つめていた。
店長が持参したラジオの「ジジジジー・・・・」という音だけが聞こえた。
「・・・・ラジオ局に届かないほどの電波障害が起きているな・・・・」
携帯発電機の燃料が切れ、イルミネーションが消える。
「光が・・・・」
八宮家は1人ずつが寝袋に入り、川の字になって眠っている。
灯織はアルミ製のブランケットを羽織り、リュックを枕代わりにして眠っていた。
春生はヘッドホンをしたまま、木に寄りかかって眠っている。傍には食べかけのおにぎりと水がある。ジュリが店長に交渉して手に入れたものを届けたのだ。
「・・・・救急車のサイレンも、消防車のサイレンも聞こえないね・・・・」
「・・・・携帯の呼び出し音がずっと聞こえてるけど・・・・」
「・・・・あれ全部、持ち主が死んでるから出れないのかな・・・・?」
「・・・・やめてそれ怖い・・・・!」
寝付けない誰かの会話に、リッリッリッリッ・・・・とコオロギの鳴き声が割り込んだ。
めぐるは寝付けないままみんな無事かどうかをスマートフォンでいじって確認している。
みんなが不安な夜に身を委ねている頃、成層圏に無数の気球が上がる。
気球にはソーラーパネルとWi-Fiアンテナが搭載されている。
被災地でのインターネット使用を可能にすべく、ベンチャー企業が実行したのだ。彼らはテスト段階だったプロジェクトを前倒しする決断をした。どの程度の成果が見込まれるのかは未知数だが、可能性に賭けたのだ。
どんな最悪な状況の中でも、戦いを挑んでいる者たちは必ずいる。
霞んだ空に朝陽が昇る。
夜明け前、神社から50キロほど離れた場所で大規模な噴火があり、その爆音はここまで伝わって来ていたが、気付いた者は案外少なかった。
男性が「あれは、苫小牧方面だな・・・・」と言っている。
女性は怖くて泣き出してしまい、他の男性1人が「樽前山が噴火したんだ・・・・」と言っている。
爆発音で目覚めた八宮家の面々は、樽前山が噴火しているところを目撃する。
「山が燃えてる」
「ちょっと、大丈夫か見てくる」
浩一郎は噴火直後に大丈夫かどうか見に行こうとしたその時、薄暗い境内に工事現場の男性の声が響き渡る。
「大変だ!水が下まで来てるっ!」
「どういうこと?」
「えっ?」
階段を駆け上がって来た工事現場の男性の切羽詰まった表情から、緊迫度の大きさがうかがえた。
「ここは孤立してしまうかもしれねえぞ」
工事現場の男性は、周囲の様子を探りに出かけていたのだ。
避難民たちはざわざわと慌て、ふためき始める。不安から眠りの浅かった人、疲労で深い眠りについていた人など様々だが、工事現場の男性の声で目覚めた点は共通している。
「津波がここまで来たって事?」
「地震から半日も経ってるんです。津波ならもう引いているはずですよね?」
「堤防が決壊したのかもしれない・・・・」
「最近、雨は降ってないわね・・・・」
工事現場の男性の周りに避難民が集まり始め、口々に意見を発する。
「おい、ケータイとか持ってる奴は調べろよ!なんか情報あるだろ!」
禿げ頭の中年男性が焦りから周囲に絡み始める。
「まあ、落ち着いて・・・・」
「あん!?」
店長が「調べるから待ちなさい」と言いたげに前に出る。店長はiPadを取り出し、操作し始めた。iPadにはソーラー充電器が繋がれている。ほとんど陽は射していないので、効果は少なそうだが・・・・。
避難民は、自らスマートフォンで調べる者と店長に委ねる者に分かれる。
店長はニュースサイトを開く。読み込みはスムーズだった。
「・・・・電波の入りが良くなったな」
「この英語の記事、誰か読める?」
「世界の大手マスコミは、全然情報流さないんだよな・・・・」
しかし、ニュース自体は日本以外配信されておらず、世界の新聞社や放送局が全滅したのではないかとの疑念が頭をよぎる。
「・・・・豊平のおじいちゃんち、大丈夫かな・・・・?」
「あそこは海抜0メートルだから・・・・正直厳しいだろうな」
浩一郎はにっと笑ってみせたが、痩せ我慢であることは明白だった。
「電話してみる」
めぐるはスマートフォンの着信履歴を見直す。3日ほど前のところに「お父さんの実家」と書かれた番号がある。浩一郎の両親はめぐると裕太をとても可愛がっており、大した用が無くても「元気にしてる?」と電話をかけてくる。めぐるはケータイに直接かけてくるのはやめてほしいと思っていたが、口にした事はない。
「ツーツーツー・・・・」と鳴るだけで繋がらない。
めぐるが電話を切った直後、メールが届く。2件、3件、4件・・・・。同時にLINEにも通知の表示が現れる。これまで溜まっていたメールやメッセージがまとめてなだれ込んできたのだ。
「おばあちゃんからメール来たよ!」
その中に祖母の物を発見する。
「何だ、生きてたか!」
浩一郎の声のトーンが30歳ほど若干若返った。
「メール読んで読んで!」
裕太は声を弾ませ、めぐるの顔を見つめる。
めぐるはメールを開き、文章に目を通す。
「・・・・スイカ送ったよ。明日の午前には着くから・・・・部活頑張ってね・・・・」
その内容から、地震の前に送ったメールであることは明らかだった。
「地震前のメールだ・・・・」
4人の顔からスッと微笑みが消える。めぐるは一瞬期待を持たせるような言動をしたことに負い目を感じ、目を伏せる。
「フン!たまには肉も送ってこいってんだよ」
「お父さん・・・・」
浩一郎は悪態をつき悲しさを誤魔化すと、背を向け荷造りを始める。
めぐるたちはかける言葉が浮かばず、浩一郎の震える背中を見つめる事しかできない。
鼻をすすっている音がする。
めぐると裕太にとって、父親のこんな姿を見るのは初めての事だった。
春生はいち早くTwitterにアクセスしていた。ホーム画面が読み込まれると素早く「#札幌#大地震」と打ち込む、程なくして新しいツイートが続々と読み込まれ始める。様々な呟きに動画や写真が貼り付けられている。
春生はまじまじと見つめる。その表情からは好奇心ではなく強い意志が感じられる。

(呟き)「世界全域でメルカリ震度階級IV~XIIの大地震が発生。画像はAP通信より。」
(写真)AP通信の画像には世界地図で示しており、世界全域で各地のメルカリ震度階級を示している。

(呟き)「サイパンの方から米軍の戦闘機とんできた、やばそう#拡散希望」
(写真)無数に飛んでいる米軍機。

(呟き)「アメリカ国民を残してニューヨークから離れるお偉いさん方#拡散希望」
(写真)黒塗りの政府専用車(四駆)がパトカーに先導されて走っている。

(呟き)「上級国民は日本逃亡、笑えねえ#拡散希望」
(写真)港から出航する2つのクルーザー。

(呟き)「僕は無事です。みんな、まずは身の安全を。」

(呟き)「うち大阪住みやねんけど、同期の日本人に帰国勧告出てるやん」
(写真)LINEのトーク履歴のスクショ。

(呟き)「これでマジで火ついた!」
(写真)火をつける直前に紙を折り曲げている。

(呟き)「世界の衛星写真。南に明かりはない。」
(写真)世界の衛星写真にはニュージーランド北島、ニュージーランド南島の北東、オーストラリア中南部、パプアニューギニア、ジャワ島とスマトラ島を含むインドネシア、フィリピン、マリアナ諸島、マレーシア、台湾などで、強い地震の影響による停電で照明用の電力が少なかったり消たりしている。

(呟き)「当たってる、神か」
(写真)有人潜水調査艇の操艇者・小野寺俊夫の顔写真と、小野寺が「そう遠くない未来、日本以外は全部沈没する」と語っている記事。

(呟き)「ちょwwwwお前有名人じゃんwwwでも理論的に考えてありえないと思うよw」

(呟き)「ウギャー!世界おわた#拡散希望」
(動画)倒壊する台湾の台北101。

なんちゃって報道記者となった住民たちが呟くスクープの数々の中に、さすがに芸能人の不倫は無い。今となっては不倫こそが平穏の象微だったのではと思ってしまう。
春生のスクロールする手が止まる。憤りか、悔しさか・・・・スマートフォンを握る手に力が入っている。
スマートフォンを手にした他の者たちも膨大な情報を前に困惑している。
「うそでしょ!?」
一際甲高い声がした。声の主は若い女性だ。
「えっ、何?」
隣には夫と思われる男性がおり、彼はスマートフォンを手にしている。
女性は目を丸くして画面を見ている。YouTubeのアプリが起動しており、昨日アップされたライブ配信の動画が再生されている。動画の長さは30分ほどあるようである。
ただならぬ雰囲気を察した避難民たちが男性のスマートフォンを覗き込む。まるで次々とスクープが舞い込む新聞社のように、話題の中心が無限に変化する。

(動画のタイトル)「Saipan Sinks」
(ライブ配信日)2021年8月20日
(視聴回数)6,595,938回
(動画の内容)上空からサイパン本島を撮影している。砂煙や高波と思われる水しぶきを上げ、陸地が沈んでいく。

みんなが一様に口をあんぐりとさせ、言葉を失う。ただ愕然と非現実的な出来事を目撃している。映像を見た途端、めぐるの妙な好奇心は消え去った。
誰かの唾を飲み込む音がし、それが合図であるかのように言葉が発せられる。
「・・・・これって本当・・・・?」
「・・・・えっ、沈んだってこと・・・・?」
「・・・・こいつって、新聞記者で有名なYouTuberだろ」
「・・・・どうやって撮影したんだ・・・・?」
「・・・・悪い冗談じゃないの?他に記事はある?」
昨日の動画をアップしているのは、チャンネル登録者が165万人超の新聞記者で人気YouTuber(ユーチューバー)・カイト(KITE)だ。動画には高評価と低評価が半々。コメント欄には中国語や英語、日本語、ハングル文字、アラビア文字など、世界中の言葉がびっしりと並んでいる。
じっとしていられず、めぐるは自分のスマートフォンで同じ動画を視聴する。
「こんなのフェイクだよ、YouTuberの悪ふざけだよ!」
「僕は信じます」
裕太はサイパン沈没が事実だと思い込んで信じているが、サイパンが沈むわけない、世界が沈むわけない、浩一郎の実家だって無事に決まっている。とにかくすべてが大掛かりなショーに違いない。めぐるは自らを洗脳する。
「・・・・海外では事実として報道されているわ」
めぐるが停止しようとした時、ジュリが一瞬早く手を伸ばした。ジュリは画面をスクロールし、英語のコメントを読み始める。そのコメントにはURLが貼ってあり、タップするとニュースサイトが開いた。
めぐるとジュリは写真が貼ってある記事に素早く目を通す。裕太も背伸びして読み始める。
「・・・・うそよ・・・・」
めぐるは長押ししてスマートフォンをオフにする。めぐるは悲しい知らせばかり届ける小さな機械が恨めしかった。
「日本列島が日本海側に傾いてるって呟いてる人がいるわ」
「こっちにも似たような呟きがある。サハリン辺りと北アメリカの太平洋側から世界が沈んでるって」
20代前半と思われる男性2人の会話が響く。
そのあまりにもセンセーショナルな内容に誰もが飛びついた。
「えっ、世界が沈んでる・・・・?」
「それなら、水が引かない理由も説明できるな・・・・」
「じゃあそこに来ている水は海水ってこと・・・・?」
誰もが深刻な事態に大きな不安と絶望を抱いた。それは紛れもない真実だ。だが同時に、「日本以外が全部沈む」というワードの持つスペクタクルでSFチックな一面に、大変な事態なのに胸が弾むのを隠せない。一種の「怖いものを見たさ」のような妙な好奇心が芽生えてもいた。
「昔の小説や映画じゃあるまいし、日本と海外は、プレートの移動で隆起することはあっても、沈没は、ありえないというのが定説だよ。デマだよデマ。ネットには、沢山の間違った情報もある。マスコミだって信用できないよ。政治的に利用されることもある」
店長は「騙されないようにね」とつぶやいたが、そんな気配が匂って来そうなほど堂々とした様子で説き伏せる。その立ち居振る舞いに、もはや雇われ店長の面影はない。立場は人を作るとはよく言ったものだ。
「世界を終わりにさせたい奴らが、デマを拡散してるのね」
「チッ!何信じりゃいいんだ!」
すっかりイエスマンとなった者たちが同意する。
裕太はソワソワしていた。裕太は何を隠そうカナヅチなのだ。幼稚園児の頃に札幌市民プールで溺れて以来、水が怖い。水が迫って来ていると聞いて激しく動揺し、痒くもないのに頭を掻く。裕太に落ち着きがないのには、もう1つ理由がある。札幌市豊平区の美園に住んでいる浩一郎の両親の事が心配だったのだ。あの地域が海抜0メートル地帯だということを裕太は教わったことがある。
「いずれにしても、ここから移動しませんか?増水すれば、孤立する可能性もある」
「移動しようという考えには、私も賛成だ」
「じゃあみなさん、移動の準備を始めましょう。余裕のある人は、他の人を手伝ってあげてください。みんなで、助け合いましょう!」
浩一郎の声掛けに店長も賛同し、避難民たちの移動が始まった。しかし、小学校低学年の男の子が「えーどっか行くの?」と言い出す。各々が慌てて荷造りを始める。店長の大荷物を「家来」たちが分担して運ぶ。ジュリは「いきますよ」という掛け声を発し、ケガ人に肩を貸すなど、立派な働きを見せる。
めぐるは準備をしながら、顔見知りの少なさに今更ながら驚いていた。みんなここの近くに住んでいる人たちのはずなのに、春生と灯織以外は親しく会話したこともなかった。近所付き合いを疎かにして来たせいだと思ったが、札幌なら珍しい事じゃない。
「さよなら、僕たちの家・・・・」
裕太は遠くに微かに見える傾いた我が家を見つめていた。その考えには悔しい思い出が浮かんでいる。
「いつか戻ってきましょう」
「必ず戻ってくる、みんなでな」
1人ずつ裕太の横に並び、いつしか八宮家は勢ぞろいしていた。まるで古いドラマのワンシーンのようである。4人で眺めるこの景色を各々が心に刻んだ。
浩一郎は力強く歩き出した。まだ住宅ローンが30年近く残っている。一番泣きたいのはきっと浩一郎に間違いなかった。
浩一郎を先頭に一団が石段を下っていく。
春生と灯織は座ったまま動かない。2人ともヘッドホンで音楽を聴き続けている。
めぐるは列から離れ、春生と灯織の元へと駆け寄った。
「灯織ちゃんと古賀先輩も行きましょう・・・・ここ、危険みたいですよ・・・・」
直接呼びかけたのはいつ以来だろうか。めぐるは照れもあり、次の言葉が出てこない。
春生と灯織は俯いて黙りこくったままだ。めぐるは声が届いていないのではと思い、次は少しだけボリュームを上げて話しかける。
「お母さんを待ってるんですか?お父さんを待ってるんですか?」
「・・・・・・・・」
春生と灯織はめぐるを見ようとしない。バッグに手を突っ込むと、スマートフォンを別のモバイルバッテリーに繋ぎ換える。
「一緒に探しに行きましょう!私、親に頼んでみます!」
春生と灯織に喜んでほしい、春生と灯織の力になりたい、その一心で発した言葉だったが、それは無邪気な暴走だった。
春生と灯織はめぐるを一瞥する。視線が合い、めぐるはドキッとする。しかし、胸の高鳴りの理由は、初恋の相手に見つめられたトキメキではなく、その視線が恐ろしく冷たかったことに対しての驚きだった。
「・・・・死んだ」
「・・・・もう死んだ」
「えっ?」
春生と灯織は吐き捨てるように言うと、立ち上がってトボトボと歩き出す。めぐるは絶句し、頭が真っ白になった。全身から汗が吹き出し、寒気が襲う。
「・・・・ごめんなさい、私、知らなくて・・・・」
自分の無神経さが許せなかった。どうしてその可能性を考えなかったのだろう。めぐるは自分の幼さと愚かさが悔しかった。
めぐるは春生と灯織が座っていた木の根元をじっと見つめたまま金縛りにあっていた。
「・・・・大丈夫・・・・さあ、行こう・・・・」
浩一郎も列から離れてめぐるの元へ駆け寄り、冷静な声で呼びかける。しかし、めぐるにはそれが余計に辛かった。
浩一郎を先頭に、裕太、めぐる、春生、灯織、ジュリと続き、住民たちが石段を降りてくる。
「足元しっかり見ろよ」
「ゆっくりね」
「段差ある、気を付けて」
「ゆっくり」
平地は20センチほど海水で覆われており、鳥居の根元は水に浸かっていた。工事現場の男性がさっき確認した時よりも確実に水位が上昇している。
「水位が上がってる、急ごう!何が沈んでいるか分からないから気を付けて!」
浩一郎が先陣を切り、ジャブジャブと水の中を進む。
一行は海水から逃げるように内陸部を目指して歩みを進めている。
美容院のマネキンやレジスター、ベビーカー、甲冑、熊手、ゴルフバッグ・・・・様々なものが海面に漂っていたり、瓦礫の山に打ち上げられていたりする。
キッコンキッコンキッコンキッコン・・・・キッキッコンキッキッコンキッキッコンキッキッコン・・・・倒壊した木造一軒家の中からオンボロになった目覚まし時計の異音が聞こえている。持ち主を失ったのだろう。時たまどこからともなく聞こえるスマートフォンの着信音やLINEの通知音もきっと同じ理由である。それでも電子機器たちは普段と変わらず呼吸を続けている。
「あれ、人?」
「ああ、そうだ・・・・」
裕太は海面に漂っている遺体を見る。浩一郎はこれが遺体だと思って正直に言い、水の中を歩いて進む。
遠くに線路の高架が見える。高架上で電車が止まっていた。後方の車両が脱線し、宙吊りになっている。大地震の影響で線路の高架がひっくり返ったようである。
誰もが変わり果てた町の姿に息を呑む。SNSにアップするのか記録用か、写真に撮っている人もいる。
前進を続けていると、同じく内陸部を目指す人々と出会う。1人、また1人と合流し、同じ方向へ歩き出す。みんな、明確な目的地やプランがあるわけではない。海岸線から少しでも遠くへ行きたいだけだ。
「熊本県や山形県もかなりの被害を受けているって」
「だろうな」
新しく加わった避難民からそんな会話が聞こえてくる。
ジュリが静電気に触れたようにピキッと足を止める。もしも1人だったら「もっと詳しく教えてください」と、そう駆け寄っていたかもしれない。しかし、子供たちや浩一郎の前でそれはできない。春生や灯織だっている。みんな心配だらけなのだ。
ジュリは取り乱さないよう、ゆっくりと深呼吸をする。そんな彼女の肩を浩一郎が黙って抱いた。
「まだ分からない。とにかく、前へ進まなきゃ・・・・!」
ジュリはにんまりすると、わざと足を高くあげて進行するように歩き出す。
「あーっ!おばちゃーん!」
前方から聞き覚えのある声がした。人懐っこい笑顔の男の子が父親に肩車をされている。その子はジュリが川で助けた男の子だった。歳は裕太より2歳年下の8歳である。
「君!」
ジュリは手を振る。浩一郎は「え?」と言う。
「パパ、このおばちゃんだよ」
「私はお姉さんよ、おばちゃんじゃないもん」
ジュリは駆け寄ると、男の子の膝をくすぐる。男の子は足をバタつかせて笑っている。
父親は息子を降ろすと、浩一郎は「じゃあ、飛行機で助けたっていう・・・」と言うと父親は「ありがとうございました」とお礼を言った。
「僕のママですよ」
裕太が誇らしげな笑みを浮かべ、ジュリを称える。
「みなさんは、これからどちらへ?」
「海水から逃れるには内陸ですかね・・・・」
状況が理解できない浩一郎たちに、男の子の父親がこれまでの経緯を話して聞かせる。
一方、めぐるの表情は冴えなかった。後ろめたくて俯く。自分とは対照的に人助けをしてヒーローになった母親が立派に見えすぎてしまう。
「私たちは札幌を目指したんですが、とても近づけなくて・・・・」
男の子と父親は札幌を目指したそうだが、とても近づけなくて引き返してきたらしい。
「一緒に行きましょう」
「そうだよ、行こうよ!」
「うん、行く!」
ジュリと裕太の誘いに父親は同意する。裕太は2歳年下の男の子が加わって嬉しいのだろう、足取りが自然と軽くなった。
霞んだ空が幾分澄み渡る。太陽の光が差し込み、一行を照らした。
浩一郎は左手首に巻いたタオルで額の汗を拭うと、おもむろに足を止める。
「・・・・右か左か・・・・」
前方で道路が大きく二手に分かれている。
「どっちに行きますか?」
一行は選択を迫られた。
「震源地がサイパンだから南は危険、考えるまでもない」
「そうですね」
そう言い切ったのはあのコンビニの店長だった。多くの人々が頷き、店長への忠誠心をアピールする。
「でも、サハリン辺りと北アメリカの太平洋側から沈んでるって情報もあるんですよね。だとしたら北は・・・・」
唯一反論したのは浩一郎だった。
店長の眉がキュッと動く。機嫌を損ねたのは明らかだった。荷物の上にどかっと腰を下ろすと、「全く面倒だなぁ」と言いたげにため息を吐く。そして、知識を自慢するかのような口調で話し始める。
「日本以外が全部沈没するなんてほざいてた、潜水艇パイロットの小野寺。あいつのバックにいる田所博士は、トンデモ学者なんだ。生きるか死ぬかの選択の時に、怪しい情報に振り回されるのはごめんだね、悪いけど」
またまた「うんうん」としもべたちは頷く。
めぐるの心の声「田所博士とは、地球物理学者である。7年くらい前から「日本以外は全部沈没する」と主張し続け、日本政府や世界の政府にも進言していた。だが、政府には相手にされず、マスコミからは「トンデモ博士」と変人扱いされてきた。」
ただ1人、有人潜水調査艇の操艇者である小野寺俊夫だけは博士を信じ、右腕として行動を共にした。小野寺はスポークスマン的な役割を担い、ワイドショーなどに出演して「日本以外がすべて沈没するメカニズム」について語ることもあった。
しかし、大抵の場合、UFOや心霊現象と同じくオカルト的な扱いを受けてしまい、いつしか小野寺も大衆の前から姿を消した。
浩一郎やジュリが、田所や小野寺を支持していたかと言えば決してそうではない。どちらかと言えば「変なおっさん」という印象である。めぐると裕太に至っては、名前だけは聞いたことがあるという程度で、さほど興味はなかったが、こんな状況になった今、SNS上では博士と小野寺の評価が見直されつつあった。
浩一郎だって日本以外がすべて沈没するなんて思ってもいない。ただ、何か異様なことが起きていることは確かだ。掌返しと言われようとも、博士と小野寺の事を幾らか信じてもいいのではないかと思い始めている。
「ここから北の方向に進めば、うちのコンビニの配送センターがある。食い物や飲み物、日常品もある。私はそこを目指すけど、みんなはどうする?」
店長の問いかけに対し、各々がコソコソと相談したり、1人で思案したりする。店長について行くという答えは出ているのに、考えているふりをしているのだ。そんなことは見抜いているめぐるは、繰り広げられる茶番にうんざりしていた。
「お姉ちゃん、スマホ貸して。東京のゲーム仲間に聞いてみる」
「あんまりバッテリー無いんだけど・・・・」
「貸して!」
「ちょっと・・・・!」
めぐるが許可をする間もなく、裕太が半ば強引にスマートフォンを奪った。
裕太は素早い指さばきでゲーム仲間と連絡を取り合う。
「やあ」
「やあ裕太!」
「世界はどうなっているのですか?」
「南はとてもめちゃくちゃです。北は少し安全ではないか、という声を聞きました。確かにそうだったような・・・・確証はありません。でも裕太、南西へ行きましょう!」
裕太は世界中にたくさんのゲーム仲間がいる。その中でも、東京都在住の友人を特に信頼していた。裕太らは外国人に似ていてとても親切だと、裕太はそう感じている。
「友達は南西へ行けって言っています」
「・・・・信じていいの?」
「人工衛星から見た夜の世界は、南側に明かりが無かったって」
めぐるにとっては得体の知れないゲーム仲間で、鵜呑みにしていいものか疑問を持つのは当然だ。だが、悩んでいる時間はない。
「国内の情報より信用できると思う。私も南へ行きたいです」
ジュリの顔つきからは頑な意志を感じる。
このジュリの言葉が決定打となり、浩一郎たちは南へ向かうことを決断する。春生と灯織は突っ立ったまま無言だったが、ほんの少しだけスッと浩一郎の側へ移動した。春生なりの意思表示だった。
「私たちは、南へ行きます」
浩一郎が告げる。店長への決別宣言である。
「ああ、どうなろうと自己責任だ。さあ、みんな決まったか?」
店長は浩一郎に背を向ける。
「私は北へ行きます」
「私たちも、北に・・・」
「そうだ、私たちも北へ行きます」
「えっ・・・・?」
大方の予想通り、浩一郎たち以外は店長と北を目指すことで決まった。そのメンバーにはジュリが川で救った男の子と父親もいた。店長の物質の豊富さは、小さな子を持つ親にはより魅力的にうつったに違いない。
「ここは、彼について行ってみます」
男の子とその父親も北へ行くことを決意し、ジュリと裕太が寂しそうな眼差しを浩一郎に向ける。
「浩一郎・・・・」
「どっちへ行くかは自由だ。それに、向こうが正しいことだってありえる」
ジュリと裕太は小さく頷く。
「ちょっと待ってください!」
「みんなで写真を撮りましょう」
ジュリの提案に対し、店長は露骨に面倒臭そうな顔をしたが、ジュリが持ち前の人当たりの良さで押し切り、尚且つ「はい、君はこっちね。あなたはここ」と完璧な仕切りを見せて、あっという間に居合わせた全員を整列させた。
「はい、チーズ!」
ジュリがインスタントカメラを構える。無理して笑顔を作る者、仏頂面の者、ドヤ顔をする者など様々。裕太は親指を立てる。男の子はピースサイン。春生と灯織はどこかの端っこで無表情。めぐるはそんな春生が気になりつつ、顎を引いてニコッと微笑んだ。
「君にあげる」
ジュリは出来上がったフィルムを男の子に渡す。そこには黒いマジックで「You made my day!(おかげで楽しかった!)」と書かれている。
「ありがとう」
男の子は嬉しそうに胸ポケットにしまった。
「幸運を祈ってます」
別れ際、裕太は男の子に向けて人差し指と中指をクロスさせるフィンガーズ・クロス(Fingers crossed)をして見せる。
「何?それ?」
「願いが叶う魔法」
「へぇー・・・・」
男の子は真似をする。一度でうまくできた。
「さっ、行くぞ」
「また会いましょうね」
「バイバイ」
「バイバーイ」
ジュリと裕太は男の子とその父親に別れを告げた。一行は店長を先頭に北に向けて移動を開始する。裕太は北へ旅立つ男の子とその父親の背中をずっと見つめていた。
「・・・・・・・・」
いつの日か再会できるのだろうか・・・・それは誰にも分らない。
浩一郎を先頭に渋滞している車が停車している高速道路を歩く八宮家と春生、そして灯織。たまに雲の隙間から差し込む日差しが、木々の葉っぱを掻い潜り、浩一郎らを照射する。その一筋のレーザーは確実に浩一郎らから体力を奪っていった。
道路の地面が熱い中で、帽子をかぶった裕太が途中で靴を脱いだ。
「このほうが歩きやすいね・・・・!」
「あっち、あっつ!かはっ!」
「はははは!真夏のアスファルトをナメんなよ!」
浩一郎は裕太が裸足で熱い地面についた際に熱がって飛び跳ねているところを見て笑ってしまう。ジュリは裕太に裸足で熱い地面についてはいけない事を言う。
「ケガするから、靴は履いておいた方がいいわよ」
「分かりました・・・・」
裕太はジュリに言われたことを聞き、裸足で熱い地面を歩かずに靴を履いて再び歩く。
浩一郎がチラッと後方を見やる、最後尾を歩いているめぐると裕太の足取りは軽い。
山道に入る前、高速道路を歩いていた浩一郎たちは年老いた夫婦を見かけた。狭い日陰で身を寄せ合う老夫婦は、見るからに水分を欲していた。
「お父さん、まだ水ある?」
「ああ、これが最後の1本だがな」
「貸して!」
浩一郎は持っていたペットボトルの水をめぐるにあげた。そんな彼らにめぐるが老夫婦に水をあげたのだ。めぐるはペットボトルの水を一口飲ませてあげるつもりであった。
「良かったら水どうですか?」
「まあ、いいの?」
「はい」
「おじいさん、水だよ」
「はぁ・・・・ホントありがたい。さあ」
しかし、老夫婦は勘違いし、老夫婦が水を飲むとペットボトルごとカバンにしまったのだ。めぐるは「返してください」とは思っておらず、八宮家にとって貴重なラスト1本の水を失ってしまった。
「あ・・・・」
めぐるはジュリみたいに人助けをしたかっただけなのに、裏目に出てしまった。
「全部あげちゃったの!?」
「ごめん・・・・」
「平気よ、水はまた手に入るわ」
「この先に、サービスエリアがある。きっと水だってあるぞ!」
もちろん浩一郎もジュリもめぐるを責めはしなかったが、裕太は文句言いたげに道路脇の雑草を引っこ抜いて捨てた。その後にサービスエリアへ立ち寄ったが、自動販売機は破壊され、商品は品薄状態になっており、水道も止まっていた。
「考えが、甘かったな」
「結構ひどいわね」
浩一郎とジュリが考えが甘かったことを一言言ったその時、震度5弱の余震が発生。地面は強く揺れ、裕太以外のめぐるたちは一瞬よろめき、帽子をかぶっている裕太はしゃがみ込み、右手を地面につけて踏ん張る。
「大したことなくて、良かったね」
「ここは崩落の恐れがある。山道へ行こう」
「日陰もあるし、そのほうがいいかもね」
「きっと水だってある」
浩一郎とジュリは水と日陰を求めてルートを変更した訳だが、想像以上に山道は険しかった。
随分と前に札幌からニセコを抜け、北海道寿都郡黒松内町へと入っていた。その間にも震度2程度の余震は度々起こっていた。
高速道路を歩き、線路を歩き、土砂崩れや建物の倒壊で行き止まりの場所、ガス臭い場所などを避け、廃墟と化したゴルフ場を横断し、ここまでやって来た。
神社の境内を出発してから、かれこれ8時間以上歩いていることになる。
「若い頃のデートは、山登りとか、アウトドアばっかりだったよな」
浩一郎は前方に張っている蜘蛛の巣を手で払う。
「お互い若かったよね」
ジュリは手の甲に着地したテントウムシをチョンと弾く。
肝臓の低下が発覚して水泳を引退したジュリだったが、一般人と同様の生活を行うことには何ら問題なかった。しばらく運動はジョギング程度に留めていたが、やがてスポーツで鍛えた体がウズウズして、友人の勧めもあり趣味で山登りを始めた。初めての黒松内岳は楽な初心者コースから登った。その頂上で出会ったのが浩一郎だった。
「写真撮りましょうか」
友人とご来光をバックに記念撮影しようとしていると声をかけてきた。浩一郎は黒松内川コースから登って来ていた。ジュリは浩一郎の優しい笑顔に惹かれた。
ジュリはあの頃よりたくましくなった浩一郎の背中を見ながら、当時を懐かしむ。その浩一郎の背中がグッと大きくなり、ジュリに迫ってくる。
突然、浩一郎が足を止めたのだ。浩一郎は手を耳元に持っていくベタなポーズで周囲の音を探る。
「水があるぞ!」
「ふふっ」
「わあ・・・・」
浩一郎は大きな声をあげると大股で走り出す。たちまち背中が小さくなり、ジュリは見失いそうになる。裕太がジュリを追い越し、浩一郎を追いかけた。
一連の地震で地形が変形し、本来ないはずの場所に小さな池が出来ている。水はとても澄んでおり、透けて見える水底が神秘的である。
浩一郎は近場の岩の裂け目から湧き出している水が水源だと突き止める。よく見ると、湧口にはコケが生えている。コケが生えていれば毒性がないことを浩一郎はもちろん知っていた。
浩一郎はさっき飲み切って空になったペットボトルで汲んだ湧水を一口ゴックンと飲んだ。
「・・・・うん、イケる!」
「ああ・・・・へへっ・・・・!」
裕太が喜びを爆発させる。夢中で水を掬いあげ、グビグビと飲む。道中、川の水を飲もうとして何度も浩一郎に注意されていた。
「冷たーい」
めぐるは顔の穴という穴から水を吸収しているかのようにガブガブと水を飲む。
「あまり飲みすぎるなよ」
浩一郎は喜びを顔に漲らせているめぐるを見て、上機嫌に目を細めた。
生き返った浩一郎たちは、切り立った小さな崖に来ていた。やはり度重なる大地震の影響だろうか、小さな滝と滝つぼができていた。
「引き返そうよー」
「どうするの?」
「どう?」
「行けそうだ」
八宮一家は次へ進むかどうか迷っていた。その時、ジュリは沢下りをすることに決めた。
「ふっ・・・・沢下りよ!」
「やだよ!」
「・・・・見てくる」
裕太は沢下りが怖くて嫌がっていた。しかし、何の前触れもなく、浩一郎はロープで崖下を降りて様子を見る。
「見えないよ!」
めぐるは浩一郎の姿が見えないことに気が付く。
冷たい水が体温を下げてくれた。ロープで崖下を降りた浩一郎は滝つぼに着水する。
「大丈夫だ!裕太!飛び降りろ!」
そのはしゃぎっぷりにめぐるはちょっと呆れているが、ジュリは楽しそうに笑顔にしている。今にも素っ裸になって飛び込みそうな勢いだ。
「ええっ!?」
「下は滝つぼだ!」
「裕太、ファイト!」
「僕泳げないよ」
「落ちても死にやしないぞー!」
「あ・・・・ああっ!」
まさかのご指名に裕太は目を丸くする。この展開でカナヅチを矯正させられるとは思ってもいなかった。さっきまでありがたかった水が急に悪魔に見える。ジュリは裕太のメッセンジャーバッグを滝つぼに投げた。
「来い!裕太!」
「男は・・・・度胸!」
古臭い言葉と共に裕太の背中を押したのはジュリだった。
「わあああぁぁぁーーー・・・・!」
裕太は意志とは無関係に滝つぼへダイブした。
ザブーン!
滝つぼは思っていたより随分と深かった。水の中ではとても静かだ。故に泳げない者にとってはそれが恐怖を倍増させた。
「助けて!ママ!」
裕太は必死で手足をバタバタと動かす。すぐさま浩一郎が抱き寄せた。
裕太は笑顔にしているジュリを見上げて睨みつける。ジュリは「Sorry」と舌を出して笑った。川で男の子を救ったヒーローと同一人物とはとても思えない。
思えばその昔、裕太に野菜を食べさせようと、ジュリは裕太が大好きなシュークリームの中に野菜を詰めたことがある。結果、裕太はさらに野菜嫌いになってしまった。両親が強引なやり方はかえって逆効果だと学んでいなかったことに、裕太はがっかりした。
「海に囲まれた国じゃ、泳ぎくらいできなきゃ大変だぞ。はははは・・・・」
浩一郎は裕太を抱いたまま、岸へと泳ぎ始めた。
裕太は鼻の水をふんっ!と出しながら、メッセンジャーバッグの中身を防水ケースに収納しておいて良かったと心底思った。
「フウゥゥゥゥゥゥゥゥー!」
「うわあぁぁぁぁーっ!」
水辺の滝を滑らせているジュリ、めぐると裕太は楽しそうにしており、浩一郎に褒められる。
「おっ、いいなあ!」
水辺を抜けて1時間くらい歩くと、行く手に小さな集落を発見する。
「おっ!民家があるぞ!」
ポツンと一軒家とまではいかず、ポツンと三軒と言ったところだろうか、いずれの家屋も大地震で倒壊しており、避難したらしく、住民の気配はない。
「すみませーん!誰かいますか?」
浩一郎が呼びかけるが、応答はない。
「みんな避難したか・・・・ん?」
浩一郎は携帯電話の着信音に気づいた。めぐるも携帯電話の着信音に気づく。
「・・・・携帯だ!」
浩一郎が携帯電話の着信音を聞いてたどり着くとそこには、昨日の大地震で倒壊した家屋の下敷きになって死んだ老人の遺体の手が出ており、傍には画面がひび割れたスマートフォンがあり、周りには飼い主が手放したとされる4匹のニワトリがいる。鳴き声を響かせている4匹のニワトリのうち1匹が、老人の遺体の手を啄んで食っている。
浩一郎は着信音が画面がひび割れたスマートフォンから鳴っていることに気がつき、着信音が鳴っているスマートフォンに近づこうとするが、浩一郎が近づいたせいで1匹のニワトリが逃げ出した。
「あっ・・・・」
「お父さん」
「来るな!」
「えっ?」
浩一郎はめぐるに4匹のニワトリに近づかないよう通せんぼをする。浩一郎は1匹のニワトリが逃げ出した後、再度着信音が鳴っているスマートフォンに近づいてガッと拾う。浩一郎が近づいた影響で、老人の遺体を食った1匹のニワトリを含めて3匹のニワトリは逃げ出した。
浩一郎が拾った着信音が鳴っているスマートフォンを浩一郎がいじって確認する。それは誰かの電話ではなくてメールだった。浩一郎は今届いたメールの内容を確認する。それはとある会社を騙るフィッシング詐欺のメールだった。
「こんなのひどい・・・・フィッシング詐欺のメールだ・・・・」
浩一郎はフィッシング詐欺のメールを閉じた後、長押しして画面がひび割れたスマートフォンの電源をオフにする。物々交換でもして食料品を入手できればと考えていた。その時、瓦礫の奥からガサガサっと物音がする。一斉に視線を向けた先にいるのは、体重が100キロはありそうなイノシシだった。
その鋭い眼光はこちらをギッと見ている。
「あっ!」
浩一郎が言い終わる前にイノシシは歩き出す。土を巻き上げ、野生本能剥き出しで突進してきた。その距離わずか30メートル。
「うわっ!」
「逃げろっ!」
浩一郎が叫ぶ。ジュリと裕太は踵を返し近場の木に登る。灯織は近場の岩に。しかし、春生は恐怖で体が竦んで動かず、近場の岩に座り込んで固まる。めぐるはダッシュして逃げる。そこに容赦なくイノシシが突進してくる。
「めぐる!」
倒壊した家屋の屋根の上へ登った浩一郎は、リュックからナイフを取り出すと、めぐるの前に飛び出す。イノシシは猛烈と突っ込んでくる。
「お父さん・・・・!」
「パパ・・・・!」
めぐると裕太が浩一郎を呼びかける。バーン!と浩一郎にぶつかる。衝撃で「うぐっ!」と浩一郎が声を出した。
あまりの衝撃の強さに浩一郎の呼吸が浅くなる。それでもナイフを胴体に刺し、イノシシに掴みかかった。イノシシは振り解こうと暴れる。
イノシシと浩一郎は絡み合って道の脇の斜面を転がった。斜面には草木が生い茂っており、転がった先で浩一郎とイノシシがどうなったのかを目視することはできない。
「取ったどー!」
浩一郎の声が聞こえた。裕太は嬉しそうに「イエーイ!」と言って興奮した。
夕暮れ時、川のほとりには肉が焼かれる香ばしい匂いが漂っている。
浩一郎と激闘を繰り広げたイノシシはぶつ切りにされ、セラミックの網の上で焼かれていた。
浩一郎はイノシシを返り討ちにした後、川で毛を削ぎ落し、皮を剥ぎ、解体したのだ。
「興奮させずに仕留めたほうが、美味しいらしいが、襲われたんじゃ、仕方ないよな」
浩一郎は瓶詰のトリュフソルトを半焼けの肉に振りかける。味付けにこだわる浩一郎は、どんなに大荷物になろうともキャンプには瓶詰の調味料を必ず幾つか持参していた。
浩一郎は肉をトングでひっくり返す。そんな浩一郎を裕太は尊敬の眼差しで見ている。
「パパはサバイバル力すごいね」
「・・・・はい」
めぐるの返事はどこか心がこもっていない。それもそのはず、めぐると裕太は肉から染み出ている血と漂う獣臭さを感じた。
「うっ」
「んんっ」
めぐると裕太は指で鼻を押さえて踏ん張る。
夜明け前で薄暗い中、イノシシの肉を食べた浩一郎たちは旅を再開する。
「不発弾が埋まっている可能性があります」
先頭を歩いていた浩一郎がフェンスに張り付いている立ち入り禁止の看板を読み上げる。
その一部にフェンスで囲われた箇所がある。大地震の影響でフェンスは倒れかけていた。浩一郎が注目をしたのは、フェンスに針金で結び付けられている立ち入り禁止の看板だ。そこには「立入禁止 危険!不発弾が埋まっている可能性があります」の文字をハッキリと見ることができる。
「・・・・ってことは、不発弾が埋まっている可能性があるってわけだ」
「えー!?行きたくないな・・・・」
めぐるはフェンスの向こうに不発弾があることを浩一郎から聞き、ちょっと不安になる。
「不発弾があるフェンスの向こう側には、1頭のシカがいるから近づかない方がいいんだ」
浩一郎は不発弾があるフェンスの向こうに1頭のシカがいることに気が付き、浩一郎たちはシカに近づかないよう、不発弾が無い別の道を選んで歩いて行く。シカは多分フェンスが倒れた際に不発弾がある場所から侵入してきたに違いない。
「あそこには映画館とかあるんじゃないかな、めぐるはポップコーンならどんな時でも食えるんだな」
めぐるはポップコーンが大好物なのだ。映画館などで販売されているポップコーンを買って食べるのが趣味と決まっている。うす塩味のポップコーンならなんでもいける。
春生と灯織は相変わらず無関心な様子で、ヘッドホンで音楽を聴きながら前を見つめている。
朝陽が昇り始め、一帯が徐々に明るくなる。
フェンスの向こうにいるシカは動き回りながら走っている。
しかし、走っているシカの足元にドボンと1メートルほど地面が沈んでしまい、シカは立ち止まって何かに踏む。その接触と音で、沈んでいる地面に立ち止まっているシカはそれが何かを瞬時に悟ってしまった。
ボォーン!
強烈な爆発音と爆風を巻き起こし、地中に埋まっていた不発弾が爆発した。
長さ1メートル、直径40センチほどのアメリカ製の爆弾だった。地中で密閉され、綺麗な状態のまま起爆装置にあたる信管が残っていたのだ。
爆弾の威力は凄まじく、シカは木っ端微塵になった。
せめてもの救いは、痛みが脳に伝達する前にシカが死んだであろうことだ。
巻き上がる砂煙。強烈な音と振動が一帯に広がる。
歩いている途中で立ち止まった浩一郎と裕太は、不発弾が無い別の道を選んで歩いて行ったせいか、何が起こったのか分からず、音と砂煙が舞い上がった方向を茫然と見ている。そんなフェンスの根元にペタンと落ちたのは、シカのどれかの足だった。
春生と灯織は音のした方向から目を逸らし、隣のめぐると裕太を見ている。
めぐると裕太の表情から恐ろしい出来事が起きたことを察していた。
めぐるは空を見上げていた。
細かい砂と肉と血が創り出した小さなキノコ雲、その中をシカの毛が舞っている。
その光景は美しく、あまりにも無残だった。

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