白銀の雷光

亡霊の棲む街9

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上手く魔物の群れから脱出することに成功したソルだったが、カイの事が頭から離れない。
言い出したら聞かない事を、ソルはよく知っている。
だから、仕方なく置いてきた。
何人か付いてきた連中を炎に変えて、ソルは上を目指す。
カイが引き付けているからだろうか、無人となったフロアを一瞬で走り抜けた。

 最上階。
このフロアには一つの部屋しかない。
所長室―。ここの総責任者がいる部屋だ。
バタン。
盛大な音を響かせて開いた扉から、ソルが転がり込んだ。
「思ったより早い到着でしたねぇ。もう少し掛かると思っていましたが…」
「………」
ソルは何も答えず、高級そうなチェアに腰を落ち着けた、いかにもと言った感じの青年を睨み据えた。
所長は、ソルの殺気を孕んだ射るような視線をものともせずに、薄笑いを浮かべ見上げている。
「余計な事をしやがって…覚悟しろ」
低い声が男に死を告げる。
カイには悪いが、コイツは生かしておく訳にいかない。
悲劇は必ず繰り返される。
ソルは封炎剣を構えた。
「くくく…」
男は笑いはじめる。
最初は押し殺したような低い声で、やがて大声でさも面白いと言わんばかりに。
死の恐怖に気でも狂ったか?
ソルは、大声で笑う男をいぶかし気に見た。
男はひとしきり笑った後、真顔に戻り話し始める。
「狂ったと思いましたか?残念だがそうではない。何の準備も無しにあなたをここへ迎え入れたりしない―そういう事です」
奥の扉が静かに開き、ボディガードとおぼしき二人の男が姿を現した。
「失敗を繰り返し、ようやく完成に漕ぎつけました。下であなた方を襲ったのはいわば欠陥品。まあ、欠陥品と言えどもかなり出来のいいものですがね」
ソルは大きく息を吐き、口の端を吊り上げた。
「いちいちうるせぇ野郎だ。ご託はいらねぇ、掛かってこいよ」
「いいでしょう」
所長は目を伏せて腕を組んだ。
「殺れ」
何の感情もない声が、静かに命じる。
その直後、二人の男の瞳が黄金色の光を放ち、筋肉が隆起して上着を弾き飛ばした。
鋼のような筋肉をまとい、長く伸びた鋭い爪と口から覗く吸血鬼のような犬歯が、男達を人外のものと知らしめる。
忌わしき存在―在ってはならぬモノ…
一体のギアが正面から踊り掛かった。
ソルは、避ける事もせず一撃を受け止める。
ギィン。
火花が散り、封炎剣と爪がぶつかって、鈍い金属音が部屋に響く。
剣を弾こうと腕に力が込められる―が、ピクリとも動かない。
ギアは驚愕に目を見開き、その場を飛び退った。
「大した事ねぇな…」
ソルは、ゆっくりと封炎剣を下げて呟いた。
「てめぇご自慢の完成品とやらは、この程度なのか?」
男は何も答えない。
ただ、下眉た薄笑いを浮かべてソルを見つめている。
その笑みがソルのカンに触った。
早々に終らせようと、一歩前に進んだその時―
二体のギアが左右へ飛び、ソルを捕らえた。
ギアの剣のような鋭い爪が、空を裂き襲いかかる。
ソルが紙一重で攻撃を交わした時、もう一体が飛び込んできた。
別角度からの時間差攻撃―
飛び込んでくるギアを捕らえ、短い舌打ちをする。
避けきれるかどうかは微妙なタイミングだったが、ソルは鋭い反応で回避行動を取った。
わざとバランスを崩し、地に手を付くとその手を支点に身体を捻る。
ギアは素早い反応を見せ、攻撃の軌道を修正し確実に獲物を捕らえた。
脇腹に激痛が走り、ソルの顔が歪む。
不利な体制にあるソルを、ギアは見逃さなかった。
煥発入れずにギアの足が振り上げられる。
「くっ」
しまった―そう思った時には、ソルの体は宙に舞っていた。
この体勢では受け身を取るのも難しい。
ギアの腕がソルの頭を掴み、地面に叩き付ける。
「がはっ」
ソルの体は鈍い音を立て、フロアの床にめり込んだ。
ギアはソルから離れ、間合いを取りじっと様子を見る
「勝負あったようですねぇ」
動かないソルを見下ろして、得意げに男が言い放った。
「大した事ないのは、あなたの方でしたね」
男は結果に満足し、ニヤニヤ笑った。
ガラリ。
何かが崩れるような音がして、ソルがゆっくりと立ち上がる。
体から放出される気は、先ほどまでのものとは比べ物にならない。
闘気が衝撃波となりフロアにあるものを片っ端から壊していく。
ソルはゆったりとした動作で血を拭い、視線をギアに向けた。
「ガアァァァァ」
咆哮が耳を劈き、フロア全体がビリビリと振動する。
最強の完全自立型ギアは、間違いなくこの男だろう―
黄金色に光る目が、二体のギアを睨み付けた。
「グゥ…」
ギアは完全に気押された。
「何をしている!殺れ!」
男の声で、ギアが再び殺意をソルに向ける。
手にした封炎剣が業火を纏う。
「くれてやる…ッ!!」
放たれた炎が轟音を轟かせ、すべてのものを飲み込んでいく―
すべてを焼き払い、沈静化した炎の中からギアの姿が現れる。
安全を確保する何かがあるのだろう、所長が全く変わりない状態で笑みを浮かべた
「あなたがここに来るのは予測済みでした。すべてのデータはここにある。これらはそのデータを元に作りました。あなたでは勝つ事はできない―」
「……それがどうした」
静かに男の声を聞いていたソルだったが、全く興味を示さずに言葉を返した。
「馬鹿なやつだ」
所長は首を左右に振り肩を竦めて、溜息を漏らした。そして―
「逃げるなら、見逃して差し上げてもいいんですがねぇ」
余裕を滲ませ眼鏡を取ると、レンズを拭きながらぽつりと漏らす。
「悪い話じゃないでしょう?」
拭き終った眼鏡を掛け直し、ソルを見上げた。
「はっ!負け犬程吠えやがる…」
「……………」
「てめぇこそ、首を洗って待ってろ」
「最後のチャンスだったんだが、バカに付ける薬はないと言う事ですか…
 いいでしょう、望み通り殺して差し上げましょう」
眼鏡の奥で、キラリと瞳が冷たく光った。



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