白銀の雷光
亡霊の棲む街10
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炎と水―
相反する法力は、互いの力を相殺してしまう。
ソルの強力な法力は、その威力を軽減されていた。
その代わり、ギアの持つ法力も半減されている。
しかし、相手は二対。ソルに分が悪い事に変わりはなかった。
少しずつ、確実に追い詰められる。
相反する法力は、互いの力を相殺してしまう。
ソルの強力な法力は、その威力を軽減されていた。
その代わり、ギアの持つ法力も半減されている。
しかし、相手は二対。ソルに分が悪い事に変わりはなかった。
少しずつ、確実に追い詰められる。
パタン―
扉が静かに開かれた。
今まで傍観していた男は、驚いて扉を見遣る。
「そんな…馬鹿な…」
声が震え、明らかに動揺しているのが見て取れた。
招かざる客の登場に、すでに形勢は逆転していた。
「坊や…」
「すまない、遅くなった…大丈夫か?ソル。」
ソルは、すっかりカイの存在を忘れていた事に苦笑する。
そしてその姿を見て、呆れたように溜息をついた。
「他人の心配をしている暇があるんなら、自分の心配でもしたらどうだ?」
どう見ても、今の自分よりやばい状態にしか見えない。
それでも、ここへ来たと言う事は、下は片付けてきたのだろう。
「坊やにしちゃ、上出来だ」
ニヤリと笑って、ギアを振り返った。
「いつまでも―私を子供扱いしないで貰おうか」
腹立たし気にソルを睨み付け、手にした封雷剣を構える。
二人の射るような視線が、ギアに向けられた。
扉が静かに開かれた。
今まで傍観していた男は、驚いて扉を見遣る。
「そんな…馬鹿な…」
声が震え、明らかに動揺しているのが見て取れた。
招かざる客の登場に、すでに形勢は逆転していた。
「坊や…」
「すまない、遅くなった…大丈夫か?ソル。」
ソルは、すっかりカイの存在を忘れていた事に苦笑する。
そしてその姿を見て、呆れたように溜息をついた。
「他人の心配をしている暇があるんなら、自分の心配でもしたらどうだ?」
どう見ても、今の自分よりやばい状態にしか見えない。
それでも、ここへ来たと言う事は、下は片付けてきたのだろう。
「坊やにしちゃ、上出来だ」
ニヤリと笑って、ギアを振り返った。
「いつまでも―私を子供扱いしないで貰おうか」
腹立たし気にソルを睨み付け、手にした封雷剣を構える。
二人の射るような視線が、ギアに向けられた。
「何をしている!早くこいつらを殺してしまえ!!」
男は狂ったように叫んだ。
気押されたように立ち尽くしていたギアが、その声を合図に地を蹴って襲いかかる。
「上等だ…」
ソルは低く唸ると、大きく跳躍した。
空中で封炎剣とギアの爪が、激しくぶつかりあい火花を散らした。
「ソル!」
カイが叫んで上空を仰いだ時、黒い影が視界の端に入った。
その直後、鋭い痛みが全身を走る。
「ぐ…」
小さく呻いて目線を落し、そこでようやく何が起こったのかを理解する。
ギアの爪が、深々とカイの体に食い込んでいた。
引き抜こうとしたギアの腕を咄嗟に掴み、雷を纏った封雷剣を心臓目掛けて突き立てる。
「ギャアアァァ!!」
ギアは、断末魔を上げ崩れ落ちた。
ドサリと音を立て、カイの足下に転がると、ピクリとも動かなくなる。
動かなくなった事を確認し、大きく息を吐くと、傷の痛みに耐えソルの元へと足を踏み出す。
膝が力を無くし、がくりと屑折れた。
赤い液が、ポタポタと滴り落ちて、血溜りを作る。
ここへ来るまでに、カイの体力と法力は限界にきていた。
それでもカイは歯を食いしばり、力の入らない足を叱咤して立ち上がる。
今のカイを支えているものは、精神力だけだった。
男は狂ったように叫んだ。
気押されたように立ち尽くしていたギアが、その声を合図に地を蹴って襲いかかる。
「上等だ…」
ソルは低く唸ると、大きく跳躍した。
空中で封炎剣とギアの爪が、激しくぶつかりあい火花を散らした。
「ソル!」
カイが叫んで上空を仰いだ時、黒い影が視界の端に入った。
その直後、鋭い痛みが全身を走る。
「ぐ…」
小さく呻いて目線を落し、そこでようやく何が起こったのかを理解する。
ギアの爪が、深々とカイの体に食い込んでいた。
引き抜こうとしたギアの腕を咄嗟に掴み、雷を纏った封雷剣を心臓目掛けて突き立てる。
「ギャアアァァ!!」
ギアは、断末魔を上げ崩れ落ちた。
ドサリと音を立て、カイの足下に転がると、ピクリとも動かなくなる。
動かなくなった事を確認し、大きく息を吐くと、傷の痛みに耐えソルの元へと足を踏み出す。
膝が力を無くし、がくりと屑折れた。
赤い液が、ポタポタと滴り落ちて、血溜りを作る。
ここへ来るまでに、カイの体力と法力は限界にきていた。
それでもカイは歯を食いしばり、力の入らない足を叱咤して立ち上がる。
今のカイを支えているものは、精神力だけだった。
「うおぉ!」
ソルの足が、ギアを地面へたたき落とす。
ギアの体が、堅い床にめり込んでえぐれ、くぼみを作る。
それでも追撃していたソルの攻撃を、ひらりと避けると間合いを取った。
「ちっ」
今までと勝手の違う相手に苛立ち、短く舌打ちする。
自分から攻撃を仕掛けるのは得策じゃねぇな…
そう判断して、ギアを挑発するように笑みを浮かべた。
「どうした?掛かってこいよ…それとも、怖じ気付いたのか?」
ソルの足が、ギアを地面へたたき落とす。
ギアの体が、堅い床にめり込んでえぐれ、くぼみを作る。
それでも追撃していたソルの攻撃を、ひらりと避けると間合いを取った。
「ちっ」
今までと勝手の違う相手に苛立ち、短く舌打ちする。
自分から攻撃を仕掛けるのは得策じゃねぇな…
そう判断して、ギアを挑発するように笑みを浮かべた。
「どうした?掛かってこいよ…それとも、怖じ気付いたのか?」
「ギャアアァァ!!」
ギアの断末魔が響き渡った。
ソルと対峙していたギアは、数での不利を悟り、辺りに素早く目を走らせる。
「さぁ、てめぇの番だ」
ソルの低い声が、死刑宣告のように突き付けられる。
ギアはソルから視線を外さずに、じりじりと移動すると大きな口を開け、勝ち誇ったように
ニタリと笑った。
ギアの断末魔が響き渡った。
ソルと対峙していたギアは、数での不利を悟り、辺りに素早く目を走らせる。
「さぁ、てめぇの番だ」
ソルの低い声が、死刑宣告のように突き付けられる。
ギアはソルから視線を外さずに、じりじりと移動すると大きな口を開け、勝ち誇ったように
ニタリと笑った。
それは、一瞬の出来事だった。
よろよろと、立ち上がったカイに向かって、ギアが飛び掛かる。
立つだけで精一杯のカイに、容赦のない一撃が入った。
「か…はっ!」
まるで、スローモーションを見ているように、カイの体が倒れていく―
「カイ!!」
カイの元へとソルが走る。
次の瞬間、崩れ落ちるカイがソルを見た。
その視線にソルは気付く。
それは一瞬の出来事だった。
カイは、最後に残された力で手を伸ばし、ギアの体を組み止めた。
動きを封じられる形となったギアは焦り、カイの息の根を止めようと、手を大きく振りかざす。
しかし、その手が振り下ろされる事はなかった。
振り下ろされる―
その一瞬前にソルの封炎剣が、ギアの腕と首を切り落としたためだ。
ギアは鮮血をまき散らしながら倒れ、ビクビクと何回か痙攣した後、動きを止めた。
支えを失って、カイもガクリと膝をつく。
よろよろと、立ち上がったカイに向かって、ギアが飛び掛かる。
立つだけで精一杯のカイに、容赦のない一撃が入った。
「か…はっ!」
まるで、スローモーションを見ているように、カイの体が倒れていく―
「カイ!!」
カイの元へとソルが走る。
次の瞬間、崩れ落ちるカイがソルを見た。
その視線にソルは気付く。
それは一瞬の出来事だった。
カイは、最後に残された力で手を伸ばし、ギアの体を組み止めた。
動きを封じられる形となったギアは焦り、カイの息の根を止めようと、手を大きく振りかざす。
しかし、その手が振り下ろされる事はなかった。
振り下ろされる―
その一瞬前にソルの封炎剣が、ギアの腕と首を切り落としたためだ。
ギアは鮮血をまき散らしながら倒れ、ビクビクと何回か痙攣した後、動きを止めた。
支えを失って、カイもガクリと膝をつく。
護衛を失った所長は、すべてのデータが入ったトランクを手に、専用のエレベータへと走った。
「野郎…!」
追い掛けようとして、ふと立ち止まり、カイに視線を落す。
カイはソルを見上げて、無言のまま頷いた。
「…」
ソルも、何も言わずに走り出す。
ガシャァァン。
ガラスの砕け散る音を残し、ソルの姿はカイの視界から消えた。
「野郎…!」
追い掛けようとして、ふと立ち止まり、カイに視線を落す。
カイはソルを見上げて、無言のまま頷いた。
「…」
ソルも、何も言わずに走り出す。
ガシャァァン。
ガラスの砕け散る音を残し、ソルの姿はカイの視界から消えた。
鈍い地響きと共に、その周辺は土煙で完全に視界がきかない状態になった。
やがて土煙が収まると、その中からゆらりと一つの影が現れる。
そこへちょうど推し量ったように、男が走り出てきた。
男は目前にソルの姿を捕らえ、驚愕に顔を引きつらせて立ち止まった。
ソルは無表情のまま、男に向かって歩き始める。
男は気押され、じりじりと後ずさる。
男の頬を冷汗が伝い、血の気を失って白い肌が青白くなっていた。
ソルの手が男を捕らえて、胸元を締め上げる。
男は、恐怖に凍り付いたままソルを見た。
ゴクリと喉が鳴って、生唾を飲み込む。
「もう逃げられねぇぜ?覚悟を決めるんだな…」
ソルの金色に光る眼が、男から完全に動きを奪う。
まさに、ヘビに睨まれた蛙のごとく男は動かなかった。否、動けなかった。
ゆっくりと封炎剣が男に向けられる。
(殺される!)
男は堪らず目を閉じた。
剣が振り下ろされて風が起こり、封炎剣は男の頭上でピタリと止まった。
「ヒッ!」
上ずった悲鳴を上げ、よろめいて倒れそうになる男を、腕一本で支えてソルが静かに
呟いた。
「坊やに感謝するんだな…」
その言葉に男はようやく目を開けてソルを見た。
ほっと胸をなでおろす。助かった!
そう男が思った瞬間、鈍い痛みに襲われて意識が闇に沈んだ。
「バカな奴だ」
男の鳩尾に入った拳を振り解きながら、ソルは言葉を吐き捨てた。
やがて土煙が収まると、その中からゆらりと一つの影が現れる。
そこへちょうど推し量ったように、男が走り出てきた。
男は目前にソルの姿を捕らえ、驚愕に顔を引きつらせて立ち止まった。
ソルは無表情のまま、男に向かって歩き始める。
男は気押され、じりじりと後ずさる。
男の頬を冷汗が伝い、血の気を失って白い肌が青白くなっていた。
ソルの手が男を捕らえて、胸元を締め上げる。
男は、恐怖に凍り付いたままソルを見た。
ゴクリと喉が鳴って、生唾を飲み込む。
「もう逃げられねぇぜ?覚悟を決めるんだな…」
ソルの金色に光る眼が、男から完全に動きを奪う。
まさに、ヘビに睨まれた蛙のごとく男は動かなかった。否、動けなかった。
ゆっくりと封炎剣が男に向けられる。
(殺される!)
男は堪らず目を閉じた。
剣が振り下ろされて風が起こり、封炎剣は男の頭上でピタリと止まった。
「ヒッ!」
上ずった悲鳴を上げ、よろめいて倒れそうになる男を、腕一本で支えてソルが静かに
呟いた。
「坊やに感謝するんだな…」
その言葉に男はようやく目を開けてソルを見た。
ほっと胸をなでおろす。助かった!
そう男が思った瞬間、鈍い痛みに襲われて意識が闇に沈んだ。
「バカな奴だ」
男の鳩尾に入った拳を振り解きながら、ソルは言葉を吐き捨てた。
「ソ…ル」
止血はしていたが傷口までは塞がっておらず、いつ血が溢れるか分からない状態のまま、ふらつきながらカイが姿を見せた。
「安心しろ…死んじゃいねぇ」
それだけ言うと、ソルは歩き始めた。
後ろ姿が小さくなり、やがて森の中へと消えていくのを見送って、カイは気を失い
倒れている男に視線を移す。
(ソルが殺さずにいてくれたのは、私に花を持たせたのだろうか?)
「……………ぷっ」
そう考えたとたん、ソルらしくない行動におかしくなって、吹き出したカイは笑い転げた。
傷口が痛い。別の意味で涙を流しながら、なんとか笑うのを押さえる。
止血はしていたが傷口までは塞がっておらず、いつ血が溢れるか分からない状態のまま、ふらつきながらカイが姿を見せた。
「安心しろ…死んじゃいねぇ」
それだけ言うと、ソルは歩き始めた。
後ろ姿が小さくなり、やがて森の中へと消えていくのを見送って、カイは気を失い
倒れている男に視線を移す。
(ソルが殺さずにいてくれたのは、私に花を持たせたのだろうか?)
「……………ぷっ」
そう考えたとたん、ソルらしくない行動におかしくなって、吹き出したカイは笑い転げた。
傷口が痛い。別の意味で涙を流しながら、なんとか笑うのを押さえる。
ポケットを探ってメダルを取り出し、恐らくこのメダルの向こうで自分を心配している
であろうベルナルドを呼び出した。
巴里とでは時差があったが、ベルナルドはすぐに出た。
心配をさせた事に胸が痛む。
「ご無事でなによりです」
巴里を出てまだ3日しか経って無いと言うのに、彼の声が懐かしく感じる。
「全て片付きました。今日はゆっくり休んで下さい。」
「そうさせていただきますかな。」
「相変わらずのようですね」
「いえいえ、これでも2キロも痩せてしまいましてな。それでは早くのご帰還をお待ちしております」
ベルナルドの相変わらずの調子に、肝心な事を言い逃しそうになって、カイは慌てて付け足した。
「すいませんが、迎えを寄越してください。土産物が重くて運べないんですよ。」
「分かりました、すぐに用意させましょう」
「それでは―」
カイは合流ポイントを伝え、通信を切った。
ふぅと息を吐き一息つくと、まだ気絶中の男を拘束して、迎えが来るまでのつかの間の
休息を取るために腰を下ろす。
すでに辺りは闇に包まれ、頭上では星が美しく瞬く。
時が止まっているかのような静けさの中、カイは自然のプラネタリウムを楽しんだ。
であろうベルナルドを呼び出した。
巴里とでは時差があったが、ベルナルドはすぐに出た。
心配をさせた事に胸が痛む。
「ご無事でなによりです」
巴里を出てまだ3日しか経って無いと言うのに、彼の声が懐かしく感じる。
「全て片付きました。今日はゆっくり休んで下さい。」
「そうさせていただきますかな。」
「相変わらずのようですね」
「いえいえ、これでも2キロも痩せてしまいましてな。それでは早くのご帰還をお待ちしております」
ベルナルドの相変わらずの調子に、肝心な事を言い逃しそうになって、カイは慌てて付け足した。
「すいませんが、迎えを寄越してください。土産物が重くて運べないんですよ。」
「分かりました、すぐに用意させましょう」
「それでは―」
カイは合流ポイントを伝え、通信を切った。
ふぅと息を吐き一息つくと、まだ気絶中の男を拘束して、迎えが来るまでのつかの間の
休息を取るために腰を下ろす。
すでに辺りは闇に包まれ、頭上では星が美しく瞬く。
時が止まっているかのような静けさの中、カイは自然のプラネタリウムを楽しんだ。
「さぁ、行きましょうか?」
轟音と共に飛空挺が黒い姿を現して、風を巻き上げながら下りてくる。
カイに促され、男はがくりと項垂れて立ち上がると、覚悟を決めたのか飛空挺へと
歩きだした。
男の後ろを歩きながら、躊躇したように振り返る。
少しの間、暗闇に浮かび上がる忌わしき建物を見上げていたカイだったが、
その後飛空挺へと消えていった。
轟音と共に飛空挺が黒い姿を現して、風を巻き上げながら下りてくる。
カイに促され、男はがくりと項垂れて立ち上がると、覚悟を決めたのか飛空挺へと
歩きだした。
男の後ろを歩きながら、躊躇したように振り返る。
少しの間、暗闇に浮かび上がる忌わしき建物を見上げていたカイだったが、
その後飛空挺へと消えていった。