白銀の雷光

亡霊の棲む街6

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thrones

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ガラッ…。
壁が落ちる音に、封雷剣を持ち直す。
カイは素早くその場を飛び退き、空を仰いだ。
封雷剣に力が込められ、雷が走る。静寂が辺りを支配し、時間だけが過ぎていく―
「?!」
何かいる―。気配で分かる。が、殺気は感じられない。
動く気配がない。
カイは、用心深く頭上を見つめた。
ヒュンと、風を切る音がして飛び下りたのが分かった。ズシャリと鈍い音が響く。
「ちっ」
影が、明らかに嫌そうに舌打ちする。
闇の中から、ゆらりと姿を現し、ゆっくりとカイに近付いてくる。
数メートルの距離を残して、立ち止まった。
「こんな所で会うとはな。坊や、なぜここに居る?」
低い良く通る声がカイに向けられた。
「ソル…!どうしてお前がここに?」
「聞いてるのは俺だ。答えろ。どうして、ここにいる?」
ソルとの距離があるため、表情を伺い知る事はできなかった。
ただ、明らかに苛ついているのが声色で理解できた。
重い空気が流れ、辺りは再び静かになる。
カイの瞳がソルを射抜く。
「お前に答える義務はない!」
「ふん」
つまらなそうに鼻をならすと、ソルはカイに背を向け歩き出した。
「待て」
カイが呼び止める。
「なんだ?もう用はないぜ」
「答えろ。お前がここに来た理由を」
ソルは、立ち止まり振り返ると、ふぅと息を吐いた。
「バカかお前は?答えてやる必要はねぇな」
それだけ言うと、再び歩き始めた。
その素っ気ない物言いにカチンとくる。
いつでもどこでも顔をあわせると一触即発で、大概はソルの態度にカイが突っかかった。
「ならば、力ずくで聞き出すまでだ。構えろソル!」
「悪いが、坊やと遊んでいるヒマはねぇんだよ」
「問答無用!」
地面を蹴り、一瞬で距離をつめる。
封雷剣の切っ先が、ソルを捕らえた。
ギィン。
鈍い金属音がし、宝剣がぶつかりあって火花を散らす。
「やれやれだぜ」
封雷剣を寸でのところで受け止めソルが呟いた。
「お前との決着、今ここでつけさせてもらう―」
カイの青緑の瞳が、ソルを見据えた。
「どうしても、譲る気はねぇようだな?」
「……」
カイは答えない。封雷剣に込められた強い気が、それを明確に物語る。
ちっと舌打ちして、ソルの瞳がカイを捕らえた。
「うざってぇ」
短く吐き捨て、剣を構える。
一瞬の静寂。対峙する二つの影。極限まで高められた法力がぶつかり合う。
先に動いたのはカイの方だった。
「はぁ!!」
真直ぐに伸ばされた剣先がソルを襲う。
ギィ…ン。
ソルは平然と封雷剣を受け止めると、刃を弾いた。
弾かれた反動を利用して、カイが剣を水平に凪ぎ払う。
それでもソルは動じる事なく受け止めた。
法力が衝突し、周囲を炎と雷が荒れ狂う。
「どうした坊や。もう終いか?」
「くっ」
カイは捕らえられた剣を払い、後ろに飛び退った。
ソルとの距離を取り、封雷剣に力を込める。
「スタンエッジ!」
剣が振払われ、楔形の雷が打ち出されると、一直線に飛んでいく。
「ガンフレイム」
カイの放った法力を、真っ向から受け止め相殺する。
「もらった!」
空中にカイの体が舞い、体重を乗せ剣が振り下ろされた。
「甘い!」
炎を纏った剣が振り上げられる。
「く!」
カイは咄嗟に剣を盾に、防御体制を取る。
ウエイトのないカイの体は、簡単に弾かれた。
ソルの顔を至近距離で捕らえる。
ソルはニヤリと口の端を上げて笑うと、体を捻り鞭のように撓らせた足が
カイを地面へ叩き付けた。
「か…はっ」
息が詰まる。
バランスを崩し、受け身を取る事が出来ず、カイは地面に這いつくばった。
「ゴホッ…ゲホッ!」
地面に叩き付けられた衝撃で、すぐに動く事が出来ずにむせ返る。
ガシュ。
カイの首筋ギリギリのところに、封炎剣が突き立てられた。
「俺の勝ちだ。文句はねぇな?」
頭上でソルの声が投げかけられる。
「…!!」
拳を握りしめ、唇を噛み締めてソルを見上げる。
ソルは封炎剣を引き抜くと歩き出した。
カイはゆっくり起き上がり、遠ざかるソルの背を見つめた。
「どこへ行くんだ?」
「どこだっていいだろ?坊やにゃ関係ねぇよ」
振り返りもせずに吐き捨てる。
カイは悟った。
ソルがここに現れたのは、恐らくギアを始末するため。
そして、まだ行く所があると言う事は、すべてが終った訳ではないのだ。
「私も行く―。」
「ああ?」
ソルが振り返る。
「私も付いて行くと言ったんだ。」
カイの瞳がまっすぐにソルを見る。
「いい加減にしろ!足手まといはゴメンだ」
「お前の足手まといにはならない」
「そのなりでか?」
ギアに切り裂かれた腕の傷は思ったより深く、未だ血が流れ落ちていた。
「ああ。大した怪我じゃない」
それでもカイは引くつもりはなかった。
ソルが重要な情報を持っている事を悟ったから。
どんな事があろうと、ここで引き下がる訳にいかない。
二人の間を張り詰めた空気が漂う。
「好きにしろ!」
ソルは踵を返すと、今度こそ振り返らずに歩き始めた。
「………」
カイは黙って、ソルの後ろをついて歩き出す。
ソルがどこに向かっているのか、まだ知る由もない。
ただ、すべての謎を解くカギが、そこにあるような気がした。



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