少女の森 ◆27ZYfcW1SM
「しっ!」
「それですか……え?」
「静かに」
突然のことに私の頭は混乱します。
私の家族と燐さんの家族について楽しく雑談をしていたのですから。
当然、私も会話に熱が入ります。
それなのに話を閉ざされて驚かないほうがおかしいでしょう?
燐はトンプソン短機関銃を両手に持ち、肩当を当然のごとく肩に当てた。
まるでそのまま撃ち始めるように……
マガジンと薬室に弾がこめられていることをチェックする。
銃の知識はあまり無かった私ですが、最低限度の知識を教えて、早速実行している燐は流石と言える。
そして、最後の砦である安全装置までも外した。もう銃は撃てる状態。
うすうすとは実感していたことが、急に現実味を帯びてきた。
先ほどまで漂っていた甘いお菓子のような香りは消え、硝煙と鉄の焼ける臭いが漂い始める。
またゲームが始まる。
〆
それはそれは長い間私一人で
地霊殿を守ってきた。
ペットは一人と数えない。感知できない者も一人ではない。
その間に、いつの間にか『間違い探し』が得意と成っていた。
館に『間違い』が生じたときはすぐに分かる。
素直に認めるなら誰かが館に訪れてくれることを望んでいたのかもしれない。
誰かが『間違い』として訪れてきたときに気がつかないことがないように……
能力とまではいかなくても、『特技』レベルにまで成長した間違い探しは、ここで役に立った。
ここら周辺に間違いが生じたみたいだ。
「静かに」
すぐに会話の音量を下げ、早苗に教えてもらった機関銃の使う準備をする。
レーダーのようにその位置や数までは分からないけど、『そこら辺に居るな』位には分かる。
もちろん、敵か味方かは分からない。
だが、警戒は厳重に。
窓から片目だけをそっと出す。
薄暗い森の中を1人とそのペット? が歩いている姿が見えた。
「2人いるわ。私は外の人分からないからどんな人か分からないけど……」
「ちょっと私にも見せてください」
私は無言で窓枠から離れ、隙間の中からドラムマガジンを1つ取り出すとスカートの間に挟んだ。リロードと言うらしい行動もこれですばやく行えるだろう。
「あ!」
突然早苗が声を上げた。
すぐに銃を構え窓枠の下に体を滑り込ませる。
「何!? 何かあったの?」
早苗の表情は見る見る青くなる。目を見開き、口に手を当てて……私が見たどんなトラウマよりも酷い記憶が蘇っているようだ。
「あ……あの人……」
震える手で指差した先には……一匹のウサギがいた。
ウサギとは噂に聞いていたが、見た目はかわいらしいウサギでとても殺人を狙うような人物には見えない。
愛くるしさだけを取るならお燐やお空よりも上かもしれない。
なるほど……だけど一つお燐やお空より違うことがある。
もともとは猫であったりカラスであったりしたため、元になった動物じみている。
だが、あのウサギはウサギの色より、人語を理解してさらにその意味を深く考える人間じみた色がある。
かわいらしさの裏にどれだけ深い闇があるのだろうと想像すると怖気がした。
早苗が言っていたことも過大表現ではなかったわけだ。
どっちにしろ声を掛けずにやり過ごすという選択肢はなくなった。
そこで問題になってくるのが銀髪の女性だ。
彼女のことも少しだけ早苗の話の中に入っていた。
ウサギがこの銃で射殺した人の連れらしい。そのあとに『ウサギを連れて』どこかへ行った。
可能性は2つほど。ウサギは最初からこの人とグルだった。(パチュリーを射殺するためにこの舞台を作った?) もう一つは勘違いしている。だろう。
早苗自身が誤解されていると認識しているだけあって後者のほうが線が強い。
となると、ウサギは勘違いしていることをいいことにあの人をだまし続けているに違いない。
悪知恵が働き、機転が聴く奴なら勘違いしている人に付け込むのは容易い。
それならば厄介なことになった。
私がウサギを殺せば、私をゲームに乗っている奴となり、彼女に襲われる。
私が『ウサギはゲームに乗っている』と言えば、彼女はこう思うだろう「まさか、第一お前はどうなんだ? いきなり現れてこいつ(ウサギ)がゲームに乗っているなんて!? お前のほうがゲームに乗っているんじゃないか?」
道端で宗教の勧誘をしている人が「貴方は近いうちに不幸になります」と言う位うそ臭い話に聞こえるだろう。私だったらまず信じない。当事者ではないのだから
私がいくらあの二人に説得したって二人は真剣に聞いてくれないだろう。私は事件の当事者ではないのだから。蚊帳の外、第三者だ。
ならば当事者で事件の被害者? の早苗だったら……
早苗の言葉ならきっと二人に届くはず。
だけど不安要素がある。
生死がかかっているだけあって、相手も相当血が頭に上っているはずだ。
疑わしきは罰せよ。
殺しにかかってくる可能性も否定できない。
ソードラインが成立すればいいけど……
議会は常に戦争だから……
できれば穏便に行きたいわね……
〆
事件が起こったのは私とてゐが霧雨亭の東20mあたりを通りかかったあたりだ。
「そこの貴女たち、一体どこに行くのかしら?」
今までには聞いたことの無い声色がどこからか聞こえてきた。
刀を構える。
てゐもあたりをキョロキョロと見回し、言った。
「前だよ。正面から仕掛けてくるってことはゲームに乗ってないのか……それとも」
「………」
やはり、てゐは長い間生きているだけあって危険察知能力は鋭い。
「後者ははずれよ。私はゲームに乗っていないわ」
「だったら、その銃はなんだ?」
ドラムマガジンが特徴的なサブマシンガン、トンプソン短機関銃の銃口をまっすぐこっちに向けたままそいつは姿を現した。
「ここから先は通行止めってことよ。時に――」
「そこの兎さん、この銃に見覚えがないかしら?」
「ないね」
てゐは聞かれた質問に即答した。顔色一つ変えず。
とたんにその人は奥歯をかみ締めた。
私は疑問符を頭に浮かべる。なぜこの人はてゐに聞くのだろう?
「そ、そう……貴女は想像以上に狡猾ね」
このとき、てゐの中は相当荒れていた。
遠目で見たときには、まさかと思った。だってアレは早苗が持っているはずの銃なんだから。
いくつかの可能性が浮かんでくる。
早苗は既に殺されていて銃を奪ったとか、実は同じ銃がもう一つ支給されていたとか!
しかし、安全な答えをつぶす問いが飛んできた。
「この銃に見覚えがないか?」だって? もちろんあるさ。それは私に支給された奴だ。
こんな質問をするってことは……こいつ知っている。私がこの銃でパチュリーを殺したことを知っている。
舌打ちをしたい気分だ。だけどこんなところでぼろを出すのは三流詐欺師だ。
「ないよ」
そう、人を騙すなんて簡単なんだ。
私は知らないで通せばこいつはうんともすんとも言うことができない。
慧音はすでに私の術中にはまっている。
一度はまった私の泥沼から簡単に抜け出せるもんか。
私が滑稽だって? ありがとう、最高のほめ言葉さ。
だけど感謝はしないよ。そもそも何なんだ? こいつ、人の心を見透かしたような目をしやがって、私の嫌いなタイプだ。
私の視線に気が付いたのかフッと含み笑いをした。まるで鬼の首をとったような表情だ。
「早苗、ちょっとこっちにきて」
私たちに電流が走る。
早苗? 早苗だって? 早苗だと?
馬鹿な、いや、可能性はあった。うすうすとそうじゃないかと考えていた。
仲間なんだ。こいつ組んでるんだ。私が殺し損ねた早苗と。私が『ゲームに乗ってる』って知っている早苗と。
絶対的な発言力を持つ事件の被害者の早苗が……
私を完膚なきまでに息の根を止める銀の銃弾が……
木の陰から早苗の姿が露になる。
出会ったときとは服が違うが、些細な違いだ。
私を殺す一手が刺された。
不味い、私に力は無い。一瞬で3人も殺せるパーフェクトな能力を持っていない。
おまけに持っているのは一本の箒だけ。箒なんて武器じゃない。どうしろっていうの?
いや、冷静になれ。まだチェックメイトじゃない。
チェックメイトの一手前。まだ私のターンは終了していない。
この流れを吹き飛ばす絶対的な行幸。この空間を支配する強運が!
私の手に!
「あう!」
さとりは悲鳴を上げた。
すべては一瞬の隙を突いた一手。
私が動くことを不可能にしているトンプソンを持つあいつ。
早苗を呼ぼうとして注意が早苗のほうに向いた。私から注意が外れたその一瞬。
慧音は早苗がいることに衝撃を受け思考がとまっていた。
そして何より、私がこの箒を持っていたこと。
この箒は自分が飛ぼうと思う力を吸って増幅する装置。
飛ぼうとするのは歩くことと一緒。歩けるということは走ることもジャンプすることもできる。
飛ぼうという一つに束ねず、分けて考えると、動詞は無いが低速移動や高速移動、急加速、急ブレーキなどのことができる。
とっても早く飛ぼうと箒に力をこめると箒は巨大な力を持つ。
そのまま私が手を放せば箒は進もうと思っていた方向に飛ぶ。それも矢のように。
自動的に飛ぶのだから弓のように弦を引く必要も無い。私が動いたことに気が付いたときには既に箒は発射された後だ。
パパパパパ!
箒はトンプソン短機関銃に命中する。
さとりは引き金に指をかけていたため、シカゴタイプライターの異名を持つトンプソンがまさにタイプライターを掻き打つ様な音を立てる。
その音に慧音も冷や汗を浮かべた。
「慧音! 早苗だ! パチュリーを殺した早苗だ」
私は叫ぶ、それも相当焦ったような声で。
焦りは正常な判断を下すことを難しくさせる。
慧音が私を信用していて、早苗に殺意を覚えていたのなら、この作戦は成功する。
私たちと早苗たちを戦闘に持ち込み、私が殺しを犯したということを有耶無耶にするっていう作戦が!
〆
早苗とさとりに緊張が走る。
自軍の主砲であり、相手を沈黙させる結界のトンプソン短機関銃が今は使えない状態なのだ。
刀は銃よりも確かに弱い。
だが、特定の環境化では刀のほうが強いのだ。
この銃が点の攻撃なら刀は線だ。
近づかれたら終わり。そのことを理解しているから、なお焦る。
しかし、事態は二人の想像とは逆の方向に動き出す。
「――もうやめないか?」
慧音は刀をしまったまま微動だにしなかった。
その行動に戦場は混乱する。
「な、なに言ってるんだよ」
「パチュリーを殺したのはお前なんだろ?」
「っ!? な、何のことかな?」
「とぼけてもだめだ。早苗と聞いて焦ったな……てゐ。もしあそこで動かなかったら私はてゐを信じ続けていたかもしれない」
もし、てゐが箒を投げずにそのまま話を進めていたら、慧音は早苗の証言とてゐの証言の板ばさみを喰らって居ただろう。てゐは限りなく黒に近かったが、口先が回ればひょっとしたら白にできたかもしれないというのに。
(し、しまった)
「私をどうするつもり?」
「お前はいい奴なのは知っている。里の人間が竹林に迷い込んだときに竹林を案内してくれているのも知っている」
「じゃあ……」
「だが、パチュリーを殺した罪は消えない。そしてゲームに乗っていることもな」
「私を殺すの?」
「……いや」
「お前を殺したところでゲームが終るわけでもない。かと言ってこのままお前を野に放ったら他の人が迷惑しそうだ」
「そこでだ、もう少し私と一緒に居てもらおうか?」
慧音は念を押すように「ああ、これは命令だ。拒否権は無い」と付け加えた。
「……わかったよ」
てゐはしぶしぶといった顔で首を縦に振った。
「そうか」
慧音はにっこりと難しい問題をがんばって解いた生徒をほめるような表情で微笑んだ。
「ということだ、早苗。こいつを許してやってくれないか?」
完全に視界の外においてしまっていた早苗とさとりの方向に慧音は顔を向けた。
慧音が想像していた景色とは違った景色が映し出されていた。
「しまった……足音が2つになっていたなんて気が付かなかった」
てゐの顔に青筋が走る。
てゐは早苗たちと会ったとき命を懸けた戦いになるだろうと考えていた。
しかし、自分の罪を暴かれ、それが和解につながったときに、一時的に命を心配する必要はなくなった。
自分はゲームに乗った殺し屋だけれど、早苗は完全に対主催。私が襲わない限り、向こうからの殺意は薄い。たとえ銃を持っていたとしても。
しかし、忘れてはならない。
ここに居る者たち全員がバトルロワイアルと呼ばれるゲームの中に等しく身をおいていることを。
今起こった事件も第三者からしてみれば対主催やらマーダーやら知ったことではないのである。
頭に手を組ませられたさとりに銃を突きつける第三者こと小野塚小町が現れた。
「おっと、動くとこの子の頭が吹き飛ぶよ」
「お燐さん!」
一発の軽い銃声が響いた。
「だから動くんじゃないよ。私が上手に誘導できるのは幽霊だけだからね。さぼりたくなってあんたらを幽霊に変えてしまうかもしれないよ」
早苗の足元から1.5mほど離れた地面に小さな穴が開いていた。
威嚇射撃だとしても、実銃であり、銃の怖さを十分に知っている早苗はその場にぺたんと座り込んでしまった。
同時にてゐと慧音も身を硬くする。
「あたいの名は小野塚小町さ。見て分かるとおりゲームに乗ってる死神だ。
あたいが望むものは只一つ、幻想郷に未来を残せる者を生かすこと!」
「未来を残す?」
「そうさ」
小町は続ける。
「まず、不殺協定が結ばれている博麗の巫女、次に博麗大結界の管理人、八雲紫。
冥界の管理人、西行寺幽々子、幻想郷の最高裁判長、
四季映姫・ヤマザナドゥ
これらの人物を筆頭に幻想郷に必要な人物を生かすためにゲームに乗ってるのさ」
「そして、このお方も幻想郷に必要な人物なんだよ。だから……」
「あんたら……このお方を守りな! 己の命に代えてでも」
「そんな身勝手な」
あまりにも横暴な言い分に慧音も声を上げる。
小町は有無を言わさない表情で慧音を眺めた。
「白沢に守矢の巫女、それにただの長生き兎。あんたらは幻想郷に必要ない人材なんだよ。今殺してもいい。
だけど、それじゃこのお方が一人になるじゃないか」
慧音は小町が最悪の結末にならないように努力しているのだと感じることができた。
確かに結界さえ生きていればその中の人物は生き続けることができる。ふと、里の生徒たちの顔が浮かんだ。
結界が壊れたとしても、転生して再び幻想郷が作られる可能性がある。その転生のサイクルを担う冥界や閻魔の裁判制度が壊れてしまったら、幻想郷が復旧するのは何百年と後になるだろう。
私が押し黙っていると小町は銃を構えるのをやめて、一言残した後、森の奥へと消えていった。
「じゃあね、地霊殿の姫様を殺したりしたら今度はあたいが殺しに来ることを……」
「忘れないように」
【F-4魔理沙の家 一日目・午前】
【小野塚小町】
[状態]身体疲労(小) 能力仕様による精神疲労(小)
[装備]トンプソンM1A1(42/50)
[道具]支給品一式、64式小銃用弾倉×2 、M1A1用ドラムマガジン×4
[基本行動方針]生き残るべきでない者を排除する。脱出は頭の片隅に考える程度
[思考・状況]1,残るべきじゃない人を排除する
【上白沢慧音】
[状態]疲労(小)
[装備]白楼剣
[道具]支給品一式×2、にとりの工具箱
[基本行動方針]対主催、脱出
[思考・状況]1、早苗、さとりと情報交換。一応さとりの護衛も考える。
2,永遠亭に向かい、情報や道具を集める
3,主催者の思惑通りには動かない
【古明地さとり】
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、咲夜のケーキ×1.75、上海人形
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1.慧音、てゐと交渉。
1.早苗と一緒に人妖を集める。ただし自分に都合のいい人妖をできるだけ選ぶ。
2.空、燐、こいしと出合ったらどうしよう? また、こいしには過去のことを謝罪したい
3.魔理沙を探すかどうか迷う。上海人形を渡して共闘できたらとは思っている
[備考]
※
ルールをあまりよく聞いていません
※主催者(八意永琳)の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます
※主催者(八意永琳)に違和感を覚えています
※主催者(八意永琳)と声の男に恐怖を覚えています
※森近霖之助を主催者側の人間ではないかと疑っています
※てゐのことを完全には信用していません。
【東風谷早苗】
[状態]軽度の風邪、精神的疲労
[装備]博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服
[道具]支給品一式、制限解除装置(現在使用不可)、魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)、人魂灯
[思考・状況]1.火焔猫燐(さとり)と一緒に人を集め、みんなに安心を与えたい。
2.燐さんを守らないといけないみたいですね……
【因幡てゐ】
[状態]やや疲労
[装備]魔理沙の箒
[道具]なし
[基本行動方針](保留:優勝狙い、最終的に永琳か輝夜の庇護を得る。)
[思考・状況]1,慧音に付いていき、永遠亭を目指す。
2,出来るなら他の参加者(永遠亭メンバーがベスト)と組み、慧音と別れたい。
[備考]※表面上は協力します
最終更新:2009年10月14日 00:19