An unhappy story to reach happily~Two first treasures~旧題 Another story ~もう一つの物語~

An unhappy story to reach happily ~Two first treasures~

今回から、多少作品に関しての紹介をいたします。
今回は、既存の話を新たに構成し組み直した話です。なので掲示板の方には上げないかもしれません。少しずつ温めて来た物を繋ぎ合わせた作品となります。(なので実質、製作期間は2~3ヶ月で製作時間は6時間ほどです)
中村朋也と中原渚の純愛を描くに辺り、今回意識したことは“綺麗すぎる綺麗ごと”というわけで、オルタ世界にもあって欲しいと願う作者の願望を文字化したものです。
暗い話しが蔓延する世界にも小さな幸せを信じて戦った人というものが伝われば幸いです。私は、作品を書く当たって例外なく作品にあったBGMを探して書くのですが今回は、今まで合うBGMが見つからず悩んでいた時に某作品のBGMを発見し即書き上げました。アージュ関連のBGMではないので名前は伏せておきます。恐らく、掲示板にて趣味嗜好を知っている方や、今回の作品の副題を見ると分かるかもしれません。
では、拙作をお楽しみいただければ幸いです。
(文責:SaberRYO



天井には蛍光灯が並び外には、深々と光を反射し光る雪が降っていた。
とある病院の一室は、比較的暖かい。周りを見ると石油ストーブが焚かれその上には、タライが置かれ満たされている水からは、湯気が出ていた。周囲には、人はいない。個室なのだろうか? 頭は未だ覚醒には、程遠く自分の夢を第三者として見ているようなそんな気分だ。どう頑張っても自分では、抗えない夢を見ているような……。


 その夢は、とても苦しくて…… とても悲しくて…… とても泣きたくて……
自分の無力さを知って…… 自分の弱さを知って…… 自分の情けなさを知って……
護ってあげたいのに君のためになんだってしてやりたいのに何も出来なくて。
こんな、汚い世界なんてもう嫌だ。全てに絶望した……


―――俺が何をしたっていうんだ? 


―――なぜ、俺はこんな世界でこんな目に合わなくちゃだめなんだ?


―――俺は、ただ……ただ、一握りの小さな幸せを噛みしめたかったんだ……


―――俺の大切なものをぜんぶ奪って、俺の一番大切な者も惨たらしく奪っていった……


―――怖い……怖い、怖い、怖い。もう嫌だ、もう嫌だ、嫌だ……。


                助けてくれ


「俺……何でここに居るんだ?」

何も思い出せない……考えるだけで頭の奥がズキンと鈍い痛みを訴えてくる。
俺の周りには、俺の目覚めと同時に忙しなく動き回っている人がいる。白衣を着た白髪混じりの男性の背筋は伸び、切れ長の目から覗く眼光は鋭いがその奥には優しい光を宿している。その傍らには、同じく白衣を着たボブカットの栗毛にピンク色の髪留めをした優しそうな女性がいる。


ようやく、意識が戻ったのか。奇跡としか言いようがないな。


そんなことを白髪の男性が漏らしている。


「中村少尉。2~3質問をするけどいいかな?」


聞こえてくる声は、夢の中で話しかけられてるように靄が掛かり理解が出来ているようで理解が出来ていないような感覚に襲われる。


「は…い……」


「そうか、なら質問だ? 今が西暦何年、何月、何日かわかるかい?」


鈍い痛みを歌える頭に無理やり記憶を探させる。しかし、その努力も虚しく記憶の変わりに痛みを返してくる。


「すい……ません」


そう答えると白髪の男性は、傍らの白い服に身を包んだ栗毛の女性に何か耳打ちをした。


「次の質問だが、中村少尉の所属している部隊は、わかるかね?」


ブタイ? それって軍人が所属している組織のことだよ……な?


「……ブタイには、所属していないと思います」


俺は、片手を頭に当てた。なにかとても大切な事を忘れている気がする……。
思い出そうとすると霞を掴むように何処かに消えてしまう。


「大丈夫だ、中村少尉。そこまで無理して思い出さなくてもいい」


白髪の男は、そう言うとまた傍らの栗毛の女性に耳打ちをした。


ダメだ、もう頭が何かを思いだそうとするたびにそうはさせないと言わんばかりに頭痛がする。
そう、まるで“とても辛い何かを本能的に思いださせない”かのようだ。


「さて、中村少尉、最後の質問だ。君は、何故ここに居るのかわかるかね?」


そうだ……なんで俺は、こんなところに居るんだろうか?
そもそも、俺は誰なんだ? さっきから“中村少尉”とか男は、言っている。
俺は、中村朋也だ。少尉ではない……だろう。


「すいません、わかりません……」


「そうか、お疲れ様。中村少尉は、休んでくれて結構だよ。」


白髪の男性は、そう言うと栗毛の女性を連れて外に出て行った。
すると、入れ替わりに男女が入ってきた。見た限り自分と同じくらいの年齢だろうか。


「中村、大丈夫か?」


男は、話しかけてきた。誰だ?俺の知り合いなのか?


「中村、もう大丈夫みたいね?」


女は、目を少し潤ませている。この人も俺の知り合いか?


「「すんません、あんた達は誰すか?」」


初対面のはず? なのだろうがつい敬語ではなく友人と話すかのような口調になってしまう。


「お、おい。何言ってんだよ? 冗談なら笑えねえ……」


男は、そう言うと俺の胸倉を掴んだ。何だよ、こいつ喧嘩売ってんのか?


「やめなさい!」


女は、そう言うと男を俺から引き離す。


「くそっ!本当に何も覚えてねえのか!?」


男は、そう言うと握った拳を壁に思い切り打ちつけた。その拳には血が滲んでいる。


「じゃあ……“中原 渚”は、覚えているかしら?」



……中原 渚? 



な、ぎさ? ナギサ……渚??



「「っ! や…め……ろ!! やめろ、やめろ、やめろ、やめてくれぇ!!」」



一瞬にして部屋中が叫びに支配される。心の底から恐怖して、何かを絶対に思いださないように腹の奥から叫び声が出る。


「どうかしたのかね!?」


先ほど扉の外へ出て行った白髪の男性が血相を変えて扉を思い切り開けて部屋に入ってくる。


「君たちは、外へ出てろっ!」


「お前、本当に何もかも忘れたのかよ!!」


男は、一緒に入ってきた女と栗毛の女性に脇を掴まれ外へと出ていく。


男と女が出ていくとまた栗毛の女性が部屋の中へ入ってくると白髪の男性から様々な言葉を投げかけられそのたびに何かの薬品を調合している。その間も、ベッドに横たわる俺は……


「ひぃ、やめてくれ! これ、以上俺から奪うなぁーーー!!」


ついに発狂は声だけでなく周囲への物への破壊衝動へと移ろうとするが、


「1030号室の患者さんが暴れています! だれか来てください!!」


栗毛の女性がベッドの横にあるケーブルから延びたボタンを押しながら隣で叫ぶ男の声に負けないように叫ぶ。その間も男は暴れるが白髪の男性が予めベッドごと男をベルトで絞めつけていたためどうにか持ちこたえているが白髪の男性の経験上、発狂してここまでの力を発する患者は初めてだった。完全な予想外な出来ごとであるがそれでも患者を落ち着かせようと様々な声を掛けている。これでは、用意した薬品を摂取させることが出来ない。


「なんで俺がこんな目に合うんだよ!! 俺が何したってんだよ!! お前ら全員殺してやる!! コロシテヤル、コロシテヤル!!」


男を押さえつけるための人手が来たのがその1分後。男は、なおも意味不明な言葉を発しながら時には暴力的なことを時には悲しみや恐怖を連ねる言葉など。そして、最後には意味不明な単語の羅列を唱えていた……。


その男が目覚めたのは翌日の夕方だった。


「もしかして、俺、記憶喪失か? ははっ……笑えるな。」


頭が昨日より覚醒すると自らが記憶喪失であるという可能性にようやくたどり着いた。
感じる感情は、既になにもない。
空っぽな状態。
何も考えることが出来ない。
考えるだけ頭が痛くなる。

そして、そんなな中でもさっき女が言っていた、“中原 渚”という単語に何か大きなものを感じる。
でも、何故だろう。その名前を聞くと心地よい気持ちになるが心に穴が空いたような気持ちになる。


「俺、どうなるんだろうな……このまま消えちまうのも悪くないよ…な……? もう、俺生きてたくねえよ。もう……こんな辛い人生なんてもう嫌だ……」


そんなことを考えながら外を見ると既に外は、暗くなっていた。
そして、雪は未だに降り続けている。その雪は昨日のような輝きを失っていた……。


徐々に眠気が襲ってくる。俺は、少しずつ沈みゆく意識の中ある言葉を無意識に呟いていた……


                    渚 


―――2003年4月  甲20号作戦発令


「ARMS部隊、損耗率80%!! 現在A中隊の5機及びB中隊の3機が臨時小隊を構成中、C中隊は全滅です!!」


絶望的な知らせに戦艦内のとある指令室で歯を食いしばり作戦図の映る画面を思い切りたたく中年の男がいる。


(くそっ! いくら精鋭部隊でもあんな状況での出撃は無理だった……ちくしょう! 俺の詰めが甘かったからだっ!!)


「指令!! ケンタッキーより入電です!!」


「大場准将、こちらマーズ少将だ。現在、我が国のある基地が何者かの手により一時的
に“指令室と周辺施設のみ”占拠された。その際に、処分の済んでいないG弾が発射されてしまった。直ぐに当該地域の貴官の部隊を撤退させろ!」


「っ!! ば、馬鹿な! そんなことがあり得るわけが!?」


「厳然たる事実だ。早くしないとAL4の遺産を失うことになるぞ?」


「くっ!! ARMS部隊の全機に通達!! 即刻、戦闘地域からの撤退及び日本海に向けて撤退させろ! 戦術機母艦を向かわせて拾わせる!」


「りょ、了解!!」


―――甲20号より東南東に5kmの地点 撤退命令より30分


「くそ、逃げられねえ!」


A中隊の突撃前衛長の森上悠希が自分たちの進行方向に存在するBETAの壁に穴をあけながら叫ぶ。さっきからBETAの数が止まらない。地上のBETAのほとんどを消し去りハイヴ内への突入も順調にされていたはずだったが……。


「なんだったの!? あのBETA!? 見たことないわよ!」


ARMS部隊部隊長の普段から冷静なはずの源雫までもが叫ぶ。

未確認種のBETA。オリジナルハイブを潰してから3ヶ月後の間引き作戦からちらほらと報告がされていたものだ。今までのBETAと異なり数に任せた突撃戦術ではない。数体~十数体という“戦術機の構成”のように少数精鋭であるという報告で、一律にそれなりの損害を出しているが迎撃は問題なく行われていたはずだった……。

すでに、BETAの絨毯で地表はほとんど空いていない。唯一の救いと言えば光線属種がほとんどいないということだけだ。さっきから、残存している戦術機部隊が集結し退路を確保しているがARMS部隊は、ハイヴに突入していたため撤退に時間がかかっていた。


「きゃぁーーーー!!」


「渚!? どうしたの?」


「さっき、跳躍ユニットを痛めてしまったみたいで……もう、飛べません。なので、主脚走行で追いかけます!」


「無理だろ!? 何言ってんだ中原!」


中原は、そのまま何も言わずにBETAの絨毯へと徐々に高度を下げていく。すでにB中隊は2人しか残っていない。A中隊も残りは2人、もう部隊としての体裁はとっくに成していない。


「渚、俺も行くぞ!!」


中村朋也の声が3人の耳に響く。


「ダメです!! 朋也くんは、来ないでください!」


「渚一人で、ここから助かるわけねえだろ!?」


「決めつけないでくださいっ!! 行けますっ!!」


「っ! バカヤロー!! 俺との約束忘れたのかよっ!?」


約束……そう、あれは私たちがまだ、衛士になる前の総合技術評価演習の夜に交わした約束。


「俺は、渚の事を一番愛しているしどんな世界でもお前の隣にいるって約束する。渚と出会えたのは十数億分の一のなんだぜ? 奇跡だよな……渚が、どんな状態だって、どんなことになっても俺は、お前と一緒にいるからさ……良かったらさ……」



世界が変わっても容姿が変わってもお互いがどんな状態でも俺と一緒にいてくれ渚


                  結婚してくれ

             私なんかでよければ、お願い…します……



「忘れたわけないですよっ! あーもう、はっきり言います!!」


「っ!!」


「邪魔なんです!! もう、と、とも……朋也なんかいなくていい! 重いんだよっ、私には重すぎますっ!! もう、構わないで!! もう、これ以上やめてよぉ……」


「な、渚。そこまで言わなくてもっ!」


いつもの温厚で誰にも優しく丁寧な言葉遣いの渚がここまで……。


「……皆さん、またお会いできたら一緒に……一緒に……」


既に中原機の高度は800メートルを切っている。すでに足元には無数のBETAが群がろうとしている。周囲の死骸を踏みつけ、踏みつけるたびに赤黒い血が吹上げ得体のしれない何かが死骸から飛び出る。まさに地獄絵図といった様相……。


「雫っ! もう、時間がない! せめてこの“サンプル”だけでも届けねえと死んでいったやつらに顔向け出来ないぞ!?」


森上の背には、緊急時に少しでも目標を持ち帰られるように用意してあったタンクが背負われている。そのために戦闘は、極力回避しているがその機動にも鈍さが生じている。


「くっ……! 中村、辛いでしょうけど行くわよ……」


A中隊の2機は、飛び去っていく。それが本来の軍人のあるべき姿。決して、仲間を見捨てるのが辛いわけではない。2人には、やるべきことがあるのだ……。じゃあ、俺は?


そんなの決まってんだろ……


辺りに何かかが爆発したかのような音が響き直後に中村機の跳躍ユニットが落下していく。落下の衝撃と突撃砲の射撃で跳躍ユニットが爆発したのだ。その爆発で地上のBETAの絨毯に穴が開く。


「すまん、源、森上、後は2人で頑張ってくれ! 跳躍ユニットが壊れちまった。これから、渚とどうにか脱出してみるわ」


「中村……お前……。わかった、行くぞ雫!」


「くっ、これだから“バカップル”は、困るわよ……」


「じゃあ、な。いつか、お前らと何処かで会えたらそんときは、また俺らとつるんでくれるよな?」


「ああ、お前らは俺の友人だからな……」


「絶対に帰って来てね……」


「わかってるよ。またな!!」


中村機は、空中で予め中原機のいる座標へと降下出来るように落下地点の調整を行っていた。


「よう、渚。待たせて悪かったな!」


「と、朋也くん!? なにやってるんですか!? “自分で跳躍ユニットを破壊”するなんて、おかしいです!?」


「うん、おかしくていいよ。お前の最期の表情が泣顔なら死んだ方がマシだ……」


中原渚は、中村朋也へ向けた暴言の最中にずっと涙を流していた。涙で目を赤くはらしそれでも涙で声が裏返らないようにと下唇を噛みながら必死で声を紡いでいた。その下唇からは、一筋の血が流れている。


「うぅ、な、なんで、なんでなんだよぉ……ひっく、朋也くんにはずっと、ずっと生きててほしいのにぃ……」


中原渚の目からは既に涙が止めどなくあふれ出ている。もう、涙で顔がグシャグシャで、鼻水もたれている。お世辞にも可愛いとは言えないような状態であっても中村朋也は真剣な顔でその言葉に耳を傾ける。既に戦術機の高度は500mを切っていた。


「俺は、渚に生きててほしい。渚がいない世界なんて俺には何の価値もない世界で、それでもお袋との約束でこの世界を救うって約束した。俺には、二つの約束をどっちも果たさなきゃならないんだ。ここで、渚を置いていくってことは、俺の半分を捨てていくことになるんだ。そんなのもう、俺じゃないよな……」


「そんな、綺麗ごとばっかり云わないでくださいっ!! 朋也くんも見てましたよね!? 中岡さんも坂上さんも葵ちゃんも優奈さんも、みんなみんな死んじゃったんですよ!? みんな最期の最期まで頑張ってました……でも、それでも死んじゃうんです! みんなの助けて、助けて、痛い、痛い、怖い、怖いっていう声がずっと聞こえてるんですよ!?それで、私たちが助けに行った時にはもう、人としての姿を失ってたり惨たらしく引きちぎられたり食べられたり……そんな風に朋也くんになって貰いたくないんですよぉ……これ以上失いたくないんですっ……」


そう、B中隊を預かる中原渚には隊員の最期の声を嫌というほど聞き、昨日までは一緒に笑って泣いて、泥だらけになっても頑張ってお互いを励ましあってた人たちが自分に助けを求めながら死んでいく。あるときは、戦術機が使い物にならなくなってベイルアウトした瞬間に兵士級や闘士級、戦車級に取り囲まれ強化外骨格の上から腕を食われ肩から血を噴き出し泣き叫ぼうとも助からないと悟った人は叫びながらBETAの海へと飛び込み死んでいく。死体だけでもと思って確認しようとも、身体の一部しかなかったり最悪の場合は何も残っていなかった。そんな今までに聞いたことないような心からの叫び……渚の心は既に折れかかっていた。


「ああ、俺だって辛い……もう、逃げだしたくてしょうがねえし、だから綺麗ごと言って少しでもそういうことを考えないようにってな。でも、あいつらの最期は、すげえかっこよくて頑張ってて……そういう風に俺らは語り継がなきゃならないんだろ? 俺だって綺麗ごと言ってるってのは分かってる。でもさ、綺麗ごとだって捨てたもんじゃないだろ? どいつもこいつも沈んだ顔してさ、死人みたいなやつがほとんどじゃねえか。なんで、俺はこんな世界に生まれたのか、なんで辛い思いをしなくちゃいけないのかとかさ……。だけどさ、そうやって色んなことから逃げて何かが良くなったりするのか?ってさ俺は考えてんだよ。だったらさ、少しでも綺麗な、少しでも幸せな、少しでも大切な一番の宝物のことを考えながら生きていった方がいいんじゃないのかってな。そうすれば、この世界も捨てたもんじゃねえよな……」


「っ! でも、でも、私たち死んじゃうんですよ!? 朋也くんの夢だって叶わないじゃないですか!」


もう、いくら2人がトップレベルの衛士だったとしても助からないことは明白だ。これも最期の2人のやり取りになる。それでも生への執着を捨ててはいない。


「ああ、そうだな。でもさ、俺も最期には綺麗ごとだけじゃなくてさもっと昔の恋愛小説みたいに“綺麗すぎる綺麗ごと”を言ってみるよ渚……」


「……」


このやり取りの間も戦術機は、降下を続けている。もう、2人が地上につくまで長くて四十数秒ぐらいだろうか。中原渚からの言葉はない。


渚と出会えた数十億分の一は奇跡だよな。俺は、渚みたいに優しくて可愛くて時には天然で、だけどとても愛おしくて護ってやりたいって初めて思ったのが渚で渚が怪我したときだって看病してたとき実は、渚が寝てる間に内緒でおでこにキスしたりしちまったけど……。そうやって渚と過ごしていると愛おしさが渚を護りたいって気持ちがドンドン強くなってさ、そんで今度は渚と結婚したいなって想い始めて……総演の夜、お前に結婚してくれって言った時は、すげえドキドキして脚ががくがく震えて俺みたいなやつが何言ってんだとか思われてないかとか色々考えちまったんだよな。そんでお前に私でもよかったらと言ってくれた時は滅茶苦茶嬉しかったんだぜ? でも、こういう最期になっちまってもう一度、もう一度があるならもっと努力してもっと死ぬ気になって渚を守れるような仲間を守れるような力が欲しいってな。ははっ、何言ってんだろうな、もう一度なんてないよな……。

それが無理なら、生まれ変わってBETAのいない平和な世界に生まれることが出来たら……。渚の容姿が変わってても渚がどんな状態でも渚がどんな辛い目にあってても俺が探し出して渚を護ってやるからさ……。俺とずっとずっと一緒にいてくれよ? いい……か?

言葉を紡ぎ終えた中村朋也の表情は、とても真剣でとても優しくてとても頼もしい顔をしていた。


「ひっく……朋也くんは、本当におバカさんですよ……私だって、私だって……」


大好きに決まってるじゃないですかっ!!
好きで好きでしょうがいないから死んでほしくないから……私の我がままだって、みんなに顔向けできないってわかってますけど、それでも朋也くんには生きてて欲しかったです……。
もうこの世界にはみんなもいなくてお父さんも死んじゃって、お母さんも事故で……私が壊れそうになったときも朋也くんが支えてくれて、そんな世界に私がいる意味なんてって思いましたけどそれでも朋也くんが生きてるなら最期に頑張ろうって思ったのに……。朋也くんはひどいです。私の覚悟を壊したんですよ……? 責任とってくださいね……。


「だから、朋也くん? 私と結婚してくれますか?」


「当たり前だろ? 結婚してやる。結婚指輪もなくて甲斐性なしだけどさ。いつか、いつかお前に指輪を送ってやる。だから、それまで待っててくれるか?」


「は…い……朋也くんは、嘘は絶対につきませんから信じてますっ」


もう、2人の間に言葉はいらない。2人は、目をつぶりながら自分たちの幸せな姿を想像する。お互いに同じ想像でお互いに“綺麗すぎる綺麗ごと”を思い浮かべながら。


「まあ、こういうシチュエーションで婚約ってのもどうかと思うけどな……。よしっ! 最期に一発BETAどもにかましてやるか!!」


「そうですねっ! でも最期は一緒にですっ!」


「当たり前だ!!」


2機の戦術機がBETAの絨毯に穴をあけると同時に着地をする。高高度からの落下で関節に掛かる負担は計り知れない。それでも2人は、今までの中で最高の連携でBETAを蹴散らす。中村朋也は、1本の折れることのない刀を構え、中原渚は、両手に構える突撃砲から中村朋也を援護する。2機が暴風の如く舞い、そよ風のように華麗な機動を魅せる。傍から見ると、その2機の周囲には何百ものBETAの死体が積まれている。跳躍ユニットがないにも関わらず……まさに、無双であった。何人も寄せ付けず力の限り周囲のBETAを蹴散らす。


「っく、CODE:666 即時退避命令か!もう、少しだけ頑張るぞ渚っ!!」


「はいっ! 死ぬならBETAに食べられるより人類の手で死んだほうがいいですっ!」


「ったく、死の間際だってのに何にも怖くねえ! 負ける気がしねえ!!」


「っ! 突撃砲が切れました! 長刀で行きますね!」


中原機は、長刀を構えると周囲の戦車級を切り裂く。もうすでに、中村機の装備は現在装備している長刀と短刀のみ。長刀の切れ味はもうほとんどない。それでも、今度は突撃砲のない中原機の援護にあたる。G弾が投下されるまであと15分程だろうか? G弾目がけてわずかな光線属種の生き残りがその瞳からレーザーを発しているがどれもG弾の効果により弾き飛ばされている。幾筋もの光が天を突きぬけていく。それは、天へと続く梯子のように見える。人間最期が近くなると死について深く考え、天国と地獄について考えるらしいがその通りかもしれない。少なくともそういうことが考えられる余裕があるだけましなのだろうか?

そんなことを考えている中突如、通信が入る。


「生き残りはいるか!? いたら、返事をしろ!」


「っく! 誰だ!?」


「っ!?」


「貴様ら! 生き残ってたのか!? 今から救助する!」


突如飛来した見たことのな色合いの不知火が自分たちの周囲に着地する。その直後、唐突に救助の方法が伝えられる。2人の戦術機は、既に使い物にならないため破棄、ベイルアウトで救助側の戦術機に乗り込むというものだった。問題点は多々ある。まずは、ベイルアウト直後に強化外骨格を脱がなければならない。そうしなければ戦術機の管制ユニットには乗りこめないのだ。しかし、脱ぐ間は無防備だ、小型種に囲まれたらその瞬間おわり。救助側は小隊規模の4機、1機に乗り込むとして残り3機で周囲のBETAを近づけないようにしなければならない。しかも最悪なことにG弾落下まであと13分30秒、一人の救助しか出来なかった。


「なら、ならこいつを助けてやってください! お願いしますっ!!」


中村朋也は、プライドも誇りも全て捨てて頭を大きく下げる。救助側には青年が大きく頭を下げている様子に何かを感じる。


(……私、こういう男知っているかもしれない)


「分かった! では、貴様は周囲の小型種に気をつけろ! 私たちだけじゃ、抑えきれない!」


「と、朋也くん! 何言ってるんですか!? 一人しか助からないんですよ!? 私なんか良いです! やめてください!」


「では、お願いします。自分は、周囲の小型種の殲滅にあたります」


「朋也くん! 無視しないでくださいっ!!」


中村朋也は、既に小型種を殲滅するべく救助側から借り受けた長刀を装備しようとしている。
その瞬間、一機の戦術機がありえない行動にでる。


「貴様!! 何をやっている!?」


「すいません、管制ユニットが歪んでベイルアウト出来なくなりました……なので、朋也くんを助けてください」


中原渚は、既に軍人としての自覚が欠如していた。彼女は、上官の命令を無視して自らの管制ユニットを手持ちの短刀で傷つけ歪ませたのだ。上官命令の無視などを含めてすでに軍人としてはあるまじき行為を行っていた。戦術機の管制ユニットが歪んでも外部から開けることは可能だが既にそのような時間は残されていなかった。


「っんな! 渚何やってんだよ!?」


「くっ! 仕方ない、貴様、直ぐにベイルアウトしろ! 時間がない!」


「い、嫌です! 渚だけでもどうにかしてやってください!」


「ふざけるな! 上官の命令に逆らうな!」


「そんなの知らねえ!! 俺は、こいつを助けてほしいんだ!! 頼む、俺は死んでいい! 渚が生き残れるなら……なんでもいいからよぉ!」


「隊長! 既にG弾投下まで9分です! 間に合わなくなります!!」


「っ! 仕方ない……貴様、そのままじっとしていろよ。今から、私が貴様の隊長だ」




全ての部隊長には、隊員のバイタルを把握し状況に応じて薬品などを投与することが出来る。その権限を一時的にこの隊長が受け継いだのだ。その権限を与えたのは、他でもない中原渚であった。秘匿回線からその権限を使うようにと中原渚から提案があったのだ。


「な、ぎさ……なんでだ……ょ」


そのまま中村朋也の意識は落ちると同時に中村機の管制ユニットがベイルアウトされる。中村の意識は既に落ちているが上官からの命令のみを聞けるように暗示を掛けたのだ。順調に定められた工程をこなす中村朋也には、無意識に涙があふれていた。完全に、人としての自由を奪うその暗示は、ほとんど使用されたことのないもので人間的な部分を失わせる可能性があるといわれていた。その間にも中原渚は、周囲の小型種を丁寧に潰していく。


「搭乗完了しました! 既に6分を切っています! すぐに海岸線に避難しないと巻き込まれます!」


「よし、離脱しろ! 貴様は、どうする? 最期は私が介錯してやろうか?」


「いえ、大丈夫です……その代わりに一ついいでしょうか?」


「上官命令を無視するような奴だがお前みたいなやつは私は好きだからな。いいだろう、言ってみろ」


「その、朋也くんにこう伝えておいてください……」


私たちがまた出会える確率は、十数億分の一かそれ以上かもしれませんが絶対にまた、一緒になってくださいって。お願いします……。


「了解した……。全機全速力で退避しろ!!」


「ありがとうございました……」



その後中原機は、救助側の戦術機の置いて行った武装を駆使しながら戦った。しかし、既に満身創痍の機体であるため直ぐに戦車級が飛びついてくる。歪んだ管制ユニットを容赦なく噛み砕く音が聞こえる。それでも中原渚は一人で戦い続ける。大好きな人の名を叫びながら。



「朋也くん、朋也くん! 朋也くん!! 好きで、大好きで!!! 今度はずっと一緒に!!」



ついに戦車級が中原機の管制ユニットを突き破ると中原渚の両足に噛みつく。



「ひっ! い、痛っ!!! くないですっ!! うわあああああああああああ!! 朋也くん!!!!」



中原渚の右足は大腿部から下が無くなり、左足は膝から下が無い。傷口からは、白い欠片が見え、血が噴き出している。口からは、血の塊が咳きとともに噴出されている。



「お前らなんなかに!! 私の幸せ奪われてたまるかぁーーーー!!!」



それが彼女の断末魔になった。その様子を救助を行った隊長は見ていた。管制ユニットを喰い破られてからは、中の様子はわからなかったが音声だけは届いていた。その隊長の頬には一筋の光が流れその様子を中村朋也は目に光を宿すことなく淡々と見聞きしていた。





―――甲20号作戦は、明星作戦と同じ運命をたどることになった。


―――幾つもの命が失われ消えていった。


―――大切なものを護れず死んでいったものもいた。


―――ある者は、言った。


―――若者に愛することも許されない世界なのか? と……。


―――甲20号作戦を生き残ったある男の話が語り継がれている。


その男は、作戦からの帰還後、精神的なショックで1カ月寝込み、目を覚ますと同時に軍人として生きていた頃の記憶を全て失っていた。ともに戦った戦友の存在すらも忘れ最も大事な存在すらも記憶の彼方に消え去っていた。
そんな彼も1週間後には“軍人としての記憶のみ”思いだすと人が変わったように感情を表に出さず出された命令をこなすだけの機械と化していた。人間としての感情を失ったわけではなく、いつも彼の部屋からはすすり泣く声が聞こえる。何のために誰のために泣いてるかは彼自身理解していなかった。ただ、泣きたい、自分の無力さもなにもかもに絶望して泣いていた。それでも、部隊では突撃前衛として、活躍するにつれて徐々に人間らしい感情を取り戻す。しかし、決して彼の顔から笑顔や嬉しさといった感情があらわれたことはない。彼は、既に遠い彼方のなくしたはずの記憶をこう語る……。


俺には、何か大切な一番の宝物があったはずなんだ。でもそれが、何だったのかだれだったのかも思い出せない。思い出そうとすると頭が割れそうなほど痛くなる。その何かとした約束も何だったのかわからない。でも、その何かのために俺は何かしてやりたかったのは憶えている。
そして、部隊長から聞いた甲20号作戦に参加していたある人からの伝言として俺が退院して半年後に聞いたことがある。



私たちがまた出会える確率は、十数億分の一かそれ以上かもしれませんが絶対にまた、一緒になってください



この言葉を聞いた瞬間俺は、涙がとめどなく溢れ隊長の胸で泣き続けた。何のために俺は泣いているのか? 俺は誰の事を想い泣いているのか? 俺は何を考えていたのか? 様々な感情が溢れた。夢の中の何かを掴もうとすると離れてしまう。そんな辛い思いにしたくない。もう、俺はこの先、誰も愛することなく生きていくだろう。俺にはそれだけでは足りない。人類のための刃になろう、そうすればこの言葉の意味が分かるかもしれない。破壊するための刃、全てを成しえた時には、何かを思い出していると信じて……。


幸せは、脆く儚い。だからこそ愛おしく噛みしめることができる。

それすらも出来ないのは、人間としての人格を狂わせる。

ただ、幸せになりたいだけなのに……


―――ある夢をみた。


―――とても、楽しくて。とても、嬉しくて。


―――朝は、いつもあいつが起こしてくれて、ご飯を作ってくれる。


―――俺は、それをおいしそうにそいつと一緒に満面の笑顔を浮かべながら食べる。


―――時には、一緒に散歩をしたり木陰で一緒に笑いあったり。


―――夜になるとあいつと一緒にご飯作ったり


―――そんな、とても小さな、それでいてとても幸せな時間であるのだと感じる。


―――こんな世界に俺は、生まれたかった……出来ないならせめてこんな世界に出来るような力が欲しい。



―――2002年百里基地のとある一室


「はぁ…はぁ……」


急に目が覚める。悪い夢でも見ていたのだろうか。汗で体中がびしょ濡れだ。
手元の時計を見ると時刻は、4時28分を指していた。起床時間には、まだ時間がある。


「気持ちわりぃ……シャワーでも浴びてくるか」


下着と服を持ち、準備は、完了した。タオル類は、あっちにあるので大丈夫だ。


「さて、行くかな」


すると……


「朋也くん、起きるの早いですね……」


中原渚は、目を擦りながらベットから這い出た。


「いや、起床時間までまだ時間あるから寝てた方がいいぞ。俺は、シャワー浴びてくるだけだ。妙に嫌な汗かいてたからな。」


「私も、同じです。汗で服がピッタリついてて気持ち悪いです。私も一緒に行きますっ。」


そう言うと下着と服を取り出した。


「それじゃあ、行くか。時間があるといっても何があるか分からないしな。」


「そうですね。」


俺はドアのノブを回し、扉を開けて渚と一緒に外に出た。他にも部屋で寝ているやつらがいるので静かにドアを閉める。


「なあ、渚」


「なんですか? 朋也くん」


「手繋いでいいか? 今だれも起きてないだろうからいいだろ?」


「いいですよ。私も手繋ぎたいですっ」


そして、俺たちは、下着と服を片手に持ち手を繋いだ……


すると、2人は気付いていないが後ろにはB分隊の面々がいた。


「あの2人仲良いですね。良いな~。」


松浦は、親戚のお姉さんの結婚式姿を見ているようであった。


「ああ、うらy・・・」


坂上は、つい本心を口に出しかけていた。


「馬鹿みたい仲良いな、あの2人は」


中岡は、悪態をつく。


「ふふ、あの2人は、いつまでもあのままなのかしらね」


佐橋は、微笑を浮かべながら二人の姿を見ている。



―――2人の物語はハッピーエンドへと向かうことが出来るのだろうか?


―――それは、神のみぞしる事実である。



~FIN~
最終更新:2010年06月13日 18:05
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