So why?

So why? ◆Ok1sMSayUQ




 広大な魔法の森はどこまでも同じような風景で、木々の醸し出す湿った匂いと合わせて隠微な雰囲気を露にしていた。
 そんな中に紅美鈴とたった二人、取り残されているのは何だか恐ろしいことのような気がして、秋静葉は我知らず美鈴の側に寄っていた。
 つい先ほど怪しげな妖怪の口から死者、即ちもういなくなってしまったモノの名が告げられたというのに、一向に恐怖心は沸かない。
 寧ろこの魔法の森が怖いと思ってさえいた。

 不謹慎なのかもしれない。だが静葉からしてみればこれまで一度だって戦闘に巻き込まれたことはないし、死の実感なんて分からない。
 知り合いの神、鍵山雛の名前はあった。だがあの天真爛漫で陽気な雛がいなくなってしまったとは信じられない。
 そう、今もどこかで厄を集めていて、ひょいっとどこかから現れそうな気がしてならなかったのだ。

 だから静葉は落ち込む美鈴に対して言葉をかける術を持てなかった。喪失の痛みを知りようもない自分が、何を語れるというのか。
 死は自分の管轄外だという皮肉な認識が思い当たる。八百万の神とはこんなにも残酷であったか。
 しかし下手な口を出して美鈴に嫌な顔をされるのも見たくはなかった。

 季節を巡り、節目節目に生きる四季の神は、同時にその現れる時期の特異性がゆえに知り合いは極めて少ない。
 信仰の対象は徐々に豊穣の神へと移り変わってきてはいるものの、それでも静葉とて一介の神。
 畏れ、敬われる静葉には友達と呼べる存在はさらに限られる。自身の内向的な性格を思えば尚更だ。
 だから、怖かった。自分のことを敬いながらも実直に接してくれた美鈴に嫌な思いはさせたくなかったのだ。
 そうであるからこそ雛の死を信じられないのかもしれない。雛は静葉が笑いかけられた、数少ない仲間だったのだから……

「あ、れ」

 つぅ、と雫が頬を伝い、流れ落ちてゆく。茫然自失とした思いで顔に手を当ててみると液体の感触が手を通して染み込んでくる。
 泣いている。そんな自分に気付き、どうしてという疑問ともう止まらないという予感だけが頭を過ぎった。
 美鈴が異変に気付いたのか、すぐさま顔を覗きこんでくる。大丈夫と言おうとしたが、唇が震えて喉で詰まる。

 代わりに出てきたのは短い嗚咽だった。ひどく情けない、掠れた声が切れ切れに放たれている。
 その度に雛の仕草、表情、声が鮮明に思い出されては消えてゆく。

 厄を集めようとして博麗の巫女に返り討ちにされたこと。さらにやってきた黒白魔法使いに叩きのめされたことを愚痴っていた姿。
 近年は厄が多く、仕事が増えて大変だと苦笑していた姿。
 それでも自らの役割を誇りに思い、元気に振る舞っていた姿。

 あの笑顔を二度と見られないのだと理解した瞬間、静葉は「ああ」と得心した。
 信じられなかったのではなく、信じようとしていなかったのだ。
 またひとり友人がいなくなってしまった事実を受け入れたくなかったのだ。
 喪失の痛みは、既にして我が身にあったのだ。

 それは同時に孤独の痛覚でもあった。また、取り残された。
 家族の穣子に向けるものとは違う、親しいものに向けるべきものがなくなってしまった痛覚だ。

「雛……ひなぁ……」

 今さらのように名前を呼び起こしても、ただただ悲しみが募るばかりだった。
 神としての威厳も、気丈な姿も保つことはできなかった。
 目の前の現実に打ちのめされ、無様を晒すばかりの存在があるばかりだった。

「……大丈夫です」

 そんなどうしようもない、弱くて呆れるばかりにちっぽけな自分の体を、優しく抱擁してくれる存在があった。
 美鈴の細く、けれどもしなやかでしっかりとした体そのものが静葉の体を包み込む。
 背中に回された腕は壊れそうな己を、一生懸命支えている。
 静葉よりも一回り大きい美鈴の暖かさは決して揺るがない、母なる大樹のように思えた。

「大丈夫ですから」

 もう一度、そう呟いた美鈴の声は喪失を経験した者の声ではなかった。
 美鈴は自分のために悲しみを仕舞いこんでいる。
 彼女だって辛いはずなのに、それを我慢してまで自分のために行動してくれている。

 それなのに自分は、何ひとつ応えてやろうとしていない。
 無償の信頼に対して何もしようとしていない。
 これが神のすることなのか。

 あまりにもみじめすぎる我が身の姿を見つめ直し、静葉はこれではいけないと思った。
 嗚咽を意思の力で抑え、静葉は力強い声で「ありがとう」と言った。

「ありがとう。……もう、平気よ」

 静葉は美鈴から身を離す。涙を拭った。
 雛がいなくなってしまったのだという事実を忘れることはできない。
 だからこそ自分たち神は信仰し、慕ってくれる存在のために働かなくてはならない。
 それが神様の責任の取り方というべきものだった。

 目を上げると、そこでは美鈴もまたごしごしと腕で顔を拭っていた。
 瓜実顔と表現するに相応しい美鈴の目元にはうっすらと涙の滲んだ跡が見える。
 彼女もまた、泣いていたのだろうか。

 思いながらも、確かめようという気にはならなかった。
 詮索をすることを恐れたわけではない。ただ、何度も振り返るわけにはいかなかったのだ。
 まだ妹だっている。それなのに慰めあうだけで立ち止まっていることは許されない。
 強くなって、自分でもそれを証明できると思ったとき。
 そのときこそ美鈴を抱擁してやる番なのだ。

「迷惑をかけたわね」
「迷惑だなんて、そんな……友達じゃないですか」

 照れ臭く言った美鈴に、静葉は目をしばたかせる。
 ぽかんとしていた自分の姿に何か勘違いをしたのか、それまでの表情を一変させ、美鈴は慌てたようになって取り繕った。

「あ、す、済みません! 友達だなんて図々しいことを言って!」

 わたわたと腕を振り回し、そんなつもりではないと必死に弁解する美鈴に、くすっと静葉は笑みを浮かべた。
 自分を支えてくれてくれた妖怪であるはずなのに。誠実で実直な彼女に笑わずにはいられなかったのだ。

「図々しくなんてないわ。私もあなたを……」
「みぃーつけたー」

 静葉の声を遮ったのは、幼い子供のように明るい声だった。
 木々の陰、闇から這い出るようにして現れたのは静葉と同じ金髪を纏い、
 白黒の服装に赤い目、そして手に見慣れぬなにかを持った少女だった。

 いきなり現れたことに静葉も美鈴も驚きを隠せず、にこにこと笑う少女を警戒を以って目視する。
 よく見れば、頭部からは出血が見られ、肩口にも赤い染みが広がっている。
 まさか、という思いが広がる。殺し合いという言葉が現実味を帯びたものになり、心臓が早鐘を打ち始める。
 緊張する静葉とは対照的に美鈴は油断なく構え、いつでも応戦できるように腰をかがめている。

「確か、今宵の妖怪……ルーミアさん、とかいいましたか? 見つけたとは、どういうことです?」

 美鈴が尋ねる声にも少女――ルーミアは答えず、手に持った何かを弄んでいた。
 まるで自分たちに興味はなく、見つけたという事実そのものに対して喜んでいるように見えた。
 何かが、おかしい。不安を感じ始めた静葉を他所に美鈴は質問を重ねた。

「亡霊のお嬢様……西行寺幽々子さんのことなんですが、見ませんでしたか? はぐれてしまいまして」
「んー」

 そこでようやく、ルーミアが反応を見せた。考え込むような素振りをみせていたが、美鈴の質問に考えているとは思えなかった。
 どこか上の空。やはりルーミアの様子は静葉から見てもおかしい。
 逃げた方がいいのではないか。そう伝えようと美鈴の服を掴む前に、ルーミアが陽気な声で言った。

「そんなことより、あなたは食べられるのかな?」

 言うやいなや、ルーミアが手で弄んでいた何かを持ち上げる。
 攻撃意思と読み取ったのか、美鈴が反応して先手を打ち込もうと一歩駆ける。
 しかし射程に入る寸前、彼女の行動は遮断された。
 凄まじい爆音と共にルーミアの持っていた筒状のものの先から煙が上がり、それに気付いたときには美鈴が腕を押さえ、膝をついていた。
 一体何が起こった? 静葉が理解するより前にルーミアがけらけらと無邪気な笑い声を上げた。

「あなたも、食べていい妖怪ね!」

 牙を覗かせたルーミアが美鈴に襲い掛かろうとする。
 いけない――! 混乱で頭が飽和しながらも静葉は咄嗟に弾幕を撃ち込んでいた。

 戦闘を得意としない静葉の弾幕は速度も遅く密度も薄い。察知したルーミアに簡単に避けられた。
 ルーミアの目がこちらを向いた。
 どこまでも真紅の色をした瞳は、笑みを浮かべたままの彼女の姿と相まって空恐ろしいもののように感じた。

「あなたも、食べていい妖怪なの?」
「妖怪じゃなくて、神様よ、私は!」

 恐怖が浮かび上がってくるのを必死に抑え、静葉は虚勢を張りながら弾幕を展開する。
 とにかくルーミアの目をこちらに引き付けておくのが第一だった。
 美鈴を傷つけさせたくない。その一心で。

「へぇ、そーなのかー」

 しかし弾幕戦に慣れていない静葉の攻撃はひょいひょいと避けられ続ける。
 ステップを踏みながら徐々に接近される。焦りを覚えた静葉は普通の弾幕では無駄だと思い、スペルカード名を叫ぼうとした。

「葉符、『狂いの……」


 それがいけなかった。幻想郷のスペルカードルールでは自分の技を発動させるとき、一時的に弾幕を解除しなければならない。
 また、相手もスペルカード名が発言されるまで攻撃してはならない。しかしそれはこの場において通用しない。
 ルール無用の殺し合いにおいて、静葉の取った行動は愚か以外の何物でもなかった。
 弾幕が途切れた隙に一気に接近したルーミアは美鈴を傷つけた武器を振りかぶり、静葉に向かって叩き付けた。

「あうっ!」

 ガツンという感触が頬から伝わり、脳を揺らす衝撃となって直撃する。
 もんどりうって倒れた静葉の頭に後悔の一語が浮かんだ。
 なんて馬鹿なことを。幻想郷のルールが、今この場においては何の意味も為さないというのに。
 少し考えれば分かるはずのことを、なぜ。

 結局、自分は平和ボケしていたということか。危機を意識できなかったツケが回ってきたということなのか。
 ルーミアが手にした鉄の塊を再度振り上げる。あれが鉄製であることは殴られたときにわかった。
 それにあの爆音。ひょっとすると、あれは極限にまで小型化された鉄砲なのかもしれないと思った。
 最期に思うのはそんなことかと自らに失笑した静葉はぎゅっと目を閉じた。

「はあぁっ!」

 が、静葉の意識が途切れることはなかった。甲高い声と共に風が薙ぎ、恐らくはルーミアが吹き飛ばされたと思われる音が響いた。
 目を開ける。そこには掌底の構えで立つ美鈴の勇壮な姿があった。
 こちらを向いた美鈴が「済みません」と苦笑するのが見えた。

 澱んでいたはずの意思が急速に鮮明になり、静葉は痛む頬を押さえながらよろよろと立ち上がった。
 まだ頭が揺れている。途切れ途切れの思考を必死に繋ぎ、「大丈夫?」ととりあえず言うべきことを口にした。

「油断しました……あれが鉄砲だと思いませんでした」

 正直、ひりひりして痛いです、と言いながら見せた片腕には赤い線が走っていた。どうやら掠っただけで済んだらしい。
 ルーミアが小柄であること、しっかりと狙いをつけなかったことが幸いしたのだろうか。
 そんなことを思いながら「逃げましょう、美鈴」と提案する。

「飛び道具、しかも鉄砲じゃこっちが不利よ。……私、弾幕戦苦手だし……」
「あはは、奇遇ですね。私も得意じゃないです」
「わ、笑ってる場合じゃないわよ!」
「……来ますよ」

 え、と呟いた静葉の視線の先で、ルーミアが「いたいー」と言いながら立ち上がっていた。見た目に関わらず意外とタフらしい。
 恐らく美鈴が打ち付けた場所なのだろう、腹部を押さえながら、しかし尚も笑みを崩さずルーミアが立ち塞がる。

「どうして邪魔するの? 私はルールに従ってるだけなのに……」

 言葉はぶすっとしたものだった。まるでこちらが悪いと言わんばかりの風情に、反感よりも恐ろしさを感じた。
 誰かを殺すということの意味を分かっているのだろうか、この少女は。
 思考を放棄したのでもない、仕方ないと断じたわけでもない。何も理解していないのだ。
 ここが日常の延長であり、いつもの戦いだと信じて疑ってさえいない。……自分のように。

 こんな状況においてさえスペルカードルールを奥底で信じていた自分を改めて恥じた。
 みっともない神様だ。こんなことで穣子が守れるのか。目の前の大切な友人さえ守れないかもしれないのに。
 羞恥は静葉自身への怒りと変わり、同時に無力をも痛感させた。
 美鈴に助けてもらわねば命を落としていたかもしれないという事実。
 あまりにもちっぽけで、自分一人では誰も守れないという脆弱さ。

 私は、本当に何かができるのだろうか……

 迷いが生まれ、しかしそうしていられる状況でもないと意識を目の前のルーミアに戻す。
 とにかく目前の危機を乗り越えなければならなかった。
 静葉は必死に頭を働かせるが、実力の弱さは先刻承知。となれば、それ以外の要因に期待するしかない。
 だが誰かが助けに来てくれるのか? 少なくともはぐれてしまった幽々子が来る気配はない。
 逡巡している間に行動を決めたのはルーミアだった。

「じゃあ、いいよ。こっちから行くわよ!」

 胸を張り、両手を大きく広げる。同時、闇が侵食を開始し、静葉たちの周囲を取り囲んでゆく。
 瞬く間に静葉のいる場所が暗闇に包まれ、夜の様相を呈してゆく。
 ルーミアの能力だろうか。ただでさえ不利なところに視界を封じられたらどうしようもない。

 静葉の焦りは頂点に達したが、美鈴は待っていた、と言わんばかりにニヤと端正な唇を歪めた。
 自分自身その存在を忘れかけていたスキマ袋から、筒状のものを取り出してルーミアへと投げつけたのだ。

「わっ!?」

 ルーミアの悲鳴が飲まれる。
 ただでさえ視界が悪かったところに、重なるように煙が広がる。
 煙幕、という単語が浮かび上がった瞬間、美鈴が静葉の手を引いて走り出す。

「今のうちに!」
「で、でもこっちだって何も見えないんじゃ……」
「向こうもです。それに目くらましもしましたし、何よりこの暗闇は範囲が狭いんです。走れば、すぐ脱出できます」

 そういえば美鈴はルーミアを知悉していたようだった。
 向こうが能力を使ってくるのを待っていたのだろうか。
 使ったルーミア自身も闇に対応できないという弱点を突くために。

 情けない。支給品の存在も忘れ、おろおろしていた自分を尻目に美鈴はしっかりと反撃の隙を窺っていたのだ。
 いやいつだってそうだ。穣子にさえ何かと助けられることが多く、自分はそれに甘んじているばかり。
 意識の隅に押しやっていたはずの迷いが再び敷衍し、目前へと向けていた意識がふっと途切れる。

「――えっ」

 もつれる足。離れる腕。つまづいたと気付く。しまったと思い、それ同時にルーミアの声が耳に届く。

「夜符『ナイトバード』」

 スペルカード宣言。ルーミアと相対するまでの自分と同じ、日常を盲信する妖怪の声。
 だが静葉と違うのは、しっかりと弾幕が形成されていることだった。
 闇の能力と同じく、包囲するように弾幕が張られる。

 なぜ。その一語が浮かび上がり、自身への失望が脳裏を満たす。
 殺されるであろうことに対しての「なぜ」ではなく、このような失態を犯してしまったことへの「なぜ」。

 この状況から脱出しきれていないという事実も忘れ、迷いを思い出した挙句にこの不始末。
 どうしてこんなに愚かなのだろう。反省という言葉を学ばず、失敗を繰り返した愚鈍さ。
 だからこそここで死ぬのかもしれない。こんな自分が生きていても誰も守れはしないし、役にだって立たない。

 寧ろ自分がいては美鈴に迷惑をかける。妹を残し、消え失せてしまうのかという心残りはあった。
 しかしそれよりも自分に対する絶望が勝っていた。死んだ方がマシだという思いが静葉の頭を占めていた。
 どうせ一度諦めてしまった命だ。そんな自分に生きる価値などあろうはずもない。
 ダメなお姉ちゃんを許して欲しい……言葉が固まりかけたとき、またしても静葉の手を引くものがあった。

 美鈴の手。共に向けられた目は諦めるなと叫んでいた。
 友達じゃないですか。美鈴の言葉が思い出され、自分でもよく分からないうちに手を伸ばしていた。
 単純な生存本能がそうさせたのか、美鈴が救い上げてくれたのかはよく分からない。
 分かるのは、引き寄せたと同時に静葉を庇った美鈴が弾幕の直撃を受け、腕にひどい裂傷を負ったことだった。
 ルーミアの弾幕は激突と同時にエネルギーを拡散させ、風の衝撃波となって敵を切り裂く弾幕だったのだ。

 静葉の口から声にならない悲鳴が上がる。だが美鈴はなんでもないことのように笑って、空いた方の手で引っ張ってくれた。
 ルーミアの作り上げた闇から抜け出す。そこには朝の眩しい光。新緑の色をまとった森の色があった。
 だが、静葉の心はそんな風景とは裏腹に、どうしようもない悔しさだけがあった。

     *     *     *

「むー」

 ごしごしと目をこすり、煙の染み込んだ目をぱちぱちと開いたり閉じたりしているのは、
 またしても『食べていい妖怪と神様』を逃したルーミアだった。
 赤い長髪の妖怪に打ち付けられた腹部がきりりと痛み、それがますますルーミアの気分を害した。

 どうしていつも邪魔をされるのだろう。さっきもそうだったし、今もそうだった。
 妖怪が誰かを襲うのは当然のことだし、襲われた側が抵抗はするということも知っている。
 けれども、なぜ、関係のないはずの第三者が関わってくるのだろうか。
 別に襲われるわけでもなければ食べられるわけでもないのに。


 ルーミアは最初、もう一人の方を襲うつもりはなかった。
 あくまでも弾が出た相手が『食べてもいい』人物であり、それ以外は関係はないはずだった。
 だが結果として弾が出てないにも関わらずもう一人は自分を襲ってきた。
 腹が立ったので、つい襲ってしまった。

 決めたルールを破ってしまったのでルーミアは少し残念な気持ちになったが、それもほんの少しの間だけだった。
 もともとそんなに拘るつもりもない。単に拳銃というものがどんなものか確かめたかっただけだし、ポリシーもない。
 あくまでも破ってはいけない規則は『殺し合いをしろ』ということであり、別にローカルルールはどうしようと構わない。

 そういうことで、ルーミアはローカルルールを変えることにした。
 現状のままではあまり上手くいかないことが判明したからである。
 どうせなら負けるよりは勝ちたい。その思いもあった。

「えーっと、どうしようかな」

 ふらふらと歩き出しながら、ルーミアは遊びのルールを考える。
 拳銃だけで戦ってみる。弾幕だけで戦ってみる。地雷だけで戦ってみる……

「あっ、そうだ」

 自分でもすっかり忘れていた事実を思い出す。
 そういえば、以前設置した地雷はどうなっただろう。
 あの時は飽きてしまったが、そろそろ誰かが引っかかってもおかしくはない。
 説明書にはなんだか難しいことしか書いていなかったので、引っかかるとどうなるのかはとても興味があった。

 考え始めると止まらない。ルーミアはルールについてひとまず置いておくことにした。
 子供のように無邪気に鼻歌を奏でながら、わくわくした思いを抱えて元の場所に戻ることにした。

 能天気なルーミアではあるが、きちんと地雷を設置した場所は覚えている。
 自分が引っかかっても面白くない。何も知らない誰かが引っかかるほうが面白いに決まっている。
 それはほんの些細な悪戯心。人間を脅かすのと同程度の、それくらいの認識でしかなかった。

 何も知らない。何も見えない。そんな彼女は、きっと、

 闇に包まれている。


【F-4 一日目 午前】

【紅美鈴】
[状態]右腕に重度の裂傷
[装備]なし
[道具]支給品一式、インスタントカメラ、秋静葉の写真、彼岸花
[思考・状況]とりあえず、戦いたくない
[行動方針]
1.静葉と一緒に逃げる
2.幽々子を探す
3.静葉と一緒に穣子を捜す。紅魔館メンバーを捜すかどうかは保留

【その他:美鈴が使用したのは目が少し痛くなる程度の煙を放つボール型煙幕です】


【秋静葉】
[状態]頬に鈍痛
[装備]なし
[道具]支給品一式、紅美鈴の写真、不明支給品(1~3)
[思考・状況]妹と合流したい
[行動方針]
1.自分が情けなくて仕方ない……
2.幽々子を探す
3.穣子を美鈴と一緒に捜す


【ルーミア】
[状態]:少し空腹、懐中電灯に若干のトラウマあり、頭部裂傷、出血、肩に切り傷、腹部に痛み(すぐ直る程度)
[装備]:リボルバー式拳銃【S&W コンバットマグナム】5/6(装弾された弾は実弾1発ダミー4発)
[道具]:基本支給品(懐中電灯を紛失)
    張力作動式跳躍地雷SMi 44残り1つ
    .357マグナム弾残り10発、
    不明アイテム0~1
[思考・状況]食べられる人類(場合によっては妖怪)を探す
1.地雷がどうなっているか確かめたいので戻る
2.ケーキをくれた人(さとり)に会ったらお礼を言う
3.日よけになる道具を探す、日傘など


79:殉教者の理由/Martyr's Cause 時系列順 81:少女の森
79:殉教者の理由/Martyr's Cause 投下順 81:少女の森
68:108式ナイトバード 紅美鈴 90:亡き少女の為のセプテット
68:108式ナイトバード 秋静葉 90:亡き少女の為のセプテット
68:108式ナイトバード ルーミア 92:Gray Roller -我らは人狼なりや?-(前編)

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最終更新:2009年08月25日 20:11
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