It's no use crying over spilt milk

It's no use crying over spilt milk ◆TDCMnlpzcc


「やっぱり、みんな死んでしまったのですね」

放送が終わると、東風谷早苗がぽつり、と言葉を漏らした。

「諏訪子様も、慧音さんも」
「みんないなくなっちゃった」

そのとおりね。みんないなくなっていく。
八雲紫は放送で呼ばれた二つの名前に心が痛むのを微かに感じながら、心の中で答えた。

次の放送では誰が呼ばれるのだろうか。
次に呼ばれるのは幽々子かもしれない。
もしかしたら、ほかならぬ自分かもしれない。

「一寸先は闇」
「?」
「あと少し運が悪ければ呼ばれていたのは私たちだった」
「紫さん」


死のことを頭から強引に振り払い、放送の内容へと意識を向ける。
今回の放送、気になる点がある。
永遠亭の主、蓬莱山輝夜の死についての釈明。
あれは明らかに真実を話していない。
本当に死んでいないのならそんな“言い訳”をする必要はないからだ。

月の科学力は非常に進歩していて、なおかつ月の頭脳といわれる八意永琳である。
やる気になれば精巧な、本物と区別できない人形を作ることなど容易だろう。
そう思う参加者は決して少なくはないだろう。
そして、蓬莱山輝夜の死体を目にしたわけでもなく、
目にしても能力の制限ゆえにその真贋を区別できないであろう自分にも、
放送を疑う根拠はない。

「紫さん?聞いていますか?」

これは私を含めた、主催に疑問を持ち始めた参加者に対する文字通りの釈明だ。

「紫さん!!」

とはいえ、そう思うことを前提にした―――。

「紫さん、さとりさんが帰ってきません!!」

布団の中、いまだ体を起こせない早苗が叫ぶ。
そこで私は薬を探しに行ったきり帰らない古明地さとりの不在に気付いた。




彼女はすぐに見つかった。
廊下の端、散らばった薬の中心に膝を抱えて座り込んだ人影。
微かに漏れ聞こえるのは嗚咽の音だろう。

「さとり?」

声に体が反応した。
が、返事はない。

「さとり、早苗が心配しているわよ」




死ぬなんて。
こいしが死ぬなんて。信じられない。





「「さて、それでは3回目の放送を始めますわ。
まずは退場者の発表から、一度しか言わないからよく聞くのね。
いくわよ。
洩矢諏訪子
紅美鈴
蓬莱山輝夜
八雲藍
森近霖之助
火焔猫燐 」」

火焔猫燐、この名前が呼ばれた時に背筋が寒くなった。
ついに来たか、ついに来てしまった。この時が。

「燐、なんで・・・」

喉の奥から声が出た。
いつか来るかもしれないと覚悟はしていたペットの、家族の死。
目頭が熱くなった。
燐、可哀想に――――


「「秋静葉
古明地こいし   

以上11人 」」


「あれ?」

薬が、手に持っていたはずの薬が床に散らばった。
何が起きたのか分からない。
頭が現実を受け入れてくれない。

「コメイジコイシ・・」

妹の名前、それがどうした。
妹の名前が呼ばれてなにかおかしいことがあるのか。
自分だってしょっちゅう呼んでいる名前ではないか。

「意味、分からない」

がくん、と膝が折れて尻もちをつく。
どこか遠くで、どこか冷静な自分が、とんでもないことになったと嘆いている。

「「他の参加者も
‘無駄なこと’に力を注いで無駄死になさらぬよう。お気をつけなさい。
それでは、次の放送でお会いしましょう」」

無駄なこと、そう無駄なこと。私は今まで妹を放って何をしていたのだろう。

名前を偽って、仲間を作って、仲間を助けて・・・。
妹は、家族はどうした?
家族を探して、必死の早苗を見ても、私はこいしが死ぬなんて考えていなかったような気がする。
今まで何百年も大丈夫だった。
私たち姉妹は死から遠い存在だった。
周りで死ぬ人がいても、どこか遠くで起きたことのように感じられ、自分とこいしは大丈夫だと思っていた。
結果がこれだ。
わたしの帰るべき日常は壊れてしまった。
もはや妹に過去の謝罪など出来やしない。




「さとり?」

―――泣いているのかしら?

え?
誰かの心の声が耳に入り、私は自分が泣いていることに気付いた。
その誰かとは八雲紫。
なかなか帰ってこない私を心配して探しに来てくれたのだろう。

「さとり、早苗が心配しているわよ」

―――本当に大丈夫?気持ちは分かるわ。

紫、八雲紫、八雲。
先ほどの放送で呼ばれた八雲藍。
彼女の家族なのだろうか。

涙をごまかす意図も込めて、勇気を持って遠慮せずに尋ねてみる。

「八雲さん。先ほど呼ばれた八雲藍とはどのような関係にあったのですか?」
「私の式よ。何百年も一緒にいたけれど」

即答。しかし、相手の感情が揺らいだのがさとりにはわかった。
顔を上げると、相手の眼はこちらを見ていなかった。
相手の視線を目で追って、それが自分の足元に散らばる薬に向けられているのに気付き、赤面する。

「少しお恥ずかしいところをお見せしました」

薬をかき集めながら言う。

「別に私の前で泣くのが嫌ならしばらくはずすわ。
 長く生きれば生きるほど、他人の前で感情を出せなくなるものよ」
「いえ、大丈夫です。それより早苗さんは?」
「放送の時には起きていたけど」

―――絶対大丈夫じゃないでしょう。あんまり感情を抑えていると、そのうち火傷するわよ。

八雲紫の心の声に内心苦笑する。
確かに私は立ち直っていない。
ただ長年の、地霊殿の主としてのプライドが、私に演技をさせている。

こんなときでも、家族が死んだと分かった時でも、感情を出せない自分。
あまりに情けなくて、こいしとお燐に申し訳なくて、どうしようもなくなって、顔に出して苦笑した。





「いえ、大丈夫です。それより早苗さんは?」
「放送の時には起きていたけど」

大丈夫ではなさそうね。
露骨に話をそらすさとりをみて紫はそう判断した。
あまり感情を抑えているとどこかで問題が起きる。
諭したい気持ちはあるが、感情を抑える道を選んだのは本人だ。
これ以上この話をしていても関係が悪くなるだけ。放っておくことにすべきだろう。

もっとも相手はさとり。こちらの言いたいことは言わずとも理解してしまうのだろうが。

「っふふ」

おかしな笑みを浮かべたまま、さとりが立ち上がる。
狂ったのか?失礼な推測が頭に浮かんでくる。

「大丈夫、狂ってはいません。ただ、急ぎましょう」
「どこへ?」
「早苗さんに薬を飲ませないと。あなたのための薬もあります」



薄暗い、部屋の中。
私は感情を押し殺し、薬の残りをスキマ袋に詰めていく。
心を読めなくても私の動揺は周りに伝わっているようで、周りの二人からは気遣いの感情が流れ込んでくる。
沈黙の中、口を開いたのは早苗さんだった。

「さとりさん、大丈夫ですか?」
「早苗さんこそ、調子は?」
「薬を飲んだので良くなるかと思います」

「ちょっといいかしら?」

私と早苗さんとの会話に、手に薬を塗っている八雲紫が割り込んだ。

「なんでしょうか?」
「ここにいられるのは21時までということは知っているわよね」

―――禁止エリアは 21時からF-7、0時からF-2よ

「はい、わかっています」

一呼吸置いて。

「それで幻想郷の賢者は何かこれからの案をお持ちですか?」
「とりあえず、博麗神社に向かおうと思うの」
「私たちにとっては逆戻りになりますね」
「ええ、だからあなたたちは別行動でも構わない」

別行動。とはいえ熱を出している早苗と二人きりでさまようのは得策とはいえない。それに・・・。

「全員一緒に神社に向かうか、あなたたち二人はどこかへ行くか、
私――八雲紫と早苗が神社に向かい、あなたは一人で動くという案もある」
「え?」
「病人を一人神社に送り届けるなんて簡単よ」

それに、と彼女は続ける。

「あなた、しばらく一人になりたいでしょ。そして出かけたいところもありそう。
さっきからそわそわしているもの」

苦笑。見抜かれていたか。

「わたしはもう後悔したくない。家族をこれ以上失いたくない」
「お空さんを捜すのですね」
「ええ、悪いわね。早苗さん」
「いえ、私だってずっと付き合ってもらいましたから」

私はこの会場にいるペット、霊烏路空に会い、保護したい。
また、こいしに会って。死体でもいいから会って、謝りたい。
お燐とこいしの死体を埋葬したい。
もう、後悔したくない。

「あてはあるのかしら」

八雲紫が当然の疑問を口にする。

「ありません。とりあえずは人の集まりそうな人里へと向かいたいと思います」
「そう・・・・」

じゃあ、と彼女は続ける。

「西行寺幽々子、八意永琳の二人も探してほしいの」
「八意永琳ですか?」
「ええ、あと博麗霊夢は危険だから近づかないようにしなさい」
「博麗の巫女ですか?事情をお聞かせください」
「ちょっと情報交換をしておくべきね」






「さて、調子はどう?東風谷早苗」
「まずまずです」

二人きりになった部屋の中。額に手を当てながら私は答えた。
私の横に座る紫さんは自身の手をいじくりながら、しきりに感心しています。
怪我は完治したみたいです。

「八雲紫さん」
「紫でいいわ」
「紫さん。霊夢さんは何で殺し合いに乗っているのでしょうか?
あの人は人に命じられて殺し合いに乗る人でもないですし、
自分の意思で殺し合いに乗る人でもないとおもっていたのですが」

紫さんはしばし黙って、言いました。

「わからない。でも理由がある。それを探しに博麗神社にむかうのよ」

【F-7・永遠亭 一日目・夜】

【八雲紫】
[状態]正常 (手の怪我は治りました)
[装備]クナイ(8本)
[道具]支給品一式×2、酒29本、不明アイテム(0~2)武器は無かったと思われる
    空き瓶1本、信管、月面探査車、八意永琳のレポート、救急箱
    色々な煙草(12箱)、ライター、栞付き日記 、バードショット×1
[思考・状況]基本方針:主催者をスキマ送りにする。
 1. 博麗神社へ向かう
 2.八意永琳との接触
 3.ゲームの破壊
 4.幽々子の捜索
 5.自分は大妖怪であり続けなければならないと感じていることに疑問
[備考]主催者に何かを感じているようです
    ゲーム破壊の手を考えついています
    古明地さとりと情報交換しました



【東風谷早苗】
[状態]:軽度の風邪(回復中)、精神的疲労
[装備]:博麗霊夢のお払い棒、霧雨魔理沙の衣服、包丁、
[道具]:基本支給品×2、制限解除装置(少なくとも四回目の定時放送まで使用不可)、
    魔理沙の家の布団とタオル、東風谷早苗の衣服(びしょ濡れ)、上海人形
    諏訪子の帽子、輝夜宛の手紙
[思考・状況] 基本行動方針:理想を信じて、生き残ってみせる
1.八雲紫と一緒に博麗神社へ向かう
2.ルーミアを説得する。説得できなかった場合、戦うことも視野に入れる
3.人間と妖怪の中に潜む悪を退治してみせる





「それでは、行ってきます」

二人が残る永遠亭に向かって一礼する。
この一礼は自分の身勝手な行動を許してくれる二人に対してのもの。

「さてと、行きますか」

譲ってもらった空飛ぶ箒にまたがって、私は空に飛び立った。
当座の目的地は人里。
この幻想郷では中心にあたる場所。
その後の目的地は後で決めればよい。
どうせ当てなどないのだ。

私は箒に乗って、夜の竹林を飛んでいく。

いまだに心の整理はできていない。
憎しみと、悲しみと、いらだちと、自己嫌悪とであふれんばかりの心は、
夜に冷やされ、丸まるどころかどんどん鋭利になっていく。

こいしを、お燐を殺した奴が憎い。
私の日常を奪い、謝る機会を奪ったやつが憎い。
こんな感情的になったのは久しぶりすぎて、私は戸惑った。

「夜が明けるまでには博麗神社に着かないと」

時間はあるようでない。
急いで動かなければならない。

「何かが手遅れになる前に・・・」

【F-7・竹林 一日目・夜】

【古明地さとり】
[状態]:健康 、動揺
[装備]:包丁、魔理沙の箒(二人乗り)
[道具]:基本支給品、にとりの工具箱
[思考・状況] 基本行動方針:殺し合いには乗らない
1. こいしと燐の死体の探索。空の探索と保護
2.西行寺幽々子、八意永琳の探索
3. こいしと燐を殺した者を見つけたら・・・
4.ルーミアを止めるために行動、ただし生存は少々疑問視。出会えたなら何らかの形で罰は必ず与える。
5.工具箱の持ち主であるにとりに会って首輪の解除を試みる。
[備考]
ルールをあまりよく聞いていません(早苗や慧音達からの又聞きです)
※主催者の能力を『幻想郷の生物を作り出し、能力を与える程度の能力』ではないかと思い込んでいます。
※主催者(=声の男)に恐怖を覚えています
※八雲紫と情報交換をしました
※明け方までに博麗神社へ向かう



141:らびっとぱんち 時系列順 143:北風と太陽、冬空の旅人
141:らびっとぱんち 投下順 143:北風と太陽、冬空の旅人
131:夜が降りてくる ~ Evening Star 八雲紫 152:仰空
131:夜が降りてくる ~ Evening Star 古明地さとり 149:Moonlight Ray
131:夜が降りてくる ~ Evening Star 東風谷早苗 152:仰空

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最終更新:2014年11月07日 18:01
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