第9話

訓練を開始して約3週間……

「やはりこうなったか……」

氷室教官は、片手を額に当てため息混じりに訓練兵の様子を眺める。

「首尾はどうかね、氷室教官」

氷室が振り返るとそこには、見た目50代前半の大柄な男が立っていた。

「これは基地司令、お疲れ様です。」

氷室は敬礼を取りながら基地司令である大場 重勝に答礼を行う。

「うむ、楽にしてくれ、ところで訓練兵たちの様子はどうかな?」

「見ての通りですよ。」

氷室が大場に向けていた視線を訓練生たちへと向け直す。
その先には、数十人の訓練生が“いた”……

「ほぉ~やはりこうなったか。」

大場は、その光景を自らの経験と照らし合わせると口角を上げる。

これは、訓練兵たちが必ず通る道だ……

「もう、10人も動いてないです。」

 何十人もいたはずの訓練兵がわずか数人しか訓練をしていないのである。いや、訓練をしていないのではなく訓練ができないのであろう何十人もの訓練兵がところ構わず倒れており誰もがほとんど動いていない。倒れているものは放っておかれ走っているものは教官に罵倒されながら走っている。

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「もう無理っ!」

雫が最後の力を振り絞り声を上げた。

「もう少しで終わりだから頑張れよ!」

森上が息を切らしながらもどうにか声を振り絞った。

訓練生たちは、氷室教官の命令により完全装備(数十kg)で20km走らされているのである。

「「最後に一つ言っておく、これまでのが訓練だと勘違いするなよ?本番はこれからだ」」

その言葉を聞いた訓練生は、項垂れる者や顔を青ざめる者など十人十色の反応を示す。

その言葉から数十分……

 案の定最初の10kmまでに脱落していくものが現れそこで部隊の半数は脱落した。
そこからが、本当の地獄だ。ただでさえ重い背嚢を背負い小銃を持ちながら走っているのだ。
重量にして数十kgはあるだろうか……はっきり言って実際の重さを聞いたらさらにやる気がなえてしまうだろう。
そして15kmを過ぎたあたりでさらに半数が消え残りもわずかになってしまった。


ここまで来ると意識は朦朧とし視界は霞自分が走っているのかさえもわからなくなって来る。

(こんなんでばてたら話になんねえんだよ!)

声に出すのも今の森上には、無駄な体力消費でしかない。しかし、自分を鼓舞するために心のなかで叫びながら森上は必死に走っていた。

周りを見ても残りは、数人しかいない……その誰もが例外なく自分と同じなのであろう。

「後もう少しだ頑張れ!」

森上は声を振り絞りながら皆に檄を飛ばした。声をかけられた者は、各々の反応をしながらもその眼には、生気が宿り始めていく。

「最後まで走りきれたものはこれだけか…」

氷室教官はあきれた口調で訓練兵を見渡す。

「お前ら、それでも軍人か!曲がりなりにも貴様らは軍人と言う肩書きを背負っているのだぞ!」

「この程度も走れないようでは貴様らはただのゴミだ!、戦場に立っても荷物にしかならないぞ!」

「走りきれたやつもこのくらい走れて当然だ!このくらいで疲れるてるなよ糞ムシ共が!」
ものすごい剣幕で訓練兵たちを罵倒していく。

その言葉に走れなかった訓練生は、涙をこらえるもの拳を力強く握る者……
走りきれた訓練生は、そのように感情を顕わにする余裕すらない現状だ。

そんな事は、訓練生の間ではよくあることであるので氷室教官は、気にも留めていない表情だ。

「走りきれなかったものがいる分隊には罰を受けてもらう!」

「「「!?」」」

走り切れたもの達が声をそろえた。

「なんで、自分達も罰を受けなければならないのですか!?」

と走りきれたあるものが無に等しい体力振り絞り氷室教官の前に出て質問する。

「言ったはずだぞ?分隊ごとに行動し分隊ごとに罰を与えると、」

「くっ……!はい……!」

その訓練生は、歯を食いしばりながらももとの位置に戻った。

「貴様らは、完全装備のまま腕立てと腹筋は、背嚢を背負いながらやってもらうそれぞれ100回ずつだ!」

「この程度で済むことを感謝するんだな!」

「「「「はい」」」」
訓練生たちは、力のない返事をし誰もがこんな事をこんな事をしていたら死んでしまうのではないかと思っていた。

~~~~~

 基地司令は訓練生たちが教官たちに罵倒されながら体中を汗で濡らしながらも腕立てと腹筋を行う様子を見ながら

「最初にしては、よく走りきれたものがいたな。」

大場は、訓練生を見ながら氷室に話しかけた。

「ええ、走りきれるものが出るとは思いませんでしたがこのぐらいでへばってもらっては困ります」

「君はいつも厳しいね、氷室教官。」

「いえ、この程度こなしてもらわなければ戦場で無駄死にするだけです。」

「私は、一人でも多く生き残ってほしいだけなので。」

氷室は、どこか遠くを見つめながらその訓練の様子を眺めていた。



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第10話に続く
最終更新:2009年09月13日 12:17
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