悪魔の巣 ◆30RBj585Is
閻魔は紅の悪魔と契約を交わした。
悪魔との契約には代償が付き物。それを閻魔は一人で全て担う形となった。
最初に支払うべき代償は
「なるほどね。あなたには今二人の仲間がいて、そいつらは館の見回りを担当していた。
名前は
リリカ・プリズムリバーと黒谷ヤマメ。今はあなたに代わって正門の監視をしている、と。
間違いは無いかしら?」
映姫はまず、レミリアに仲間の存在と現在の状況を説明した。
そしてレミリアはその情報を受け、質問を返した。
「ええ。ですが、彼女たちは私に命じられて行っただけのこと。あなたに代償を支払う義務はありません」
「分かっているよ。私達は条件をそろえてくれればいいのだから。ただし、早急に頼むけどね」
映姫はあくまでも一人で条件をこなすつもりらしい。
仲間に手伝ってもらえと言ってもよかったのだが、相手にもそれなりの事情があるものだ。
そう思い、レミリアはこれ以上の指図はしない。
その横で
「あの・・・ね、閻魔さま!ヤマメちゃんがいるって、ほんとう?」
と、キスメが首を突っ込んできた。
普段の彼女は内気な性格ゆえに、どんな相手に対しても人見知りをするのだが、友人のことが話題になっているというならば、聞かずにはいられないだろう。
「ええ。失礼ですが、あなたは彼女とは面識があったのですか?」
そのキスメの様子を疑問に思った映姫もすかさず質問をした。
「ああ、この子ね、そのヤマメという土蜘蛛とは友人なのよ。ねぇキスメ、そうでしょう?」
「うん!早く会いたいな・・・」
見た目の印象とは真逆な明るい笑顔のキスメ。それはとても、地下に住む忌み嫌われし妖怪には見えない。
情報交換(ほとんど一方的だが)を終えた3人は一旦、二階のテラスに移動した。ここからは正門の様子が手に取るように見えるとのこと。
「私はこれから罠の撤去および要求された物資を調達しなければなりません。
ですから、私の代わりにあなたたちには正門を見張っていただきます」
しばらくの間、映姫は監視につくことができない。よって、自分の代わりを立てる必要がある。
テラスに移動したのはそのためだ。
「あら、あなたの仲間がやってくれるんじゃあなかったの?私達は館の中を調べたかったのだけど」
ただ、レミリアはやや不満に思っている。
自分の住処にも関わらず、自由に行き来できないのだから無理も無いだろう。
「申し訳ありませんが、我慢をお願いします。
あなた達は私達が仕掛けた罠の場所や構造を知らないでしょう。
中には生命に関わるものも存在するのです。罠にかかってもそれでも進もうとする者が掛かる仕組みになっています。ですから・・・」
「ならさっさとそいつを片付けなさい。薄汚い蜘蛛の巣が張った館なんて考えたくも無いわ」
小さな体に似つかぬ威圧感を持つ吸血鬼。ただ、そんな彼女も根は外見相応のわがままなようだ。
そんな彼女を見ながら映姫はため息をつき、作業へと戻っていった。
レミリアたちをテラスに残した後、映姫は携帯電話で連絡をすることにした。
契約という形に近いものの、レミリアと同盟関係を結んだということを伝えるためだ。
レミリアはリリカを威嚇したと言った。少なくとも彼女はこれで混乱しているだろう。そんな状態でレミリアと接触させるわけにはいかない。
そう思い、電話をつないだのだが・・・
「・・・おかしい。出ませんね」
繋がってはいる。ただし、それから出ようとはしない。
これは一体どういうことだろうか?
あまりの恐怖で電話に出ることすら考えられないのだろうか。そう考えていると
『ただいま、電話に出ることが出来ません。ピーッと鳴ったら、お名前とご用件をお話ください』
と言う声が聞こえた。
声は二人のものではない。とうことは、これは説明書で書かれてある留守番電話という機能だろう。
なるほど。これならば相手が出なくてもメッセージを伝えることが出来る。
向こうの用件を聞けないのは残念だが、このまま何もしないよりはましだろう。
そう思い
「リリカさん、ヤマメさん。私、映姫です。
紅魔館の主、
レミリア・スカーレットが館に入りました。
ですが、交渉の結果、同盟関係を結ぶことが出来ました。彼女は現在、二階のテラスで正門の監視をしていますが、見つけても慌てないように。
また、彼女はキスメという名の妖怪と同行しているとの事。彼女はヤマメさんの友人と言っていますが、ヤマメさんは彼女を知っていますか?
なお、私は現在、レミリアさんの要求により一階に仕掛けた罠を撤去しています。これが彼女と同盟関係を結ぶ条件の一つですが、不満があるようでしたら遠慮せずに私に申し出てください。
あなた達は館の見回りに戻ってください。ただし、テラスに近づくのは控えるように。
彼女を信用していないわけではありませんが、私抜きで対面して混乱を招く可能性があることを考えてのことです。
以上で私が伝えたいことは言いました。罠を撤去後、また電話を掛け直しますが、その前にこのメッセージの存在を知ったならば、連絡をお願いします」
分かりやすく、はっきりと伝えた。
ただし、向こうの状況が分からないため、これだけで充分とは思わない。やはり確実なのは直接自分から二人に会って伝えることだろう。
それにしても、連絡を絶つなんて、二人は何をしているのか。
突然現れたレミリアに恐怖を抱いて何も出来ないのだろうか?
もしそうだとしたら、そのレミリアと接触している自分に無事かどうかの心配する電話を入れてもいいと思うのだが・・・
―――時は若干進む
その頃には、映姫は二階に仕掛けた罠を全て撤去した。少なくとも、これで二階ならば自由に動き回ることが出来るだろう。
もっとも、この階は元々大した量の罠は仕掛けていない。侵入者は二階へ来る前に一階で身動きが取れなくなることを前提としているためだ。だから、メインは一階にある。
映姫はこのことをレミリアに伝えるために、彼女のいるテラスに戻った。
突然の来客とはいえこの館の持ち主でもあるため、何の連絡も無しに待たせるのも失礼だろうと思ったからだ。
「二階はこれで終わりでしょう。少なくとも、この階だけなら動いても心配はないと思います」
「へぇ、以外に早かったわね。咲夜並み、もしくはそれ以上に手際がいいのね」
映姫が作業に戻ってからまだ大した時間は過ぎていない。その速さにレミリアは感心しているようだ。
「元々、この階には大した罠はありません。多くは一階に仕掛けていますから。
紅魔館は悪魔の住処。進入したら最後、進むことも退くことも許されず死の運命を待つのみ。
少なくとも、そのように再現したつもりです。偽の建物だったとはいえ、この世界に不可欠な本物の存在は尊重したいと思っていましたから」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃないの」
悪魔は人妖にとって、恐怖の象徴だ。それの住処があるとなると、いかなる者でも立ち入ろうとは思わない。
このように、万物に恐怖を与えること。それが悪魔の正当な生き方だ。
いかなる生物にもそれに合った生き方をする。それが世界のバランスを保つことにつながり、これが閻魔の言う善行にあたる。
映姫が紅魔館に罠を仕掛けたのは、侵入者を防ぐ他にも悪魔にとっての善行そのものを表していたのだ。
それなのに
「妖怪にすら恐れられる死の館は、全世界を恐怖に陥れる。それなのに、あなたはこの館に客を招きすぎている。そして、その客は何事も無く帰っている。
悪魔の住処に入っておきながら無事に帰れることなどあってはならぬこと。これはどういうことですか。こんなことで人妖が紅魔館を恐れると思っているのですか。
悪魔にはあってはならぬ出来事ですよ。それなのに、あなたは・・・」
閻魔である自分はともかく、リリカやヤマメといった低級の妖怪や霊までも躊躇無く簡単に出入りしている。これでは、もはや悪魔の住処とは言えない。
映姫は仲間二人と出会った時から思っていたことをくどくどとレミリアに言いつける。その光景はまるでいつもの閻魔の説教だ。
「はぁ~あ。やっぱり始まったわね、噂に聞く説教が。今はそんな無駄話はいいでしょう?
それに、私は招き入れているのはあくまでも私が客とみなした相手だけであって、部外者のネズミどもには侵入すら許しちゃいないから。勝手に変なことを言ってほしくないわ」
そんな説教を、レミリアは聴く耳持たないと言いたげな呆れた顔で中断させ、くるっと背を見せる。
「それよりも、まだ罠は全て撤去していないんでしょ?だったらそいつも全て片付けなさい。
口うるさい説教なんてその後にでも言えばいいわ。もっとも、無駄話は聞く耳はないけどね」
そしてそのままテラスへと戻り、正門の監視を再開した。ここまで閻魔の話を堂々と無視できる者はそうはいないだろう。
「全く、あなたという人は・・・。いずれ罰を受けても知りませんよ」
そんなレミリアの様子を見た映姫は、これ以上は時間の無駄だと思い諦めた。
彼女の言うとおり、殺し合いの場においてはそれとは関係の無い長話は今はするべきではないこともあるが、ああいう輩にはこのまま何を言っても無駄だと思ったからだ。話をすぐに忘れる夜雀や氷の妖精とは次元が違うのだ。
結局、映姫はレミリアに対してはこれ以上の話をせずにまた作業場へと戻った。
そのため、テラスにはまたしても少女が二人だけ残されている。
「やれやれ、口うるさい閻魔が仕事に戻ったとはいえ、暇よねぇ」
「うー、むつかしくて分かんなかった・・・」
「あんな長話なんて聞かなくてもいいのよ」
説教をする相手がいなくなったとはいえ、その次に訪れるのは暇という名の雰囲気。
レミリアとキスメは特にこれといった会話もせず、ただずーっと正門を見つめていた。
「ところでキスメ。あなたはずーっと外を見ていたようだけど、誰か見つけたかしら?」
レミリアは無理矢理にでも話を続けようと思い、キスメに質問をした。
特にこれに目的は無い。どうせ、この館に入ろうとする愚か者なぞいやしないのだから。
「ううん、誰も・・・」
「そうよねぇ。なんたって、私が今まで守ってきた砦なんだから」
予想通りだ。レミリアはニッと微笑む。
「へぇー、レミお姉ちゃんってすごいんだね!こんなにおっきいお城をずーっと守ってきてるんだもの」
ただキスメにとっては想像もつかなかった妖怪のいげんっぷりだったので、歓喜しているようだ。
そんな彼女の様子を見て、あることを思いついた。
「フフ、凄いのは当然のことよ。なんたって、悪魔の住処なんだから。
本来なら、いかなる者共もお断りすべきなんだけど・・・特別に館の中を見せてあげてもいいわよ?」
「ほんと!?・・・あ。でも、見張りは・・・」
「そんなのやる必要は無いわ。紅魔館に近づく輩などいやしない。そのことは私が一番知っている。だから、監視なんてやる必要は無いのよ」
自慢げにいうレミリア。その表情には一点の曇りすら感じられない。
これにキスメは何だか勇気付けられている気がして、
「うん・・・そうだね!レミお姉ちゃんの言うとおり!」
無邪気な笑顔を浮かべながら、誘いに乗った。
そんなキスメの返事を受け、レミリアはニッと笑い
「さ、そうと分かれば探検よ。ちょうど暇つぶしにもなるでしょうし、あの閻魔の仲間の顔も見てみたいところね」
「うん!」
キスメを連れて、テラスから姿を消した。
【C-2 紅魔館(二階のどこか)・一日目 早朝】
【レミリア・スカーレット】
[状態]健康
[装備]霧雨の剣
[道具]支給品一式
[思考・状況]慢心気分。キスメを案内する
[行動方針]基本方針:永琳を痛めつける
1. 映姫に雑用を任せる。
2. 永琳の言いなりになる気はない。
3. 霊夢と咲夜を見つけて保護する
4. フランを探して隔離する
5.上記の行動の妨げにならない程度に桶を探す
※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。
【キスメ】
[状態]健康
[装備]なし
[道具]支給品一式 不明アイテム(0~2)
[思考・状況]レミお姉ちゃんについていく。レミお姉ちゃんみたいにいげんする
[行動方針]桶を探す
※殺し合いが起きていることを理解してません。
レミリアたちがテラスから去ってしばらくした頃、映姫は・・・
「やれやれ、流石に私一人だと全ての撤去は骨が折れますね」
そう言うものの、それでも一階に仕掛けた罠はだいぶ片付き、映姫は一息つく。
思えば、レミリアと交渉をしてからはずっと働きっぱなしだ。流石にそろそろ体に疲労がきているし、休むことも考えるべきだろう。
そう思い、玄関付近にある、扉の壁代わりとなっていた家具の一つであるイスに座り込む。
その時
(・・・ん?)
映姫はふとホールの方を見る。
「・・・気のせいでしょうか。何らかの気配を感じたような気がしましたが」
周囲には自分以外に誰もいない。ホールの方も、特にこれといった不審な部分は見られない。
そう思った映姫は
「・・・疲れの所為でしょうか。少し、神経質になりすぎたようですね」
特に気にすることなく、そのまま休憩に入った。
何せ、今は罠という蜘蛛の糸がほぼ取り除かれているのだ。その分、神経質になるのも無理はない。
ただ、今の正門はレミリアが見張っている。その彼女がここに来ない以上、侵入者がいることは無いはず。
窓をぶち破って入ったところで、音で分かる。自分に聞こえなくてもこちらには音の専門家である騒霊のリリカもいるのだから。
蜘蛛の巣を払ったところで侵入者が居るかどうかの判決の行方に影響はない。
少なくとも、映姫はそう思っている。
「・・・それにしても、ヤマメさんもリリカさんも未だ連絡をよこさず。何をやっているんでしょうか」
唯一の気がかりは、二人が連絡を入れないこと。
そのため、映姫は再度こちらから用件を伝えるために携帯電話を手に取った。
【C‐2 紅魔館一階ホール・一日目 早朝】
【
四季映姫・ヤマザナドゥ】
[状態]疲労
[装備]携帯電話
[道具]支給品一式
[思考・状況]紅魔館に篭城し、解決策を練る。
1.レミリアに従っていい範囲までは従う
「やれやれ、何なんだいここは。広すぎて迷っちまうじゃないか」
神奈子は守屋神社でメルランを殺害した後、次なる獲物を求めてさまよっていた。
そのためには人が集まりそうな場所に行くのがいいだろう。そう思った彼女が第一の目的地とした場所が
「地図が正しければ、これが紅魔館ね。イメージどおりの広さといったところか」
そう、悪魔の住処である紅魔館だ。
そして現在、神奈子は館の二階にいる。道に迷いそうになったものの、特にこれといったトラブルも無くここまで辿りつく事が出来た。
ここに来るまで、神奈子は誰も見つけられなかった。だが、誰かが館内に居るのは分かる。
何故なら、玄関には大量の家具が散らばっていた。普通では考えられない光景なので、何者かが手を加えたものとしか思えない。
しかも、あれだけの量の家具を短時間で積むことは一人で出来るとは考えられない。複数の人物が居る可能性があるのだ。
状況だけでいえばこっちは一人に対し、向こうは複数で何人いるのか分からないという不利な状況だ。
だが、今のところは逃げる気はない。殺し合いに乗る以上は多少の危険は許容範囲だし、無茶をしなければいい。
それにここは隠れる場所が多い。不意打ちなり暗殺なり出来ることはあるだろう。
このことを頭にいれ、神奈子はひっそりと館内を歩んだ。
神奈子が持つ緋想の剣が不気味に光る。
それは、まるで血の雨が降るのを予報しているかのような輝きだった。
【C-2 紅魔館(二階のどこか)・一日目 早朝】
【八坂神奈子】
[状態]健康
[装備]緋想の剣
[道具]支給品一式×2 不明支給品(1~5)
[思考・状況]基本方針:東風谷早苗のために全てを駆逐する
1.殺しには手段を問わない
2.諏訪子と戦うことになっても構わない
※メルランが持っていたスキマ袋は回収しています。
戦に望まんとすれば、まず己を知れ。よって、中身も見ているでしょう。
ところで、紅魔館は厳重な警備と罠が張っていたのではないのか?
答えは否。
なぜなら、神奈子が紅魔館に来たのはレミリアがテラスから離れてしばらくした後だ。
しかも、その頃には一階にいた映姫は仕掛けた罠を取り除いている最中だった。
これらの要素が同時に成り立っている状況では館に忍び込むことは容易いはずである。
いや、それも少し違う。
紅魔館は悪魔の住処。すなわち、恐怖の象徴だ。
幻想郷にいる大抵の者は近づこうとは思わないだろう。
だが、神奈子を含む守屋神社に住む3人は紅魔館のことを知らない。
何故なら、彼女たちは幻想郷に来て1年少ししか経っていない。たった1年くらいでは幻想郷の常識を全て知ることは出来ないのだ。
いや、1年もあれば紅魔館の事を理解しようと思えば出来るはず。
そうならなかったのは・・・何故だろうか。
最終更新:2009年06月28日 01:59