白銀の雷光

亡霊の棲む街1

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thrones

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ジャスティスが葬られ、ほとんどの『ギア』が活動を停止した今、人々は『ギア』の驚異を忘れつつあった。
完全に『ギア』の驚異が去った訳ではなかったが、平和な日々が過ぎていた。
 人々が行き交い、活気ある街の中を不穏な風が通り過ぎたのは、新緑が鮮やかな初夏が近い頃。
事の始まりは『とある街の人間が一夜にして消えてしまった。』という、根もはもない噂話だった。
実際に、『そんな街自体が存在しない』とも言われていて、どちらにしても噂話の域をでなかった。

 巴里
元聖騎士団本部。
現在は、警察機構本部となっている建物の一室。
書類の束を眼で追いながら大きな溜息を漏らし、カイはしばらく考え込んでいた。
(とりあえず、調べてみる必要がありそうですね。)
しかし、そう決めたはいいがカイはどうしてもここを離れることができない理由があった。
噂の内容が内容なだけにゆっくりしてもいられない。
なんでもなければそれでいいが、もし噂が本当であれば重大事件である。
自分が赴く事が出来ない以上、誰か代わりの者を派遣するしかない。
すべての書類に眼を通すとカイは部屋を出た。

 少しきつくなった日射しを浴びて、柔らかな金髪が光を弾く。
建物内を探したが目当ての人物を見つける事が出来ずに、カイは中庭まで出てきていた。
探しているのは、聖騎士団の頃から知っている信頼できる人物。
視線を巡らし、中庭の少し外れの木の下で眼を止めた。
「少し、構いませんか?」
ふわりとした微笑みで訪ねられて、メイスは思わず見とれてしまう。
顔を覗き込まれ、メイスはふと、我に帰り慌てて返答を返す。
「はい。どうかされましたか?」
カイは、ゆっくりと頷くと話を切り出した。
「ええ。あなたはこのところ、街を賑わしているうわさ話をご存知ですか?」
「ああ、はい。」
確か、何の根拠もないうわさ話だ。
「それがどうかしましたか?」
「何もなければそれでいいのですが、気になったので調べてほしいのです。」
メイスはカイを見た。
本来なら、こういった事は彼自ら赴く。
なぜ、自分にお鉢が回ってきたのだろう?と、不思議に思った。
「すいません。本来なら私が赴くところですが、都合でどうしても行く事ができないのです。」
メイスが疑問に思った事を、沈痛な面持ちでカイが答えた。
どうやら、疑問に思った事が顔に出てしまったらしい。
(しまったな。)
悪いクセだと自分を叱咤してにっこり微笑んだ。
「そういう事でしたら、お任せ下さい。」
メイスは何もなかったかのようにそう告げた。
カイも少し、表情を和ませる。
「そう言っていただけると助かります。どうか気を付けて。」
「分かりました。明日にでも出発します。」
「よろしく、お願いします。」
そう言うと、カイは優しく微笑んだ。
「はい。」
返事をしながら、
(天使の微笑みとはこういうのを言うんだろうな。)
と、メイスはそんな事を考えながら立ち去るカイの後ろ姿を見送った。



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