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第2話

「―――まず手始めに20キロ走ってもらう」

 訓練が正式に始まった途端、主任教官の氷室 法子はさらりとそう言った。
 入りたての新兵にも満たない30名の訓練兵は全員は自分達の耳を疑った。座学や施設の説明も無しに突然走らせるか?と。

「なんでいきなり走らなきゃなんねーんだよ!」

 一人の訓練兵が声を荒げる。その言葉に対し、氷室は何も答えずその訓練兵の前に立つと、間髪入れずその顔を殴り飛ばした。
 突然の出来事に全員が硬直する。が、氷室はそれを無視して倒れそうになる訓練兵を捕まえ、さらに2度3度追撃を加える。

「上官には敬語で答えろ糞虫が!何か云いたければ手を上げてから発言しろ!

 貴様等もだ!今の貴様等には何の権利も存在しないことを自覚しろ!」
 罵声と暴力。この二つにより、その場に居る殆どの訓練兵の顔から血の気が引く。
 その中で一人、手を上げる訓練兵がいた。

「発言をよろしいでしょうか、教官殿」
「源 雫か。発言を許可する。云いたいことを云ってみろ」
「ありがとうございます。
 走るのに疑問は抱きませんが、その前に座学で基礎知識を付けるべきだと愚考しますが、何か目的があってのランニングでしょうか?」
「簡単な答えだ。持久力を付けておけば何事にでも対応できる。それだけだ」

 あまりの内容に、一瞬思考が止まってしまった。
 ――本当にそれだけ?たったそれだけで、何もないの?もっと何か―――
 と、そこに横に立っていた青年―――森上 悠希が源 雫の脇を小突く。

「(教官が何か言いたそうだぞっ)」
「………はっ。へ、返答していただき、ありがとうございます」

 そう云って引き下がる雫。じっと雫を睨みつける氷室に、雫は罵声を浴びせられるのかと内心身構えていたいが、
ややあって視線を外す氷室にお世辞にも豊胸とは言えない胸を撫で下ろす。
 再度質問がないのことを確認し、「よし、早速始めろ」と声を張り上げた。



「戦場で走れん戦士は早死にする!自分の身体を満足に動かせない戦士も早死にする!
 貴様等はそのどちらも出来ていない!つまり今の貴様等はただの的だ!
 的は的らしく足を動かして少しでも当たらないように足を動かせ!」

 走り出して約7分。
 その間、ずっと走り続ける訓練兵に向かってひたすら罵倒し続けていた。
 他の教官方も同じように、訓練兵らと並走しながら罵倒し続ける。
 まだ2キロも走ってないのに早速大きく口を開けてバテている訓練兵と、同じ距離を走ってるのに同じ音量で叫び続ける教官。
 この差に否が応でも走らざる得なくなる他の訓練兵。
 そんな訓練兵集団のトップ組の中に、悠希と雫がいた。

「いきなり20キロとは、全員やめさせる気なのかしら?」
「さてねぇ…完全装備で走れって言われないだけまだ良い方だと思うよ」

 まだ春とは言え今日は日差しも強く、例年よりも暖かい。それと早速のランニングにじっとりと汗が吹き出る。
 前を走る背の小さい勝名 澄子と相反するように背が高い齊藤 綾華がこちらを見る………と言うより、睨みつける。
 どちらも既に5キロをハイペースで走ってるせいか、顔色が良くない。
 その後ろを、汗だくになっているとは言えそれなりに会話しているのがいるのだ。何か思うところがあるのだろう。
 だが、今は走るので精一杯で喋るのも億劫なのだろう。睨むだけでそれ以上は何もしてこなかった。

「少し、お喋りは控えましょう。目を付けられたくないし」
「だな…って」
「そこの貴様ぁ!森上 悠希!女とペラペラ喋ってるたぁ随分余裕だな!
 その余裕に免じて貴様は5キロ追加だ!全員よりも遅れるようならもう5キロ追加だぞ!」
「げぇ!?」
「何、嬉しいだと!?ならもっと追加してやってもいいんだぞ!?」
「じょ、冗談じゃねぇ!」

 ペースを上げ前の二人を追い抜く。「まだそんな余裕があるのか」と言いたげに、澄子と綾香が前を走っていく悠希の背を睨む。
 悠希はただその視線を受けて走り続ける。その背に追い討ちをかけるように教官方からありがたい罵倒を浴びせれ続けた。



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第3話に続く
最終更新:2009年03月29日 19:56
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