哀死来 4 all(前編)

哀死来 4 all(前編) ◆shCEdpbZWw



「お空…戻ってこないね」
「…そうだね」

どうもこういう雰囲気は苦手だなぁ。
シリアル?だっけ、シリアス?だっけ、とにかくなんだかそんな空気。

さっき戦った猫妖怪が、お空にとってすごく大事な相手であることはなんとなく分かった。
お燐だとか言ったっけ、気に入らない奴だったけど強かったな。
でも、そのお燐はもういない。
お空と戦って、そして…死んじゃった。

カエルを凍らせて遊んでいるうちにうっかり死なせちゃったことはあったけれど、それとはなんだか違う。
あたい達みたいに、話して、笑って、泣いて、戦って…そういう生き物が死ぬのは初めて見た気がする。
いつだったか、閻魔とかいう偉そうな奴に死がどうのこうのって言われたことがあったっけ。
もう細かいことは覚えていないけれど、あれ以来あたいだって「死」とかについて思うことはあった。

「お空…泣いてたね」
「…そうだね」

死ってのがどういうのかは結局よく分からなかったけど、今ひとつだけ分かったことがある。
それは、生き物が死ぬと、ああやって泣いてくれる奴がいる、ってこと。
でも…あたいは…嫌われもののあたいが死んでも…今のお空みたいに泣いてくれる奴っているのかな。
いつも独りでいて、特に仲良しがいないから…正直言って自信が無い。
今までずっと独りで、これからもずっと独りでいる、最強だからそんなの関係ない、って思ってたけど。
ああいうのを目にすると…ちょっと羨ましい、って思う。

「お空…大丈夫かな」
「…分かんない」

隣に居るメディスン・メランコリーは何を考えてるんだろ。
なんやかんやあって今は一緒にいるけれど、よく考えたらあたいはこいつのことをあまりよくは知らない。
毒を使う人形妖怪だってのは知っているけれど、それだけ。

「…メディ?」
「…なぁに?」
「メディにはさ…友達っているの…?」

これ以上黙って待つことが出来なくて、別に聞きたくもないことを聞いてみた。
別にこいつに友達がいようがいまいが、知ったことじゃないはずなのに。

「友達…スーさんのことかな…」

へぇ。やっぱりこいつにも友達はいたんだ。
じゃあ、もしメディスンが死んでも、そのスーさんって奴が泣いてくれるんだろなぁ。

「でも…もうスーさんはいないんだ…」
「…へぇ」
「さっきまで一緒だったんだけどね…もういなくなっちゃったの」

さっきまで一緒…じゃあスーさんってのも、もう死んじゃったのかな。
ということは、逆にこいつがスーさんのために泣いたのかも。

「他には? そのスーさんっての以外にはいるの?」
「他に? う~ん…八意先生にはよくしてもらってるけど、友達とかとは違うし…
 私…嫌われものだからあまり友達っていないんだ」
「嫌われもの?」
「うん。私ってもともと人間に捨てられた人形なんだ。で、今は毒を使うでしょ?
 普段は鈴蘭畑に誰も近づかないし、私もめったに外にも出ないし…スーさん以外に友達っていないんだ」

…驚いた。
あたいとこいつって似たもの同士じゃん。
氷の力のせいで他の妖精もろくに寄りつかないし、人間からも逃げられて霧の湖でだいたい独りで遊んでるあたい。
人間に捨てられた上に、毒の力のせいで妖怪からも避けられて、鈴蘭畑にだいたい留まっているメディスン。
メディスンにはスーさんって友達がいたみたいだけど、今はいないからあたいと同じ、独りぼっち。

「じゃあさ…あたいが友達になってあげよっか…?」
チルノが…?」
「そう。あたいだけじゃない、お空も一緒。折角こうして会えたんだし、みんな友達になろうよ」

今までは独りぼっちでも別になんとも思わなかった。
けど、友達のために泣いてるお空を見て、なんだか羨ましいって思っちゃった。

「友達…うん、分かった! チルノも空さんも今から友達ね!」

会ってからずっとなんだか寂しげだったメディが、その目をキラキラ輝かせてこっちを見上げる。
なんだろ、なんだか照れくさいや。

「べっ、別にあんたのために友達になってやるわけじゃないんだからね!
 その…あんたが独りぼっちだから可哀想で…とかそんなわけじゃなくって…」
「ううん、いいの。友達になろうって言葉だけでもすっごく嬉しい。ありがとね、チルノ」

なんだかくすぐったいような、かゆいようなそんな感じ。
まぁ、このシリアル?シリアス?な雰囲気が無くなったからいいや。

「ねぇ、お空が戻ってくるまでの間に持ち物の見せ合いっこでもしない?」
「持ち物?」
「そう、あんたがどんなおもちゃを持っているのか気になるし。
 ついでに、さっきの猫が持ってた袋も開けちゃおうよ」
「いいけど…そんなに面白い物は入ってなかったよ、私のには」

そう言うと、メディは自分の袋からちっちゃい輪っかをそれよりさらにちっちゃい輪っかで繋げたものを出してきた。

「…何これ? 知恵の輪、とかいうやつ?」

あたいがたまに人間とばったり出会うと、なんだか訳の分からないなぞなぞとかいうものをよく出される。
それを考えているうちにいつの間にか人間がいなくなっているんだけど。
で、そんな人間がなぞなぞの代わりにその知恵の輪とかいうのを投げてよこしてきたこともある。
なんでも、その輪っかをバラバラに出来れば勝ち、らしいんだけどあれは絶対ウソだ。
最強のあたいがどれだけあちこち弄ってもバラバラになんてなりゃしない。

「ううん…違うみたい」
「違うの? じゃあ、なんなのさ」
「ちょっと待って、なんか説明書が付いてるから」

出た、またどうせ遠まわしに色々書いてある紙だ。
メディが難しい顔して読んでるけど、こいつに理解できるのかな。

「えっとね…これは手錠ってものらしいわ」
「名前なんかどーでもいいのよ。それで? これはいったい何なのよ」
「う~ん…なんか手を繋ぐためのものなんだって」
「手を繋ぐ、って…別にこんなのなくてもいいじゃん、普通に繋げば」
「鍵を使わないと絶対に離れないみたい」
「ふ~ん、変なの。他には何かないの?」

もう一度メディが自分の袋をごそごそと漁る。
その間に手錠とかいうのを弄くってみよう。
手を繋ぐ、ってねぇ…空を飛べなきゃ面白くもなんともないや。
引っ張ったり、ねじったりしてみたけど別に何が起こるわけでもないし。
…っとと、弄っていたら手を滑らせて落としちゃったよ、拾わないと…



*          *




弓を構えて、矢を引く。
手を離せばあの氷精の命はないだろう。
なんたって、あの八雲紫の式の式ですら一撃で絶命したのだ。
氷精ごときが耐えられるなんてとても思えない。

…そう、その氷精"ごとき"があの緋想の剣を握っているのだ。
あんな奴じゃない、あの剣には相応しい持ち主がいる、帰るべきところがある。
見てなさい、その能天気な頭にアクセサリをプレゼントしてあげるわ…

「その剣を…返しな…さいっ!!」

怒りのあまり張り上げてしまいそうな声を必死に殺して、言葉と同時に矢を放つ。
ヒュッ、と風を切って一直線に氷精の頭をめがけて矢が飛んでいき…
その瞬間に氷精がその身を屈めた。
的を失った矢は空しく虚空を引き裂いて向こう側の藪に飛び込んでいった。

ある程度練習したとはいえ、天子の弓矢の腕前は決して高くはない。
だからと言って、外れるならまだしも、避けられるなどという発想は天子の中にはまったく無かった。
結果論からすれば、もっと的の大きい胴体を狙うべきだったのだが、そう判断できる冷静さを今の天子は欠いていた。
そして、おまけにまた矢を一本無駄遣いした上に仕留め切れなかったという事実が、さらに天子から冷静さを奪う。

「ちょっ…どういうことよ!」

驚きのあまり目をカッと見開き、歯噛みして悔しがる。
だが、幸いにも屈んでいたチルノは頭上を通過した矢に気づかなかったようだ。
メディスンも袋の中身を漁っていたところでやはり気づかない。
まだ気づかれていないのなら…と天子は思い直して、呼吸を整える。

「さっきのは偶然に決まっているわ…! 今度こそ…!」

もう一度矢を引き絞って、狙いを定める。
ふぅっ、と大きく息をひとつ吐いて、つがえた矢を…

「おい、あんた。そこで何してるんだ?」

放とうとしたところで、不意に横から話しかけられた。
ビックリして手元がぶれ、また狙いとは違ったあさっての方向に矢が飛んでいく。
慌てて、声のした方に向き直ると、そこには腕組みをした地獄鴉が一人。

「だまし討ちとは穏やかじゃないねぇ。やるなら正面からかかってきなよ」

燐と最後の別れを済ませ、チルノとメディスンのところに戻ろうとした空は不穏な殺気を感じ取っていた。
注意深く押さえられていた殺気ではあったが、燐との死闘で集中力が高まったままの空には辛うじてそれが分かった。
気づかれないように近づいてみれば、弓矢を構えて何かを狙っているようだ。
こんなところで何を? さすがに鳥頭と言われる空でもそのぐらいのことは分かった。
チルノとメディスンに決まっているじゃないか。

「こっそり忍び寄ってあんたに襲い掛かってもよかったんだけどね。
 どうも性に合わないからこうして…っとぉ!?」

いきなり甲羅のようなものを投げつけられる。
咄嗟にかわしたが、その隙に間合いを詰められて蹴りをまともに食らってしまう。
飛ばされた空が藪を飛び出してチルノの近くに吹っ飛ばされる。

「え? お空、どうしたのさ?」

いきなり仲間が吹っ飛んできて驚く二人に、空はがなり立てる。

「バカッ! 敵だよ、敵!!」
「むっ! バカって言うな、バカって! お空のバカ!」
「うっさい! お前もバカって言ったじゃ…って、今はそんなことで争ってる場合か!」

言い争っている二人を尻目に、ゆっくりと藪の中から天子が姿を見せる。
近接戦闘では役に立たないと踏んだのだろう、すでに弓矢はスキマ袋の中にしまわれている。

「…そうね。確かにだまし討ちなんて性に合わないわ」

穏やかな表情を作ろうとしているだが、よくよく見れば笑顔が引きつっている。
燐、文、映姫達との邂逅で重ねてきた怒りや苛立ちといった感情がついに限界を超えてしまった。
さっきまでどうにか理性で抑えていた闘争本能も最早だだ漏れだ。
不気味さを感じ取ったメディスンがひっ、と小さく悲鳴を上げて少し後ずさりをする。

「よくよく考えれば、貴方達程度なら正面からいったところで何の問題もないはずですもの」

目の前の三人を一瞥しながら言い放つ。
氷精に人形妖怪の力量は花の異変を眺めていてある程度見当はついている。
もう一人、さっき横槍を入れてきた鴉はよく分からないが…
すぐにでも叩きのめしてやりたいところだが、こいつらには少し聞きたいことがある。

「…ところで、貴方達に聞きたいことがあるのだけど、よろしいかしら?」
「…聞きたいこと?」

小さな体をチルノと空の後ろに隠すようにしてメディスンが聞き返す。

「…ええ。実は私、探している人…いや人じゃないわね…妖怪がいてね」

天人としての気品を取り繕いながら天子が言う。

「片目の落ちた猫妖怪…こちらに来なかったかしら?」



*          *




――片目の落ちた猫妖怪。
その言葉を聞いてチルノはピクッと反応した。
猫というだけならまだしも、片目が無いとなるとそんな奴はそう何匹もいるわけではない。
ついさっきまでやり合っていたあの猫妖怪に間違いない。
空の方を見遣ってみると、同じことを思っていたのだろう、神妙な顔つきに変わっている。

「…お空」

呟くと、分かっている、と言うかのように空が小さく頷いた。

「ねぇ? こっちの方に来ているのは分かっているのよ?」

威圧感を滲ませながら、さらに天子が問い詰める。

「…あんたは…お燐のなんなんだ?」
「お燐…? あぁ、それがあの猫さんのお名前なのね」

そう言うと天子はその場でくるりと一回転してみせた。
左肩の辺りが切り裂かれ、周りを血で紅く染め上げている。
激しい戦闘の後なのか、衣服は土埃でうっすらと汚れていた。

「…これね、そいつにやられた痕よ。」

再び三人の方を向き直って天子が言う。

「やられっぱなしじゃ癪だから…と思って後を尾けてきてたんだけどね。この辺りで見失っちゃったのよ。
 そこの鴉さんはそのお燐さんと知り合いのようだけど…どこにいるのかしらねぇ?」
「鴉じゃない、私には霊烏路空という立派な名前がある」
「あら、それは失礼。それで、空さん? お燐さんに会わなかったかしら?」
「お燐は…私の親友だ。そして…」

空がふぅっと大きく息を吐く。
自分の目の前でついさっき起こったことを改めて咀嚼して…こう告げた。

「私が…殺した」

場に静寂が訪れた。
風がそよぎ、周りの樹木の葉を揺らすざわめきだけが響き渡る。
沈黙を打ち破ったのは、くすくす、という笑い声。
口元を押さえた天子が微笑を浮かべていた。

「そう…ご自分の手でお友達を…ねぇ。それはそれは御愁傷様でございます」

何故天子が笑っているのか分からないチルノとメディスンは互いの顔を見合わせ、怪訝そうな表情を浮かべる。
一方、天子は愉快で仕方ない。
一度はあの氷精達のような弱者によって獲物を横取りされたと思っていたというのに。
実際はそうではない、別の強者の手にかかったというだけのこと。
獲物を横取りされた格好になったのは気に喰わないが、代わりにもっと歯ごたえのありそうな相手に巡り会えたのだ。
闘争に飢えていた天子が笑いを抑えられるはずなどなかった。

「それにしても…私にこれほどの手傷を負わせた猫さんを斃してのけるとは…
 貴方もなかなかの手練とお見受けしましたよ」
「…何が言いたい?」
「いえ、ね…本当なら私をこんなにした責任をお燐さんに取っていただこうかと思いましたが…
 もうこの世にいないのでは仕方ありません。ですので…」

そう言うと天子の口元から笑みが消えた。代わりにギラリと目を輝かせて空を睨みつける。

「貴方にお友達として代わりに責任を取っていただこう、こう思いまして」

抑制が利かなくなった殺気を感じ取った空は、これはヤバイと思った。
お燐もこちらを殺すつもりで襲い掛かってきていたが、その時の殺気とはまた方向性が違う。
何があったかは知らないが、心がボロボロになっていたお燐とは全く違う。
おそらく、これが目の前にいる女の"素"なのだろう、そう結論付けた。
だが、再びその殺気が収束されていく。
怒りを抑えている…? そう考えたところで天子が言った。

「ですが、貴方達は本当に幸運です。私、人捜しに加えてもう一つ、探し物がありましてね」
「…探し物?」
「そう。実はそこの氷精が持っているその剣、緋想の剣と言ってね。
 私のような天人にしか扱うことの出来ない、それはそれは特別な剣なのよ。」
「…だからなんなのさ」
「その剣、私に返しなさい。そうしたらこの場は見逃してあげないこともなくってよ」

右手を突き出して要求のポーズを取る。
それを見て、チルノはムッとした表情を見せ、剣を抱きかかえた。

「イヤよ! これはあたい達のものよ!
 だいたい、テンジンだかヘンジンだか知らないけどさ、この剣がアンタのだって証拠がどこにあるのよ!」

今度は天子がムッとした表情に変わる。
確かに、これが自分のものであると証明できる手段はない。
というより、そもそも緋想の剣自体が盗み出したものなのだが、問題はそこではない。
貴人たる天人を、氷精ごときに奇人たる変人と同列に扱われたことが気に喰わなかった。

「…あら、いいのかしら? 天人の忠告は素直に聞いておくものよ?」
「忠告も何も無いだろ。さっきはそこの藪からチルノとメディスンを狙っていたくせに」
「え? 私とチルノを…狙って…? それじゃこの人は…強盗、ってこと?」
「だろうね。大方火事場泥棒、ってやつじゃないか? おあつらえ向きにまだ火も燻っているし」

自分が起こした火事を眺めて自嘲気味に空が吐き捨てた。
一方の天子はと言うと、泥棒というある意味で本質を言い当てられて憤懣やるかたない。

「…どいつもこいつも私を苛つかせてくれるじゃない…!
 いいわ、それなら力ずくで返してもらうわ、後悔しないことね!」
「望むところよ! あんたこそ、最強のあたいに喧嘩を売ったことを後悔させてやるんだから!」

チルノはそう言うと、緋想の剣をメディスンに押しやった。

「…え? いいの?」
「最強のあたいはそんなもんなくても楽勝なの! いいからあんたはそれで自分を護ってなよ」
「…うん、分かった。ありがと」

メディスンに剣を預け、一歩前に歩み出る。

「…おい、チルノ」
「ここまで来て、下がってろ、ってのは無しだよ、お空。
 今のあんたはボロボロじゃない、あたいが護ってあげるから休んでなよ」
「ははっ、このお空様も甘く見られたもんだね」

そう言うと、手持ちの水を頭から被った。
小さくジュッ、と音を立てて空の頭から湯気がほのかに立ち上る。

「灼熱地獄を預かる者の本能が言ってるんだよ。こいつは野放しにしちゃマズい、ってね」
「ふぅん。まぁ、いいけど。あたいの足だけは引っ張らないでよ」
「そっちこそな。メディスン、お前は下がってな、危ないから」
「う、うん。気をつけてね?」

チルノに続いて空も一歩前に歩を進める。
その様子を天子は余裕の表情を浮かべながら黙って見ていた。

「お喋りは終わったかしら? ま、二対一でも私に勝てるとは思えないけどね。
 天人に背くことの愚かさを、死をもって分からせてあげるわ!!」



*          *




「やああぁぁぁっっっ!!!」

叫びながらチルノが突撃する。
ダッシュしながらパンチ、キックと矢継ぎ早に繰り出すが、天子は体を捻るだけで易々といなす。

「あらあら、どうしたのかしら。てっきり弾幕でも打ってくると思ったのに」
「あんたなんか凍らせなくたって楽勝よ!」
「へぇ。天人も舐められたものねぇ」

実際にはチルノは天子を侮っているわけではない。
今まで何の不自由もなく無尽蔵に出せていた氷塊が、今は全く出せなくなっていたからだ。
確かに、さっきお空を救出するのにかなり氷を使ったけれど、それだけで使えなくなることなど今まで無かった。
そもそも、お燐との交戦でも調子が悪いのか、いつもほどの威力は出せていなかった。
ただ、難しいことをいくら考えたって仕方ない。
使えないものは使えないんだ、と割り切って自分の両の手と両の足で目の前の奴を叩きのめすことに決めたのだ。

違和感を感じていたのはチルノだけではなく、空もまたそうであった。
先ほどのお燐との戦いで、全霊力をもって放ったアビスノヴァ。
これの為に今の空もチルノと同じく、プチフレア一つ放つことが出来ない状態にあった。
空の場合はこういう状況に陥ったのは二度目だったので、ずっとその状況に対する心の準備は出来ていたが。
如何せん体のあちこちにダメージを負ったままの状態では動きが重たい。
チルノに続いて天子に殴りかかるも、あっさりかわされてしまった。

二人の攻撃をかわした天子がその場で回転しながら足払いを仕掛ける。
足を刈られた二人がその場にすっ転ぶ。元々ダメージを負っている空が少しばかり苦悶の表情を浮かべた。

「どうしたのかしら? 威勢がいいのは口だけ?」
「いっ、今のは準備運動の練習よ!」
「何よそれ」

再び飛びかかってきたチルノを前蹴りで迎撃する。
吹っ飛んだチルノを空が体全部を使って受け止めて衝撃を和らげた。

「いてて…ふ、ふん! なかなかやるじゃない!」
「まだほとんど何もしてないわよ。それとも? この期に及んでまだ手を抜いているのかしら?」

両手を広げて余裕の構えを見せる天子に対して、チルノと空はギラリと敵意の視線を投げかける。
それを無視するかのように天子はさらに言葉を投げかける。

「…あ。ま・さ・か…貴方達、弾幕を打つことが出来ないのかしら?」
「ぐっ…」

気づかれたか、という表情を空が浮かべる。
それを見た天子は、なんて馬鹿正直なんでしょう、と思う。

「残念ね。貴方達はともかく、私は…この通り!」

目の前に陣を展開し、力を収束させる。
これから起こるであろうことを本能的に察知した空の背中を冷や汗が伝う。

「マズいっ! チルノっ! 避けろっ!」
「非想の威光の前にひれ伏しなさいっ!」

横に転がって回避行動を取ったその直後、二人がさっきまでいた所を無数のレーザーが通り抜けていった。
二人の背後にあった樹木は蜂の巣にされ、穴からはブスブスと煙が立ち昇る。
もしまともに喰らっていたら、と思うと空はぞっとした。
一方の天子はその様子を見てチッ、と小さく舌打ちをする。
避けられたことに対して、ではない。自分の弾幕の威力に納得がいかなかったのだ。
休息を取ってある程度霊力は戻ったとはいえ、威力そのものにはやはり制限がかかっている。
本来なら樹木一本など塵芥に変えてしまえるだけの自信があったのに。
おまけに、威力は抑えられているくせに体にかかる負担は大きいときたものだ。
避けられるのはむしろ想定済みだ。だからこそ、出の遅い弾幕を張ったのだ。
いわば、これは牽制であると同時に、天人たる自分の力の誇示。

「安心しなさい。貴方達が弾幕を打てないのなら、私もこれからは打たないであげるわ」
「なにおー! あたい達を馬鹿にするつもりかー!」

堂々と手を抜くと宣言されたことにチルノが腹を立てる。
だが、チルノにも目の前の天人の実力は先ほどの弾幕のおかげである程度察しがついていた。
おそらく、さっきの猫妖怪と同等か、それ以上だろう。
だからと言って怯むような性格ではないのだが。

「そうしてやっと戦いになるっていうのよ?
 それぐらい、今の貴方達と私の間には実力差があるっていうのに気づかないのかしら?」
「うるさいうるさいっ! あんたなんか叩きのめしてやるっ!」

三度チルノが飛びかかってきた。それに空も続いてくる。
攻撃してくる二人をいなしながら、天子はチルノと空の実力のほどを計る。
まずはこの氷精。
動きはまずまず速いが、体の小ささも相まってか、リーチの短さは致命的だ。
おまけに馬鹿正直に真っすぐ突っ込んでくるだけなので、攻撃の軌道も読みやすい。
懐に潜られれば厄介だろうが、中間距離さえキープできれば怖い相手ではない。
そしてもう一人の鴉妖怪。
こちらは体中に負った傷のせいか、あまりにも動きが重すぎる。
それだけ燐と激戦を繰り広げたことが容易に想像でき、万全ならばあるいは、と天子を残念がらせた。
振り回してくる棒のようなものの風切り音からすれば、当たれば相当痛そうだ。
だが、当たらなければどうということはない、この動きの速さならかわすのは容易い。

つまり、よほど間違いがない限りこの二人に自分が負けることはない、天子はそう結論付けた。
しかも、戦闘意欲だけは先ほどの腑抜け閻魔と違って旺盛ときた。
能力や仕込み刀を使って葬り去るのは簡単だが、それでは今の自分は満足しない。
溜まりに溜まったイライラを解消するために、嬲れるだけ嬲ってしまうことに決めた。
仕留めるのは二人の心が折れてからでも構わない。
いわば、この戦闘は八雲紫、その式、そして射命丸文という強者と甘美な戦闘をする上での前菜。
氷精の訳の分からない言葉を借りれば"準備運動の練習"程度にしか考えていない。

「このっ!!」

チルノが一歩踏み込んでローキックを繰り出す。
逆に一歩引いてそれをかわしたところで、天子は諸手を思いっきり前に突き出した。
両の掌がチルノの腹部を正確に捉えると、今までより大きくチルノが飛ばされて地面を転がっていった。

「チルノっ!!」

思わず声をあげた空に向かって、間髪をいれずに生成した石を両手に振りかぶって殴りかかる。
すかさず制御棒でガードをするが、衝撃で傷口に痛みが走る。
空の動きが一瞬固まったところを、天子は見逃さない。
空いた足で前蹴りを放つと、空はもんどり打って倒れた。
鳩尾に入ったのだろう、すぐに立ち上がることが出来ない。

「空さんっ! チルノっ!」

緋想の剣を手にしたメディスンが思わず悲鳴をあげる。
命に別状は無さそうだが、ここまで二人は目の前の敵にほとんど攻撃を当てられていない。
あれだけ勇んで戦いに歩み出て行った二人が…と、メディスンの脳裏に絶望の二文字がよぎる。
天子は倒れている二人を一瞥すると、今まで全く興味を示していなかったメディスンの方へ向き直る。
今度は自分の番か、と思ったメディスンが一歩後ずさる。

「安心しなさい。臆病者を虐めるつもりはないわ、つまらないもの。
 でも、これで分かったでしょう? 天人に刃向かう事が如何に愚かなのかということが」

メディスンはガタガタと震えていた。
本来ならメディスン・メランコリーという妖怪は決して力の弱い存在ではない。
その彼女が恐怖のあまり攻撃が出来なくなっているのには理由があった。
それは、彼女が最初に出会った妖怪から向けられた、あまりにも強力な殺意。
首を締め上げられた、あの時の恐怖はメディスンの中に大きなトラウマとして残っていたのだ。
妖怪として生きた期間が短いがために、これほどの恐怖を味わったことはこれまで無かった。
故にそのトラウマはかなり根深いものであり、それがフラッシュバックして彼女の動きを固まらせていた。
そんなメディスンの心中など知る由もなく、天子が言葉を継ぐ。

「あなたは聞き分けがよさそうだから、もう一度だけチャンスをあげましょう」
「チャン…ス…?」
「そうよ。その剣をすぐに私に返しなさい。
 強情を張らないほうがいいわ…あの二人みたいになっても知らないわよ」

剣を渡さないと自分も痛い目に遭う…
でも、それだけは絶対に出来なかった。
だって、剣を渡して自分は助かったとしてもあの二人はどうなる?
さっそく手にした剣で試し斬りをするに決まっている。
でも、どうしたらいいのか…それがメディスンには分からず、俯くことしか出来なかった。

「ダ、ダメだよ…そんなやつの言う事なんか絶対に聞いちゃダメだよ…」

その声を聞いて、ハッとメディスンは顔を上げた。
視線の先には、ふらつきながらも両の足で立ち上がり、変わらぬ強い目で天子を睨みつけるチルノの姿があった。

「貴方には用は無いわ。今はこの子と話をしているのよ」

一瞬だけチラリと目線を遣ってぴしゃりと言い放つと、再び天子はメディスンの方に向き直った。

「さぁ、おとなしく剣を返すか、それとも痛い目に遭いたいか、選びなさい」

恐怖、絶望、不安…さまざまな負の感情がない交ぜになり、メディスンは混乱しかかっていた。
何か選択をしなければならない、それなのに頭がちっとも働かない。
ただただ本能のままに怯えて震えることしかできていなかった。
そんな彼女の目を覚まさせてくれたのは、腹部を押さえながらむくりと起き上がった地獄鴉の声だった。

「メディスン…いいよ、そんな剣なんか返しちまいな」
「…空さん?」
「えっ!? ちょっとお空、何言ってるのさ!?」

突然の空の発言に、メディスンだけでなくチルノまでもが面食らった。
天子もやや不思議そうな顔を見せている。

「あら。どういう風の吹き回しかしら」
「…一つ聞きたい。その剣とやらを返せばメディスンは見逃してくれるんだな…?」
「刃向かえば話は別よ。ま、今のあの子にはそんなこと出来ないでしょうけど」
「…だそうだ。だからメディスン、お前だけでもここから逃げろ。
 誰かに会ったら妙ちくりんな帽子を被ったヤバい女がいるって言って回れ」
「あら、この帽子の趣味が分からないのかしら。残念ねぇ」
「で、でも…空さんとチルノは…」
「安心しろ。すぐにこんな奴ぶちのめして追いついてやる。なぁチルノ?」
「えっ? あっ、ああ、そうよ! いいからあんたは早く行きなさい!」

しばし逡巡しながらも、メディスンは足元に緋想の剣をそっと置いた。
そのまま二歩、三歩と後ずさりしながら空とチルノに呼びかける。

「絶対だからね!? 約束だよ!?」

空が返事の代わりに親指をグッと立てるのを見て、メディスンは山を駆け下りていった。
姿が見えなくなったのを確かめて、天子が緋想の剣を拾い上げる。

「意外だな。だまし討ちまでしてきたんだから背後を狙うくらいのことはするかと思ったのに」
「性に合わないって言ったわ。それに、その隙に貴方達が襲ってくるかもしれないでしょ?
 まぁ、私のことを言いふらされたって痛くも痒くもないわ。
 元々誰ともつるむ気はないし、下界じゃ私は割と嫌われているみたいだしね。
 あの子の残りの荷物にも興味は無いわ、私にはこの緋想の剣があれば十分ですもの。
 それにしても、返してくれたってことはそろそろやられる覚悟が決まった、ということかしら?」
「なに、お前を叩きのめしてもう一度そいつを奪い返せば済む話だ」
「そうよ! それに、そのぐらいハンデがあったほうがちょうどいいわよ!」

ダメージから回復してきたか、またいつでも飛びかかれる体勢を二人がとる。
そんな様子を、少しばかりの憐れみを含んだ眼差しで天子が見つめる。

「あれだけやっても、まだ身の程が分からないのかしら。
 まぁいいわ。なら、天人の真の力、少しだけ見せてあげるわ」
「何が真の力よ! 凍らすことも出来ない癖に偉そうにするんじゃないよ!」

チルノの挑発を無視するように天子が緋想の剣を構えた。
…ただし、その剣先は空とチルノにではなく、地面に向かって。

「さっき言ったわよね? この剣は特別な剣だって。
 凡人にはただの剣でしかないけれど、私が使えば…!」

言いながら剣を地面に突き刺すと、その途端に地面がグラグラっと波打つ。
予想外の出来事に驚く二人は、たまらず尻餅をついてしまう。
これでもいつもより揺れが小さいことに、少しばかり天子は不満を覚えた。
が、飛行能力が制限されている今は相対的に見ればいつもと同等の効果があると言っていいだろう。

「この程度のことは訳もないのよ」

にべも無く言い放つ天子の言葉を耳にして、空は剣を渡してしまったことを少しばかり後悔した。



*          *




メディスンは只管山を駆け下りていた。
大丈夫、あの二人ならきっと強盗なんて懲らしめてくれる。
さっきだって空さんはちゃんと生きて帰ってきたじゃない。
それだけを考えて、最悪の可能性を努めて思考の外へと追いやっていた。

だが、そのメディスンも大地がうねるのを感じたことで、現実逃避が出来なくなった。
普段ならただの地震だと済ますことが出来たかもしれないが、状況が状況だ。
あの強盗がもしかしたらそういう能力を持っているのかもしれない、そう考える。

メディスンはすでに一度辛い別離を経験していた。
大好きだったスーさんとの別離。
それは、自分を傷つけないがためのものであると理解はしていても、やっぱり辛いものは辛い。
そんなスーさんと同じように、空とチルノともお別れすることになってしまうのか?
空もチルノも自分を守るために自分を遠ざけた、偶然とは思えないくらいにスーさんと一緒だ。

もうこれ以上辛い思いをしたくない。
せっかく友達になってくれたのに、その友達が痛い思いをしているのに。
こんな小さな自分にだって、何か少しくらい役に立つことが出来ないのか。

ふと、メディスンはさっき自分のスキマ袋を漁っていた時に感じたある感覚を思い出していた。
手錠と同じような、ひんやりとした金属の感覚。
藁にも縋る思いで目的の物を引っ張り出す。
付属の説明書を流し読みして、これなら二人を助けられるかもしれない、そう思う。

恐怖に震える体を、無理矢理に奮い立たせる。
待っててね、すぐに助けに行くから。
少女は来た道を一歩一歩、引き返し始めた。



*          *




突き飛ばされてチルノが宙を舞う。
蹴り飛ばされて空が地面を転がる。
もう幾度と無く繰り返されてきた光景。
それでもなお、二人は立ち上がり、天子に戦いを挑み続ける。

殺す気はない、そんな手心の加わった攻撃だからなのかもしれない。
二人に、この天人には敵わない、そう思わせることが出来れば十分だったからだ。
だが、二人に諦める気配というのは微塵も感じられない。
攻め続ける天子にも徐々に疲労の色が見えてきた。
適度に嬲って苛立ちを紛らわすはずだったのに。
逆にまた苛立ちを感じ始めている、本末転倒じゃないか。

「…往生際が悪いわね! いい加減に諦めたらどうなの!?」

自分が攻めているのに追いつめられているような嫌な感覚を覚え、つい語気が荒くなる。
そんな天子のイライラをよそに、チルノがボロボロの体で立ち上がる。

「だって…あたいは最強だもん。最強なんだから、あんたなんかに負けないんだもん」
「おぅ…いい事言うじゃないか…私だって最強だ、だからお前なんかには…負けない!」

チルノよりさらにボロボロの体、だというのに空も立ち上がって闘志をむき出しにしてくる。
天子には理解が出来ない、こんなに力の差があるのに何故諦めないのか、と。
なまじ頭がよければ、相手との実力差を感じれば色々考えることがあるはずだ。
戦略的撤退を選ぶなり、命乞いをするなり、逆転の秘策を練るなり…
だが、目の前の二人は、ただただ純粋に自分が最強であると信じている。
自分が最強なんだから負けることはあり得ない、だから戦い続ける。
それは相手の力を量れないただの馬鹿なのかもしれないが、チルノと空にとってはごくごく当たり前の思考なのだ。

「最強最強って、馬鹿の一つ覚えみたいに…
 言うのは簡単よ、でも今の貴方達にはその称号に伴うだけの力なんてない」
「…私はあんたみたいに頭がよくないから称号だ何だと難しいことは分からないがな」

そう前置きして空は続ける。

「私は最強でなきゃいけないんだ。
 お燐は守れなかったけど…さとり様、こいし様、それに地霊殿のみんな。
 大好きな人たちを守るために私は最強でなきゃいけない、あんたには分からないかもしれないがな」

いつだったか、自分に話したことと同じ事を言う空を見て、チルノも思う。
自分は何で最強じゃなきゃいけないのか、いつだったか自分に投げかけられた疑問。
今はボロボロのお空を守りたい(守れてないけど)、ただそれだけ。
でも、それってあたいがお空が大好きだからなのかも? 認めたくないけどそうなのかもしれない。
そして上っ面だけかもしれないけど、友達になろう、といったメディスンのことも同じ。
じゃあ、あたいは、あたいは誰の為に最強になるのかって? それは…

「馬鹿馬鹿しい」

空の言葉を一蹴して天子が吐き捨てる。
不老不死の体をいい事に毎日遊興に耽る他の天人は自分にとっては唾棄すべき対象だった。
既に死んだ竜宮の遣いにしたって、知り合いというだけでそれ以外の何者でもない。
現に、その死体を目にしたって無念を晴らしてやろう、だなんて微塵も考えなかった。
むしろ、このそれなりの実力者を屠った強者とやり合うのを楽しみにしたくらいだ。
自分には自分以外に守るものなどない、だから天子には空のことが理解できない。

ふと、天子は先ほどの空の言葉を反芻する。
大好きな人達、その中にあったさとり様、こいし様という敬称付きの名前。
確か名簿の中にそんな名前もあったな、と思ったところで愉快な考えが浮かぶ。

「…そうだ。いい事を思いつきましたわ」

そう言うと自分のスキマ袋を探る。
次は何が出てくるのか、身構える空とチルノを尻目に目的のものを探し当てる。

「空さん、でしたっけ。そのさとりさんとこいしさん、というのは貴方のご主人様ね?」
「あぁ、そうだよ。それがどうしたってのか」
「いえ、ね。実は貴方と同じくご主人様に仕えている、そんな身分の方に先刻お会いしましてね」

言葉とともに、二人に向かって丸いものをひょい、と放り投げる。
それは二人の前方数mのところで地面に落ちるとそのままゴロゴロと転がっていく。

「ちょ、ちょっと、何よこれ…!」

チルノが不快感を露にする。
だって、それは化け猫の首だったのだから。
首輪が嵌められているところを見ると、自分達と同じ参加者だということくらい、チルノにも分かった。

「その首をそいつのご主人様に見せたら、どんな顔をなさるか楽しみでしてね。
 それと同じように貴方の首も貴方のご主人様に見せたらどんなに面白いか、と思いまして」

空の心中に言いようの無い怒りが滾る。
すでに炎を出す力もない、だが、自分の中の核融合の力がこの女を許すな、そう煽ってくる。
燐と同じような猫妖怪の首であったことが、その姿を重ね合わせるようでさらに怒りを倍化させる。

「そうだ、さっきのお燐さんも首を落として差し上げようかしら。
 私にこんな傷を負わせたんですもの、当然の報いよね」

燐までも愚弄するその言葉が完全に空の怒りを爆発させる引き金となった。

「許さないっ…!!」

空が制御棒を振り上げて猛然と突進して殴りかかる。
天子はそれを緋想の剣で受け止め、ガキッという金属音が響き渡る。
またも攻撃を当てられなかった? しかしこれは空にとっては大きな前進だった。
今まではただ虚しくかわされるだけだった攻撃をガードさせることが出来たのだ。

「…やっと捕まえたよ。力勝負なら…こっちのものだ!」

地面を震わせる剣は塞いだ、剣で片手が使えないから石で殴られることもない。
力一杯押せば、足技を使うことも出来ないはず。使えばバランスを崩して倒れるだけだ。
ほら見ろ、やっぱり私は最強だ、当たりさえすればこんな奴…

よし、もう一押し、そう力を込めた瞬間に、フッと向こうが体を引く。
目標を失った空がたたらを踏んでよろめき、そのままうつ伏せに倒れこむ。
すかさず天子が空の背中を制圧する。

「直情馬鹿はこれだから好きだわ。私の手の中で思い通りに踊ってくれるんですもの。
 捕まえた? こっちのセリフよ」

つまり、空は天子の挑発にまんまと乗せられてしまったということ。
そして、そのことを空が後悔する暇も与えずに天子は空の制御棒を掴んで上方に引き上げる。

「最初から鈍器を装備しているなんてずるいわ。大人しくしていてもらうわよ」

そう言うと、両手で第三の足を抱え込んで全体重を乗せて引っ張り込んだ。



127:灰色の未知の世界 時系列順 128:哀死来 4 all(後編)
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114:比那名居天子の憂鬱 メディスン・メランコリー 128:哀死来 4 all(後編)
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114:比那名居天子の憂鬱 比那名居天子 128:哀死来 4 all(後編)

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最終更新:2010年03月10日 19:08
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