すまん長くなった。分割して投稿。
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勝負に際して、あまりの過酷な内容のため、特別ルールが設けられた。
インラインスケート以外にピックル等の登山道具の使用許可、
中間チェックポイントにおいての物資補給の許可、
そして山の中ならどこででも休憩は自由。
選手は、その中間チェックポイントさえ通れば、他のコース取りは自由とされた。
とは言え、標高1000メートルという高所、夏もこれからという時期の直射日光、
そしてインラインスケートという山道には不向きすぎる足かせ。
これらを考慮すれば、道具は最低限に留めるほうが賢明、
まずは中間ポイントまで確実にたどり着き、補給を受けて山頂を目指す、というのが無難なプランだろう。
大方の予想通り、メルラン、リリーブラック双方とも、ピックルとスケート以外はほとんどいつも通りの格好。
幻想郷の山は綺麗だから、水場にさえ行き着けば水分補給もそこでできるという前提での装備だ。
インラインスケート以外にピックル等の登山道具の使用許可、
中間チェックポイントにおいての物資補給の許可、
そして山の中ならどこででも休憩は自由。
選手は、その中間チェックポイントさえ通れば、他のコース取りは自由とされた。
とは言え、標高1000メートルという高所、夏もこれからという時期の直射日光、
そしてインラインスケートという山道には不向きすぎる足かせ。
これらを考慮すれば、道具は最低限に留めるほうが賢明、
まずは中間ポイントまで確実にたどり着き、補給を受けて山頂を目指す、というのが無難なプランだろう。
大方の予想通り、メルラン、リリーブラック双方とも、ピックルとスケート以外はほとんどいつも通りの格好。
幻想郷の山は綺麗だから、水場にさえ行き着けば水分補給もそこでできるという前提での装備だ。
審判長ヤマザナドゥの号令の元、両者同時にスタート。
ここで、いきなりメルランが仕掛けた。
傾斜の少ない、山道に入る前の直線で思い切り加速をつけて、その勢いのままで山へと踏み入っていったのだ。
それだけではない、自らの能力で躁の音楽を高らかに響かせ、
それによって増幅させた躁の感情の勢いのまま、足の向くまま音の向くままに山道を一気に駆け上がっていった。
それに対して、リリーブラックは地道に山を歩いて登っていく。
やはりこの勝負メルランの勝ちか。上空から高見の見物決め込んでるギャラリーも、その時はそう思っていた。
ここで、いきなりメルランが仕掛けた。
傾斜の少ない、山道に入る前の直線で思い切り加速をつけて、その勢いのままで山へと踏み入っていったのだ。
それだけではない、自らの能力で躁の音楽を高らかに響かせ、
それによって増幅させた躁の感情の勢いのまま、足の向くまま音の向くままに山道を一気に駆け上がっていった。
それに対して、リリーブラックは地道に山を歩いて登っていく。
やはりこの勝負メルランの勝ちか。上空から高見の見物決め込んでるギャラリーも、その時はそう思っていた。
300メートル地点で、リリーブラックがメルランを追い抜いた。
流石のメルランと言えど、ダッシュで1000メートル登りきれるわけがなかった。
ましてスケート。メルランはこの時点で、何度も転んだり崖から落ちかけたりしてボロボロ、息もかなり上がっている。
だが、対するリリーも、決して楽なわけではない。
繰り返すが、インラインスケートでの登山だ。これは既に、完走を前提にさえしていない。
たったこれだけの距離で、両者は既に疲労に蝕まれている。
ましてスケート。メルランはこの時点で、何度も転んだり崖から落ちかけたりしてボロボロ、息もかなり上がっている。
だが、対するリリーも、決して楽なわけではない。
繰り返すが、インラインスケートでの登山だ。これは既に、完走を前提にさえしていない。
たったこれだけの距離で、両者は既に疲労に蝕まれている。
だが。
「……」
地道ながらも。
「……だ」
リリーブラックのペースが、落ちない。
「……だ」
「……る、だ」
「はる、だ」
「……春だ、春だ、春、だぞ……」
「……」
地道ながらも。
「……だ」
リリーブラックのペースが、落ちない。
「……だ」
「……る、だ」
「はる、だ」
「……春だ、春だ、春、だぞ……」
リリーは春告精だ。それはブラックであろうと変わらない。そして、今は夏だ。暦の上では。
だが、現在、リリーブラックが向かっているのは、山頂1000メートル。
温暖化の憂き目に会っていない幻想郷において、山の頂上にはまだ、微かながらに春が残っていた。
だから、リリーブラックはそこを目指す。
春がある場所へ、春を告げに。
だが、現在、リリーブラックが向かっているのは、山頂1000メートル。
温暖化の憂き目に会っていない幻想郷において、山の頂上にはまだ、微かながらに春が残っていた。
だから、リリーブラックはそこを目指す。
春がある場所へ、春を告げに。
「頑張って、リリーブラックちゃん。あと半分だよ!」
同じ妖精のよしみで、チェックポイントでは大妖精に待ってもらっていた。
大妖精お手製のサンドイッチをよく噛んで消化し、リリーブラックは思う。
あと半分も、あるのか。
上等だ、どこまでも行ってやる。
そこに、春が待っているのだから。
同じ妖精のよしみで、チェックポイントでは大妖精に待ってもらっていた。
大妖精お手製のサンドイッチをよく噛んで消化し、リリーブラックは思う。
あと半分も、あるのか。
上等だ、どこまでも行ってやる。
そこに、春が待っているのだから。
リリーブラックは歩き続けた。
慣れないスケートに、何度も膝を擦りむき。
自然と共に生きる妖精の感覚を頼りに、適切な山道を選び。
そして、何よりも微かな春の気配を頼りに――
慣れないスケートに、何度も膝を擦りむき。
自然と共に生きる妖精の感覚を頼りに、適切な山道を選び。
そして、何よりも微かな春の気配を頼りに――
そうして、足どころが全身の感覚が怪しくなってきた頃に、
ようやく、頂上が目で見える距離までたどり着いた。
もう少しだ、
もう少しだ、
もう少しで、春がある場所に――
――背後から。
あと、少しだったのに。
ようやく、頂上が目で見える距離までたどり着いた。
もう少しだ、
もう少しだ、
もう少しで、春がある場所に――
――背後から。
あと、少しだったのに。
――ぱらりらぱらりらー!!
振り返る余裕さえありはしなかった。
ゆっくりと歩を進めていたリリーをあざ笑うかのように。
メルラン・プリズムリバーが、一気にリリーブラックを追い抜いていった。
ゆっくりと歩を進めていたリリーをあざ笑うかのように。
メルラン・プリズムリバーが、一気にリリーブラックを追い抜いていった。
こうなったのにも理由があった。中間チェックポイントでの、リリカ・プリズムリバーによる補給だ。
リリカがそっとメルランに渡したのは、スピリタス。純度96%を誇るアルコールは、飲んだ者に、体内に火がついたかのような錯覚をも誘発する。
――元より、メルランの力はプリズムリバーの中でも最強。
それがスピリタスを煽ることで、一気に火がつき――
リリカがそっとメルランに渡したのは、スピリタス。純度96%を誇るアルコールは、飲んだ者に、体内に火がついたかのような錯覚をも誘発する。
――元より、メルランの力はプリズムリバーの中でも最強。
それがスピリタスを煽ることで、一気に火がつき――
そして、リリーブラックの目指す先、ほとんど目の前で、メルランがゴールラインのテープを切った。
アルコールの回った頭で、歓喜の音楽を振りまくメルラン。
その音楽に誘発され、周囲の自然が活性化を始める。陽光は温度を増し、風は上昇気流を促し、木々は青々と茂り始める。
ようやくゴールしたリリーブラックは、その光景を、目の当たりにした。
その音楽に誘発され、周囲の自然が活性化を始める。陽光は温度を増し、風は上昇気流を促し、木々は青々と茂り始める。
ようやくゴールしたリリーブラックは、その光景を、目の当たりにした。
ああ。
春が終わり、夏が始まる。
春が終わり、夏が始まる。
汗と泥で汚れきったリリーブラックを、そっと抱きしめる者がいた。
先に頂上で待っていた、リリーホワイトだ。
リリーブラックは顔をそむけた。負けた自分、春を告げられなかった自分は、酷く格好悪いと思ったからだ。
だが、リリーホワイトは首を振り、抱きしめる力を強くした。
そんなことはない、あなたはやったのだ。
ここに、確かに春はあったのだから。
先に頂上で待っていた、リリーホワイトだ。
リリーブラックは顔をそむけた。負けた自分、春を告げられなかった自分は、酷く格好悪いと思ったからだ。
だが、リリーホワイトは首を振り、抱きしめる力を強くした。
そんなことはない、あなたはやったのだ。
ここに、確かに春はあったのだから。
健闘を称え、観客からは惜しみの無い拍手が注がれていた。