「た、隊長!側面から奇襲です!!う、うわっ!」
新任衛士のひとりがそう言い終わるとペイント弾を受けた。
(ふふっ、やっと来たわね。岡崎の言うとおりね。でも、まだここでは・・・)
「全員うろたえるな!!一時後退だ!B-1は、B-2・3の後退の援護だ!」
「「了解!!」」
(さ~て、お手並み拝見よ)
「αー1・3が奇襲を開始したようです。」
「そろそろだな。」
中村は、そういいながら小銃を握り締めた。
「俺の脚を引っ張るなよ?」
中岡の毒舌がいつものように放たれ、
「ええ、わかっています。」
「わかったよ。」
「わかってるよ」
3人がそれぞれ返事をし
「皆さん、これから奇襲をかけますが特に皆さんは
今回の作戦の要です。失敗は許されません。
そして、“絶対に一人で戦おうとしない”でください。」
「「「了解。」」」
そして、齊藤が一息深呼吸をした後・・・
「αー2、行きます!!!」
「隊長!後ろからも奇襲が来ました!どうしましょう!?」
(さすがにこれは意外ね・・・でも、岡崎から“本気”でかかっちゃ駄目って言われてるしね。)
「B中隊はこのままだと全滅するわ!私の小隊がB-2・3を援護するから、すぐに撤退しなさい!!」
「しかしっ!では、私も一緒に行きますよ!」
B-2小隊長の小林がそう進言したが・・・
「駄目よ、貴方は残りの6人を率いて逃げなさい。全く・・・これは“BETA”との戦いじゃないし
ましてや、訓練なんだから死ぬわけでもあるまいしね。」
「了解!B-2・3行くぞ!」
「「「「「了解!!」」」」」
「さ~て、皆には悪いけど私達は、ここでアウトみたいだからね。
でも・・・・「「決して、犬死するんじゃないわよ!!」」
「「了解!」」
そういい終えた、β-1の4人は突撃を仕掛けた。
「γー2より、γー1!!敵がαー1に突撃を開始したわよ!!」
「くっ!!こっちは、後退を始めた敵と交戦中だから援護はできないよ!!
γー3援護に行って!!」
「無理よ!!突撃してきた内の1人がこっちに来たのよ!!しかも、こいつら強いわ!!・・・
榎本!!!」
「γー3どうしたの?」
「榎本がやられた!こっちが援護欲しいわよ!!」
「くっ!わかったわ!加藤と前田をそっちいかせるよ!」
「了解!!」
現在γ中隊が敵の正面にいたがγ中隊が二手に分かれたかと思うと、片方は突撃を
もう片方は徹底を開始してしまった。そして、突撃してきたほうは
1人がγー3に、1人がαー3、1人がαー1につっこんで来た。
「雫さん!!こっちにも1人突撃してきたので援護は、もう少し待ってくださいっ!」
同様にαー2も距離が少し遠く敵の追撃を開始しようとしていた。
「こっちは、1人だから大丈夫よ!」
「ふふっ、そんな射撃の腕じゃ当たらないわよ!!」
田中は、αー1から放たれる銃弾を時には物陰に隠れ時には体を低くしたりと
この地形を完全に使いこなし、徐々に距離を縮めていた。そして、ちょうど左右に
鬱蒼と樹木が茂りながらも多少開けた地点へと足を踏み入れた。
「雫!待ったくあたんねぇよ!!お前だけでも逃げた方がいいじゃねぇのか!?」
勝名は、そう叫んだが雫は
「大丈夫よ!それより、松浦は正面を、勝名は敵の射撃を牽制して!」
「「「了解!!」」」
「ほう、そう来るのね。なかなかいいわね相手の隊長、でもそんなんじゃ私を倒せないわよ!」
雫は、現在正面の物陰に隠れている敵に対し物陰から出さないために二人で牽制を行い
時々物陰から射撃をしてくる相手に勝名が応戦すると言うものだ、
「今、後退した敵を3人逃がしたらしいわ。補給しなくちゃ駄目みたいだから、追撃は
終わったわ。今からαー2がこっちに来るからもう少し耐えて頂戴。」
「「「了解!!!」」」
「でも、あたしたちが3人でかかれば1・2人やられるかもしれないけど倒せるんじゃないのかよ。」
勝名のいうことは尤もであった。確かに倒せる“かも”しれない。しかし、まだそのような賭けに出るべきではないのだ。
「まだだめよ、援軍が来るまで耐えて。」
「わかった、了解。」
「貴方たち、この距離だと会話が聞こえちゃうけどいいのかしら?」
田中は、あえて“聞こえる”ように話している3人にむかって、質問をした。
「聞かれても、別に構わないです。聞かれたところで少尉殿の今の状況では何も出来ないので。」
雫は、敵といっても上官である田中に対し礼は通した。
「確かにそうね、でも今の会話じゃ味方が来るのにもう少し時間がかかるんじゃない?
その間に貴方達を倒しちゃうかもよ?」
「それは、ないですよ。だって・・・」
「少尉、これでアウトです・・・」
田中は、後ろを振り向いたが・・・
バンッ!
一発の銃声で決着がついた。
田中をアウトにした朝倉は、
「少尉、痛くなかったですか?」
「ええ大丈夫よ、近距離だったんだけどプロテクターしてたからかしらね。」
「そうですか、良かったです。」
田中は、プロテクターのおかげと言ったが実際はプロテクターと朝倉の“不可視の力”で
弾が当たる前に1クッション入れ弾のエネルギーを奪い取りうまくペイントが付くようにしたのである。
「それにしても、まさかあんな状況で一人隠してたなんて。恐れ入ったわ。」
田中は、雫に対し賛辞を送った。
「ありがとうございます。でも、少尉は“手加減”してくれましたよね?」
「どうかしらね?・・・さて、私は戦域から離脱するわね。じゃあ、またね」
「お疲れ様でした。」
雫がそういうと、田中は振り返り小さく手を振るとそのまま戦域を離脱した。
その後、αー2・3が到着しγ中隊とともに指定のポイントへと足を進めた。
「さて、岡崎。田中がやられたわけだが?・・・なんで、わざわざ“見逃した”んだ?
岡崎の率いる中隊は、交戦中のB中隊から距離にしても1000しか離れていないところにおり
そのまま、B中隊と合流するかと思いきや何を思ったか撤退命令を出したのである。
そんな岡崎を、高橋は訝しげに見た。
「しかも、こっちは敵が逃げた後だったしよぉ~」
岡崎に指定されたポイントへと向かったがそこはもぬけの殻だった。
「これは、訓練だろ?しかももし俺達が“本気”でかかったら訓練じゃなくなるだろ。
ここは、先達として後輩には指導しとかないとな。しかも、このくらいの作戦なら簡単読まれると思ってたしな。」
岡崎はそのように答えた、
「まあ、確かにその通りっちゃそうだな。だから、訓練生がギリギリ乗り越えられる
程度のハードルにしたってわけか。」
「ご名答、しかもここの教官にも同じような事を頼まれたしな。」
高橋は、すこし驚いたような顔をした。
指定ポイント(自拠点の手前2000)
「隊長の皆さん、集合したようですね。これから今後の作戦についてなのですが・・・」
井上は、指定ポイントにα・γ部隊が到着後、部隊の隊長たちを集めた。
無論小隊長もである。井上らβ中隊は、βマムからの命令で奇襲ポイントから即時撤退
予め用意されていたポイントへと速やかに移動したため戦闘は一度も行われていなかった。
「まずは、当初の作戦通り斥候としてβ中隊からβー3を皆さんが到着する前に
出しました。」
「ありがとね、これで少しでも敵の動きがわかるといいんだけどね。」
上原は、こういったが実際敵の位置はわからない可能性のほうが高いということは
ここにいる隊長たちにはわかっていた。
「そうだな、わかるといいんだが・・・後、α、γ中隊の被害の程度を教えてくれないか?」
坂下は、β中隊には今まで戦闘の状況があまり入ってこなかったために
現在のα、β中隊の状況を知っておきたかった。
「α中隊は今のところ今のところ被害はないわ。」
「γ中隊は、3人やられてるよ。γー2が2人、γー3が1人だね。」
「・・・そうか、ありがとう。」
坂下がそういい終わると、井上が
「状況の確認は、出来たようなのでこれからの作戦では拠点の襲撃ですが
どうでしょうか?何か意見のある方はいますか?」
井上が全員の顔を見たが意見のありそうな人はいなかった。
「いないようなので、作戦の内容に移ります。それぞれの中隊から
意見を聞きたいと思います。では、α中隊からどうぞ・・・・」
その後、中隊長から意見が述べられた。
「私たちの考えは、おんなじみたいね。後は、作戦に当たる部隊の再編成なんだけど・・・」
雫は、全員の意見が同じだったのを確認しそれに反応した上原は、
「私のからの意見なんだけどね、αー2、βー2.γー2は、みんな部隊の前面で戦える人たちだから
これを臨時の中隊に残りを囮として編成するってのはどうかな?」
上原の意見を聞いた市原は、
「それだと、囮部隊の攻撃能力が低くなっちゃうと思うの。」
市原が、そういうのも無理はない。それそれの能力に応じて
前・中・後衛を決めているのだから前面で敵と撃ち合う
前衛は、総じて突破力・攻撃力・近接戦闘の能力に秀でたものが当てられている。
「でも、拠点を占拠すればいいので攻撃力が高いほうがいいと思いますっ。」
中原の意見は、拠点の占拠を優先したものであった。
「確かに、二人の意見も最もよね・・・でも私は、渚の意見と同じよ。」
雫は、そういいきった。
「理由は・・・さっきの戦闘でわかったんだけど“相手は本気を出していないわ”
もし、ここで拠点の占拠に失敗したら、こっちの兵力は落ちるし
相手も必要以上に戦闘を長引かせないはずよ。相手が、本気を出す前に勝つには
先手を打って短期決戦しかないわ。」
雫は、先ほど戦闘を行った田中少尉を思い浮かべた。
確かに彼女は、本気を出していなかった。相手の部隊だって撤退じゃなくて攻撃されていればかなり
危なかった。恐らく相手は私達を試しているのだろう。この程度では、どのくらい戦えるかと・・・
「確かにそうかも・・・私達が戦ってたときもうまい具合に戦線を維持できたし、
相手の攻撃も連携がとれてなかったよ。雫の言う通りかも。」
同じことをγ中隊の残りの隊長も考えていたらしく上原の意見に同調した。
「β中隊も雫さんの意見に賛成です。」
同じように井上らβ中隊も賛成した。
「では、皆さんCPには私から報告します。以後は、CPの指示に従う事になると思います。」
井上がそういうと、了解という唱和の後全員がそれぞれの中隊へと戻っていった。
その頃・・・新任衛士は・・・
「さて、可愛い後輩たちの斥候がウロチョロしてたがお前の言うとおり見逃しておいたぞ。」
高橋は、先ほど1個小隊を率いて哨戒任務に当たっていたがその時、ちょうど訓練生のエレメントが
偵察任務を行っていた。さらに、あの辺りにいたと言う事はこちらの兵の位置も把握されてしまっただろう。
「しかし、まぁ・・・あれじゃあまだまだ偵察には慣れてないみたいだったがな。
と言っても“BETAとの戦いでは”必要のないことかもしれないけどな。」
高橋は“現状”では先のクーデター事件のような事がない限り
戦術機同士の戦いなど
ないと考えていた。
「そうか、悪かったな。ご苦労様、それと偵察だって時には必要かも知れないだろ?
確かに戦術機に乗ってBETAと戦えばコンピューターが全部やってくれるけどな。
しかも“今”は、必要ないことかもしれないかもしれないが“未来”には何が起こるかわからないからな。」
岡崎は、冗談混じりにそういったが実際の所、その“未来”には様々な思惑が“今”よりも遥に渦巻いている
であろうと考えていた。
「確かに、違いないな。そろそろ訓練生達も攻撃を仕掛けてくるかもしれないかな。
俺達C中隊は、“囮部隊”とおっぱじめて来るかな・・・」
「今回は、本気で潰しにかかっていいからな。恐らく可愛い後輩たちは、こっちの拠点に来るだろう?
拠点の防衛は、岡崎を含めた一個小隊で守り残りは・・・・・でいいんだよな?」
高橋、岡崎に少し長めに今回の作戦の確認を取った。
「それでOKだ、頑張ってこいよ。」
「βー1よりβマム、帰還した斥候より敵の位置を把握した。今からそちらに
報告する。指示を仰ぎたい。」
「βマム了解。こちらで情報の整理を行うので少し待ってください。」
今回は、訓練であるため必要最低限の機材しかなくさらに、サバイバルであるため
必要な装備だけしかないために情報の処理等もほぼアナログなのである。
そのために、このように情報を整理する必要性がある場合は必然的に時間がかかるのである。
さらにいえばサバイバルであるため食事も今のところほぼ取っていない。
「βー1了解。」
「ふぅ・・・。」
井上は、今までの緊張を和らげるためにひとつ域を大きくはいた。
「佐奈さん、大丈夫ですか?少し疲れてるようですけど・・・」
皆口希美は、少し拾うの色が見え始めた井上に声を掛けた。
「大丈夫です。皆口さんこそ大丈夫ですか?」
「私は、大丈夫ですよ。今のところ戦闘もしていないですし。」
井上と皆口がそのような会話をしていると、足音が近づいてきた。
「お~佐奈に皆口か、何してんだ?」
「秋雄さんですか、私はβマムからの報告を待っているところです。」
新河秋雄は、いつものように元気が有り余る子供のようであった。
「私は、佐奈さんがお疲れのようだったので声を掛けていたんですよ。」
「そうだったか。まぁ今は頑張るしかねぇからな。全力を出し切るまでよ!」
「そうですね。頑張りますっ!」
井上は、彼女にしては大きな声と握った拳を胸に当て気合を入れた。
「その調子です佐奈さん。さて、私は装備の再点検でもしますね。それではまた。」
皆口は、そういうと軽く会釈をしてから小走りで行ってしまった。
「まあ、佐奈もあんまり無理スンナよ。お前が倒れたらこの部隊の面倒を見るやつがいなくなるんだからな。」
新河は、井上とは付き合いが長いため、彼女がそういう辛いものをあまり表に出さない事を知っていた。
「有難うございます。もう大丈夫です。秋雄さんと話したら疲れが吹っ飛びました。」
井上は、そういうと新河に笑みを浮かべた。
「あ、まあ・・それならよかった。」
新河の頬は薄い朱に染まっていた。
井上らの報告からβマムは・・・
「・・・こんなところか。」
日吉梓は、報告された情報を元に地図上に敵の位置を示すマーカーおよびこちらの部隊の
進行ルートを高山に指示された通りマークしていた。
その高山といえば青野俊夫と共に現在各部隊の状況整理・把握に追われていた。
「全く、拠点の防衛のはずなのにこんな事やらされるとわね。
それと、あんた達少しは、もう少しなんか喋んなさいよ。空気が重い!」
日吉は、先ほどから3人で作業をしているのだが
このふたり、青木美里・有田遼平は必要な事意外ほとんど喋らないのである。
普段は、寡黙であるが決してこれほどまで会話が少なくなる事はないし別段
人付き合いが苦手でもないということは日吉にはわかっていた。
「今、集中してるから静かにして。」「ああ・・・」
青木・有田の返事はこれだけだった。
「全く・・・もう少し、喋って欲しいわね。」
(私だって、一応今回微妙な立場なんだから・・・)
日吉がそういうのも無理はない、今回の相手は昔の“職場”の出身者である。
確かに相手との面識はないのだがやはり昔の職場には色々と“思い出”がある。
(あの時は、マジで死ぬかと思ったわ。)
彼女は、BETAの横浜基地襲撃の際、整備兵であるにも拘らず戦術機に乗せられ
“死地”へと送られたのである。しかも、まさかその後にここで衛士として
訓練を受けるとわ思っていなかった。
(人生何が起こるかわからないわね。)
そして、日吉はそのような事を考えつつも作業はしっかり行っていた。
作戦開始前・・・
「皆さん、配置についたようですね。」
先刻、βマムからの通信で作戦開始3分前が伝えられた。
その時すでに部隊は、各小隊長の命令で配置についていた。
「これから、作戦開始です。この作戦が失敗した場合
この訓練に負けたといっても過言ではありません。ですので、失敗は
許されません。特に今回はΩ部隊の活躍により作戦の是非が分かれると事ですので
頑張ってください。」
Ω部隊、今回の作戦の中枢となる奇襲部隊である。このΩ部隊に対応し
δ部隊は、囮部隊の事である。
「俺らが負けたら終わりって事だな・・・」
森上は、βマムの言葉をかみ締め自らの所属する部隊の責任の重さを痛感した。
本当は自分としては雫のそばで戦いたかったのだが今回ばかり・・・
いや、今後もBETAとの戦いになればこういう行動もおのずと増えてくるだろう。
しかしながら雫のそばでなければ雫を守り従うことが出来ないわけではないのである。
森上は、今後BETAとの戦いにおいて自分がどのように雫だけでなく・・・仲間達を守っていけるのかを
考えていた。
(今は、それよりも作戦に集中する事が大事だな。)
森上は、自らの精神を集中させるのに戻った。
「皆さん、δ部隊が目標の手前500まで迫りました。ここからがΩ部隊の本領発揮です。気をぬかずに行きましょう。」
斉藤は、そういうと敵の拠点手前150に留まり囮部隊の戦闘開始まで待機していた。
そして2分後この張り詰めた空気のなか一つの通信が入った。
「δ部隊は、現在戦闘を開始しました。Ω部隊は、直ちに奇襲を開始してください。」
作戦の是非を決める戦いが今始まった。
「これからは、敵の対処は小隊ごとになります。坂下さん、前沢さんよろしくお願いします。」
斉藤は、そういうと坂下と前沢の顔を見た。
「大丈夫だ。」「大丈夫よ。」
「では、作戦開始。」
斉藤の掛け声とともにΩー3(γー2)が先頭にその両斜め後ろの左側にΩー2(βー2)、右側にΩー1(αー2)という布陣を取った。
(作戦が成功するのは五分五分と言ったところだろうな・・・)
中村は、今までの状況から考えられる作戦の成功確立をはじき出した。
(もし、仮にこのまま拠点に攻め込めたとしても渚たち隊長、特に源からの報告を聞くだけではこちらより
実質戦力が高い可能性がある。もし、相手が“手加減”しているのであればこっちが勝つのは難しいな・・・)
先ほどの隊長たちの情報と今まで感じていた違和感を総合的に考えると“負ける”可能性が高いかもしれないのだ。
そして拠点の手前70まで迫ったとき事件は起きた・・・
最終更新:2009年03月29日 20:15