守るも攻めるも黒鉄の ◆BmrsvDTOHo
空を仰ぎ見れば燦々と太陽が輝く。
あまりの眩さに思わず目を細め手をかざす。
日光に透けた皮膚の下には赤い血管が流れている。
今ならば容易に止められるこの流れ。
そう考えると体中隅々までに行き渡る血、一滴一滴が途轍もなく愛おしいものに感じられる。
本来命は投げ捨てるように軽い物ではない、人は口々にそう言うだろう。
しかし私にとってはそんなもの戯言にしか聞こえなかった。
例えば刃物で切り刻まれ肉塊と血の池にされようと、表皮を剥がれ血達磨にされようと。
残るのは痛覚だけであり命は失われないはずだった。
もしも不死だったならば霊夢を止める事も叶っただろうに。
土埃に塗れた私を励ますかのような暖かな光。
たとえ私に向けられているものでなくても良い、その眩さは落ち込む私の心の闇を掻き消すのには十分だった。
改めて殺し合いを止めたいという願いと自身の無力さに葛藤する。
妹紅は里を逃げ出す形で離れ、里外れの民家へと身を潜めていた。
気配を殺し音を極力立てないようにして室内を見回ったが人影は見られなかった。
とりあえずは安全なようだ。
甕の中の水を使い気付けのため顔を洗う。
透き通った冷たい水は先の衝撃で呆け切っていた頭を現実へと引き戻した。
また私は誰一人として救えなかった。
その事だけが私の胸の中をグルグルと駆け巡り
ドス黒く鉛の様なソレは永い時を生きてきた錆びた心に重く圧し掛かる。
ギリギリと悲鳴を上げ赤錆色の水が漏れ出す心。
歪んだフレームに収まった内部機構は耐用年数など疾うに超えている
未だ駑馬に鞭打つかのよう半ば強制的にその鼓動は刻まれ続ける。
望む望まぬに関わらずである。
体が生き永らえようとも人の心はそう簡単なものではない。
幾度となく降り掛かる、憎悪、嫉妬、怨恨、醜悪な感情共。
旱魃や飢饉、疫病や争乱が引き起こす人の死。
響き渡る怒号、悲鳴、断末魔。
それら多くの負の念が心や精神に及ぼす影響は計り知れないものだった。
精神のキャパシティを大きく超えて溢れ出す穢れ。
常人ならば心を病み、或いは狂人となり荒野を駆ける事になるだろう。
途方もなく大きな闇を妹紅は胸に抱えていた。
その小さな身体にはあまりにも艱苦な出来事ばかり。
正気を保っていられるのも将に奇跡としか言えない。
人の仮面を被る人にあらざる者。
人里に住みたいという願望も不死になった当初はあった。
可能ならば同属集団と共に過ごしたい、動物としての性は否定出来ない。
共存を詠う歌など数多ある。
しかし世界は歌の様に優しい物ではなかった。
人は異端を極度に恐れる動物だ。
周囲に斉一で無い物、同調出来ない物、全てを均一化するためにそういった凹凸は排除される。
容姿も変わらぬ、年も食わぬ、そんな私に疑念の目が向けられるのにそう時間はかからなった。
集団心理を帯びた人々の行動は恐ろしい。
個々で存在する時には歯止めが効き決して出来ないような所業をも可能とする。
其の先は凄惨の一言に尽きた。
何時になるだろうか、此の機械がその働きを止める事になるのは。
先刻の出来事もそうだ。
目の前で壊れ行く少女を引き上げてやることも、道を閉ざす事もしてやれなかった。
それがどんなに残酷な事か、どんなに罪深い事か分かっていながらも。
少女は無明の闇、奈落の底へと進んでいく。
最早その歩みを止める願いは叶わない。
手の届かないところへと堕ちていくだろう。
虚ろな眼へと映りこむのは虚像・虚構の世界。
現実との僅かな差が生み出すのは大きな溝。
霊夢も止め損なった。
異変解決、唯それだけを目指している、過程はどうであろうと蚊ほども気にしていない様だった。
純粋無垢である凶悪な其の力による犠牲者はまた増えるのだろう。
14人への贖罪?もし他者が私のこの有様を見てその言葉を聞いたら嘲笑されることだろう。
被害者を増やしただけではないか、何の解決にも至っていない。
大きな手傷を負わせることも出来ずに見す見す逃してしまった。
武器と呼べた唯一のナイフを落とした所も加えれば充分な御笑い種となるだろう。
後は水鉄砲に手錠の鍵、此れで日本刀を持った霊夢と戦えるとも思えない。
では最後の頼みの綱となる弾幕はどうかと問われればそれも不可だろう。
今は息を潜めて機を伺う事しか出来ない自分に嫌気が差す。
結局こうして隠れ潜んでいるのも我が身可愛さのためなのだろう。
でも死ぬには私にはこの世界に大事なものが多すぎた。
炎に魅せられその身を滅ぼす蛾の様に簡単に死ぬ事はもう出来ない。
揺ら揺らと死に引き寄せられてはいけないのだ。
唯漠然と生きるわけでなく、誰かの為に生きる。
脳裏に浮かぶ姿は昏黒の空に照る黄金の月明かりと星の瞬きの下、風に靡く美しい白銀色の髪を持つ友人の姿だった。
その眼が見つめる先には人里の灯が幻想的に灯っていた、人々の営みの証。
何も語らずともその横顔には強い決意の表情が見て取れる。
それは譬えるなら子を慈しむ母の様だった。
そうだ、私はこの景色を絶やさない為に生きるのだ。
この表情が涙で曇るところなんて見たくない。
たとえ一時の目途でも良い。
想いだけでは駄目なのだ。
力だけでは駄目なのだ。
僅かな間でいい、この争いを断ち切る力が欲しい。
【
藤原 妹紅 E-4南部 人里外れの小屋 】
[状態]休憩中 ※妖力消費(後4時間程度で全快)
[装備]なし
[道具]基本支給品、手錠の鍵、水鉄砲
[思考・状況]基本方針:ゲームの破壊及び主催者を懲らしめる。「生きて」みる。
1.守る為の“力”を手に入れる。
2.無力な自分が情けない……
3.慧音を探す。
4.首輪を外せる者を探す。
※黒幕の存在を少しだけ疑っています。
※再生能力は弱体化しています。
最終更新:2009年10月23日 19:52