白銀の雷光

亡霊の棲む街4

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 今からちょうど10時間程前、メイスは森の中を歩いていた。
(本当にこんなところに街があるのか?)
行けども行けども木々が生い茂り、この先に到底街があるとは思えなかった。
(担がれたかな…)
と、思う。大体この手の話は、人から人に語り継がれていく内に、背びれや尾ひれがついて大きくなるものだ。
ここまで来て引き返す訳にも行かず、ただひたすら歩く。
それでもいい加減、メイスも不安になってきた。
やはり引き返そうか―そう思いはじめた時、目の前が急に開けた。
かなり大きな街だ。古めかしい街並が続いている。
街角は活気に溢れ、にぎわいを見せている。
メイスはただ、呆然と立ち尽くした。タイムスリップしたのではないかと錯覚する。
それでも、その街は別段変わったところはなく、古き良き時代の街並といった感じだった。
メイスはふぅと大きく息を吐いた。
とりあえずムダ足にならずに済んだと、胸をなで下ろす。
「さて」
メイスは通りを歩き始めた。街の様子を逐一観察しながら歩いていく―
中央に大きな公園があり、その公園から放射状に通りが延びている。
各通りを網の目のような細い通路が結んでいて、見た目以上に複雑だった。
太陽が真上から傾きはじめ、お腹が抗議を始めて、メイスは小さなカフェの椅子に腰を落ち着けた。
少し遅くなった昼食を取り終え、食後のコーヒーを啜りながら、この後どうするかを思案する。
この街についての情報が欲しい。
情報を収集するには酒場が1番だ。しかし、いかんせん時間が早い。
酒場が開くまでまだまだ時間があった。
それまでの間、もう少し街の中を探索しようと席を立った。

 やがて日も落ち、辺りが夕闇に包まれる頃、メイスは路地裏の酒場に入った。
中はすでに多くの人で賑わっていた。カウンターに席を取りマスターに話し掛ける。
「旅の途中で立ち寄ったんだが、いいところだね。」
「そうでしょう?何もないところですがね」
「いや、そんな事はないよ」
マスターは嬉しそうに微笑んだ。酒をコトリとメイスの前に出す。
「おごりです。どうぞ」
「ありがとう。キレイな色だ」
「でしょう?ここのオリジナルです。『黄昏れ』と言うんですよ」
「このカクテルにぴったりの名前だね」
「ありがとうございます」
メイスはグラスに口を付けた。咽を潤し、再びマスターに声をかける。
「実は今日、着いたばかりで良く知らないんだ。よかったら色々聞きたいんだけど」
「いいですよ。あまり面白い話はありませんが…」
そう前置きをして、マスターは話しはじめた。
マスターの話に適当に合図知を打ちながら、必要なものだけを選り分けていく。
あまりこれといった話題は出てこなかった。どこにでもある話ばかりだ。
「とまぁ、大体こんなところですかね?」
「ありがとう、面白かったよ。」
これ以上は何も無さそうだと判断して、メイスは酒場を出た。
近くにあったホテルに宿を取る。部屋に入り、一息ついた。
「そろそろ時間だな」
ひとりボソリとつぶやいて、メイスは報告の為本部への通信回線を開いた。
「メイスです。噂話について調査報告いたします」
「了解しました」
街の存在、場所、別段変わったところがない等を手短に告げて通信を終了させる。
その後メイスは疲れていた事もあり、心地よい眠りに誘われて意識を手放した。
 漆黒の闇の中、あちこちで金色にギラつく光が浮かび上がり、獣の荒い息遣いが街の中に充満する。
狂喜に満ちた殺戮の舞台が整った―


 何ごともなく1日が過ぎ、カイは倒れるように眠りについた。
静けさだけが辺りを支配し、規則正しい呼吸だけが聞こえている―
闇の中、何の前触れもなく静寂はやぶられた。
着信を知らせる鈴の音が、辺りに反射して鳴り響く。
カイは飛び起き、メダルを探った。こんな時間に一体何が起きたのか?
頭の奥深くでチリっと鈍い痛みが走る。嫌な予感がする―
「どうしたのですか?」
向こう側に問いかける。返事を待つのももどかしい。
「よかった。通じましたな」
「用件を言って下さい。何があったのですか?」
気持ちが焦っているせいか、言葉に力がこもる。こんな時間の通信に良い事があるはずもない。
「メイスの消息が途絶えました。」
「何…ですって?」
「後、わずかではありましたが一瞬ギアの反応も確認されました。もっとも、誤作動の可能性もないとは言えませんが。」
「分かりました。すぐそちらに向かいます!」
通信を切り、カイは慌ただしく家を出た。
ものの数分のタイムラグに苛立ちながら、警察機構までの道程を一気に駆け抜ける。
ようやく辿り着いた正門は、時間の事もあり堅く閉ざされていた。
カイは地を蹴って跳躍した。しなやかな身体が宙を舞い、重厚な門をヒラリと飛び越える。
正面ホールから二階に駆け上がり自室に飛び込む。
中ではベルナルドがカイを待っていた。
「お待たせしました。簡潔にお願いします。」
ベルナルドがこくりと頷く。
「メイスの反応が途絶えました。場所はちょうどこの辺りになります。」
ベルナルドは広げられた地図を指した。
カイも、上がった息を整えながら地図を覗き込む。
「ギアの反応が確認されたのもここです」
カイの表情が険しくなる。
ベルナルドは一旦言葉を切り、カイの指示を待つ。
「飛空挺を準備して下さい。私が行きます!」
カイからの返答は早かった。
「急いで下さい」
「かしこまりました」
一礼をすると、ベルナルドの姿は扉の向こうに消えた。
(最初から私が行けばよかった!状況から見てメイスがギアに襲われたのは間違いない。
それにしても―
 問題は今、活動しているギアが存在していると言う事か…司令塔であるジャスティスを失い、ギアはそのほとんどが活動を停止しているはずなのに一体?―…)
準備が整うまでの間、カイは答えのない問いを繰り返していた。

 コンコン。
扉をノックした音に我に帰る。
再び扉が開きベルナルドが姿を見せた。
「お待たせしました。」
カイは頷くと、足早に飛空挺に乗り込んだ。



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