第6話
「ちょっと聞いてんの?!」
声に反応し振り向くと少し身を乗り出すようにしてこちらを睨む澄子の顔がそこにあった。
「あぁ、ごめん」
慌てて謝罪の言葉を返す悠希の耳に久我の言葉が飛び込んできた。
「何だ小さいの気にしてるんだ。なら俺が揉んで大きくしてあげようかw」
久我も雫の雰囲気が変わったことには気づいていた。だが、空気は読めていなかった。
自らの色欲に従ったその言葉は雫に引き金を引かせるのに十分であった。
ガシャン!!
食器の鳴らす悲鳴とともにPXの時が止まった。
このときのことを齊藤 綾華はのちにこう語っている。
「雫とのライバル関係はあの瞬間始まった」
久我の言葉を聞いた瞬間、雫は音も無く立ち上がっていた。
澄子に気を取られていた悠希は一瞬反応が遅れ、止めることができなかった。
鮮やかに身を翻した雫の左足は、美しい弧を描き久我の後頭部を打ち抜いた。
久我は顔面からトレーに突っ込んだ。
皿の上の料理は飛び散り、弾けとんだ合成豚角煮が斜め前に座っていた綾華の顔を直撃した。
箸が折れんばかりに手に力を込めしばらく身を震わせたのち
思わぬとばっちりを食って怒り心頭の綾華はテーブルを叩いて立ち上がり雫を睨みつけた。
それに対して頭に血が上った雫は謝ることもせずに逆に睨み返した。
騒ぎを聞きつけた教官がやってくるまで睨みあいは続き、のびている久我を含めた当事者4人には
説教とともに翌日訓練時の腕立て200回追加が言い渡された。
その一方、澄子は被害を被らなかったのをいいことにそそくさと席を離れ難を逃れていた
最終更新:2009年03月29日 19:59