第16話 野球編その2
「よし、時間だ!集まっているな!A・Bの合同チームとC・Dの合同チームの訓練を開始する!」
氷室教官の大きな掛け声と訓練が始まった。
「審判は、手の空いているものがやれ!不正は許さんぞお前ら!もしそんなことをしたらわかっているな?」
「「「了解!」」」
「最初は相手からの攻撃よ、さっきの作戦の通りまずは行くわよ。」
「「了解!!」」
「俺も、頑張って応援してやるよぉ~~!!」
そのような事を久我が言いつつ、
A・Bの合同チームは、各々に大小はあれども気合を入れた。
「なあ、なんで齊藤がピッチャーなんだ?中岡とか他にも色々適任そうなのいるだろ?」
森上は、守備位置につく途中に雫に質問した。
「綾華は、ああ見えても昔よく野球でピッチャーやってたみたいだから、ここはまず経験豊富な綾華に任せたの。」
「そうだったのか。」
雫は、そういうと自らの守備位置につき森上も守備位置についた。
(まずは、ストレートで様子を見てみましょう)
中原は、あらかじめ齊藤と決めておいたストレートのサインを出した。
齊藤もそれに頷き、まずは一球・・・
「ストラーーイク!」
審判である訓練生がそう叫ぶと各所から感嘆の声が聞こえた。
その一人である澄子は、いつもより大きく明るい声で
「綾華っ~~~!!すげぇな~~!!もっとやれぇ~~~!!」
齊藤は、それに答えるように頷き、三振に討ち取った。
(まだ昔の勘は鈍ってないわね、久しぶりに全力全開でいけそうね。)
そして、2打順目・・・
(次は、変化球で行きましょう。)
今度はカーブのサインを出した。
(いくわよっ!!)
「ス・・ストラ~~イク!!」
「なんだよ、あの曲がり方・・・」
中岡がそういうのは無理もない、齊藤が投げたボールは、カーブの弧の頂点に上がったと思うと急に鋭く落ちたのである。
「綾華さんすごいです~~!!頑張ってくださ~い!!」「すごいぞ~~!!もっと見せ付けてやれ~~!!」
朝倉と久我は、興奮気味に齊藤の応援をした。
(・・・私もまだまだいけるわね。)
その後、三振で討ち取り同様に後続も討ち取ったのである。
「お前ら綾華の活躍に負けないくらい打っていけよ~~!!」
久我は、未だ興奮気味に皆を鼓舞しそれに答えるように各々が返事をした。
「まずは、葵ね。頑張ってきなさい。」
雫の応援に答えるように松浦は
「はいっ!がんばりますっ!」
そういうと、その小柄な体型には大きいような気もするバットを持ちバッターボックスに入った。
(まずは、一本打つ まずは一本・・・・)
松浦は、そのような事をおまじないのように唱え続けた。
一打目
パコーン
金属バット独特な甲高い音とともにボールは飛んだが・・・
「ファール!」
「まだまだぞ、葵頑張れ!」「葵ちゃん頑張ってください!」
中村と中原の声が響き、それにつられるように各々が応援の言葉を口にした、
その応援に答えるべく松浦はバットを握り締めた。
カキーーン
その音とともにボールは二塁、三塁の間を抜けた。
「松浦!走れ~~!!」
森上の掛け声とともに葵はその足の速さを生かし一塁にとまった。
「次は、坂上か頑張ってこいよ。」
「ああ、任せておけ。」
森上にそう答えると、坂上はバットを手に取りバッターボックスへと入った。
(作戦通りなら俺はまず出塁だな・・・よし、3塁側に飛ばして松浦の足に期待するか。)
1打目
パコーン
ボールは坂上の狙ったとおり3塁の方向に飛んだ
「よし、葵ちゃん走れ!!」
久我の大声に反応し松浦は、1塁から2塁へと駆け出す。
坂上も同様に1塁へと駆け出し、坂上は1塁、松浦は2塁に止まった。
「次は、俺か」
中岡がそういうとバットを手に取り、数回の素振りの後バッターボックスに入った。
「中岡~~!でっかいの打てよ~!」
中村の声に反応するように中岡は首をわずかに振った。
(ここで、俺がホームランを打てば3点か・・・だが、作戦通りにしてやるならまずは出塁だな・・・)
ここまで中岡は少々協調性に欠けていたが、
彼もまたこの部隊で大きく変わろうとしている人間の一人だった。
一打目
パコーン
ボールは、内野に転がっていき相手の内野手がキャッチ、そのままファーストに投げ1アウト
さらにセカンドに投げ込まれダブルプレーとなってしまった。しかし、その間に松浦は3塁へと進んだ。
ベンチへと戻ってきた坂上と中岡は各々に謝罪の言葉を述べた。
「まだまだだろ?次から、かっ飛ばせ!」
久我に応援をされた二人は
「ああ、悪かったな。」「お前に言われなくてもわかってる。」
と各々に反応をした。
「
次は、森上さんですね頑張ってください!」
朝倉の応援を受け森上は、
「大きいの打ってくるぜ!」
そういうと、森上は少しだけ雫を見たかと思うとそのままバッターボックスに入っていった。
(ここで、打てば先制か・・・)
1打目
カキーン
高く飛んだボールはそのままファウルゾーンを外れてしまった。
二打目
ボスッ
森上の大きく振ったバットを避けるようにボールはキャッチャーミットへと吸い込まれた。
「森上~~!!次で打てよ!!」
勝名の声援を受け、
3打目
カキーン!
ボールは遠くに飛びそのまま2・3塁の間を抜けた
「葵~~!走れぇ~~!!」
中村の声に反応し松浦は走り出しそのままホームイン、森上も2塁に止まった。
「よぉ~~し!!先制だぁ~~!!」
久我の声とともに部隊では歓声が上がった。
雫は、顔に笑みを浮かべながら
「よくやったわね、葵」
中原も笑みを浮かべながら
「葵ちゃん、すごいです!」
「次は、朋也くんですね、頑張ってきてください」
中原の応援に朋也はまぶしいぐらいの笑顔で
「ああ、行ってくるよ」
そのように、はたから見てるとイチャついてるようにも見えなくもない二人に久我が、
「お前ら、いちゃつかないでくれよ~」
「んなっ!いちゃついてね~よ。行ってくる!」
「いちゃついてないですよっ!あっ、朋也くん頑張ってください!」
中原と中村はともに少し顔を赤らめていた。それを見ていた人間は、本当に相思相愛だよなと思っていた。
1打目
カキーン
ボールは高く上がったがファウルゾーンを超えてしまった。
2打目
ストライク
3打目
カキーン!
ボールはセンターに飛んでいきそのまま取られてしまった。
「悪かったな、アウトになって」
中村は、肩を落としながら申し訳なさそうに言った。
それを見た、中原は。
「朋也くん頑張りました。次から頑張れば良いです!」
「ああ、ありがとな」
「攻守交替よ!!葵の取った点を無駄にしないでね!」
「「了解!!」」
雫の掛け声とともにそれぞれが守備位置についた。
(いくわよ。)
齊藤は心の中で気合を込め投げた。
「いいぞ~綾華ちゃ~ん!!」
久我の応援の効果なのか綾華は順調にストライクを重ね打者をひとり打ち取った。
しかし、2人目で・・・
2打目
(まったく、馬鹿正直にストレート、カーブばっかで勝てると思ってんの!)
藤林明日香は、心の中でそう毒づきバットを振った。
かきーん
「なっ!!」
綾華はいきなり撃たれたことに動揺こそしたがすぐにボールの飛んでいった方向を見極め
「森上さん行ったわよ!!取ってファーストに投げて!!」
「了解!!」
森上はそういうと転がってきたボールをすぐ掴みそのままファーストの中岡へ
「アウト!!」
「やるわね!」
藤林は、そういうとベンチへと戻っていった。
「二人ともうまいです、その調子で頑張ってください!」
綾華の応援に二人はそれぞれに反応をした。
「相手の投手は今のところストレートとカーブしか打ってないですから、またそれで来る可能性が高いですから気をつけてください」
高山楓は、次のバッターである坂下智子そう告げた。
(さて、楓はああ言っていたがどうくる?)
坂下は高山の情報を疑うわけではないが、まだ2回目の表である。他の球種を持っていてもおかしくはないだろう。
そのことも留意しつつ坂下はバッターボックスに入った。
1打目
パコーン
坂下は、ボールを打ち上げたがそのままファールになった。
(ストレートか・・・)
やはり、ストレートならば読みやすいな。
2打目
パコーン
ボールは右の方向に大きく跳びファールゾーンを越えた。
(やはり、今のところストレートとカーブだけか・・・)
坂下は、齊藤のボールをわざとファールゾーンに飛ぶように打ち彼女が他の球種を持っていないか確認していたのである。
3打目
「ストラ~イク!!」
「んなっ!!」
なんと齊藤は、ストレートでもカーブでもない球種を投げたのである。
「ボールが落ちた!?」
(最初は確かにボールはストレートだったはずなのに・・・!)
そう齊藤の投げたボールは「フォークボール」であった。
(ふふっ、嘗められたものですね。私がたったの二つしか投げられないとでも思ったのかしら。)
その後、坂下は3振に打ち取れれた。
2回目裏A・B合同チームの攻撃
「澄子からの攻撃よ、気を抜かないで確実にね」
「わかってるよ!」
勝名は、いつもの様に力強く答えた。
1打目
(打ってやるよ!あたしには出来るんだ!)
パコーン
バットに当たったボール独特の音を出しそのままセンターのほうへ転がった。
「よし、勝名~!走れ~~!」
中村と森上の掛け声より早く勝名はバットを放り投げ走り出し、そのまま1塁へと止まった。
「よっしゃぁ~~!」
勝名は、そう叫び大きくガッツポーズを取った。
「次は、私ね」
「雫頑張ってこいよ!お前なら打てるぞ!」
森上の応援に雫は頬をわずかに朱に染め、
「言われなくてもわかってるわよ!」
1打目
(私が打たなかったらみんなに示しがつかないわよ。)
「ストラ~イク!」
(大丈夫焦らないで、今のは単なる確認よ。)
雫は自分にそう言い聞かせつつも初めてやる野球に少なからず戸惑い焦っていた。
「雫~~!焦らないでいけよ~~!!」
「っ!!」
(悠希あいつなんで、私の考えてる事がわかるのよ。)
「投げてる人を見るんじゃなくてボールを見て下さい!!」
齊藤は、出来るだけ大きな声で今の雫に必要なアドバイスをした。
雫はそのアドバイスに答えるように一回深呼吸をしボールだけを注視した。
2打目
カキーン
ボールは、2・3塁間を抜けた。
「雫さん!走って下さい!」
雫は、少しの間呆けてしまったが朝倉の声にすぐさま反応し走りだした。
そして、雫はそのまま一塁へ勝名は二塁へと止まった
「雫ちゃ~~ん!ナ~~イス!」
普段なら雫は久我の応援にも顔色一つ変えなかっただろう、が今回ばかりは雫の顔にも笑みがこぼれた。
「やっぱり雫ちゃんには笑顔が似合うね~」
久我がそういうと雫は顔を赤らめ久我に何か言おうとしたがやめた。
「次は私ですね!」
中原は、そういうとバットを持ち一回素振りをしたが勢い余って尻餅をついてしまった。
明らかに中原は緊張していた。
「大丈夫か渚!あんまり緊張しないでリラックスしていけよ。渚なら大丈夫だからな」
中村は尻餅をついている中原に手を貸しその手をとり立ち上がった。
「では、朋也くん、皆さん行ってきますっ!」
「ああ、頑張って来い」
「渚、頑張って来な」
中原は、中村や勝名や応援を背にバッターボックスへと入って行った。
「全く、あいつらはいつもあんな事ばっかやってもう少し訓練に集中したらどうだよ」
中岡は、そう毒付きつつもいつもよりは言葉に刺はなかった。
そしてそんな事を隣で聞いていた坂上は、
「俺は、あいつらが少しうらやましいよ・・・」
「お前がそんな事言うなんて珍しいな、あいつらにあてられたか?」
中岡は、少し冗談を含めて坂上に言ったが坂上は少し口の端に笑みをうかべ
「ああ、そうかもな」
中岡は、普段とは違う坂上の反応に少し驚いたがそれを表にはださなかった。
1打目
(大丈夫、みんなが応援してくれています。もう、私は一人じゃないです!)
カキーン!
金属バット特有の甲高い音を上げ、ボールはセンターへと飛びそのまま相手のグローブへと吸い込まれた。
「皆さん、すいません」
中原は、肩を落とし俯き加減でベンチへと戻ってきた。
「渚、あんまり気にすんな。まだ一回目だからよ。」
「そうですよ、渚さんあんまり気にしないでね。」
中村と佐橋に励まされ中原は、少なからず元気が出たようだった。
それでも、やはり中原は自分の失敗を気にしているようだった。
それを、見ていた雫は・・・
(やっぱり、渚は責任感が強いのね・・・でもそれだからこそ同じ分隊長として見習うべき点がお互いあるのかもね)
雫は、そのような事を考えつつ自らの境遇に少し悩んでいた。
「次は、齊藤さんですね。頑張ってください!」
「綾華ちゃんなら問題ないね。」
「はい、行って来ます。」
齊藤はそういうとバットを手に取り一回だけ素振りをして見せた。
ブンッ!
バットはものすごい勢いで振られ空を斬る音だけが聞こえた。
「綾華、すごいわね・・・」
「お前、そんなに腕力あったか・・・」
「すごいな・・・」
雫、中岡、坂上を含めた全員が齊藤の素振りに驚いていた。
「そんな事ないですよ。あと、バットは腕だけで振るんじゃなくて全身を特に腰を回転させると遠くに飛びますよ。」
齊藤は、皆にわかるように自らバットを振りながら説明して見せた。
「そうなんですね・・・でも難しそう」
「確かにな・・・でも出来なさそうではないな。」
松浦と中村はお互いに齊藤の素振りを見ながら言葉を漏らした。
「Aチーム、はやく、選手をだしてよ~。」
「すいません!今行きます。」
齊藤は、審判に急かされバッターボックスへと向かった。
1打目
「ストラ~~イク!」
「齊藤何やってんだよ!、打たねぇのかよ!」
中岡は、あれだけ得意げに打つときのコツを話していたのに打てなかった齊藤に文句を言った。
「いや中岡、アレはわざと外したんだ。」
坂上は、齊藤を見つめながらそう答えた。
「どういうことだよ?」
中岡だけでなく、皆が坂上の言葉に注目した。
「俺は、結構狙撃に関しては自身があるんだがやはりここ一番での狙撃の時にはまずは1~2発
打って弾の機動を確認しているんだが、齊藤のアレもそれに近いものなんじゃないかと思ってるんだ。」
「ということは、あれも齊藤が相手のボールの軌道を確認していたってことか?」
「そういうことかもな」
「・・・」
齊藤は、坂上の説明中にさらに一発を外していた。
そして・・・3打目
カキーーン!
ボールは、バットの真ん中にあたりそのまま遠くへと飛んだ・・・
その間のわずかな時間、静寂が流れた・・・
ホームランであった。
「おーーー!」
皆の歓声が静寂を打ち破りそのまま齊藤も塁を軽快に走っていた。
そして、ホームベースを踏みしめた齊藤に、
「すごいです!あんなにボールが遠くに飛んでいきました!」
「やはり、軌道を読んでいたのか。」
朝倉は、齊藤の下に転げそうになりながらも一番に駆け寄り声をかけ
さらに、坂上は自らの予想した事を確認するように齊藤の前で呟いた。
その呟きに齊藤は、
「はい、坂上さんの言うとおりです。確かに一打目から打とうと思えば皆さんが打っているときに
相手の弾の軌道は確認していたので可能でしたが、”見る”のと”やる”のは、違うので
確認のためにわざと外しました。」
「そうか・・・」
坂上はそう呟くとベンチへと戻り齊藤も皆の言葉を受け取りながら後に続いた。
その後は、松浦がフライに討ち取られ、坂上が2ベースを打つも森上でアウトになってしまった。
最終更新:2009年03月29日 20:11