原点回帰

原点回帰 ◆TDCMnlpzcc




放送が、終わった。
 十六夜咲夜は明かされた事実と新たな褒賞の話に意識を向け、戸惑っていた。
 八意永琳が主犯ではない。
 ではいったい誰があの主催者なのだろうか?
 あの男はいったい何者なのだろうか?
 疑問は尽きることを知らず、次々と、まるで湧水のように噴き出し始めた。
 特に、最後の褒美の話。
 自分の主、レミリア・スカーレットはそれをどうとるのだろうか?
 馬鹿な妄言として切り捨てる……いや、単なる侮辱としてとるだろうか?
 褒美は得るものではなく奪うもの。
 今のレミリアも昔のレミリアもこの提案に乗り、主催者の言いなりになることはないのだろう。
 少し変わってしまっていても、レミリア・スカーレットは紅魔館でゆったりと紅茶を飲んでいた時と変わらず、ぶれていない。
 十六夜咲夜の目の前には、昔と変わらない主の姿があった。
 とりあえず、彼女は放送の内容を参加者名簿にまとめる。
 紙を支える机も板もない草原では、文字はのたうつミミズの絵となり、一文字書くのにも苦労する。
 しゃがみこんで書き込んでいるうちに時間はどんどん過ぎて行った。
 しばらく経って、今まで黙っていた吸血鬼が口を開く。

「あと十三人だそうだ。咲夜、ずいぶん獲物が減ってきたな」

 そして、参加者名簿にメモを取る咲夜の横で、放送に眉一つ変えなかった吸血鬼が月を見上げた。
 遠くを見つめるレミリア・スカーレットの顔には何の感情も映っていない。
 ただ、真珠のような白い顔に、放送前と変わらぬ笑顔のような表情を浮かべているだけだった。
 その顔からは、いったい何を考えているのかはうかがい知れない。
 まるで何かを宣誓するかのように高くあげられたその手は、天頂に浮かぶ城郭の天守閣に向けられており、その中の誰かに向けられた吸血鬼の紅い視線は、するどく殺気を放っていた。
 咲夜はその姿を見て、純粋に美しいと感じるとともに、その影から普段のレミリア・スカーレットの面影を見出していた。
 すっかり変わってしまったレミリアの姿から、おどけて満月に手を伸ばす普段の気さくな様子を感じ取り、咲夜は少し安心した。
 自身の知っていた主はまだそこにいる、そう感じた。
 ぱたっ、と挙げられたその手が突然降りた。
 と、同時に吸血鬼が言う。

「咲夜」

 たった一言、しかし、それは忠実な従者の意識を縛るには十分すぎる一言だった。
 咲夜は意識を放送内容から、自身の主へと移し替えた。
 その眼を見て、多少の恐怖に震えながら、この殺し合いの前と変わらない調子で言う。

「はい、お嬢様」

自身のしもべの返事を聞き、吸血鬼はしばし黙る。
 その間を使い、主と従者は視線を絡ませ、相手の考えを探った。
 あたりは普段は聞こえるはずの虫の音もなく、死んだような、人工的な空気を漂わせている。
 しばらく、あたりが静まり返った。
 今彼女たちがいるのは人里外れの平地である。
 咲夜はただレミリアの望みに従い、逃がした天狗を追いかけている。
 今は夜であり、吸血鬼であるレミリアだけならもっと早く天狗を追跡し、追い付くことも可能だっただろう。
 しかし、彼女は従者の治療と療養を優先した。
 それを従者は自身の主なりの優しさか、手負いの天狗に向けた余裕の表れと受け取った。
 とにかく、その治療と休息を挟んだゆえ、彼女たちは放送に至る今もまだ、天狗の血のにおいを追い、平地を人里に向け歩き続けている。
 放送までに奇襲をかけられやすい森を抜けられたのは幸運だったのだろう。
 機動力、夜間の視力ともに優れた吸血鬼にとってもまた、平地は戦いやすい場所であり、彼女たちはここで比較的リラックスをして放送を聞き、過ごしていた。
 すぐ近くには人里が見え、そこで発生している火災が、人里もまた安全地帯ではないことを示していた。
 もっとも、この会場に安全地帯など存在しない。
 それはここにいる二人もよく理解している。
 現に、今も咲夜の左手には飛び道具を仕込んだナイフが巧妙に、遠くからは見えないように包まれている。

「咲夜、戦えるか?」
「もちろんです」
 レミリアの問いに咲夜は即答した。
 当たり前のことである。
 体調が万全でなくとも、命令とあれば本気を出してお嬢様のために戦い抜く。
 それが今ここでの、十六夜咲夜の生き方だった。
「武器を構えろ、咲夜」
 その言葉が咲夜の耳に届くと同時に、どさり、と何かが近くに落ちた音がした。

 博麗霊夢が放送を聞き始めたとき、彼女はまだ紅魔館にいた。
 天狗と妖怪の話からこの場所をめざし、ついたときには湖の周りにも館にも人影はなかった。
 目的地を失くした霊夢は一人、テラスで月を眺めていた。
 館にはまだ少し血のにおいが残っていたものの、その雰囲気はかっての紅魔館と寸分の違いもない。
 ほこり一つ残さない、徹底された清潔さ。
 人気のない、それでいて整った空間。
 霊夢は一瞬で、十六夜咲夜がここに来たことを確信できた。
 そして、おそらく自身の追う二人はもうこの辺りにはいないだろうことも理解した。
 いまだ戦闘の絶えない人里ヘと向かったのか、あるいは射命丸文を追いかけ森に潜んでいたのか。
 少なくとも自分は行き違えてしまったのだということくらいは容易に想像できた。
 一息をつき、軽い夜食を食べていると、空に浮かぶ星々の異常さが目に飛び込む。
 自分は何をしているのだろうと、一貫してきたはずの自信の行動に疑問が生まれそうになった。
 本当に、身近な人を犠牲にして、私は何をやっているのだろう。
 けれども、自分がやらなくてはいけないこともよく理解している。
 私は、主人公だから。
 もう、引き返せないことは、かつての親友に武器を向けたときから決まっていた。
 博麗霊夢の後ろには、断崖絶壁しか残っていない。
 後ろに進むことはすなわち、死ぬこと、失敗することだった。
 さすがの自分も疲れてきているのだろうと思い、霊夢は少し頭を振った。

「何をやっているの、博麗霊夢。自分の直感を信じなさい」

 近くにある壁が震えるくらいの大声で叫ぶ。
 さらに、気合を入れるため、霊夢は自身の足は叩き、喝を入れた。
 そして、静かに獲物がいるであろう人里の方へ向き直る。

 そんな時、突如として放送が始まった。


「……これからの健闘を祈るよ」

 放送が終わる。
 騒がしかった館が、突然静まり返り、自分以外誰もいなくなってしまったように感じる。
 事実誰もいないのが正しいのだ。
 あたりを歩く妖精メイドも館の主も、門番もだれ一人いない。
 やっぱりこの館は偽物だと霊夢は思い、当てもなく、蝶のようにふわりと飛び立った。

 放送の内容は、ほとんど頭に入れなかった。
 誰が死んで、残りが何人で、どこに入ってはいけないのか。
 その三つが分かれば困りはしない。
 この殺し合いの後に何があるのか。
 エンディングを気にして、ゲームオーバーになるわけにはいかない。
 この異変にコンティニューは存在しない。

 いったん休んだおかげか、空に浮くのも楽だった。
 重力を気にせず飛ぶ、多くの人間には許されない快楽である。
 風にあおられた袖が手を擦り、髪がなびく。
 鷹やトンビのように風に乗り、地面を凝視する。
 月を背に飛んでいた霊夢は、当てもなく飛び続け、地面に二つの人影を見つけた。
 見覚えのある服装、見覚えのある羽。

「見つけた」

 さっと、霊夢は急降下した。
 そのまま地面へ降りようとして、こちらを見つめる一対の視線に気づく。
 あった視線もそのままに、霊夢の耳に鋭い声が入る。
「武器を構えろ、咲夜」
 ふわり、というほどきれいには降りられず、少し乱暴な着地となった。
 落ちた拍子によろめき、急な気圧の変化で耳が遠くなった。
 霊夢が視線を目の前へと向けたときには、すでに二人は臨戦態勢へと入っていた。
 いち早く、武器を取り出したメイド、十六夜咲夜が霊夢へナイフを向け、言う。

「奇襲、ですか?」
「私がそんなことするように見える?」
「するようにしか見えませんわ」

 無言のレミリアはじっと霊夢の持つナイフを見つめ、像のように動かない。
 その眼が、すっと上へ動き、宝石のように光り、霊夢の目を捕えた。
「霊夢……」
 霊夢が見たその眼からは、動揺、怒り、負の感情が混ざり合ったものが飛び込んできた。
 最初に出会った時のことを思い出しながら、霊夢はレミリアへと向き直る。

「さて、妖怪退治といきましょう」
 普段のように、霊夢はおどけて、武器を向けた。
 それでも、その眼はまったく笑っていない。
 向かい合う三人のどの手にも、スペルカードは握られていない。
 突然風がやみ、ごく自然に、レミリアの手がスキマ袋へと滑り込む。

 レミリアが霧雨の剣を構えると同時に、ごう、と風が鳴いた。



【D-3 二日目・深夜】

【博麗霊夢】
[状態]疲労小、霊力小程度消費
[装備]果物ナイフ、魔理沙の帽子、白の和服
[道具]支給品一式×5、火薬、マッチ、メルランのトランペット、キスメの桶、賽3個
救急箱、解毒剤 痛み止め(ロキソニン錠)×6錠、賽3個、拡声器、数種類の果物、
五つの難題(レプリカ)、血塗れの巫女服、 天狗の団扇、文のカメラ(故障) 、ナズーリンペンデュラム
不明アイテム(1~4)
[基本行動方針]力量の調節をしつつ、迅速に敵を排除し、優勝する。
[思考・状況]
1.目の前の二人を排除する
2.自分にまとわりつく雑念を振り払う
3.死んだ人のことは・・・・・・考えない

【十六夜咲夜】
[状態]腹部に刺創(手当て済み)、左目失明(手当て済み)
[装備]NRS ナイフ型消音拳銃(1/1)個人用暗視装置JGVS-V8 
[道具]支給品一式*5、出店で蒐集した物、フラッシュバン(残り1個)、死神の鎌
    NRSナイフ型消音拳銃予備弾薬15 食事用ナイフ(*4)・フォーク(*5)
    ペンチ 白い携帯電話 5.56mm NATO弾(100発)
[思考・状況]お嬢様に従っていればいい
[行動方針]
1.目の前の敵を排除する
2.このケイタイはどうやって使うの?

※出店で蒐集した物の中に、刃物や特殊な効果がある道具などはない。
※食事用ナイフ・フォークは愛用銀ナイフの様な切断用には使えません、思い切り投げれば刺さる可能性は有

【レミリア・スカーレット】
[状態]背中に鈍痛、
[装備]霧雨の剣、戦闘雨具
[道具]支給品一式、キスメの遺体 (損傷あり)
[思考・状況]基本方針:威厳を回復するために支配者となる。もう誰とも組むつもりはない。最終的に城を落とす
1. ・・・・・・
2. 文とサニーを存分に嬲り殺す
3. キスメの桶を探す
4.咲夜は、道具だ

※名簿を確認していません
※霧雨の剣による天下統一は封印されています。



168:第四回放送 時系列順 170:太陽は沈まない
168:第四回放送 投下順 170:太陽は沈まない
167:chain 博麗霊夢 176:"Berserker" of Scarlets
160:行き止まりの絶望(後編) レミリア・スカーレット 176:"Berserker" of Scarlets
160:行き止まりの絶望(後編) 十六夜咲夜 176:"Berserker" of Scarlets

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最終更新:2011年12月03日 14:11
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