日が昇り始めたところで、休息に入っていた全員が起きる。習慣付けられた起床ラッパの時間に眼を覚ます体は、もはやいくら文句つけようと治ることは無さそうだ。
久我でさえ、自然と起きる時点でそれは確定的と云えよう。
「おはよう」
昨晩遅くに完成した即席燻製機の前に陣取っていた悠希が、極自然に声をかける。
その周りには細かい木片が散乱し、同様に使途不明な物体が転がっている。そして未だ、燻製機からは煙がもくもくと溢れていた。
「おはようございます………って、もしかしてずっと起きて…ま、し…た?」
今日の相方、綾華が朝の挨拶を交わすと同時に、彼の行動、地面に転がる怪しげな物体と木片に、半ば確信を持ちながらそう問う。
そんな問いに、悠希の代わりに見張りをやっていた都と勝名が呆れ顔で頷いた。
「むしろ夜中に動き回ってましたね…」
「気付けば兎捌いてたな…」
「私が見た時はずっと燻製作業をやってたのに…」
アレコレ云われながらも、悠希は黙々と作業を続けている。
燃え出さないよう、じっとチロチロとゆっくり燃える木片を見ながら。
「それより綾華、顔洗って来いよ。動くまで時間はあるんだし」
「………そうですね」
何か云う気にもなれない。普段の寡黙とした態度よりも今の姿の、というよりその背中がいかにもこの現状を楽しんでると自己主張してるようにしか見えなかったから。
それは都と勝名も同じで、以下同情………というか気持ちを共有し合った。これ以上ないほど、しっかりと。
「”あぁ、水はそこにあるから好きに使えよ。ろ過ストローを通して持ってきたから飲用にも使える”………だそうです」
都がそう云って指差すところにはトラップの一部を解体して作ったバケツもどきが。その中には確かに水が張ってあった。ふと気になって自分の水筒を持つと、作業中結局補給できなかった水がしっかり詰まっていた。
(………至れり尽くせり、ですね)
ありがたいのだが、知らぬ間に成されているこの手際の良さ。なんとも微妙な顔にならざる得ない。それを察してくれた都と勝名が「うんうん」と頷いてくれる。
「しかし、未だ1日目だというのにここまでトラップというトラップを破壊してるとなると、別の意味で落とされそうですね…」
トラップと言えどタダではない。
装置自体もさることながら、それの設置するための人件費もかかっている。
この島のありとあらゆるトラップを破壊するとなれば、使いまわすことも視野にいれると結構な被害額になるハズ。
それに総合戦技演習であることを加味すると、下手すればトラップの全破壊だけで不合格を突きつけられることも有り得る。
かも知れない。多分。曖昧。
「おはよ~みんな、目は覚めてる?」
顔を洗ってきたのか、前髪を少し濡らした雫が木々の間から現れた。挨拶を返し、皆が起きてるのを確認する。
「水も滴るいい女、清らかな水滴を纏わせた雫分隊長も絵になって良いですなぁ」
朝からよく口が回るなと、全員が内心ツッコミを入れる。しかし悠希はそれを無視して黙々と作業。
その後姿は、どうみても職人かその道の人間が見せる渋い空間でしかなった。
もっとも、雫はそんなことは気にせず話を次に進める。
「久我ぁ、今日は楽しい楽しいお喋りが待ってるから、楽しみにしててね」
極めて良い笑顔でそう語りかける雫に、無駄にテンションを上げる
久我 応馬。
その笑顔の裏にある物がなんであるか、何も考えずに。
「さてみんな、腹ごしらえが済んだら早速行動開始よ」
手を叩き、みんなの意識を集めながら雫はそう仕切った―――
―――探索隊Aチーム、雫・応馬ペア。
「―――だからね、襲うにしても時と場合、相手の機微を読みなさいって云ってるの。
早く肌を合わせたいって思っても、それを先行し過ぎて肝心な過程をすっ飛ばしてちゃ、女の子も許す気にはならないわよ?」
久我を先行させ、その後ろから辺りを見渡しつつ、雫の口は共に行動を始めてからずっとこの調子で動いていた。
久我のトラップ対処能力は特出するほど高いわけでも、低いと言うわけでもない。それでもあえて先行させ、仕事を与える。そうすれば、この男も悪さはできない、したくてもできない。そんな状況を作り出すことが出来る。とりあえずは。
トラップの解除能力については問題にしていない。遅かろうが早かろうが、解除できれば良いのだ。その結果、探索範囲が狭くなっても問題ない。
久我 応馬と組んだ理由は、探索範囲の拡大よりも、説教が主なのだから。
このチームでの雫の役割は、主にトラップの発見及び周囲の警戒。応馬の役割は、先も説明した通りトラップの解除オンリー。
探索隊とは名ばかりで、後日ゆっくり探索するための下地作りが、雫が内心で定めた今日のノルマだ。
そんな状況がかれこれ2時間。水分を適度に補給しつつ、説教というか説法というか、「かくあるべき」を延々としゃべり続けている。
それもそろそろ一区切り付けて良い頃合いだと思い、まとめに入る。
「女の子はね、気持ちが欲しいの。体なんかよりね。
気持ちがないのに体を重ねたって嬉しいわけがないでしょ」
ある人は「体の相性もある」と云った。が、生憎”そういう経験”がない雫には、その意味は解らない。
それでも、気持ちの問題は間違いなくある………そう思う。
「そういう雫ちゃんは、経験あるのかい?」
不意に真顔で振り返り、顔を近づける。が、近づけた顔から露出した喉元に手刀を突き立てられ、思いっきり咽る。
「あろうがなかろうが、同い年は大方そういう幻想抱いてるものなの」
「ぐえぇ…しゅ、手刀はきついっす…」
喉を抑えうんうん唸るものの、片手はトラップの解除に余念がない。器用なことをするものだと、逆に感心してしまう。
「大体ねぇ、女の子に向かって経験あるのかって面と向かって聞く人がありますかっ。
あってもなくても黙ってるのが紳士の嗜みでしょう?」
「くっ…!紳士を語られると何も云えなくなるぜ…!」
わざとらしい大げさなリアクションをとるものの、「はいはい仕事しなさい」と背を叩き仕事に戻らせる。
「久我の紳士って、どうにも演技かかってて胡散臭いのよね。
変に誇張してるっていうか、大仰というか…
そこを抑えて、さり気なさを演出できるようになればねぇ。
顔は良いんだから、そこでマイナスになってるのが勿体無いわ」
「えぇ~と…それは森りんみたいになれば良いってことですかぃ、分隊長?」
「ゆ、悠希は関係ないでしょ!なんで悠希が出てくるの!?」
(おや…?この反応は…)
妙に露骨にうろたえる雫の反応に、目敏くチェックを入れる。
「そっかそっか~、雫ちゃんは森りんのことが好きなのかぁ。
まぁ、幼馴染だし当然っちゃ当然ですよね~。
お互いの機微を分かり合ってるんだから、むしろこれでくっつくかないのがおかしいですよねぇ~」
「幼馴染だからって、付き合うなんて無いでしょ!ていうか久我っ、何勝手に話を進めてるの!?」
「えぇ~?今時幼馴染と付き合うなんて珍しいことでもないしょ~。
むしろ付き合ってもらいたいですよ俺的に~。でないと面白くないじゃないっすか~」
「私と悠希が付き合うことに、なんで久我が関係してるのよ!?」
その問いに獰猛な肉食獣を思わせる目で、顔で、演技で身振り手振り大仰に答える。
「そりゃ勿のロンですぁ!
良いですかぃ雫分隊長殿?
肉体関係で一番燃えるのは、愛しい人とのアマアマでトロットロな情熱なんかじゃありません。
一番燃えるのは!そう!
愛しい人がいるのに他の男に抱かれる事で生まれる罪悪感と背徳感を感じ、それで自分を責めながら快楽に溺れる不倫・浮気こそが一番―――」
そこまで言いかけて、美しい円を描く踵が久我 応馬の首を思いっきり叩いた。呼吸と頭に回っていた血が一寸止まり、危うく失神しかける。
「何かと思えば浮気の勧めだったって訳ね…ちょっとでもまともな話かと思った自分が愚かだったわ…」
「いや…今のは割と危険ですって雫さん…」
グラグラ揺らぐ視界を止めるように頭を抑えながら立つ。が、安定せずそのまま地面に尻餅をつく。
「そう、じゃぁここで休憩しますか。そこで休んでなさい。見回りは私がするから」
「ぁ~い…」
適当な樹木にまで這いより、それを背もたれ代わりにして一息吐く。水筒を取り出して先に頭にかけ、次に口に含む。若干ぬるいが、逆にこれくらいが喉に優しい。
揺れる視界が落ち着くまでの間、久我を中心に周囲を見渡しつつ、見回る雫のお尻を眺める。不規則に揺れる視界と静かに動くお尻のせいで、イマイチピントが合わないが、BDU越しからでも解る(つもりでいる)その美しいラインに、愚息が沸き立つ。
「しっかし、美人ですよね~、分隊長は」
「私を煽てたって試験後の扱いは変わらないわよ?」
「やだなぁ、本当のことを云ってるだけじゃないっすか」
これだけは本当に本当だ。どれだけ本当かは、愚息若干かぶってる皮を賭けても良い。嘘だったら麻酔無しで切除しても良い所存です。
そいえば森りんはムけてたっけ。中岡と無言で”男”を競っていたどうでもいい事を思い出す。
「そーいや分隊長って、森りんとはどうやって知り合ったの?」
「えぇ?悠希に興味に持つなんて珍しいわね」
「話題ですよ話題っ。折角分隊長と二人っきりになれたんですから、普段聞けないこととか聞いときたいなぁって」
「それで悠希の話って…ねぇ?男には一切興味を見せなかった人が…」
「いえまぁ、意外とそこに分隊長を攻略する鍵があるんじゃないかってのが目的ですよ?」
「………久我って、たまに黙ってた方が自分に有利な事も喋る時があるわよね」
「え?………あぁぁあぁぁ!?本当だ!何してんだ俺~!」
どうやら頭の中も耄碌してたらしい。悔しさのあまり背もたれ代わりに使っていた樹木に額を叩きつける。
「それはそれとして、まぁ…別に隠すほどでもない…というか、そんなに難しい話じゃないわよ?」
「源って事は源平合戦。源平合戦といえば源の九郎。九郎と言えば剣士衆!ですよね?」
「………どうして久我が剣士衆の事知ってるのか、私はそっちの方が知りたいわ」
思わぬ場所から思わぬ単語が出てきて、珍しく顔が崩れる。
今のところ、少なくとも悠希が剣士衆だと名乗ったことは無い。そういうことを口にするのは、極力避けてきたから。
また、学校で習う歴史ではほとんど、というよりまず確実に出てこない単語でもある。
となれば、この男の独学によるもののはず。
だが、この男の場合そんな教養があるハズが………
「え?まぁ、源氏物語読んでて、その続きと勘違いして平家物語に手を出した時に…ですね~」
酷い肩透かしである。思わず膝から力が抜ける。
すぐさま立ち直り、頭を軽く抑え呆れた口調で、
「どういう流れでそうなるのか、私にはまったく解らないわ…
まぁ、良いけど。筆記試験の成績は伊達じゃないってことが解っただけでも良しとしましょう」
「それでそれでっ?雫ちゃんと森りんとの馴れ初めってどんな感じ!?」
「別に…家が近所で同い年だし、そもそも家同士交流があったからね。
気付けば一緒に遊んでたわ。その頃は悠希も今みたいに口数が少ないわけじゃなかったんだけど」
「何かあったんで?」
「まぁね。剣士衆を知ってるなら解ると思うけど…」
「あぁ~、その前に剣士衆について教えてもらえません?」
「………は、い?」
「知的好奇心って奴ですよ。物のを読んでも『どんな集団だったか』なんて書いてませんでしたからねぇ。
女体の神秘を解き明かしたいのと同じ理由ですよ!」
「その例えはやめなさいっ。
はぁ、まぁいいわ………剣士衆って言うのはね」
剣士衆とは、源の九郎が率いた強い心の結束を持った集団の事である。
当時の武士は、その多くは君主から謝礼を受け取ることで、一定の忠義を確立していた。今で言う雇用関係である。
金の切れ目が縁の切れ目。源平合戦では血の繋がりでこそ纏まって戦っていたが、基本的な部分は何も変わってなかったと云われている。
それに対し、九郎と剣士衆との間には、そういった金銭のやり取りは基本的に存在していなかった。報酬が目当てでなく、その集団全てが九郎という存在、君主を慕い敬う。その関係から、当時は特異な存在として知られていた。
また、広く知られている平家物語を始めとする源平合戦にまつわる書物には、四天王と呼ばれている者達が居る。彼らもまた、その剣士衆に組み込まれていた。
一般的には、活躍したのが
その4人であることから彼らに敬意を評して四天王と呼ばれ、書物関連でそれを大きく取り扱っていた。
そのため、その4人を含む集団…剣士衆の事は影を潜め、次第に多くの写本から「剣士衆」という単語が消え、歴史の中からその姿を消していった。
彼らの存在目的は一つ。「九郎の手となり足となり、眼となり耳となり仕え護ること」。
九郎が起こした奇跡や軍略の多くは、彼らによる地道な情報収集が下地にある。必要であれば平家側に組し、内側から混乱させしめた事もあったという。
そんな彼らでも、源平合戦後期に入ってから、本来いた人数も半数以下にまで減った。合戦後、時の朝廷と鎌倉との間で翻弄された時期には、500は居たとされる数も100以下にまで失われていた。
そして九郎とその愛妾が身重になったため、足手まといにならぬため歴史上永遠の別れを告げる時、その数も半数に割けられ半数はそのまま九郎に。しかし愛妾を守るために裂かれた半数は、護衛中に全滅。愛妾は鎌倉に囚われる事となる。
それを知った九郎は、自らを守護する半数をさらに半分に分け、愛妾を救出する決死隊となり数をより削ることになる。
最終的に、九郎について行った者はその主共々全滅、愛妾を救うために割かれた側は、2桁に届かぬ数が生き残り、辛うじて救った赤子と愛妾と共に奥州に下った………
その生き残りの内の一人が森上家、その時期当主、悠希の先祖なのである。
「そんな関係で、急に口数が減った時期があったから、多分その時に親に言われたのだとは思うの。
『源を護れ』とか、そういうニュアンスの言葉を」
「ふむふむ。森りんの家も大変だけど、雫ちゃんも大変なんだねぇ」
「まぁ、源云々は今更事実が違うと叫ぶ事でもないから、信じてもらわなくて良いわよ」
そも、庶民が苗字を名乗れるようになった時期から「我こそは○○の子孫」と名乗るが増えたと聞く。自分の家もその多分に漏れない嘘の家系であるとも、言い切れないわけではないのだ。
そんな中で「自分こそが正しい」と云えるわけがない。典型的な腰の低い日本人なら、尚のこと。
「いやいやいやっ!中々に面白い話でしたよ!
なるほどなるほど、物の本じゃ必ず殺されてた赤子が、実は生きてました…かぁ。
歴史なんてのは勝者の都合で書き換えれますからね。生きてちゃ困る人が、公的には死んだって事にしたかったのかな?」
「遥か昔の話だから、今考えたって仕様が無いわよ…」
「あれ?でもそうなると、雫ちゃんと森りんって禁じられた愛ってことに?」
「―――な、んですってっ!?」
「あれ、本人気付いてなかった?」
たまにこうやって鋭い事を言う。この男は、ほとほと使いにくい…
そう思わざる得ない。
だがその言葉は、その意味は、雫の心を激しく揺さぶる。
考えなかったわけではない。考えないようにしていたのだ。
都合の悪い話だから。聞きたくない事だから。意識の外へ追い出していた。
森上家は代々、徹底した守護の一族として源を護っていた。次々に「先祖までの話だから」とその任をやめていく中で、1000年の時を護り抜いてきた。
その一族の長となる悠希と、護られるべき一族の雫では結ばれてはいけない。
家を護るということは、その血筋を護るということ。そこに守護の一族の血を混ぜるのは、許されない。
少なくとも、そうでなければならない。1000年の守護を司った一族なら。
”それも”護らないといけないことの一つなはずなのだから。
「だって、あれっしょ?
森りんは立場上、雫ちゃんを護らないといけない。で、雫ちゃんは護られる立場にいないといけない。
てことはぁ…俺にもチャンスはあるって事ですよね!」
「いえ、ないから」
「でもさっき驚いたよね?
あれってつまり、雫ちゃんってやっぱり森りんのこと―――「それ以上喋ったら顎外すわよ?」ごめんなさいでしたー!」
即座に地面を割る勢いで土下座。が、顔半分だけ向け、
「ところで今誰が好きかって云ってる自覚あります?」
「ぐ…くっ…っ!」
―――ハメられた!
これ以上ないくらい、しっかりと。
相手を騙すためなら自分を犠牲にしてでもやる………そんな気持ちがあるかは解らないが、雫はガッチリとその策に嵌められた。
悔しい…!久我にハメられたのが悔しいのではない。簡単にハマる低脳な自分が悔しい!
沸き立つ怒りを腹の奥底押し込むが、自分でも解るほど顔の筋肉が引きつっている。
「まぁまぁ、騙したお詫びに森りんと仲良くなる必勝法お教えしますから~」
低姿勢でにじり寄り、ごまを擂り、愛想笑みになってない愛想笑みを浮かべる。
「何故そうなるの!?ていうか近いわよ!?」
「禁断の愛…燃えますよねぇ。誰にも許されないからこそ、それ故に愛の炎に身を焦したい…ボクも憧れます。むしろ灰になるくらい禁断の愛に燃やされたい…」
「人の話を聞きなさい!」
「常々思うんですけど、雫ちゃんって身構えてる部分あるじゃない?何をするにしてもさ。
都ちゃんもちょっと他人行儀なトコロもあるけど、あれは人見知りの分類だと思うわけっすよ。
でも雫ちゃんの場合、明確な目的がある分、逆にそれを周りに押し付けてる節があるのよ。それが訓練部隊全体を引き締めてるのは解りますよ?
でも問題なのは、それを維持するために余計身構えて、壁を作ってるんじゃないかなと、ボカァ思いますね」
「久我………?」
「セルフフィールドって言うんですかね?心の壁というか、そういうのが雫ちゃんには見受けられます。
勿論、これは他のみんなにもありますよ?問題なのは、その壁が色々装飾された上に分厚く塗り固められてるってことで。
それが悪いとは云いませんがね、やっぱ隊員の気持ちを汲み取りたいならもうちょっと薄くても良いんじゃないかなぁと」
「………それと悠希と仲良くなるための必勝法とか云うのと、どう関係あるのよ…?」
「要するに、”素直になれ”ってことです」
核心めいたように、真顔でポーズを決めながら言い放つ。妙に様になってるがなんとなく腹が立つ。
しかし雫には、それを意識する余裕は、なかった。
そのまま雰囲気に飲まれそうになるのを必死に耐え、
「あのねぇ…剣士衆の話を理解してるならそんなことできるわけ…」
「いえいえ、完全に綺麗スッパリ素直になれって言ってるんじゃないです。
もうちょっと、今より少しだけ、森りんに歩み寄ろうと思えば良いんですよ。
ほら、森りんって結構ストイックっていうか、ある意味雫ちゃんより強烈なセルフフィールド展開してるからさぁ。
そうすれば、きっと森りんも心を開いてくれる!きっとそうっす!」
「何をどういう根拠でそんなことを言い出してるのかしら、この子は………」
「まぁまぁ、騙されたと思って一度やってみてくださいよぉ。
駄目だった時は、その時考えればいいんですからぁ」
「作戦を立案するなら、一本道に絞るんじゃなくてもうちょっと幅を広げなさい。
それじゃ詰まった時どうしようもないでしょう?」
「と、云うと?」
「………………ほ…他には?他になにか…な、ないの?」
普段の背筋が伸びるような態度ではない。歳相応の恋に恋する乙女の姿がそこにあった。そんな姿の雫がそこには存在した。
その恥じりながらも健気にも聞いてくる姿に、久我のテンションは無駄に余計に留まることなく跳ね上がる。
「YES BOSS!自分が持つあらゆる手段をお教えいたしますよぉぉぉぉぉ!」
説教タイムのはずが、気付けば助言タイムに切り替わっていた。
何をどう間違えたのか………久我の押しが存外強かったのか、それとも雫の調子が悪かったのか。
しかしその事に雫は気付いていなかった。
否、気付けるはずもなかった………